PVロボット最前線

世界初、風車を点検・補修する日本のロボット

見過ごされてきた発電ロスを最小化

2020/05/13 05:00
加藤 伸一=日経BP 総合研究所 クリーンテックラボ

 「人手による高所作業」という、安全性とコストの両方から課題が大きい風車の点検や補修の作業を、ロボットで代替する動きが出てきた(図1)。

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図1●ブレードを点検するロボット(上)と、人手による手法(下)
(出所:LEBO ROBOTICS)

 現在では、高所作業車を使って作業者をブレード(羽根)に近づけたり、ナセル(発電設備を収めたタワー上の筐体)を起点にロープで作業者をブレードに這うように吊り下ろすといった手法で実施されている。どちらも危険がともなうことから作業できる人材は限られ、コストは高い。

 この理由から、風力発電ではこれまで、発電量が大きく下がるような状況になるまで、法定以外の点検や補修の時期をできるだけ引き延ばしている発電事業者が多いという。この作業をロボットで代替することによって、手軽に点検や補修を実施できるとみられ、発電ロスの要因を早期に解消できるサービスの普及が期待される。

 こうした取り組みの先陣を切ったのが、日本のベンチャー企業、LEBO ROBOTICS(東京都杉並区)である。風力発電で先行する欧州でも点検や補修をロボットで代替する技術の開発が進みつつあるが、まだ事業化に成功した例はない。この中で、同社は実証機レベルではあるが、すでに国内で10カ所の風車で合計15回のブレードの点検・補修を、米国でも1カ所・1回の点検・補修を担当しており、世界初のサービスと強調している(図2)。

図2●すでにサービスの実績がある
(出所:LEBO ROBOTICS)
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 同社のロボットは、ナセルを起点にロープでブレードに沿うように吊り下げる。点検作業者は、地上からこのロボットを遠隔操作する。今後、自動制御も可能にする。

 同社は、風車向けにさまざまな事業を手掛けている。同社を設立した浜村圭太郎社長が、豊田通商に在籍していた時代に風力発電向けの化成品販売を手掛けていたことが起点となっている。

 LEBO ROBOTICSの事業の1つである「風車の補修材」の販売は、当時から手掛けていた(図3)。ブレードの表面で傷ついたり剥げ落ちたりした部分を補修するために使われる。また、「人工知能(AI)を応用したブレードの点検・分析サービス」と「ロボットによる点検・補修サービス」を新たに事業化した。

図3●補修材も手掛ける
(出所:LEBO ROBOTICS)
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 豊田通商が風力発電向けの事業で強みを持つのは、欧州や中東などでの拡販が早かったことに加えて、グループ会社にユーラスエナジーホールディングスを抱えていることが大きい。ユーラスエナジーは、豊田通商と合併した旧・トーメンの電力事業会社として創業され、1980年代から欧米で多くの風力発電所を開発・運営してきた。現在は東京電力との合弁に変わり、国内でも大規模な風力発電所、太陽光発電所を開発・運営している。

 LEBO ROBOTICSのweb上でも、現在の顧客として、沖縄新エネ開発(沖縄県中頭郡北谷町)、スペインに本拠を置くSiemens Gamesa Renewable Energyとともに、ユーラスエナジーの名を挙げている。

 同社は、補修材の販売やAIによるブレードの点検・分析サービスにより、風力発電事業者のほか、国内の主要メーカー、補修サービス事業者とすでに取引している。こうした地盤を生かし、ロボットを使った点検・補修サービスを広げていきたいとしている。

AI分析との連携や自動制御も

 ブレードの点検や補修には、いくつかの種類がある。すべてをロボットが担えるかどうかは未知数で、将来も人手による作業に頼るものもある(図4)。

図4●点検や補修の種類とロボットの活用
(出所:LEBO ROBOTICS)
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 点検には、主に目視点検と導通検査の2つがある。目視点検は、ブレードの表面を見て傷や剥がれなどの損傷を見つけるのが主な目的となる。その結果は、人手による作業を実施する時期を決める判断材料になる。

 目視点検については、LEBO ROBOTICSは、地上から望遠レンズ付きのカメラでブレードの表面を鮮明に写し、その画像をAIで分析するサービスを提供している。これに対して、ドローン(無人小型飛行体)を使ったサービスを手掛けている企業もある。

 同社が展開しているのは、フランスのCornisによるAIを応用した画像分析サービスで、国内販売代理店を務めている(図5)。Cornisによるサービスは、洋上も含めて世界で1万基以上に提供した実績があるという。

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図5●CornisのAIを応用した分析サービス
(出所:Cornis、LEBO ROBOTICS)

 LEBO ROBOTICSによると、Cornisの技術はロボットを使った点検や補修と相性が良く、今後は相乗効果も期待している。Cornisの技術を併用することで、事前にAIで分析した損傷などの状況と、ロボットで近づいて把握した実際の状況のデータを組み合わせることで、AIによる分析力がより向上するという。

 導通検査は、風車が備える避雷針の機能の異常を見つけるために実施される。ブレードは、アースの役割を担っている。ブレードの先端に備える部材を通じて、適切に導通しているかを確認する。

 LEBO ROBOTICSがロボットによるサービスで、すでに実績があるのがこの導通検査で、最初に本格化させる分野としている。海外にも広げ、2020年中に欧州でもサービスを開始する。

 一方、補修では、表層の傷にパテを盛ったり研磨する、塗装するといったブレード表面の比較的軽度な損傷をターゲットとしている。現在、このサービスに対応できるロボットを開発中で、当初は地上から人手で遠隔操作する手法でサービスを開始し、その後、自動制御に進化させる計画である。自動制御は2024年には実現したいとしている(図6)。

図6●自動制御や他分野への展開も構想
(出所:LEBO ROBOTICS)
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 補修の中でも、繊維強化プラスチック(FRP)層が損傷している場合には、ロボットでの対応には限りがあり、人手の作業が残るとみている。

 同社では、今後の開発やサービスの本格化に向けた資金の調達を4月に発表した。調達額は非公開とし、マネックスベンチャーズ、三井住友海上キャピタルなどを引受先とする第三者割当増資を実施した。

 調達した資金は、ロボット関連の技術者の採用と、国内と欧米にサービスを本格化するための拠点の開設と営業要員の採用に充てるとしている。ロボットによる導通点検サービスの本格化と、国内での補修サービスの開始までに必要な資金としている。

 ロボット関連の技術者を採用するのは、サービスの本格化に必要なロボットの要素が、これまでとは異なってくるためである。

 これまでは研究機関やメーカーの協力を得ながら、公的な助成などを活用しながら開発してきた。技術実証を目的とした、こうした段階と、本格的なサービスに使う段階では、機能や強度に求めるものが異なってくる。そこで、メーカーなどで経験の豊富な技術者を採用し、本格的なサービスに適したロボットを設計し、製造を委託できる体制を整える。

見過ごされてきた発電ロス

 ロボットを使った点検や補修による利点として、同社が挙げている発電ロスの最小化とは、どのようなことを指すのか。

 風車は、自然環境の中に常にさらされていることから、何らかの飛来物が当たって表面が損傷したり、泥などが付着して固まってしまうことがある。ブレードにこうした損傷や付着が生じると、程度によっては、風を受けて回る際の抵抗が大きくなる。これによって、回転の効率が下がり、発電のロスとなる。

 比較的短い間隔で定期的に点検してこうした状態を発見し、適切に補修するのが理想の運営といえる。しかし、人手による高所作業にともなう安全性やコストの問題から、多くの風力発電所において、この点検の間隔を引き延ばし、4年に1度といった頻度になっているという。発電ロスがはっきりわかるほど大きくなると、ようやく実施される(図7)。

図7●予防保全で発電ロスを減らす
(出所:LEBO ROBOTICS)
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 この点検や修繕で難しいのは、費用対効果を示しにくい点にある。太陽光発電と異なり、風力発電は風の具合を長期的に予測することが難しいので、発電量の予測と実績の関係や、発電ロスの要素との関係を示すことが難しいことによる。

 このため、運用者には、発電量の実績などではなく、稼働時間が評価の基準となっていることも多く、点検や修繕の重要性について認識が薄い場合もあるという。

 しかし最近では、欧州の風力発電所のアセットマネジメント(投資用資産の管理)において、これまで見過ごされてきた発電ロスも把握し、資産価値を最大化する動きが出てきており、世界的に広がるのではないかとみている。

 こうした環境の中、ロボットを使うことで、安全性やコストの問題を解消できれば、4年に1度程度だった点検や補修を、例えば毎年実施する発電所も出てくると見ている。これによって、ブレードの状態を適切に保ち、予防保全の視点で運営し、発電ロスを大幅に抑えられると強調している。

 風力発電の全世界における導入容量は、2018年の591GWから30年には2000GWに拡大すると予想されている。同社によると、この導入容量から試算すると、ロボットを使った点検・補修サービスの潜在的な市場は、2018年時点で1600億円あり、2030年には3000億円に拡大すると予想している(図8)。

図8●市場規模
世界の風力発電導入量はGlobal Wind Energy Councilの予測を活用(出所:LEBO ROBOTICS)
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 風車1基あたりのサービス単価を40万円として試算したもので、2018年の導入量591GWは約40万基に相当し、この時点でロボットによるサービスが年1回ずつ採用されていれば、1600億円の市場になっていたというものである。

 2030年の導入量2000GWは76万基に相当するので、ロボットによるサービスが年1回ずつ採用されると3000億円の市場になると期待している。