拡大市場“支える”架台メーカー 選ばれる理由

「着床してもOK」、土木の知見で開発された異色の水上太陽光フロート

安全性を徹底、コストを上げても防火対策を強化

2020/04/22 06:00
加藤 伸一=日経BP 総合研究所 クリーンテックラボ

 兵庫県加西市にある農業用ため池「野田池」で2019年9月、池の水面に太陽光パネルを浮かべた水上太陽光発電所が売電を開始した(図1)。

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図1●「野田池」の水上太陽光発電所
(出所:日経BP)
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 ため池の多い兵庫県や香川県を中心に、国内では多くの水上太陽光発電所が稼働している。その中で、「野田池」の水上太陽光は、他の水上案件とは異なる特徴がある。低圧配電線に連系していること、両面発電の太陽光パネルを採用していること、パネル2枚ごとに遠隔監視・制御できるシステムを採用していることなどに加えて、野田池が年に一度、水を抜く運用をしている点にある(関連コラム:「水を抜く池」で低圧の水上太陽光)。

 水上太陽光発電所で、最も嫌われる管理の一つが、この「水を抜く」ことである。そんな中、こうした運用の池をあえて選んで水上太陽光を開発・運営しているのは、地元で印刷材料を手がけている姫路インザイ(兵庫県姫路市)である。

 水を抜くのは、ため池の管理・運営上の理由である。池の底を定期的に乾かすことで、堤体や底の強度が増すという。

 しかし、水を抜けば、太陽光パネルが固定されたフロート架台が池底に着床する。底の凹凸などの状況によっては、フロートが傾くなど設備の損壊につながる。再び池に水を張った時に、着床していたフロートが再び水に浮かぶ時にも設備が損壊する恐れがある。

 このリスクから、フロートメーカーの多くは、着床する可能性のある池での採用に難色を示している。

 そこで、姫路インザイでは、着床に耐えうるフロートが必要になった。採用したのは、環境資源開発コンサルタント(大阪市北区)製だった。

 同社のフロート架台は、着床での使用も可能など、既存の他のフロートとはまったく異なる発想で設計されている。実際に、野田池のほかにも定期的に水を抜くため池での採用実績がいくつかあり(図2)、姫路インザイでも他の池で着床している状態の様子を見たうえで採用を決めた。

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図2●二つの池の着床している時期の様子
比較するために、それぞれ水のある時期の画像も掲載(出所:環境資源開発コンサルタント)
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発泡スチロール土木工法が発想の元に

 環境資源開発コンサルタントのフロート架台は、既存のフロートに多い、1個の樹脂部材に1枚の太陽光パネルを固定するタイプとは大きく異なる。

 フロートは島のように広く、その上に地上設置型と同じような頑強な架台で、1個のフロート当たり10枚以上の太陽光パネルを固定している。まるで地上設置型の固定環境を、そのまま水上に持ち込んでいるようなイメージである(図3)。

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図3●最大で11枚の太陽光パネルを浮かべる
上は3列で11枚を浮かべた「穴沢池」、そのほかは2列で10枚を浮かべた「野田池」(出所:日経BP)

 広く頑丈なフロートなので、太陽光パネルの固定には地上設置型と同じような架台を使う。この架台には鋼材を使っている。1個のフロートの寸法は5m四方で、ここに2列や3列にわけて太陽光パネルを並べ、1個のフロートに最大11枚のパネルを浮かべる。

 重量は450kgで、浮力は4tある。比較的重いタイプの太陽光パネルを11枚に乗せた状態でも、800kgを超えることはなく、浮力への負荷としては2割以下にとどまり、8割以上の余力を残すという十分な余裕を見た設計としている。

 台風時の強風で転覆や損傷などの被災を受ける水上太陽光発電所がある中、同社製フロートを採用した水上案件では、こうした被災は経験しておらず、安全性を重視した設計が奏功していると強調している。

 こうしたまったく異なる設計のフロートは、環境資源開発コンサルタントを創業した金城義栄代表取締役の発想による。金城氏が長く経験を積んできた土木・建設分野の知見によるところが大きいとしている。

 まず、水上太陽光発電に注目したのは、大規模な造成や伐採を伴うようなタイプの地上設置型に対する疑問からだった。太陽光発電は化石資源や危険な物質を燃料に使わないことから、「環境にやさしい」と評されることが多い。

 しかし実際には、地上設置型で山林や斜面を大規模に造成や伐採することがある。金城氏は、こうした発電所は自然や地域環境への負荷が大きい側面があり、必ずしも「環境にやさしい」わけではないと考えている。「名実ともに環境にやさしい太陽光発電所の開発に寄与にしたい」と考え、造成や伐採が不要な水上型に着目した。

 フロートの開発では、土木の技術者やコンサルタントとして積んできた経験を生かした。開発のヒントになったのは、土木で広く使われている「発泡スチロール土木工法(EPS土木工法)」だった。大型のブロック状の発泡スチロールを積み重ねていく工法で、土の使用量を抑えつつ盛土を代替できる。

 フロートにおいて、水面に浮かせる役割を担う材料には、EPS土木工法で使うような大きな発泡スチロールを使っている。食品トレーなどと同じ食品衛生基準を満たした材料でもあり、ため池の水の汚染リスクも低いとしている。これは、積水化成品工業が供給している。発泡スチロールの寸法は1m×2mで、これを12.5枚つなげて5m×5mの島を形成し、これが1個のフロートとなる。

 発泡スチロールで形成した5m×5mの島は、フロートフレームと呼ぶ鋼材の部材で側面から補強し、外力に対する構造的な強度を増す。さらにその外側をアルミ板で覆っている。このため、側面からみると発泡スチロールは見えず、アルミ板のみが見える。

 上面も発泡スチロールは見えない。セメントボードで覆っているためである。側面をアルミ板、上面をセメントボードでそれぞれ覆うのは、発泡スチロールの劣化要因となる紫外線が当たることを防ぐことと、機械的な強度を増す理由のほか、さらに、万が一、発電設備が発火した際に、フロートへの引火を防ぐ効果もある。

 上面には、セメントボードの上に架台が固定されている。太陽光パネルの前後は歩ける構造になっている。この架台も鋼材で構成し、高耐食性めっきが施されている。

 鋼材は日鉄物産が、アルミ板は住商メタレックスが供給している。

 水に浸かる下面は、発泡スチロールそのままである。着床する運用に対応できることを強調しているのは、水面側の発泡スチロールに何かが刺さったり、穴が開いたりして傷ついても、大きな寸法の発泡スチロールということもあり、損傷するのは部分的で浮力などの性能に大きな影響がなく、かつ、損傷個所の修理が容易なためとしている。

 こうしたフロートの構成は、必要に応じて柔軟に変えられる。例えば、姫路インザイの野田池の水上太陽光発電所向けには、上面を覆う材料として、これまでのセメントボードから鋼板に変えた(図4)。

図4●両面発電パネル用に白っぽい鋼板に
(出所:日経BP)
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 理由は、この発電所が採用した両面発電の太陽光パネルによる発電量をさらに増やす狙いからだった。

 反射光を増やして、両面発電型太陽光パネルの裏面の発電量を増やすことが目的だったが、何らかの事情で発電設備が発火した場合にフロートへの引火を防ぐ点でも、より優れていることがわかり、今後は上面の材料をセメントボードから銅板に変えていく方針という。コストは上がるが、安全性をより優先したいという。

 また、鋼板やアルミ板といった金属系材料を、すべてステンレスに変える開発にも取り組んでいる。海水が入ってくる場所における水上太陽光発電所からの引き合いに対応するためとし、試作品の浮力テスト中で、年内には製品化する予定としている。

 フロートの最後列に並ぶ太陽光パネルの裏には、緑色のひらひらした部材が見える。これは、パネルの裏側方向からの強風によってまくれ上がるような応力を緩和する目的という。

 フロート同士は、両端のリングを使って緩やかに接続する「メガネ棒」と呼ばれる部材を使ってつなぐ(図5)。軟接合という手法で、水面の揺れや風でフロートが揺れても、リングの範囲で接合部が動くことができる。ボルトなどでガチガチに固めた剛接合よりもフロートの接合に向くという。

図5●「メガネ棒」で接続
(出所:日経BP)
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 この「メガネ棒」は、1本で約5tの負荷に耐えられ、隣りあうフロートを最大で6本使って接続する。「メガネ棒」に過剰な力がかかった時には、曲がって力を吸収する。一定以上に曲がった状態では、より大きな力を吸収できなくなるため、3カ月間隔など定期的に巡視して状態を確かめ、大きく曲がっていた場合には交換する。

 この交換も、リングを外して取り外し、新品を再び取り付けるだけで良く、フロートの上下からボルトで止めている手法に比べて簡単としている。

 フロートの係留も、独自の手法を採用している。開発案件ごとに係留もフロートと一体の設計を自社で手掛け、その池に合わせて配置を決める。

 アンカーは、門のような形の2本の杭に、斜めに伸びた突っ張り棒のような柱、少し離れた場所にもう1本の杭を備えるという、独特の構造となっている(図6)。

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図6●独自の係留法
(出所:上と下は環境資源開発コンサルタント、中は日経BP)
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 門のような形の2本の杭は、池底の支持層にねじ込む。この杭が池底で引き抜き抵抗力を働かせて係留の安定を保つ。斜めに伸びた突っ張り棒のような柱は、池底を押して支持力を働かせ、この両方の効果によって、アンカーが安定する工法としている。これを複合抵抗型と呼んでいる。

 既存の他のフロートの場合、1本の杭ごとの引き抜き抵抗力のみに頼った単一抵抗型と分類している。同社の複合抵抗型の抵抗性能は1つのアンカー当たり20tで、一般的な単一抵抗型の1つのアンカーに比べて5~10倍高いとしている。これによって、安全性だけでなく、相対的に打ち込むアンカーの数を減らすことができ、潜水工事による施工コストの低減に寄与するとしている。

自社で発電所の開発から手掛け実績を広げる

 こうした独特のフロートを使いこなせるEPC(設計・調達・施工)サービスは限られる。そこで、当初は技術的に信頼のおける積水ハウスのみを指定していた。

 現在はコストやリスクを考慮して、複数社に対象を広げている。経験を重ねてきたことで、自社のフロートを適切に施工できる企業を見極められるようになったという。

 当初は、環境資源開発コンサルタントが初期段階から自社で水上太陽光を開発していく手法が中心だったことも、信頼できるEPCサービス企業と開発を進めやすかった理由となっている。

 地上設置型に比べて、水上太陽光の開発では、水面を活用するため池の所有者や管理者との信頼関係がとくに重要になる。ため池は地域の農業に直結していることがほとんどのためである。そこで、自社でため池の所有者や管理者との水上利用権の許可から、経済産業省からの設備認定の取得、電力会社との連系協議、信頼できるEPC企業への委託まで開発の手続きや枠組みを固めたうえで、スポンサーとなる発電事業者に引き渡すという手順で進めてきた。

 この手法により、108カ所の案件について連系協議し、このうち20カ所が稼働済みとなっている。売電単価はほぼ40円/kWhで、2カ所が36円/kWhとなっている。

 こうした自社開発以外の案件を合わせた実績は、建設中を含んで37カ所・合計出力35MW、開発中(認定済み)が9カ所・7MWとなっている。

 「野田池」の案件のほか、兵庫県稲美町の「穴沢池」「琴池」、「長法池」、「溝ヶ沢池」、「内ヶ池」、同県加古川市の「1号池」と「2号池」、三重県伊賀市の「四十九新池」、岐阜県養老町の「細池」、愛知県日進市の「林池」などがある。

 水上太陽光発電所は、地上設置型に比べて積雪地域では難しいところがある。同社のフロートを採用した場合でも、似たような状況があり、積雪が60cm以上になる地域では事業化は難しいようだ。

 実績がある中での最北の地域は福島県楢葉町で、長野県上田市では積雪が理由で事業化を断念した案件がある。

 施工には、池の周囲に一定の広さの平地が要る。フロートを組み立てるためである。組み上がったフロートを池につり下ろすためのクレーン車が近づけることも施工の条件となる(図7)。

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図7●施工の様子
(出所:環境資源開発コンサルタント)

 1日当たりの作業性は、フロート24個分、太陽光パネル300枚程度としている。フロートの部材をそれぞれ組み立て、その上に固定した架台に太陽光パネルを取り付ける。その後、クレーンで水上につり下ろす。