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「本格的な草刈機」も自動走行へ、IoTのオープン開発環境を活用して開発(page 2)

障害物の回避にはクルマの自動運転技術を応用

2022/08/01 21:05
加藤 伸一=日経BP 総合研究所 クリーンテックラボ
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上に木や太陽光パネルがある中で衛星の信号を受信

 トラクターなど、大型農業機械の自動化に比べて、小型の草刈機で自動化が難しいのは、例えば、位置を高精度に特定することが難しくなるためである。

 大型の農機であれば、広い田畑で使われる。上空は開けていて、位置の特定で広く使われている衛星測位システムを活用しやすい。複数の測位衛星から時刻情報つきの信号を受信し、地上での現在位置を高精度で特定できる。

 一方、小型の機種は、面積が狭い田畑で使われることが多い。

 その場合、周囲を木で覆われているなど、農機の上空が開けていないことも多くなる。農機の上が一定以上に開けていないと、測位衛星からの信号の受信を妨げられ、正確な位置の特定が難しくなる。これが自動走行を難しくしており、工夫のしどころとなっている。

 さらに太陽光発電所の場合、太陽光パネルの下を走る時にこうした状況に置かれる。果樹園の場合は、果樹の下を潜って走っている時に測位衛星からの信号の受信を妨げられやすい(図2)。

図2●測位衛星の信号の受信試験
図2●測位衛星の信号の受信試験
(出所:オーレック、九州大学)
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 この測位衛星からの信号の受信が必要なため、あまりきつい傾斜への対応は難しいのではないかという。

 受信できる範囲は120度で、斜面を走って受信器が傾くと受信が難しい場合が出てくる。同時に約20カ所の衛星から受信するが、このうちいくつを正確に受信できるかで位置を把握できる精度が変わってしまう。

 こうした位置把握のほかにも、自動走行時の経路の決め方、障害物の検知と回避、タブレットPCやスマートフォンへの画面表示や操作など、従来の草刈機にはないICT(情報通信技術)の要素が多く必要になる。

 オーレックは農機や草刈機の知見は多く持つ。ただし、自動化に必要なICTについては、知見を持つ従業員を増やしているものの、本格的な開発を自社だけで完結できる水準にはない。

 そこで今回の自動化に向けた開発では、オープンな開発環境を活用し、自動運転やICTの知見を多くもつ九州大学、NECと共同で開発している(図3)。

図3●オープンな開発環境を活用
図3●オープンな開発環境を活用
(出所:オーレック)
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 九大とNECとは、「My-IoT」と呼ばれるオープンな開発環境を通じて共同で取り組んでいる。内閣府による「戦略的イノベーション創造プログラム」の一環で九大とNECが開発したもので、IoTの知見が十分にない企業でも、簡単にIoTシステムを構築して検証でき、新たな事業を創出することを目的としている。

 草刈機の自動運転では、理想は自律的な走行だが、現時点の開発では、ドローン(無人小型飛行体)の航行手法のように、事前に走行ルートを設定するシステムに取り組んでいる。

 クラウドコンピューティング上の地図データを使い、地図上に草を刈る場所を指定すると、走行ルートが設定され、その範囲の雑草を自動で刈る。

 このシステムの構築やロボット用開発言語の活用などに九大の知見が生かされている。オープンソースで開発しやすく、かつ、オーレックがカスタマイズしやすい利点があるという。

 自律的な走行で先行しているロボット型の芝刈機では、事前にルート設定されるのではなく、ワイヤーを地面に張って自動走行範囲の外周とし、その中をランダムに走り回る手法を採用されている。

 今回、目指している自動走行では、より広い範囲での活用を想定しているために、広くなるほどコストや手間がかかるワイヤーの敷設ではなく、ドローンで先行している手法を選択した。

 ただし、事前にルートを指定して自動走行させた場合、ドローンが飛ぶ空中とは違い、地上には草刈機の走行を妨げる障害物が存在することも想定される。

 障害物の回避には、自動車の自動運転の知見を取り入れた。障害物に接触するより前に検知し、走行の向きを変えることで接触を回避する。

 レーザー光を照射して障害物に当たって跳ね返ってくるまでの時間から、障害物までの距離や方向を把握する「LiDAR」という手法である。カメラも搭載しており、走行中に前方の画像からも障害物の有無などを把握している。

 このように、複数のセンシング技術によって自動走行に必要な位置や障害物の情報を把握している。現時点では、1つの手法であらゆる状況を把握できる技術はないため、それぞれのセンシング技術の良いところを組み合わせて活用する。

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