PVロボット最前線

太陽光パネルの下、40度の急斜面も除草できるラジコン型草刈機

100万円を切る価格で、乗用型の市場も狙う

2019/09/18 05:00
加藤 伸一=日経BP総研 クリーンテックラボ

 農機メーカー大手のクボタが、ラジコン型の草刈機を製品化した。特徴は、法面などの急な斜面に強く、最大で40度の傾斜角でも安定した草刈りが可能なことである(図1動画1)。

図1●40度の斜面でも安定
(出所:クボタ)
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動画1●斜面の雑草を刈る様子
(出所:クボタ)

 また、高さが約60cmと低いため、太陽光パネルの下を潜り抜けながら刈ることができる。アレイ(太陽光パネルを架台に固定する単位)の低部側のパネルの下は、太陽光発電所において、最も雑草をしっかり刈りたい場所で、パネル下を潜り抜けながら刈れる点は強みとなる。

 製品名は「ARC-500」。希望小売価格(消費税8%込み)は99万7920円と、100万円を切る。ラジコン型草刈機は、一般的に100万円を超えた価格帯になり、海外メーカー製では300万円以上が多い。

 100万円以下という価格は、乗用型草刈機の価格帯を意識したという。乗用型草刈機で多く使われている機種では、オーレック(福岡県広川町)製(関連コラム1)が約100万円、筑水キャニコム(福岡県うきは市)製(同コラム2同コラム3)が約150万円で、「ARC-500」はこれらをさらに下回る。

 クボタによると、法面に強いラジコン型草刈機は、農機メーカーが直面している経営課題を解消し、かつ、日本の農業全体が抱えている課題の解消に寄与できることから開発・製品化した。

 「農機メーカーが直面している経営課題」とは、主力の稲作用の農機の国内市場が縮小傾向にあることである。これまでの農機市場を牽引してきた稲作用の台数が減る一方で、ロボット化などを進めた他の高付加価値な農機が拡大しつつある。

 高付加価値機は、単価は高いものの、販売台数は従来の稲作用ほど多くない。このため、農機メーカーの事業規模を維持・拡大していくためには、高付加価値機を、農業以外の分野にも展開し、稲作用の縮小分を補えるような事業に拡大できることが理想である。今回のラジコン型草刈機では、そのような展開の端緒となることを期待している。

 販売先として、これまでの農家だけでなく、土木や建築、造園、緑地管理、リース、太陽光発電所など、草刈りで課題を抱えている幅広い分野に広げていく方針だ。

 斜面の草刈り作業の効率化は、農業でも大きな課題となっている。国内の農地のうち約4割は、中山間地と呼ばれる、平野と山地の間に分類される場所に立地している。ここには、斜面が多く、草刈り作業の効率化は遅れている。

 農業では、当然ながら、農作物そのものの生産性の向上に直結する作業から、機械化や効率化が進んできた。トラクター、田植え機、コンバインなどに代表される農機によって、この約50年間でこれらに要する作業時間は、約8割も削減されたという。

 一方、水の管理や草刈りなど、農作物の生産性向上そのものには直結しない作業に関しては、省力化や効率化が遅れている。同じ期間で作業時間は約45%しか減っていないという。この農業全体の大きな課題の解消に、ラジコン型草刈機が寄与できるとしている。

 実際に、今回のラジコン型草刈機を使っている農家は、草刈りに要していた作業の延べ日数が減っているという。

 農家が草刈りをするのは、一般的に朝一番と日没時に1時間ずつ、合計2時間となっている。この2時間の作業時の身体的な負担が減ったことから、農作業を中断している昼にも、草刈りできるようになり、草刈り作業の延べ日数が減ったようだ。

 現在の販路は、これまでと同じように、農機の販社やJA(農協)が中心となっている。他分野の企業は、農機の販路と接点がない場合が多く、拡販していくためには、どのように販路を広げていくかが重要になりそうである。

 3月に発売を開始して以降、はっきりと太陽光発電所向けと判明している販売例は、発電事業者やO&M(運用・保守)関連事業者が、みずから情報を収集し、購入を打診してきたものという。北海道、福島、岡山の事業者で、岡山の販売先は、同県内で約30カ所の発電所を運営している事業者だった。

 今回のラジコン型草刈機を使うと、作業員は斜面に入らずに済む上、乗用型や自走型(図2)のような本体を操縦する機種のような、振動やほこりの影響を受けずに作業できる。

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図2●自走型草刈機
(出所:クボタ)
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 遠隔操作には、ホビー用ラジコンカーと同じような操作用端末を使う(図3)。左右の2本のスティックを使い、簡単に前進や後退、左右の旋回を操作できる。刈刃の回転のオン・オフ、エンジンの停止も遠隔で操作し、安全に作業できるという。

図3●ホビー感覚で簡単に操作できる
(出所:クボタ)
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 最大40度の斜面でも安定して運用できるのは、機体の重心を山側(斜面の上側)に寄せ、谷側(斜面の下側)の車輪の幅を2倍にするといった構造の工夫による。

 エンジンなど重い部品は、山側に寄せることで、走行中の重心を安定させ、転倒などのリスクも減らしたとしている。エンジンは、2サイクル式を搭載している。車輪は鉄のものでスパイクを備え、斜面でも地面に食い込みやすくした。

 機体の右側が山側、左側が谷側と、向きが決まっている。このため、乗用型や人手で操作する自走型の草刈機のように、一定の距離を刈った後、反転して戻ってくるような使い方はしない。山岳列車のスイッチバックのように、斜面の中で走る場所を上下にズラしながら、前進と後退を繰り返すことで段状に刈っていく。

 機体の向きと進行方向を間違えないように、色は前方がオレンジ、後方が黒と、はっきりわかるように変えている(図4)。ラジコン操作の方法も、左右の旋回は右のスティックのみとし、機体がどの方向を向いていても、右のスティックを右に操作することで、必ず山側に登るなどわかりやすく、操作の間違えを防ぐ工夫としている。

図4●前方はオレンジ、後方は黒
(出所:クボタ)
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 また、急な斜面では、まっすぐに走らせているつもりでも、谷側に横滑りしてずり落ちてしまう現象が起きやすい。そこで、斜面の角度に応じて自動で車輪の向きを調整し、ずり落ちを緩和する機能を備えている。

 「等高線直進アシスト機能」と呼び、走っている斜面の傾斜角によって、3段階で車輪の角度を自動で変える(図5)。

図5●傾斜が25度未満(左)、25度以上(中)、30度以上(右)の斜面で、車輪を山側(左側)に向ける角度が自動で変わる
(出所:クボタ)
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 傾斜角が25度未満の斜面を走っている時には、この機能は動作しない。25度以上の斜面では、1段階目のアシスト機能が作動し、車輪をわずかに山側に傾斜させて走る。30度以上の斜面になると、2段階目のアシスト機能が作動し、車輪の山側への傾斜具合がより深くなる。

 この機能がないラジコン型草刈機の場合、まっすぐに走らせているつもりでも、谷側にずり落ちながら進んでしまうため、ずり落ちそうな分を予測しながらラジコン操作で車輪を山側に傾かせ続ける必要があるという。操作の手間が増え、また経験も必要になる。

 慣れない作業者でも、こうしたラジコン操作の手間や経験が必要なく、簡単に効率的な斜面の草刈りを実現できるとしている。

 刈幅は500mmで、高さ600mmまでの雑草の刈り取りに対応できる(動画2)。

動画2●背の高い雑草を刈る様子
(出所:クボタ)



 4枚の刈刃を備え、高さを変えて上下に配置することで、草を細かく切断する(図6)。硬い葉や障害物に当たると刈刃が逃げる機能を備える。

図6●刈刃は4枚
(出所:クボタ)
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 刈刃は、ボルトを抜くだけで着脱でき、メンテナンス性を良くしている。乗用型や自走型の草刈機では、刈刃の交換や洗浄時に、重量が100kgを超えるような機体を斜めに持ち上げる必要がある機種もあるが、こうした負担をなくした。

 万が一、転倒してしまった場合を想定し、エンジンや電装品などは、保護用のフレーム内に収め、破損などを防ぐ構造とした。乗用型や自走型とは異なり、作業者が離れた場所にいるために、目の前で転倒などを防ぐ手段を講じることが難しいためとしている。

 燃料をフルに充填した時の連続作業時間は約50分間で、作業能力は492m2/hとしている。燃料は、刈り払い機などでも一般的な混合系のものを使う。車速は低速時で0.33m/s、高速時で0.55m/sとなっている。これは、低速時で約1km/hに相当する。ラジコン型なので、動作が速すぎると作業者が怖さを感じる可能性があり、ゆったりとした動作にしているという。

 機体の寸法は1089×811×610mmで、重さは124kgとなっている。