売電だけじゃない! 新・メガソーラー活用術

来訪者を2倍に増やした米子のメガソーラーのヤギ、現在は「マスコット役」に専念

ヒツジとの性質の違いを把握し、適切に活用

2019/11/27 06:00
加藤 伸一=日経BP総研 クリーンテックラボ

 鳥取県米子市にある太陽光パネル出力・約43MW、連系出力・28MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)「ソフトバンク鳥取米子ソーラーパーク」には、周辺地域の環境活動を紹介する施設「とっとり自然環境館」がある。同館において10月中旬、幼稚園児と高校生がヤギに触れつつ、再生可能エネルギー発電を学ぶイベントが開催された(図1)。

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図1●この日は幼稚園児と高校生が来館
(出所:日経BP)
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 同館は、メガソーラーの事業用地内に立地し、発電設備に隣接している。「ソフトバンク鳥取米子ソーラーパーク」の太陽光発電設備だけでなく、鳥取県内の他の再エネ発電所、近隣地域の自然保護活動などを紹介している。

 鳥取県は2013年9月に経済産業省から次世代エネルギーパークに認定された。これは、住民が再エネの理解を深めつつ、街づくりに生かすことを目指す自治体を支援する制度である。これを具現化する施設の一つが、同館となっている。

 「鳥取米子ソーラーパーク」は、ソフトバンクグループのSBエナジー(東京都港区)と三井物産が設立した特定目的会社(SPC)が開発・運営している。2014年2月に売電を開始してから、約5年半が経つ。

 ヤギは当初、メガソーラーの除草対策の検証を兼ねて導入された。現在は、同館のマスコット・キャラクターのような存在となり、来館者や近隣の通行者を癒している。

 来館した幼稚園児と高校生は、ヤギと触れ合った後、近くの展望台から「ソーラーパーク」の発電設備を見学し、約53haの敷地に、約17.8万枚の太陽光パネルが、まるで海のように広く並んでいる様子をみて、特別高圧送電線に連系しているメガソーラーの規模を実感した(図2)。

図2●太陽光パネルが17万枚以上並ぶ光景を眺める
(出所:日経BP)
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 この圧倒的な景観は、同館の売りの一つといい、同館のwebサイトでも強調されている。

 同館では、太陽光パネル1枚の発電電力によって、大人ほどの背丈の細長い筒の中を、水位が上下する装置を使って、リアルタイムの発電状況を可視化している(図3動画)。

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図3・動画●太陽光パネルの発電状況を学んでいる様子
(出所:日経BP)

 身体や暗幕を使って、パネルの表面を部分的に覆うと、パネルの出力が変わる。すると、パイプ内の水位がすぐに変わるので、わかりやすい。

 同じような趣旨の水力発電や風力発電の施設もある(図4)。同館では、こうした近隣地域向けのイベントを日常的に開催している。

図4●水車で発電
(出所:日経BP)
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ヤギとヒツジで癒しと除草の効果を検証

 ヤギだけでなく、ヒツジがいた時期もある。いずれも、近隣地域の人々とともに同県の目指す「再エネや自然環境が溶け込んだ街づくり」を、多角的に体感でき、同館の活動を癒しの側面から支える要素となってきた。

 ヤギやヒツジを除草に活用する試みは、メガソーラーの売電開始から半年が経ったころにはじまった(図5)。メガソーラーの除草を担当している地元企業、大協組(鳥取県米子市)と取り組んだ。

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図5●2016年の検証時の様子
(出所:日経BP)

 ヒツジやヤギによる除草を試すきっかけとなったのは、「とっとり自然環境館」の周囲に雑草が伸び、予定外の除草が必要になったことだった。メガソーラーの発電設備の設置区域については、当初から除草作業を事業計画に組み込んでいる。しかし、同館の周囲でも、すぐに雑草が伸び、来館者の見学にも影響するほどとなった。

 環境館周囲の除草なので、できるだけ環境保全に配慮した手法を検討した。この意向に対して、大協組がヤギやヒツジの活用を提案。環境館の周囲だけでなく、太陽光パネル設置区域のフェンス内外にも、活用の対象を広げていった。

 ヤギやヒツジによる除草の検証時は、草刈機や除草剤を用いた除草に比べ、騒音や二酸化炭素の排出、土壌汚染といった面での環境負荷の低減効果を挙げていた。除草の効果、草刈機による除草との安全面の比較、除草の品質、来館者や通行者に対する癒し効果も検証した。

 その結果として、一定の除草効果のほか、採食の嗜好性、歩行して踏み倒された草が枯れることによる予想外の除草効果などを公表している。

 ヤギやヒツジは、草を刈るのではなく、食べるので、草刈りで生じる「刈った草の後処理」が不要という利点もある。フェンスに絡みつくように伸びて対応に難渋する発電事業者の多いツル性植物のクズも、ヤギやヒツジは好んで食べる。

 ヒツジにGPS(全地球測位システム)の受信器を取り付け、日ごとの移動距離や行動範囲、頻繁に滞在する地点などのデータを採って、その場所の植生情報と照合し、好んで食べる植物の種類や特徴が、事前の予想とどの程度、合致するかも調べた。

 「斜面」については、ヒツジは苦手だが、ヤギは得意だ。太陽光パネルに近い場所には、ヒツジは近づけられるが、ヤギは近づけられない。ヤギは、パネルの上に登ってしまうためで、ヒツジにはこうした心配がなく敷地内に放しておける。

 動物が相手なので、どの面積で、どの植物を除草するために、どのタイミングで、どの期間、ヒツジを何頭、ヤギを何頭入れれば除草が完了するのかといった、机上の計算だけではうまくいかない。実際に試してみると、わからないことばかりで、一つ一つ確かめていったという。

 予想外の出来事として、ヒツジが出産して、子ヒツジが生まれたこともあった(図6)。最近では、ヤギにも子供が生まれた。

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図6●子ヒツジが産まれた
(出所:とっとり自然環境館)
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 また、同館への来館者数が検証期間中は4割から2倍も増えるなど、ヤギやヒツジの存在が癒しを与え、来訪の意欲を高めることを検証できた。同館内でも、ヤギに挨拶するのが日課になるなど、事務所の雰囲気が明るくなったようだ。

 一方で、来館者への危害、悪臭、騒音といった悪影響や、怪我や病気といったヤギやヒツジの健康管理面でも、大きな問題はなく、極端に神経質になる必要がないことも確認できたという。

 これと並行し、太陽光パネルの設置区域は、完成後に「防草土」に変えていった。土や灰などを原料とした、雑草の成長を抑える効果の高い材料で、これを地表に敷いた。本来は、基礎の形成前に施工するものだが、施工中に導入を決めたため、完成後に追加した。防草土を施工した区域は、雑草が以前よりも少なくなった。

 こうして、敷地内の雑草の状況は変わり、ヒツジで除草する必要性は薄れていった。動物を除草に活用する場合、雑草を多く食べ残す状況ならば、残った雑草を刈る作業が必要になることがあるが、より大きな問題は逆の場合で、雑草を食べ尽くしてしまい、食べるものがなくなって、動物の健康状態に影響することである。その場合、追加で餌を購入し、与える必要が出てくる。

マスコット役に、ヤギの方が向く理由

 ヤギは現在、3頭いる。同館の人気者で、来館者に癒しを与えている。この目的だと、ヤギの方がヒツジより向くという。

 外見の「可愛らしさ」は共通しているが、ヒツジは力持ちで、かつ、臆病な点が、ネックになる場合があると考えた。子供と触れ合うときに、臆病で逃げ出したり、逆に、近づき過ぎたときに、力が強い分、子供にかかる力が大きいことも懸念された。

 ヤギは普段、同館の隣にある柵で囲んだスペースにいる。ここには、雨をしのげる小屋もある。イベント時には、来館者と触れ合いやすいように柵から外に出す。

 同館の周囲の雑草だけでは、3頭のヤギが食べる量には足りない。そこで、メガソーラーのフェンスの外側などに出かけていき、雑草を食べさせていることもある。食べさせる雑草は、除草剤を使っていない施設のものが対象になる。

 このほか、乳牛用の干し草を購入し、与えている。また、夏には鉱塩(こうえん)も与えている。鉱塩は、植物を主食とする動物の塩分補給用で、ヤギ、ヒツジ、牛などの飼育で一般的に使われている。水飲み場においておき、これを舐めると塩分、ミネラルを適切に採れる。

 予想外の出来事では、2017~18年の冬に、鳥取県をはじめとする日本海側で数回続いた大雪がある。メガソーラーにも通常よりも深く雪が積もった。

 この時には、ヤギは小屋にこもっていた。屋根の上にブルーシートを敷く、小屋の中には適切に水と餌を置きつつ、小屋の入口を閉じておくといった対応の結果、ヤギも問題なく大雪を乗り切ったという。

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