PVロボット最前線

「火を噴くジャンクションボックス」、NTT西の新会社がドローン点検で発見

AIで分析の効率化を急ぎ、風力でも実績を伸ばす

2019/08/21 00:58
加藤 伸一=日経BP総研 クリーンテックラボ

 西日本電信電話(NTT西日本)は今年4月、ドローン(無人小型飛行体)を活用したインフラ点検の新会社「ジャパン・インフラ・ウェイマーク」(東京都中央区)を設立し、営業を開始した(動画1)。資本金は4億円で、NTT西日本が100%出資した。

動画1●ドローンによる太陽光パネルの点検例
(出所:ジャパン・インフラ・ウェイマーク)

 新会社は、インフラ点検の企画・コンサルティングからドローンによる空撮、人工知能(AI)を活用した点検診断・レポート作成までの一貫したサービスを提供している。機体の販売やレンタル、メンテナンス、教育研修、保険の取り次ぎなども手掛ける。

 太陽光パネルや風車、送電線や通信の鉄塔、橋、法面など、さまざまな構造物の点検に対応する。このような、社会インフラ全般の点検にドローンを応用することを手始めに、点検をデジタル化することを目指していることから、国内のインフラ点検の道標(ウェイマーク)になるという思いを託したスケールの大きな社名とした。

 自社のサービスに使うドローンの機体は、自律制御システム研究所(ACSL、千葉市)製を採用している(図1)。

図1●信頼性とともに情報保全の観点から日本企業製を採用
(出所:ジャパン・インフラ・ウェイマーク)
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 自社の基準に準じた点検に必要な性能や信頼性などとともに、情報の保全、セキュリティを重視して採用したとしている。ドローンは、一般的なIT関連システムと同じように、制御の向上などを理由としたソフトウェアの更新や、その他のデータの送受信が、メーカーとの間で頻繁に行われているとされる。国の社会基盤であるインフラに関する情報が、点検に使われたドローンを通じて海外に流出する恐れを最小化するという方針を強調している。

 ジャパン・インフラ・ウェイマークでは、橋の下などでの利用を想定した、GPS(全地球測位システム)衛星からの電波を受信できない環境に対応できる機体も揃えている。

 NTTグループにおけるドローン活用は、2011年3月の東日本大震災が契機となった。震災によって、NTT東日本の通信設備が大きな被害を受けた。

 中でも、課題となったのは、橋を利用して敷設した通信線(中継線)だった。橋が倒壊したことで、その先の地域全体の通信が途切れてしまう被害が相次いだ。

 橋に敷設した通信線を急いで復旧する手法として、当時の状況ではヘリコプターの活用が一般的だった。だが、費用と技術の両面から課題が多かった。そこで、NTTグループでは、ドローンを積極的に活用することにした。ヘリコプターを使うよりは、費用と技術ともに現実的な手法だった。NTT東日本・西日本は、それぞれ数百台を導入し、運用するようになった。

 当時、普及していたのは、現在のような形の機体ではなく、航空機と同じような形の機体だった。無人航空機(UAV)と呼ばれることもある。寸法も、現在のドローンより大きい。

 自社グループの通信設備の復旧などに活用する中で、無人小型飛行体を運用する上でのノウハウが蓄積されたという。そこで、NTT西日本では、自社グループの設備への適用だけでなく、事業として他社設備にもサービスを提供できないかと考えた。長期的な需要が見込める分野として、点検が有望ではないかと予想した。

 しかし、この時点で、空撮を応用した点検の需要は、ほとんどなかった。当時、目の前の需要として唯一、可能性を感じたのが、メガソーラー(大規模太陽光発電所)における太陽光パネルの点検だった。固定価格買取制度(FIT)の運用が改正され、稼働後の保守・点検を重視する方向に変わることも、追い風と考えた。

 NTTグループには、国内の太陽光発電所の開発・運営、EPC(設計・調達・施工)やO&M(運用・保守)でいずれもトップクラスであるNTTファシリティーズがある。

 NTT西日本では、太陽光発電所向けに空撮を応用したサービスを事業化するにあたり、NTTファシリティーズの協力を得て、技術の開発や事業化に必要な検証を重ねた。地元の関西を中心とするメガソーラーで、ドローンによる飛行と空撮、撮影した熱分布画像の解析と、トラブルが生じている太陽光パネルの発見精度の検証を繰り返した。

 NTTファシリティーズのほか、南国殖産(鹿児島市)グループも、技術開発や事業化に向けた検証に協力した。

 さまざまな太陽光発電所にドローンによる空撮を応用したパネル点検サービスを提供するには、さまざまなメーカーの太陽光パネルに対して、熱分布画像の空撮と不良パネルの特定、状況の解析の経験を重ねておきたい。

 この点で、NTTファシリティーズのメガソーラーばかりで経験を積むことには、課題があった。同社のこれまでの調達方針から、特定のメーカーの太陽光パネルが多くを占めていた(関連コラム)。

 これに対して、南国殖産グループは、比較的さまざまなメーカーの太陽光パネルを採用している。技術の検証先として、南国殖産グループの太陽光発電所が加わったことで、幅広いメーカーの太陽光パネルを対象に点検作業を経験できるようになった。

 技術開発や検証の一つには、パネル内で過熱している部分の寸法などの状況把握や、その部分を含む太陽光パネルのI-V(電流・電圧)特性に、どの程度の影響を及ぼすのか、どのようにランク分けして顧客に示すのか、などといった点があった。

 最終的に、過熱している場所の寸法は、「大」「中」「小」の3つに分類して示すことにした。「大」「中」は、I-V特性に与える影響が、太陽光パネルメーカーが交換に応じるレベルに達している可能性が高いという評価となる。

 衝撃的なトラブルを発見したこともある。ドローンで空撮した熱分布画像で過熱していることを発見し、その場でその太陽光パネルの様子を見に行くと、パネルの裏面に取り付けられているジャンクションボックスや、その付近の電線が、火を噴いて燃えていた(図2)。

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図2●4カ所のジャンクションボックスや電線が火を噴いていた
(出所:ジャパン・インフラ・ウェイマーク)

 ジャンクションボックスや電線が燃えた例は、国内の太陽光発電所で報告がある。ただし、そのほとんどは、「燃えて黒焦げになったジャンクションボックスや電線」を発見した、というものである。

 そんななか、このメガソーラーの場合、燃えている最中に遭遇した。それも出力約5MWの発電所内で、4カ所で同じ状況が生じていた。

 危険な状況のため、発電事業者がすぐに遮断器(ブレーカー)を使って発電を止めた。


 このほか、鳥のフン、枯葉、チリ、火山灰による汚れ、セル(発電素子)の割れ、その他、初期不良の影響、ストリング(パネルを接続した単位)での断線や不具合による過熱も発見してきた(図3)。

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 また、17カ所の太陽光発電所を運営している企業の協力を得て、発電事業者にとってのサービス採用の利点と事業性を検証し、数値化して示した。

 17カ所の発電所では従来、点検作業者が敷地内を歩き回って点検していた。電気的な不具合は、パワーコンディショナー(PCS)単位で遠隔監視している発電量から、PCS単位で発電量が過剰に減っている状況を把握し、そのPCSに送電している接続箱の入力端子を通じて、絶縁抵抗値やI-V特性に異常のあるストリングをみつけ、さらに太陽光パネルに遡って発見してきた。

 こうした従来手法で最後に点検したときの結果と比べると、点検の所要時間は従来手法の735時間から、ドローン活用で357時間に、ほぼ半減した。そのうえで、発見した太陽光パネルの異常は、3枚から20枚に増えた(図4)。

図4●17カ所の発電所における効果
(出所:ジャパン・インフラ・ウェイマーク)
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 3枚から20枚に増えた太陽光パネルの異常の発見枚数のうち、5枚は従来の手法でも発見できるものだった。つまり、2枚は、1年間の間に新たに表面化した異常のうち、従来の手法で発見できるものだった。

 残りの15枚は、ドローンでなければ発見できなかった可能性が高いという。発見できたことで、迅速に交換して発電ロスを最小化できれば、事業性をより向上することにつながる。

 また、別の発電所では、18本のストリングのうち、3本が通電せず、発電していない状況が続いていたことを発見したこともあった。もし、この状況が10年間続いていたら、累計で2000万円の売電損失につながったと試算している(図5)。

図5●施工ミスを発見することも
(出所:ジャパン・インフラ・ウェイマーク)
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 太陽光パネルを並べる間隔が狭すぎて歩くことが難しい発電所や、沿岸部に立地し、塩害の抑制を目的に設置高の高い架台を使っている例も目立つ。歩行による点検が難しく、従来は事実上、点検できなかった太陽光発電所を、点検できるようにした例もある。

 大規模な施工不良が発覚し、EPCサービス企業が適切に修復した後、発電事業者にその状況を説明するために使われた例もある。

 九州にある出力数十MW規模のメガソーラーで、太陽光パネル同士を接続し忘れていた場所が多数あることを、稼働開始後に発電事業者が見つけた。その後、EPCサービス事業者が、ひとつ一つ目視点検して歩き、未接続のコネクタをすべて接続したものの、発電事業者は信用しなかった。そこで、ドローンによる熱分布画像によって、過熱している場所が1カ所もなく、正しく接続されたことを示すことで、ようやく納得してもらえた。この空撮を、NTT西日本グループが担当した。

 NTT西日本では、技術開発や事業化の検証を終えると、子会社のエヌ・ティ・ティ ネオメイト(大阪市中央区)を通じてサービスを事業化した(関連ニュース:ドローンによる太陽光パネル点検、「2MWで15万円から」)。今回、さらに事業を拡大する段階が来たと判断し、新会社のジャパン・インフラ・ウェイマークを設立し、ドローンを使った点検関連の事業を移管した。

 蓄積してきた技術や知見は、NTTグループ全体で活用している。例えば、NTTドコモによる「太陽光パネル点検向けプラットフォーム」も、新会社と連携して構成されている。

 現在、取り組んでいるのは、熱分布の空撮画像の解析にAI(人工知能)を活用し、異常を生じた太陽光パネルの特定、状況や原因の分析まで自動化し、より効率化することである。

 この手法として、米国の関連会社のソフトウェアを活用し、自社のサービスに適用する開発を急いでいる(図6)。

図6●開発中のソフトウェアの表示画面例
(出所:ジャパン・インフラ・ウェイマーク)
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 また、複数のドローンを同時に使い、自律分散的に自動航行する技術の開発も、NTTドコモやNTTデータと進めている。こうしたNTTグループの総合力を生かし、通信やデータ処理に長けたサービスの実現を試みているのも、特徴といえる。

 現在までに、65カ所・合計出力約145MWの太陽光発電所のほか、風力発電でも約50基で実績があるほか、約1000基分の引き合いを受けているという(図7)。

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図7●太陽光パネルの点検実績(上)と風車の空撮例(下)
(出所:ジャパン・インフラ・ウェイマーク)
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 風車の点検では、ドローンによる空撮から、外観で確認できる損傷を見つける。この損傷の状態判断は、風車メーカーの経験者でなければ難しいという。欧米では、こうした診断を、風車メーカーのOBなどが請け負い、自宅で画像を見ながら評価している。

 新会社による風車向けのサービスでも、デンマークや米国に住んでいる風車メーカーのOBが、画像による風車の損傷の診断を担当している。ブレードをすべての角度から撮り、多角的な画像から診断できるように工夫している(動画2)。

動画●ドローンを使った風車の点検の様子
(出所:ジャパン・インフラ・ウェイマーク)

 従来の風車の点検は、作業者をロープで吊り下げてブレード(羽根)に近づくといった、人がブレードに近づいて目視点検する手法が主流となっている。特別な資格や技術が必要で、担当者が限られている。

 このため、1基の点検を2人一組で担い、1日数十万円といった高額になる場合もある。

 ドローンを使うと、1日に約10基の空撮が可能で、点検時の安全性とともに、コスト面での利点が大きいとしている。