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「2050年脱炭素」で太陽光300G~400GW、電気代は上がる?

RITEに加え、WWF、京大がシナリオ分析を公表

2021/06/02 05:00
金子憲治=日経BP総合研究所 クルーンテックラボ

電源構成では再エネ50~100%

 5月13日に経済産業省の有識者会議で、RITE(地球環境産業技術研究機構)が「2050年カーボンニュートラルのシナリオ分析」を公表したのに続き、大学や環境団体から、独自にシミュレーションした、「2050年脱炭素」シナリオが発表された。

 具体的には、5月28日に環境NGO(非政府組織)のWWFジャパンが「2050年脱炭素に向けた100%自然エネルギーシナリオ」を発表、同日、京都大学大学院経済学研究科の諸富徹教授らが「日本の2050年カーボンニュートラル実現がエネルギー構成およびマクロ経済に与える影響分析」を公表した。京大は、日本エネルギー経済研究所の「OUTLOOK2021・レファレンスシナリオ」をベースラインとして、脱炭素の影響を分析した。

 これらのシナリオ分析を見ると、太陽光の設備導入に関しては、300G~400GW超の設備規模を見込んでおり、脱炭素の達成には現状50GW程度の太陽光発電を最大で8倍近くまで増やすエネルギー構成を想定していることが分かった。再生可能エネルギーのなかでは太陽光と風力が2本柱になり、中でも立地制約の少ない太陽光の上積みによって最終的に脱炭素を実現するという考え方になっている。

 RITEは複数のシナリオを公表しており、政府が「参考値」として公表した電源構成「再エネ5~6割、CCS(CO2回収・固定)付き化石2~3割、原子力1割、水素・アンモニア1割」のケースで太陽光設備約350GW・年間発電量約400TWh、電源構成「再エネ100%」のケースで太陽光設備約385GW・年間発電量440TWhとなっている(いずれも公表資料のグラフから推計)(図1)。

図1●RITEによる2050年カーボンニュートラルにおける国内発電電力量と電源構成
図1●RITEによる2050年カーボンニュートラルにおける国内発電電力量と電源構成
(出所:RITE・2050年カーボンニュートラルのシナリオ分析・中間報告)
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 京大は、「原発あり(再エネ77.0%、原発10.5%)」と「原発なし(再エネ89.1%)」の2つのシナリオを公表しており、「原発あり」で太陽光の年間発電量339TWh、「原発なし」で年間約342TWhとしているので、設備に換算すると約300GWとなる(図2)。

図2●京大による2050年カーボンニュートラルにおける国内の電源構成
図2●京大による2050年カーボンニュートラルにおける国内の電源構成
(出所:京都大学大学院経済学研究科・日本の2050年カーボンニュートラル実現がエネルギー構成およびマクロ経済に与える影響分析)
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 また、WWFの「100%自然エネシナリオ」では、太陽光設備359GW・年間発電量401TWhと想定している(図3)。

図3●WWFによる2050年カーボンニュートラルにおける国内の電源構成
図3●WWFによる2050年カーボンニュートラルにおける国内の電源構成
(出所:WWFジャパン委託研究・2050年脱炭素に向けた100%自然エネルギーシナリオ・システム技術研究所)
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産業部門は吸収源やDACCSで相殺も

 RITEのシナリオが最も太陽光が多くなっているのは、2050年における日本の一次エネルギー供給量全体の想定値の違いが影響している。RITEシナリオは省エネなどにより2015年比約2割減と想定している一方、WWFシナリオでは産業構造の変化などで2015年水準の4分の1近くまで極端に小さく見積もっている。例えば、鉄鋼生産量は2015年比で半減させた上で電炉比率70%、残り3割は水素還元法とした。

 このように、想定するエネルギー需要の大きな違いから、RITEの参考値シナリオ(再エネ5割)とWWFの再エネ100%シナリオでは、太陽光の設備導入規模で見る限り、ほぼ同水準になっている。

 そもそもRITEシナリオとWWFシナリオは、いずれも電化率を現状の2割から4割まで高めることを前提としつつも、2050年カーボンニュートラルへの筋道が大きく異なっている。WWFシナリオでは、電力需要の1.8倍もの電気をすべて国内の再エネで発電し、大量の余剰電力で水素と熱を生み出し、運輸と産業部門のエネルギーをすべて賄う(図4)。

図4●WWFのシナリオでは、国内再エネの大量の余剰電力で運輸・産業部門のエネルギー需要を賄う
図4●WWFのシナリオでは、国内再エネの大量の余剰電力で運輸・産業部門のエネルギー需要を賄う
(出所:WWFジャパン委託研究・2050年脱炭素に向けた100%自然エネルギーシナリオ・システム技術研究所)
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 一方RITEの参考値シナリオでは、電力需要だけでも国内の再エネでは賄えず、国内再エネ5割のほか、残りを原子力とCCS付き火力、国内外で製造した水素・アンモニア発電で賄い、産業・運輸部門などでCCS付きにできないガスや石油利用分は、DACCS(大気からのCO2回収+CCS)などで相殺する(図5)。

図5●RITEシナリオによるカーボンニュートラルのイメージ
図5●RITEシナリオによるカーボンニュートラルのイメージ
(出所:RITE・2050年カーボンニュートラルのシナリオ分析・中間報告)
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 京大シナリオはRITEに近く、最終エネルギー消費量のベースラインを2018年比2割減としている。ただ、発電の電源構成に水素・アンモニア発電を見込まず、CCS付きバイオマス発電を政策的に増やし、植林技術の向上で国内森林によるCO2吸収量を多めに見込む。これにより産業・運輸部門で減らし切れなかったCO2を相殺する。加えて、風力の導入量を多めに見込むこともあり、太陽光の導入規模がほかのシナリオより小さくなっている。

電力コストへの影響では両極

 結果的に、再エネの導入量自体では、大幅な違いはないものの、これら3つのシナリオで評価が正反対になっているのが、カーボンニュートラル達成時の電力コストだ。

 RITE・参考値シナリオでは、電力コスト(電力限界費用)は24.9円/kWh、RITE再エネ100%シナリオでは同53.4円/kWhとの結果だった。電気料金ではこれに10円/kWh程度の託送料金が加算されるので、参考値シナリオで30円/kWh超、再エネ100%で60円/kWh超となり、現在の電力料金に比べて2~3倍に跳ね上がるという試算だった。

 これに対して、WWFの再エネ100%シナリオでは、電力価格は2020年の約12円/kWhから2050年に約7.9円/kWhに低下し、政府の長期見通し(2050年再エネ50%)よりも安くなるという。今後、予想される石油と天然ガス価格の値上がりの影響を回避できる利点があるとする(図6)。

図6●WWF・再エネ100%シナリオでの電力価格の予想
図6●WWF・再エネ100%シナリオでの電力価格の予想
(出所:WWFジャパン委託研究・2050年脱炭素に向けた100%自然エネルギーシナリオ・システム技術研究所)
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 京大シナリオの電力コストは、「原発あり」で2050年にベースラインより45%、「原発なし」で55%上昇する。ただ、「エネルギーコストは上昇するが、それを上回る再エネ及び多様な形態の低炭素投資の活性化が需要側面から経済を刺激する一方、化石燃料費用がゼロ水準近くまで減ることで、経済への負荷はベースラインより小さくなる」とし、両シナリオとも「GDPは2050年にベースラインより4%程度プラスになる」としている(図7)。

図7●京大シナリオでの電力コストへの影響分析
図7●京大シナリオでの電力コストへの影響分析
(出所:京都大学大学院経済学研究科・日本の2050年カーボンニュートラル実現がエネルギー構成およびマクロ経済に与える影響分析)
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太陽光・風力の発電コスト想定に違い

 電力コストの予想に大きな違いが出てくるのは、再エネの発電コストの想定が異なること、加えて自然変動電源である太陽光と風力を電力系統に統合するための費用(蓄電池、系統増強費)の考え方が異なるからだ。

 RITEシナリオでは、太陽光の発電コストを2050年に約10~17円/kWh、風力を約11~20円/kWhと試算し、導入が進むほど適地が減るためコストが上がると想定する(図8)。

図8●RITEシナリオで想定する太陽光・風力の発電コスト
図8●RITEシナリオで想定する太陽光・風力の発電コスト
(出所:RITE・2050年カーボンニュートラルのシナリオ分析・中間報告)
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 また、統合コストは、参考値シナリオでは蓄電池870GWhを導入し約4円/kWhと想定し、太陽光の電源比率が45%を超えると急速に上昇するとしている(図9)。

図9●RITEシナリオで想定する太陽光・風力の系統への統合コスト
図9●RITEシナリオで想定する太陽光・風力の系統への統合コスト
(出所:RITE・2050年カーボンニュートラルのシナリオ分析・中間報告)
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 一方、WWFシナリオでは、2050年における太陽光の発電コストを8.3円/kWh、陸上風力を7.0円/kWh、洋上風力を8.1円/kWhと想定した。いずれも学習曲線によって着実に低下し、世界水準に追いつくとしている。また、系統安定化のための蓄電池は2050年に300GWhを想定し、2030年以降はEV(電気自動車)の中古品を使うことで、費用は新品の5分の1で済むと見込んでいる(図10)。

図10●WWF・再エネ100%シナリオで想定する再エネ発電コスト
図10●WWF・再エネ100%シナリオで想定する再エネ発電コスト
(出所:WWFジャパン委託研究・2050年脱炭素に向けた100%自然エネルギーシナリオ・システム技術研究所)
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 こうして見ると、2050年の脱炭素シナリオでは、まず30年後の産業構造をどのように想定するか、そして太陽光・風力の発電コスト、CCS、水素・アンモニアの製造コストがどこまで下がるのか、などの想定によって、かなり異なったものになることが分かる。

 WWFシナリオでは、エネルギー多消費産業の縮小も加味してエネルギー需要を極限まで減らした上で、再エネのコスト低下を楽観的に想定し、CCSは経済性を実現できないとして採用していない。一方、RITEシナリオでは、現状の産業構造を維持しつつ、再エネとCCS、原子力、水素・アンモニアに関して、相対的に再エネのコスト低下には悲観的で、原子力、CCS、水素・アンモニアのコスト低下には楽観的な傾向がある。

 また、太陽光・風力の系統への統合費用に関しても、WWFシナリオで余剰電力による大規模な水素製造やリユース電池の活用でコスト低下の可能性を想定するのに対し、RITEシナリオでは、こうした統合コストの低下可能性を想定していない。

 変動性再エネの系統への統合は、デマンドレスポンス(DR=需要応答)やVPP(仮想発電所)、低コストのストレージ新技術や水素製造など、世界的に開発競争が盛んな分野だけに、その想定コストにはさらに踏み込んだ検討が必要になりそうだ。

 ただ、いずれにせよ、立地制約の少ない太陽光に関しては、300GWを超える導入量が期待される。WWFシナリオで想定する再エネ規模(太陽光360GW、風力153GW)の場合、必要な面積は国土の1~2%という。今後、地域環境への負荷が少なく、社会的受容性の高い立地をどのように推進していくのか、広く検討して、政策的に誘導していくことが求められる。