メガソーラービジネス

「国内太陽光市場は一時停滞も再び拡大へ」、ブルームバーグNEF菊間氏・黒崎氏に聞く

メガソーラービジネス・インタビュー

2021/04/14 05:00
金子憲治=日経BP総研 クリーンテックラボ

固定価格買取制度(FIT)に入札が導入され、国内のメガソーラー(大規模太陽光発電所)の新規開発が停滞する一方、海外に比べて発電コストが高い状況が続いている。今後、国内太陽光市場は、すでに経済性を確保できる自家消費市場だけに縮小していくのか、さらなるコスト削減で野立て太陽光も継続して導入が進むのか。再生可能エネルギー市場や低炭素技術の動向や予測で実績のあるブルームバーグNEFの日本市場再生可能エネルギーアナリスト・菊間一柊氏と同日本・韓国市場分析部門長・黒崎美穂氏に聞いた。

国内太陽光のコストはインドの4倍以上

ーー前年度の調達価格等算定委員会では、国内の太陽光発電のコストが下げ止まりつつあることが明らかにされました。太陽光パネルなど、システムコストは世界的に同水準になりつつあるなか、日本の太陽光が高いのは、どんな要因があるのですか。

菊間 確かに日本の太陽光発電のコストは世界的に見てまだまだ高い水準にあります。当社の試算では、国内の野立て太陽光の均等化発電コスト(LCOE)は、2020年下期・MWh当たり124ドルで、これはインドに比べ4~5倍にもなります(図1)。

図1●日本の太陽光の発電コストは、インドの4~5倍にもなる
(出所:ブルームバーグNEF)
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 この背景には、買取価格の高い固定価格買取制度(FIT)初期の認定案件に当初、運転開始期限がなかったために、設置コストを下げるインセンティブが働かなかったことがあります。元々、平坦な用地が少なく、森林伐採や造成コストがかかることに加え、こうした大規模な工事でファイナンスを確保するには、信用力のあるゼネコンなど大手企業にEPC(設計・調達・施工)を委託する必要があり、それがさらにコストアップにつながります。

 また韓国にも言えることですが、世界的に見れば、日本の野立て太陽光の規模は小さいため、固定費がかさむことになり、それも発電コストが下がりにくい要因です。

ーー経済産業省は、有識者会議の資料でブルームバーグNEFによる発電コストの予想を取り上げており、それによると、国内の太陽光の発電コストは、2025年には8.4円/kWh、2030年には5.8円/kWhという見通しになっています。

菊間 ここ数年、国内太陽光のコストが下げ止まり傾向にあるといっても、中期的にはさらに下がっていくと見ています。コスト高の背景にあったFIT初期の認定案件が完成してなくなっていく一方、中期的に見ると、設備コストはもう一段下がりますし、太陽光パネルの変換効率もさらに上がっていきます。発電コストのさらなる低下は国内でも十分に期待できます(図2)。

図2●国内太陽光の発電コストは、ここ数年下げ止まり感があるものの、中期的にさらに下がっていく
(出所:ブルームバーグNEFの資料を基に経産省が公表)
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 とはいえ、ここ数年を見ると、太陽光の発電コストはようやく10円/kWhを切る程度で、まだ化石燃料による新設火力より高い状況が続きます。一方で、政策的な支援は減っていくため、太陽光の新規導入は停滞することになります。

国内太陽光市場は2020年代後半に復活

ーー国内の太陽光の新設市場は、ピークの9~10GWから、縮小が続いています。今後は、どの程度で推移すると見ていますか。

菊間 2020年度については、前の年度を上回り、8GW程度に盛り返すと見ています。この背景は、FIT初期案件に新たに設定された運転開始期限に間に合わせるため、完工が急増するからです。ただ、2021年度には、FIT初期案件の完工はピークを過ぎていくので、再び減少すると見ています。

 先ほど述べたように、今後数年は、太陽光のコストが下げ止まるなかで、買取価格だけが継続して下がるため、国内太陽光の新設市場は、勢いを失い、4~5GW程度で推移するでしょう。市場を牽引すべき大規模案件は、入札制度によってある種のキャップ(上限枠)がかかっているような状態です。自家消費案件は、政策支援に頼らずに事業性を確保できますが1件当たりの開発規模が小さく、野立て型市場を補うほどのボリュームにはなりません(図3)。

図3●国内太陽光の新設市場は、いったん勢いを失い、4~5GWで推移する
(出所:ブルームバーグNEF)
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 ただ、2020年後半から2030年になると、国内でも太陽光の発電コストがもう一段低下し、化石燃料による新設の火力発電を下回るようになります。そうなると、自家消費に加え、野立て型太陽光の開発がまた活発化して、再び太陽光市場が拡大に転じると見ています(図4)。

図4●2020年後半以降、国内でも太陽光の発電コストがもう一段低下し、野立て型太陽光の開発がまた活発化する
(出所:ブルームバーグNEF)
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世界では「コーポレートPPA」が主流

ーー野立て太陽光が復活するといっても、低コストで開発できるまとまった用地はもはや残されていないとの声も聞きます。

菊間 今後のさらなるメガソーラーの開発用地については楽観しています。環境省が調査・公表している再生可能エネルギー開発のポテンシャルデータ(再生可能エネルギー情報提供システム=REPOS)によると、メガソーラーに向いた国内未利用地は、まだまだ多く残っています。規制改革などで荒廃農地などの転用が適切に進めば、造成コストのかからない広い用地が活用できる余地が出てきます。

ーー2022年度から、メガソーラーの政策支援は、FITからフィードイン・プレミアム(FIP)に移行します。FIPで太陽光は伸びるのでしょうか。

ブルームバーグNEFの日本市場再生可能エネルギーアナリスト・菊間一柊氏
(出所:ブルームバーグNEF)
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菊間 FITに比べ、FIPは、買取価格が市場連動になるうえ、相対で売電先を見つけ、発電計画を作成するなど、事業リスクが高く、予見性が下がるのは間違いありません。政府による補助金の割合もさらに下がっていく可能性が高いこともあり、FIPが積極的に利用されるとは見ていません。

 世界的には、FITやFIPの後は、発電事業者が需要家企業に直接、長期固定で売電する「コーポレートPPA(電力購入契約)」が主流になっています。

 しかし、国内では、制度上コーポレートPPAは契約できません。そのためグループの小売電気事業者を通すことで、実質的にコーポレートPPAに近いスキームにしたり、自己託送制度を応用する方法でコーポレートPPAと同じような仕組みを構築する動きが出てきました。

 ただ、小売電気事業者が介在すると、その分、手数料がかかります。今後、制度改革によって、低コストでコーポレートPPAスキームを構築できる環境整備が期待されます。

ーー経産省は、洋上風力の導入目標を2030年に10GW、2040年までに最大45GWという数値を掲げ、次のまとまった再エネ開発分野として推進する方針です。

菊間 洋上風力発電は、太陽光と違い夜も発電でき、洋上のため、大型化も可能です。日本政府は、次に大量に普及させる再エネとして、位置づけています。こうしたなか、参入する企業が相次いでいます。すでに欧州などで知見を持つ海外企業のほか、旧一般電気事業者をはじめとした国内の大手企業が名乗りを上げています。

 とはいえ、今後、入札を経て、環境アセスメントを実施する必要もあり、実際に市場が立ち上がるのは2025年頃になります。政府は2030年に10GWという目標を掲げましたが、実際に2030年間までに稼働するプロジェクトは7GW程度なると予想しています。

輸入バイオマス発電は一過性

黒崎 今回、政府は洋上風力に関し、率先して大きな普及目標を掲げました。これは大変にすばらしいことです。民間企業にとっては、予見性が高まりますし、ある程度、大きな市場になれば、将来的にコストが下がっていくことも見通せます。

ブルームバーグNEFの日本・韓国市場分析部門長・黒崎美穂氏
(出所:ブルームバーグNEF)
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 一般的に1GWのエネルギーインフラが市場に入ってくると、導入コストは30%下がると言われています。日本では、福島沖で浮体式の洋上風力を建設し、早くも撤退という形になりましたが、実証的に小規模で取り組んでも限界があります。

 海外では、大規模な洋上ウインドファームが稼働実績を積んでおり、入札制度によって安定的にコストが下がってきました。政府が立地に関わる法的な手続きを行い、発電事業者は機器運用コストの低下に専念できるセントラル方式が効果を上げるなど、日本が学ぶべき点は多いと感じます。日本でも入札が始まりますが、事業者が環境アセスメントを実施するなど、時間と手間がかかることから、海外並みに下がるのか、疑問もあります。

 国内では太陽光で入札を導入しましたが、応札量が伸びず期待したほどコストが下がりませんでした。洋上風力では、こうした教訓も生かして、効果的な仕組みを工夫してほしいと感じています。

ーー大規模な再エネとしては、輸入バイオマスを燃料にした大規模な発電電所が、今後、続々と稼働していきます。これらは、国内に定着するのでしょうか。

菊間 輸入バイオマスによるプロジェクトは、入札に移行後、ほとんど新規案件がないなど、一過性のものになりそうです。持続可能性に関する認証が必要になるなど、どこまでFITで支える必要があるのかが問われ始めています。

黒崎 FIT後を見通したとき、輸入バイオマスによるプラントで発電した電気に果たして買い手が付くのか。太陽光と風力に人気が集まり、なかなか買い手がみつからないという事態も予想されます。

「海外再エネ水素」より「国内再エネ水素」が割安

ーー政府はエネルギー基本計画の見直しの中で、2030年に電源構成の目標について、検討を始めました。いまの計画では、再エネ22~24%、そのうち太陽光だけで7%ですが、どこまで上乗せされるかが注目されます。

菊間 国内の再エネ比率は、いまの政策のままでも2030年には34%程度まで導入が進むと見込んでいます。そのうち、太陽光で13%、風力8%になります。太陽光は現時点ですでに目標の7%を超えており、2030年には自家消費型の案件を入れると13%まで入ってくると予測しています。

 国内の複数団体が、2030年の再エネ比率目標を40%など、思い切って上乗せすべきと提言しているのは、こうした状況を踏まえていると思います(図5)。

図5●経済同友会による2030 年電源構成の試算
(出所:経済産業省資料をもとに経済同友会事務局作成)
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黒崎 2050年カーボンニュートラル目標は、再エネ推進には追い風ですが、2030年時点では原発も13~14%程度の比率になりそうです。脱炭素の達成という点では、今後新設計画のある約7GWもの石炭火力をどうするのか、という問題があります。世界の脱炭素への動きに取り残されないためには、今からマインドセットの必要があると思います。

 カーボンニュートラルは、もはや国際競争になっており、日本企業が排出係数の低い国に移転せざるを得ない状況になってからでは間に合いません。脱炭素、再エネ推進は、環境政策というより経済・産業政策になっているという認識を持つべきです。

ーー日本が低コストで脱炭素を達成するには、海外の再エネで製造した水素やアンモニアを輸入して燃料として利用することが必須との見方もあります。

黒崎 我々の試算では、国内の再エネも今後の大量導入により、かなりコスト低下の可能性があり、そうなれば、海外の再エネで製造した水素やアンモニアを日本に運んでくるよりも、国内の再エネで製造した方が安くなると見ています。

 エネルギー安全保障の観点からも、脱炭素を海外の再エネに依存するのは避けるべきです。そうした点からも、再エネ比率の目標を大幅に引き上げて早急にコストを下げ、水素やアンモニア生産の経済性を高めて、商業運転に移行させることが重要になります。