再エネ蓄電池プロジェクト最前線

ホンダが需要家で世界最大のNAS電池、瞬低対策用を系統安定化に活用

2018年初の大寒波時には、東電の遠隔DRで実運用も

2019/10/02 05:00
加藤 伸一=日経BP総研 クリーンテックラボ

 今春の大型連休中、4月28日と29日に本田技術研究所(埼玉県和光市)の研究開発拠点で、大規模なナトリウム硫黄(NAS)電池システムを使って需給を調整する試みが実施された。場所は、栃木県芳賀町にあるオートモービルセンター(栃木)。蓄電池の規模は、出力12MW、容量100MWhに達する(図1)。

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図1●オートモービルセンター(栃木)とNAS電池システム(上)
(出所:本田技術研究所)
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 このシステムは、需要家が事業所に導入した蓄電池としては、世界最大規模という。

 本田技術研究所はホンダの研究開発子会社で、同センターにさまざまな発電設備や蓄電池を導入し、構内系統で活用してきた。東京電力グループとも以前から連携し、これらのシステムを活用し、電力系統の安定化に寄与する需給調整の実証実験などに取り組んできた。

 九州電力が、2018年秋~19年春にかけて太陽光発電の出力を制御(抑制)したように、今後、ほかの地域でも太陽光発電の大量導入に伴って、春と秋の昼間軽負荷期には、供給力が需要を上回る可能性が高まっている。

 今回の需給調整が実施された大型連休中の好天日は、まさにそのような日で、東電管内でも、将来的にこうした段階に進む可能性がある。

 電力会社の系統運用では、火力発電の調整や、地域間での融通に加えて、大口需要家である企業の協力を得て、事業所の操業を調整してもらうことによる対応も出てきた。

 今回は、需要家の持つ大型蓄電池を使って需給調整するもので、国内では先進的となる。現時点で大型蓄電池を持つ需要家は限られているが、今後、電気自動車(EV)を含め、一定以上の規模の蓄電池を持つ事業所が増えてくる。

 そこで、より多くの企業の協力を得て同様の需給調整を実現できれば、太陽光発電への出力抑制を極力少なくし、より多く系統で受け入れつつ、安定的に系統運用できる可能性がある。今後も太陽光発電を継続的に伸ばしつつ、その電力をできるだけ多く活用するには、需要家側の蓄電池の活用は、有望な技術の一つと言える。

 今回の需給調整において、東電から本田技術研究所に対して、報奨金などの支払いはないという。本田技術研究所は、再生可能エネルギーの電力を最大限に活用できる系統運用の確立に協力していきたいという。

 春の大型連休中には、事業用の需要が少なく、電力が余り気味になる。電力会社は通常、火力発電を抑えつつ、揚水発電の汲み上げ運転などで対応する。本田技術研究所のNAS電池を使うことで需要を増やし、より多くの再エネを受け入れられる効果を確かめた。

 具体的には、昼の3時間、系統の電力をNAS電池に充電し、夕方以降の6時間、放電して所内で消費した。太陽光の電力が余りやすい昼に需要を増やし、太陽光の電力が減る一方、需要が増える夕方以降、貯めた電力を所内で使って系統からの受電を減らした。

 同センターでは、休日でも電力消費が多いために、この需給調整を可能としている。所内では、耐久運転テストなどで電力を常時消費している(図2)。設備を稼働し続けて、24時間体制でこのテストを実施している。

図2●テストの様子
(出所:本田技術研究所)
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自家消費用の太陽光は1.3MW、今後も規模拡大

 今回の需給調整を実施した同センターは、1979年にテストコースが操業し、敷地面積は約230haと広い。テストコースは1周約4kmで、2輪と4輪などの開発に活用しているほか、芝刈り機のテスト場もある。

 太陽光発電は、2003年に初めて出力2kWの設備を導入した。徐々に規模を増やし、現在のパネル出力は約1.3MWまで拡大している(図3)。パネルは、ほぼホンダソルテック製のCIGS化合物型となっている。発電電力は、すべて所内で自家消費している。

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図3●さまざまな棟の上に太陽光パネルを載せている
(出所:本田技術研究所、中は日経BP)
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 この太陽光発電システムは、構内系統のそれぞれの建屋の変電所に低圧で連系している。設置している棟で消費できない分の発電電力は、上位の変電所に送っている。

 今後も、所内の他の建屋の屋根上を中心に、年数百kWのペースで増設を検討している。現在は、所内の100棟以上ある建屋のうち、一部に太陽光パネルを載せている。

 年数百kWのペースで増設を進めるのは、「エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)」への対応からである。「5年度間で平均エネルギー消費原単位を年1%以上低減」という努力義務を達成するためだ。太陽光発電の導入や、使用総量自体の削減のほか、東電グループの再エネ電力プランによる電力購入も2019年4月にはじめている。

 将来的に、太陽光を含む自家発電率を、現在の約2割から、半分くらいに引き上げたいとしている。

特注のパワコンを使うワケ

 所内の太陽光発電は、低圧連系のため、直流入力250V対応のパワーコンディショナー(PCS)を採用している。今後、直流の送電と変換ロスの低減を目的に、同400V対応機を導入したいと考えているが、低圧向けでは市販されていないため、PCSメーカー数社に製品化を促しているという。

 PCSは、自社の意向を反映した特注品を導入してきた(図4)。中でも、栃木は夏の雷が激しく、その対策として指定した避雷器(SPD)を複数個、設置している。 

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図4●PCSは特注品、避雷器などに特徴
(出所:本田技術研究所)
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 栃木では、夏季の雷が特に激しい。既製品をそのまま導入した場合、夏季の落雷で被災して発電できない状況になるという。

 直撃雷、誘導雷のどちらも頻繁に起き、その際の対地電圧が他の地域よりも強い。過去には、テストコースにおいて、落雷時の雷サージによって防災設備の基盤が損傷し、運用システムに不具合が生じたことがあった。

 PCSに指定したSPDを設置していても、落雷によってSPDが故障することも多い。故障の原因を検証して、その原因への対策品に交換するとともに、PCSメーカーと連携して運用ノウハウを蓄積してきたという。

 もし、PCSが故障しても、即時に修理できるという。PCSメーカー、施工した電気工事会社との間で、情報共有とメンテナンスの契約を結んでいるためである。

ガスエンジン、VOC発電などと最適制御

 同センターでは、太陽光発電、NAS電池のほか、ガスエンジンによるコージェネレーション(熱電併給)システム、揮発性有機化合物(VOC)発電機を導入している。

 NAS電池では、メーカーも分からない、現場での実運用における課題を把握しきるには、約10年を要したという(図5)。

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図5●NAS電池システム
(出所:日経BP)
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 例えば、夏季の電力需要のピーク時間にNAS電池をフル放電すると、電池自体の発熱で直後に出力を抑制しなければならない時間が数時間、必要となる。こうしたデマンド超過のリスクを考慮しつつ、他の所内の電源と最適に協調していくにはどうしたら良いのか。

 また、NAS電池は300℃の高温で動作する特性から、電熱ヒーターによるロスが生じることへの配慮が要る。環境価値関連では、そのロス分が電力コストと二酸化炭素(CO2)の増加要因にもなる。

 この要因を考慮し、今後、太陽光発電を組み合わせて運用することで、例えば、九州における出力抑制対策として、余剰電力の吸収・平準化対策として活躍が期待できるのではないかと評価している。

 NAS電池の保守には、おもにPCSの点検とフィルター清掃などがある。稼働を止める必要があるため、電力需要が少ない中間季に実施する。出力4MWずつ、3分割で構成されているため、4MW単位で稼働を止めて、精密点検などを実施する。

 このNAS電池は現在、15年間のリース契約で運用している。

 ガスエンジンコージェネは、4基を導入している(図6)。出力は大きなものから7MW、1.252MW、550kW、55kWとなっている。こちらは、東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES、東京都港区)との15年間のエネルギーサービス契約によって導入し、電力と蒸気を購入している。廃熱も利用できることから、CO2削減にも大きく寄与しているとしている。

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図6●ガスエンジンコージェネレーションシステム
(出所:上は日経BP、下は本田技術研究所)
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 ガスコージェネは、エンジンを最大出力で回し続ける運転が最も効率が良く、環境負荷低減に貢献する。このため、月曜~金曜日は最大出力によるウイークリースタートストップ(WSS)連続運転で運用し、土日祝日や連休の際には稼働を停止している。

 ガスエンジン発電機は、日常的なオイル交換やプラグの交換などのほかに、数万時間ごとに約1カ月間止め、フルオーバーホールする必要がある。出力が大きいため、この点検の際には、東電グループからの受電が通常よりも増えることになる。東電との契約電力量を超えることがないよう、事前に調整した上で定期点検を実施している。

 VOC発電機は、出力300kWで、廃ガソリンを燃料とする(図7)。太陽光とともに、自社で所有している発電設備である。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が基本設計し、IHI原動機が製造したもので、2003年に導入、稼働している。

図7●VOC発電機
(出所:本田技術研究所)
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 この4つの発電・蓄電池システムと東電の電力系統からの購入で、所内で使う電力を賄っている。

 これらを束ね、最適に制御・管理するエネルギー統合管理システム「CEMS(Community Energy Management System)」を通じて、所内でスマートグリッドを構成している。これによって、高効率で安定的なエネルギー利用が可能になっているとしている(図8)。

図8●CEMSの表示画面例
(出所:本田技術研究所)
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 それぞれの発電、蓄電池、系統受電まで、所内すべての電気を一元管理しており、すべての建屋の照明や設備の電源にいたるまで、1万数千点のエネルギー消費を計測している。

負荷平準化、瞬低対策からDR、VPPまで

 こうした構内系統において、NAS電池はまず、負荷平準化や瞬時電圧低下(瞬低)による影響回避に使ってきた。

 負荷平準化では(図9)、NAS電池を、季節の変動に応じて高効率な運転パターンでスケジュール運転し、所内の他の電源と連携させている。ガス発電の設備利用率の向上や、太陽光発電の有効活用にも寄与している。

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図9●負荷平準化した所内の需給例
(出所:本田技術研究所)
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 瞬低対策では、NAS電池の瞬低補償機能を活用し、電力品質の安定性が求められる重要な研究設備への影響を最小化している(図10)。重要な設備への電力供給を、短時間で系統電源から蓄電池の放電に切り替える。電力系統側の瞬低(電圧低下が約70ms継続)に対して、所内の重要設備側の電圧低下を6ms程度に短縮している。

図10●瞬低システム動作時の波形例
(出所:本田技術研究所)
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 瞬低は、試験データの欠損や試験品質の低下につながり、再試験を実施しなければならない場合もある。これを防ぐのが目的である。

 また、東電グループと連携し、NAS電池を使ったVPP(仮想発電所)やDR(需要応答)の実証試験に取り組んできた。

 例えば、2016年から、東電グループとともに、高度制御型DR実証事業に参画している。2016年度は、NAS電池に対して、閉域通信網から10分前指令による自動増出力制御で、高速なDRの動作を成功率92%という高精度で成功させた(図11)。

図11●DRの実証試験時の動作例
(出所:本田技術研究所)
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 ここでは、DRの動作後の負荷変動をNAS電池で制御しつつ、基準値に準じた予定DR出力に対して、平均誤差を±5%未満に維持できた。

 NAS電池は、定格の放電パターンに対して、一定の放電余力を有している。これを有効活用し、送配電事業者に対して、需給調整力や予備力を提供できることを示せたとしている。

 2018年1月末~2月初旬にかけての大寒波の時には、東電からの要請を受け、実際に遠隔からの自動DR指令により増出力運転し、調整力として活用した(図12)。

図12●大寒波時の指令発動時の動作例
(出所:本田技術研究所)
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 この時、東電管内では需給がひっ迫していた。アグリゲーターである東電からの要請を受け、暖房需要が増える朝夕の時間帯に、朝3時間、夕3時間の合計6時間の遠隔からのDR指令に対し、完全自動運転で東電管内の需給改善に寄与した。この要請は連日のものとなったが、機動的に対応でき、高速で信頼性の高いDR動作を実現したとしている。

 今後、将来的な運用の姿として、近隣する複数の事業所をネットワーク化する試みがある(図13)。

図13●広域での活用のイメージ
(出所:本田技術研究所)
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 こうした取り組みでは、宇都宮市の清原工業団地において、3社の7事業所に対して、東京ガスが6MW級5台のコージェネを主体とした電力と熱を供給するオフグリッドの「清原スマートエネルギーセンター」の例が先行している。今後、こうした複数企業・事業所間をネットワーク化し、かつ、自家発電のみで賄うオフグリッドへの動きが加速していくと見られる。