「既存発電所のロス解消だけで300億円超の増収」、オリックスの太陽光向けAM・O&M会社に聞く
メガソーラービジネス・インタビュー
日本でも政府が「2050年のカーボンニュートラル」を掲げるようになり、再生可能エネルギーの活用をさらに加速させる気運が高まる中、稼働済み案件の発電ロスを最小に抑え、本来の能力を発揮させようとする予防保全型の運用に関心が集まっている。それだけロスが多く、発電量の増加余地が大きいという。オリックスのメガソーラー(大規模太陽光発電所)のアセットマネジメント(AM)とO&M(運用・保守)を担当する、オリックス・リニューアブルエナジー・マネジメントの百合田和久副社長 兼 戦略責任者に聞いた。

――予防保全型O&Mへの取り組みは、いつごろから志向し、どのように進めてきたのですか。
最初は正直、太陽光発電所のあるべき姿を模索するような取り組みではなく、目の前にあるオリックスのメガソーラーの状態を知って、これではいけない、という程度の認識でした。
オリックスのメガソーラー開発が活発化し、売電を開始した案件が増えて数年が経ったころ、事業計画時の想定よりも発電効率の低下度合いが大きい例が出てきたのです(図1)。
メガソーラーの年間予想発電量は、太陽光パネルのメーカーが保証する年0.5%といった劣化率を目安に算出するのが一般的です。この数値は保証するかしないかのしきい値ですから、よほどのことがない限り、ここまで下がる製品はほとんどありません。
ところが、当時のオリックスのメガソーラーは、恥ずかしい話ですが、年1.68%という著しく大きい度合いのペースで発電量が減少していました。
売電開始から3年が経過した時点で、減少率の推移が年0.5%だった場合と比べて、累計逸失利益が2791円/kWに上っていました。
このペースで経過していくと、オリックスの合計出力約400MWの太陽光発電所全体で、20年間の累計逸失利益が年0.5%の減少の場合に比べて約315億円も膨らんでしまう見通しでした。
――どうしてそのような状態に陥っていたのですか。
分析すると、目先の利益を優先するあまり、O&Mを甘く見て予算を抑えていたことがわかりました。このためにO&Mが不十分な状況で、それが発電設備本来の性能を十分に発揮できていなかった原因でした。
金融系の企業によるメガソーラーの開発・運営において、落とし穴となりやすい過ちの一つといえます。発電設備が置かれているのは野ざらしの環境で、計算できないことも多いのに、机上の検討がそのまま通用すると勘違いしてしまうのです。
現地で起きることの前提条件の認識が不十分ななかで融資適格性やIRR(内部収益率)を検討し、その条件や結果を絶対視してしまうのです。
その上、投資の回収に関しては保守的に見積もる一方、その中で投資効果をできるだけ高く見せたいために、経費を過剰に抑えてしまいます。太陽光発電所の場合、O&Mのコストを抑える傾向に現れます(図2)。
例えば、「太陽光発電設備はメンテナンスフリー」という幻想があります。メンテナンスが不要という前提では、O&Mサービスには「何かトラブルが生じた時には対応して欲しい」というような、廉価で対応が限定的なサービスを採用するでしょう。
大きなトラブルが生じてから対応するので、その度に想定外の支出が生じることになります。これによって、運営のコストが、常に計画を上回ってしまう状況を招きます。適切なO&Mであれば未然に低コストで対応できることがほとんどです。
また、投資系の発電事業者は、キャッシュフローの管理以外に事業の重要業績評価指標(KPI)を確立できていない傾向があります。これが原因で、O&Mサービス会社に対して、主観的な判断で指示してしまい、打ち合わせや議論が長くなりがちです。
投資のリスク軽減を目的に、厳しい内容の契約書とすることで、EPC(設計・調達・施工)サービスや発電設備・部材メーカー側もリスク軽減のためにコストを増したり、さらに、取引会社の選別のハードルを上げてしまう弊害もあります。
これらをひと言でいうと、「机上の空論と現実との乖離の穴埋めをサプライヤーに押し付ける」運営です。当時のオリックスも、金融系の発電事業者が招きがちな、こうした状況に陥りつつありました。
そこで、まず、発電所の仕様を改訂し、EPCやO&Mの契約、保証などの契約も改訂し、これまでのオリックスの基準では信用力などの面で避けていたような発電設備メーカーや施工会社などとも取引できるようにしました。
また、目線を変えることにしました。稼働してから20年間、発電事業に並走して長期にわたって関わるパートナーはAMとO&Mサービスになります。その目線で20年間の事業を構想し、長期の修繕計画の策定や、交換が想定される発電設備や部材の在庫を備蓄する体制の整備、O&M予算の大幅な増額などを講じました。
――この変更によって、オリックスのメガソーラーの状況は早期にある程度、改善できたのですか。
じつは、期待ほどには改善しませんでした。
それは、発電事業者が机上の想定と現場の状況との乖離を穴埋めすることをO&Mに押し付けたり、発電事業者側があたかも全知全能で、O&M側が手足のように働くことを要求したりするような傾向が変わらなかったためです。
O&Mサービス企業も、事業としてサービスを提供していますので、こういった関係の中でのリスク回避や収益の確保のために、コスト面などで対抗せざるを得ません(図3)。
この結果を受けて、さらにAMとO&Mを融合し、オリックスの発電事業と同じ事業本部内に入れて、収益まで一体化することにしました。そして設立したのがAMとO&Mを一体で担当する子会社であるOREMです。
発電事業者であるオリックスには稼働率やPR(パフォーマンスレシオ)値をコミットし、そのための具体的な計画や施策の実行はOREMに一任してもらいます。これによってO&Mは自らの計画や判断で実行できるようになり、予防保全型のO&Mに舵を切ることができました(関連コラム:予防保全を徹底、理想は「変動要因は気象のみ」)。
これによる効果として、発電事業者側(オリックス)、O&M側(OREM)ともに大きな成果が挙がっています。
例えば、一般的なメガソーラーの事業計画で想定されている年0.5%減というペースでの売電収入の減少に対して、オリックスの発電所では年1.68%減という著しく悪いペースで減少していた状況です。
OREMの設立によってAMとO&Mを一体化した効果として、これを年0.5%というペースに戻し、さらに直近の1年間では年0.4%減という事業計画を上回る状態に改善しています(図4)。
OREMがAMとO&Mを担当している、オリックスの83カ所・合計出力約430MWの規模になると、これによって20年間で300億円以上の不要な損失を招く見通しでしたので、これを解消できる見通しを立てた効果は大きいのです。
この成果を生かし、オリックス以外の発電所にも「レベニューシェアリング方式」と呼んでいる成果報酬型のO&Mサービスを提供していきます(図5)。
基本料金と、売電額の増加分の一定比率の成果報酬料金でサービス対価を構成します。発電事業者にとっては、基本料金分の手元からの支払いは従来のO&Mサービス企業への対価と同等に抑えつつ、売電額を大きく増やすことが可能です。
成果報酬料金分は、売電額の増えた分の中から賄えるので、持ち出しの増加が実質ゼロでサービスが受けられます。成果報酬料金分を相殺した後の残りの売電額の増加効果分は、そのまま増益になります。
基本契約期間として5年間を想定していますが、この契約期間の後は、発電事業者は他のO&Mサービス事業者も含めて再び検討できます。
現在、OREMに引き合いがあるオリックス以外のメガソーラーの合計出力は約2GWの規模ですが、これらの発電所の状況を初期調査している段階でも、年1~5%というペースで発電量が減少している例が多く、潜在需要は多くあると感じています。
このサービスは、発電事業者にとっての利点だけでなく、日本の再エネ活用を拡大するうえでも、新しいメガソーラーをつくるのと同じような効果があります。新規開発なしで、すぐに10MW規模といった発電量の増加が見込めます。
――OREMでは今後、発電所の運用をどのような姿に変えていくのですか。
発電設備の状態が見え、異常も初期や兆候の段階で解消して設備の能力をフルに発揮できる状態を継続できるメガソーラーで、翌日や1時間後、30分後といった発電量を高精度に予測できるようにしていきます。気象条件だけが変動要因になるような、理想的な状況を目指しています(図6)。
これが実現すると、太陽光発電を既存の電源と同じように活用できるでしょう。電力会社に高精度な発電量の予測を提供できれば、火力発電所の予備力の幅を絞ることに寄与できます。
蓄電池を調整力や予備力として使う場合にも、太陽光発電を高精度に予測できれば、適切な場所に最小の規模で導入しつつ、最大の効果を上げられます。既存の電源によるサポートを減らすことができ、社会インフラのコスト削減につながります。
こうした高精度の発電予測は、電力購入契約(PPA)向けの太陽光発電所でも重要です。工場などが供給先の場合、土日祝日は休業していて消費電力が大きく下がる場合があります。この時に、市場で売電しても機会損失が少なく、かつ、ペナルティの支払いを抑えるためには、高精度の予測が必須だからです。
こういった需要に向けて、2025年ころに、高精度な発電量予測サービスを提供できるようにしたいと考えています。
こうしたあるべき姿を実現するのは、これまでの取り組みの積み重ねです(図7)。
まず、発電設備の状態を細かく把握した上、できるだけロスがなく能力をフルに発揮できる状態を保つこと。例えば、ドローン点検やI-V(電流・電圧)特性の測定などを定期的に実施し、異常のある回路や太陽光パネルを早期に発見して正常化し、雑草もこまめに刈り、パネルは年1回洗浄しています。
ほぼすべての発電所で年1回は洗浄することで、規模の効果が働きます。一般的な洗浄サービスの40万円/MWというコストに対して、OREMでは30万円以下/MWまで下げており、これは国内最安だと思います。
次に、遠隔監視システムを工夫して設備状態の比較や、異常を発見しやすくしたことです。異常箇所の特定だけでなく、症状や原因の推測、深刻度の診断、異常解消の費用対効果などまで自動で把握できるようになっています(関連コラム:自動分析で「季節性のトラブル」も発見、対策の費用対効果まで提示)。
――OREM内の経営効率の向上にも生かせそうです。
すべての発電所で集約化・共通化できる業務や備蓄などは、集約して規模の経済性を生かしてコストを最小化しています。ここは発電所の数が増えてもそれほど大きく広げなくても良い部分です(図8)。
一方で、個別の発電所における個別の業務は発電所ごとに生じますので、数が増えるほど増えていきます。この2つの業務を最適に切り分けて、きめ細かい対応とコストの最小化を両立しています。人事や給与の体系も、それぞれに応じて変えています。
デジタル化の利点は、立場や職種、勤務地の違いなどを超えて、どの関係者も同じ定量的な情報によって異常を把握したり、対応を検討できるという利点のほかに、こうした日々の業務の中で、誰の取り組みがこの発電所の改善に大きく寄与したのかといった情報も把握できる点にもあります。
組織や従事者の適切な配置によって、効率的な体制に変え、コストが肥大化しないという企業経営にも寄与します。