PVロボット最前線

AIで解析、報告書まで自動化、IT大手の総合力を生かした太陽光ドローン点検

落雷による「モザイク状」の異常も発見

2019/07/03 05:00
加藤 伸一=日経BP総研 クリーンテックラボ

 NECグループのシステム構築会社である、NECネッツエスアイは6月24日、ドローン(無人小型飛行体)を使った太陽光パネルの点検サービスの提供を開始した(図1)。

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図1●ドローンを使った太陽光パネル点検を一貫でサポート
(出所:NECネッツエスアイ)

 同社はこれまで、国内外の通信・放送関連インフラをはじめ、鉄道や高速道路、最近では、電気自動車(EV)の充電システムなど、幅広い分野のシステム構築やO&M(運営・保守)を手掛けてきた。

 太陽光発電関連でも、メガソーラー(大規模太陽光発電所)のEPC(設計・調達・施工)からO&M(運用・保守)まで、一貫したワンストップサービスを提供している。国内では施工中を含めて24カ所、合計出力約193MWの施工実績がある(EPCの関連ニュース1:スペイン・エクセリオの宮城県白石市、同県大和町・富谷町の合計出力約62MW 、同ニュース2:米ソネディックスの岩手県遠野市の46.6MW、O&Mの関連コラム:パネル単位で劣化を検出、ICや通信の検出技術を応用、海外での実績の関連ニュース:ミャンマーの7つの非電化村落に太陽光)。

 ドローンを使った太陽光パネルの点検サービスは、こうしたEPCやO&Mを手掛ける部門からの要請がきっかけとなって事業化した。

 とくに、EPCサービスを手掛けた東北地方の出力数十MW規模のメガソーラーでO&Mの受注を内定したことが大きかったという。山間部の傾斜を含む土地を歩き回って、携帯型の赤外線カメラを使い、膨大な数の太陽光パネルを点検する作業をO&Mの計画に組み込むことは、現実的ではなかった。

 ここで、EPCやO&Mの担当部門が目を付けたのが、先行してドローン関連の事業を手掛けていた部門の知見だった。

 NECネッツエスアイは、産業分野におけるドローンの活用を一貫でサポートする事業を、2015年に開始していた。応用分野や飛行する場所の条件などに合わせて、ドローンの機体の選定から、調達・販売、安全に運用するための教育やトレーニング、機体の点検や整備、修理、場合によっては、飛行の代行、データの収集や加工、収集したデータの分析までサービス範囲としている。

 さらに、NECグループ全体の人工知能(AI)の知見を生かし、ドローンで空撮した熱分布画像を解析するプロセスを自動化できないか、模索した。NECは、AI関連の技術群を「NEC the WISE(エヌイーシー・ザ・ワイズ)」と称して展開している。NECネッツエスアイには、NECのAI関連の部門と連携し、関連事業に取り組んでいる部門があり、その知見を活用したいと考えた。

 一般的に、ドローンを使った太陽光パネルの点検では、熱分布画像の解析プロセスの効率化は、まだ十分には進んでいない。人手によるサービスがほとんどで、時間や手間を要するプロセスとなっている。

 ドローンを飛ばして、赤外線カメラで太陽光パネルの熱分布画像を空撮するまでの前工程と、取得した画像を分析して報告する後工程にわけると、すでに効率化が進んでいるのは、空撮するまでの前工程といえる。

 ここでは、そもそも歩行による撮影から空撮に変わっただけでも効率的になっている上、ドローンの操作と空撮を自動化する動きが先行している。

 一方、取得した画像を分析して報告する後工程は、効率化の余地が大きく残っている。

 上空から一定範囲のパネルを写した熱分布画像は、どの場所でも同じように見える。それぞれの画像がパネル配置図のどこに該当し、異常のある場合、どのような状況によって生じたのかというレポートは、一般的なサービスのメニューだが、それらを推測する作業は、人海戦術的なものとなっている。

 例えば、出力約2MWの発電所の場合、多くのサービス事業者が、この作業だけで1週間程度を要しているという。

 NECネッツエスアイでは、NECグループのAIなどの知見を応用して、熱分布画像ごとの配置図内での位置の特定や、熱分布の異常を引き起こしている現象の分類、その現象への対応の緊急度まで、自動で解析できるようにした。顧客に提出する報告書の作成も自動化した(図2)。

図2●AIで解析から報告書まで自動化
(出所:NECネッツエスアイ)
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 これによって、前工程、後工程ともに人手で実施している場合に比べて、熱分布画像の取得から解析、異常を生じているパネル位置や状況の特定、報告書の作成までに要する所要時間を4分の1に、コストを約60%以上削減できるとしている。

 一般的な地形のメガソーラーにおける参考価格(税抜き)として、空撮から報告書の作成までで1回あたり、出力2MWの場合は40万円から、出力10MWの場合は110万円からとしている。

 こうした後工程までの自動化は、同社のほかに、エナジー・ソリューションズ(東京都千代田区)が実用化したことを発表している(関連コラム: AI活用で2MWあたり分析時間はわずか「3分」)。

スクールも運営、技術と法令遵守を両立したドローン空撮

 前工程となる、ドローンによる空撮では、産業向けサービスで培った知見に加えて、パネルの熱分布画像の空撮に特有の知見を新たに身に付け、実用化につなげた。

 このほか同社では、ドローン関連団体の日本ドローンコンソーシアムの「認定スクール」を運営している。スクールの講習修了者は、飛行の許可を受ける際に、ドローン操縦の知識や能力に関する確認が簡略化される。同コンソーシアムは、千葉大学の野波健蔵教授が立ち上げたミニサーベイヤーコンソーシアムを前身とする。

 こうした取り組みを通じて、技術面に加えて、法や条例などに適切に対応する知見も蓄積してきた。例えば、航空法、小型無人機など飛行禁止法などの関連法のほか、国土交通省が定めたルールに則ってドローンを飛行する必要がある。

 メガソーラーの場合、電力会社の電柱や送電線が敷地内や近隣に架設されていることが多い。

 これが、航空法が定めている「第3者の所有物から30m以内の距離を飛行しない」というドローンの飛行規制に影響する。連系点となる電柱や、そこから伸びる送電線は、電力会社が所有する「第3者の所有物」となる。このため、電柱や送電線の30m以内に入らないように飛行しつつ、太陽光パネルの不具合を正確に把握できるレベルの画像を空撮できなければならない。

 ドローンの飛行に関する法令などを守らずに運用している事業者も目立ち、業界としての課題になっている。こうした状況の中、法令順守に対する厳格な姿勢が、強みになるのではないかと考えている。

 技術面では、太陽光パネルの空撮に特有の点として、ドローンが搭載している赤外線カメラの解像度、撮像性能などに合わせて、パネルとの高度差、撮影する角度、照度などを最適なバランスに保つ必要がある。このバランスの習熟を高めていったという。

 山間部に立地するメガソーラーの場合、地形の凹凸をそのまま生かしてパネルを並べている場合も多い。この場合、一定の高さでドローンを飛ばして撮影すると、パネルとの高度差や角度を一定範囲に保てない。こうした課題を解消する自動飛行の航路設定などもノウハウとなってくる。

 後工程となる、ドローンで空撮した熱分布画像の解析では、まず画像の位置を特定し、発電所内の太陽光パネルの配置図と整合させる作業に、AIは使わない。

 顧客の発電事業者やO&M事業者から事前に入手した敷地内のパネルの配置図を活用し、自動飛行の航路と、熱分布画像の位置情報の両方のデータを合わせ、熱分布に異常のある太陽光パネルの配置図内の位置を特定する。このプロセスは、自動化されている。

 AIを活用するのは、この後である。太陽光パネルに生じている熱分布の異常の現象を4種類に分類した上、その異常への対応の緊急度も3分類する(図3)。

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図3●太陽光パネルの熱分布の異常を4種類に分類
(出所:NECネッツエスアイ)

 熱分布の異常は、「部分的な過熱・発熱(ホットスポット)」、「クラスタ異常」、「太陽光パネル全体の過熱」、「ストリング全体の過熱」に分類する。

 「部分的な過熱・発熱」は、セルのマイクロクラック、太陽光パネルの汚れ、影などによる場合が多い。「クラスタ異常」は、インターコネクタの断線、はんだ不良、バイパスダイオードのショートによる場合が多い(図4)。

図4●ホットスポットとクラスタ異常
(出所:NECネッツエスアイ)
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 「クラスタ異常」とは、不具合によってセル(発電素子)の出力が低下した結果、バイパスダイオードが働いて、クラスタ(3分の1ごとにわかれている複数セルの直列回路)ごと発電を停止している状態を指す。

 「太陽光パネル全体の過熱」は、カバーガラスの割れ、バックシートの異常による場合が多い。「ストリング全体の過熱」は、コネクターの損傷、電線の損傷、接続箱の開放による場合が多いとしている。

 自動解析では、NECのAI技術群の1つである「RAPID機械学習技術」を活用している。

 「RAPID機械学習技術」は、ディープラーニングと呼ばれる、音声認識、画像特定、予測など人間のような行為を実行できるようにコンピューターに学習させる技術を応用したもので、今回は、ドローンで空撮した太陽光パネルの熱分布画像の解析で必要な、熱分布の正常と異常の区別、異常の傾向などをAIが自動で学習し、データの分類や異常の検知などを高精度で実施できるようになったとしている(図5)。

図5●AIによる解析の精度を高めてきたという
(出所:NECネッツエスアイ)
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 自動学習に必要なデータは、「教師データ」と呼ばれる。まず、太陽電池セル、セルを連ねたクラスタ、太陽光パネル、ストリングの段階ごとに正常な熱分布の画像、異常を含む熱分布の画像を集めて「教師データ」とした。これを使ってAIに学習させ、AIが自動で解析するモデルを構築した。

 太陽光パネルの熱分布画像における解析精度は、人手による一般的なサービスの場合で95%とされており、AIで同等以上の精度に向上することを目指し、実現したことでサービス開始に踏み切ったという。

落雷による逆電流による損傷も検出

 実際の解析例では、実証試験の段階で、ドローン点検による発見例が限られている種類の異常も発見できているという。太陽光パネルに、モザイク状に熱分布の異常が現れるタイプのトラブルである(図6)。

図6●モザイク状の温度分布の異常は、落雷による逆電流による損傷
(出所:NECネッツエスアイ)
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 これは、落雷や逆流防止ダイオードの故障などによって、太陽光パネルに向かって電流が逆流したことで生じたとみられている。パネル内に逆流した電流によって、セルが損壊し、その損傷度合いによってモザイクのように濃淡のある熱分布の異常になったのではないかと推測している。セルの過熱は、100℃以上に達しており、すぐに交換したほうが良いレベルだったという。

 NECネッツエスアイの点検サービスの報告書には、検出した異常に対して、対応の緊急度も3段階で評価を伝える。80℃異常の過熱は、緊急度が最も高いレベルに分類しており、このモザイク状の異常による100℃以上の過熱は、最高レベルの緊急度に該当していた。

 同社は、静止画で撮影している。動画で撮るサービス企業も多いが、同社の場合、絶対温度の情報がすべての画素に記録される静止画の方が、緊急度の提示などで利点が多いとしている。動画の場合、絶対温度が記録されず、配置図へのマッピングにも制約が大きい。

 落雷とみられる損傷で、パネルにモザイク状の熱分布異常が見つかった発電所は、事業計画時の予想発電量に比べて、実際の発電量が大幅に少ない期間が約3年間続いたものの、状態を調べることなく放置されていた。

 ハードウェアの面では、解析の環境として、NECの北米研究所の独自技術を活用し、分析エンジンの高速化と軽量化の両立を実現した。これによって、大規模なハードウェア環境を必要とせず、1台のサーバで解析できるとしている。

 ドローンに搭載する赤外線カメラについては、NECグループの日本アビオニクスでも開発・製品化しているが(関連ニュース)、米国メーカー製を採用した。

 日本アビオニクスの赤外線カメラモジュールは、NECネッツエスアイが求める水準の小型・軽量化を実現できておらず、一般的に広く採用されている米国メーカー製の製品を採用した。

 今後、ドローンを使った太陽光パネルの点検サービスは、自社でEPCやO&Mを受託している太陽光発電所だけでなく、幅広く展開していきたいとしている。

 EPCやO&Mを広く手がけることから、パネルの異常に関する知見が豊富で、幅広い蓄積を融合した診断などを提供できると強調している。