メガソーラービジネス

風力急増で「系統電圧の変動」顕在化、求められる対策は?

九州最大ウインドファームが導入した「SVC」の機能と役割

2021/08/19 22:30
金子憲治=日経BP総合研究所 クリーンテックラボ

風車23基に愛称、名付け親は小学生

 串間市は宮崎県の南端に位置し、輝く太陽と青い海、緑の山々など、豊かな自然に恵まれる。固定価格買取制度(FIT)の開始を追い風に、市内にはメガソーラー(大規模太陽光発電所)や木質バイオマス発電、小水力発電など、地域の資源を生かした再生可能エネルギー設備の稼働が相次いでいる。

 市では、2014年に「再エネによるまちづくり」を掲げたエネルギービジョンを公表。2017年には農山漁村再エネ法に基づいて再エネ促進地域を指定した。地域社会と共存する再エネの導入を積極的に支援しつつ、地域の活性化につなげることを目指している。

 2020年10月に営業運転を開始した、九州最大のウインドファーム(大規模風力発電所)「串間風力発電所」もその1つだ。志布志湾を望む山の稜線4.5kmを23基の風車で南北に結ぶように設置した。単機出力2.85MW、合計出力は64.8MWに達する。これまで九州最大の風力発電所は、鹿児島県長島町にある「長島風力発電所」の50.4MWだった(図1)。

図1●23基で合計出力64.8MWの「串間風力発電所」
図1●23基で合計出力64.8MWの「串間風力発電所」
(出所:日経BP)
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 FITを利用して買取価格22円/kWhで売電している。年間発電量は、約1億3700万kWhを見込んでおり、これは一般家庭約4.6万世帯の消費電力に相当する。CO2の排出抑制効果は年間約5万tに達する。

 悠然と回るブレード(羽根)の全長は50m、発電機を収納したナセルを支えるタワーの高さは85mで、地上からブレードの最高点までは136.5mに達する。風車の立つ尾根からは、緑豊かな山々と志布志湾を見下ろし、その向こうには大隅半島まで一望できる(図2)。

図2●「串間風力発電所」。志布志湾を挟んで大隅半島が見える
図2●「串間風力発電所」。志布志湾を挟んで大隅半島が見える
(出所:日経BP)
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 23基の風車には、それぞれに愛称が付けられ、そのネームプレートが併設されている。これは市内の小学生に風車の名前を募集し、名付けられたものだ(図3)。

図3●「串間風力発電所」の風車の1つ、サニー。地元小学生が命名した
図3●「串間風力発電所」の風車の1つ、サニー。地元小学生が命名した
(出所:日経BP)
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「SVC」で系統電圧を安定化

 「串間風力発電所」の事業会社である串間ウインドヒル(串間市)は、九電みらいエナジー(福岡市)と九電工(福岡市)が共同で出資した。米GE(ゼネラル・エレクトリック)製の風力発電設備を導入し、九電工がO&M(運営・保守)サービスを担当する。

 尾根にある風力発電所は、23基の風車と変電設備から構成され、風車と変電設備は22kVの配電線で結んでいる。九州電力送配電の商用系統との連系点は、変電設備から北西約10km離れた場所にあり、架空と地下埋設により66kVの送電線を敷設した。

 「串間風力発電所」には、一般的な風力発電所には見られない大きな建屋がある。メガソーラーの場合、パワーコンディショナー(PCS)を収納した建屋が点在していることもあるが、風力発電所の場合、各風車にPCSと変圧器が搭載されている。串間風力発電所にある建屋には、「SVC(Static Var Compensator:無効電力補償装置)」と呼ばれる装置が収納されている(図4)。

図4●変電所にある建屋内にはSVCが設置されている
図4●変電所にある建屋内にはSVCが設置されている
(出所:日経BP)
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 SVCとは、電力系統を構成する送電線(母線)の電圧を目標値に保つための装置で、今回の場合、風力発電の出力が変動しても、九州電力送配電の商用系統の電力品質が大きく影響されないよう、電圧を安定化させる役割を担っている。再エネ設備では、一般送配電事業者との連系協議の場で導入を求められることがある。

 「串間風力発電所」の受変電設備は、東芝三菱電機産業システム(TMEIC)が一括して受注して、システム設計して納入した。SVCについても、出力7500kvarのTMEIC製の装置を導入した。「var」とは「無効電力」の単位だ。交流電力の成分には、有効電力と無効電力があり、前者がモーターを回したり照明を灯したりするなど「仕事をする」のに対し、「無効電力」は実際の仕事をしないものの、「電圧を変える」という性質がある。SVCはその性質を利用し、無効電力を発生して電圧を一定に維持するための装置だ(図5)。

図5●TMEIC製のSVCを導入した
図5●TMEIC製のSVCを導入した
(出所:日経BP)
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 TMEICは、高圧から特別高圧までの受変電設備や太陽光向け大容量PCSの大手メーカーだが、それらで培ったパワーエレクトロニクス技術を生かしたSVCやUPS(無停電電源装置)でもトップクラスのシェアを持っている。

再エネ向けシステムを製品化

 太陽光や風力発電の大量導入に従って、電力系統全体で電気の供給が需要を上回る恐れが顕在化し、九州電力管内では再エネ設備に対する出力抑制(出力制御)が頻繁に実施されている。交流系統の需給バランスが崩れると、周波数が規定値から外れてしまう。

 再エネの増加によって脅かされる電力の品質低下は周波数だけではない。系統の変電所から配電される送電線(母線)に連系する発電所からの出力が大きく変動した場合、その送電線の電圧が変動してしまう。ただ、この場合、SVCというパワーエレクトロニクスの技術により、出力抑制という手段を使わずに、電圧を一定に保つことができる(図6)。

図6●SVCによる電圧安定化のイメージ
図6●SVCによる電圧安定化のイメージ
(出所:TMEIC)
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 無効電力を発生させて電圧を変動させる装置はほかにもあるが、SVCは、送電線(母線)の電圧変動に追従して連続的に無効電圧を発生することができる。このため風力や太陽光など変動性再エネの連系に伴う電圧変動対策に向いている。

 SVC最大手のTMEICによると、ここ数年、一般送配電事業者との連系協議によってSVCの設置を求められる再エネプロジェクトが増え、同社にも風力・太陽光発電の変電設備に併設するSVCの引き合いが多くなっているという。そこで同社では2018年に、再エネ発電所向けのSVCシステムを商品化した。

 SVCにはサイリスタ(シリコン制御整流素子)を使う他励式と、インバータ(直流/交流変換装置)を使う自励式があり、前者は大容量化に向くものの、高調波が発生するためそれを抑制するための装置も必要になる。TMEICは両方式を手掛けており、再エネ向けには中小規模の容量が多いことから、自励式を採用し、単機容量625kvar、400Vのインバータを複数台、組み合わせるシステムを提案している。

様々な制御要請に対応

 「串間風力発電所」の変電設備にある建屋に入ると、筐体に「SVCインバータ盤」と表示された装置が12台、ずらりと並んでいる。これが単機625kvarのSVCで12台の合計が7500kvarになる。4台を1セットにし、屋外にあるSVC向け変圧器につながっている(図7)。

図7●SVCインバータ盤4台を1セットで屋外のSVC変圧器とつながっている
図7●SVCインバータ盤4台を1セットで屋外のSVC変圧器とつながっている
(出所:日経BP)
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 これら12台に対し1つのSVC制御盤から無効電力の出力値を指令している。制御盤は、風車が連系する送電線の電圧を監視しつつ、指定された電圧値になるように各インバータ盤にリアルタイムで出力値の指示を出している(図8)。

図8●SVC制御盤の前面にある監視画面
図8●SVC制御盤の前面にある監視画面
(出所:日経BP)
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 TMEICによると、一般送配電事業者からどんな形での制御を要請されるかは、発電所によって異なるという。例えば、「発電所構内の無効電力補償制御」「連系点の力率指定制御」「連系点の電圧指定制御」のほか、「時間割や季節に応じた目標値を自動的に変更すること」といった要請もあるという。TMEICでは、こうした多様な制御要請にも対応できるように、制御盤の機能として複数の制御手法を選択できるようにしているという。

ノンファーム接続で重要性増す

 実は、太陽光発電所のPCSは、SVCと同様にインバータによって直流を交流に変換しており、太陽光パネルが発電した有効電力のほか、無効電力を発生させることもできる。このため、メガソーラーの場合、一般送配電事業者から要請された電圧安定化制御の内容によっては、既存のPCSの持つ機能で対応することもある。

 一方、風力発電の場合、各風車に内蔵されたPCSの機能は限定的で一般送配電事業者の要請に応えるのは難しいという。ここ数年、風力発電プロジェクトでSVCの併設が増えているのは、そのためという(図9)。

図9●風力発電設備のタワー内部にPCS、変圧器、リングメインユニットが収納されている
図9●風力発電設備のタワー内部にPCS、変圧器、リングメインユニットが収納されている
(出所:日経BP)
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 ただ、メガソーラーの場合も、既存のPCSで対応しきれないほどの電圧安定化を求められる例も出てきた。また、太陽光向けPCSが無効電力を発生させる場合、その分だけ、本来なら売電できる有効電力が減ってしまうため、収入が減少するという課題がある。

 加えて、今後再エネのノンファーム型接続による系統連系が急増していくため、多くの送電線で、風力や太陽光からの送電量がさらに増え、電圧が不安定になる可能性が高い。そうなると、連系協議の場で、SVCの設置を求められるケースが増えそうだ。

SVCが止まると売電できない

 今後、SVCを併設した再エネ発電所が増え、運用期間が長くなってくるに従い、課題になってくるのが、その信頼性の問題だ。

 売電事業を目的にした再エネ発電事業にとって、SVCは系統連系の条件として設置したものの、本来の発電事業には必要ない。とはいえ、系統連系の条件になっているため、もしSVCシステムが故障して機能しなくなった場合、送電できない。

 そこで、TMEICは、再エネ向けSVCの開発では、深刻な故障が起きにくく、システム全体の停止が起きにくいことを設計思想にした。その表れが、冷却方式に強制風冷を採用したこと。そして多数台を連結して大容量化する「号機冗長」の考え方だ。

 冷却方式には、空気を循環させる空冷のほか、水など液体を使った水冷方式もあり、一般的には比熱の高い液体を使った水冷の方が冷却効果は大きい。だが、TMEICでは、「水冷の場合、何らかの原因で冷却液が漏れた場合、装置内の多くの部分に不具合が広がる可能性が高く復旧までに時間がかかる。そのため、信頼性を第一に空冷を採用した」という。

 また、単機625kvarのSVCを複数台並べ、余裕をもった容量を確保することで、仮に1台が故障しても残りのSVCだけで運用できるようにした。例えば、「串間風力発電所」の場合、12台で7500kvarの構成だが、万が一、1台が故障しても6500kvarで運用し、要請されている電圧安定化の制御は可能という(図10)。

図10●1台故障しても残りで運用できる「号機冗長」が特徴
図10●1台故障しても残りで運用できる「号機冗長」が特徴
(出所:日経BP)
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系統運用に貢献する再エネに

 国内の再エネ設備でSVCの併設が求められていることは、商用系統に連系する分散電源が再エネを中心に急増する中、各分散電源に対し、系統の安定運用に貢献できる機能が必須になりつつあることを意味する。

 すでに太陽光向けPCSの機能に、送配電網が瞬停時に供給力を支えるFRT(Fault Ride Through)制御が求められるようになったり、北海道で大規模な風力や太陽光に蓄電池を併設して出力変化率を一定以下に抑える機能が連系条件になったりしていることは、「系統に優しい再エネ」を求める動きの先駆けともいえる。

 政府は、早ければ2023年度をめどに「グリッドコード」の要件化を目指している。「グリッドコード」とは、電力システムの信頼性や経済性を保持するために、そこに接続する分散電源などが順守すべき包括的な条件を定めたもの。

 電力ネットワークが統合されている欧州では、欧州共通のコード作成が進んでおり、EU各国は自国のグリッドコードを共通のコードに合致させて運用している。

 日本では、風力発電向けグリッドコードの整備が先行しているが、太陽光やバイオマス発電についても、欧州の要件を参考にグリッドコードの整備を進めている。

 欧州のグリッドコードが変動性再エネに求めている技術要件には、最大出力の制御機能や周波数の調定率制御機能、出力変化率の制御機能、FRT制御のほか、無効電力の調整などの手法による電圧安定化がある。今後、再エネ設備にとってSVCの重要性がますます高まりそうだ。

 九州最大の「串間風力発電所」は、地域の人々との共生に配慮するとともに、技術的にも電力品質の安定化に貢献し、分散電源を主体した今後の電力ネットワークと共存する、未来を先取りした再エネ発電所といえそうだ(図11)。

図11●「串間風力発電所」に併設された見学者向けの説明パネル
図11●「串間風力発電所」に併設された見学者向けの説明パネル
(出所:日経BP)
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