新エネ・システム最前線

20MWのメガソーラーを「自家消費」、浪江町で水素製造

水電解による「需給調整力」のビジネスモデルも検証

2020/05/12 05:00
金子憲治=日経BP総合研究所 クリーンテックラボ

帰宅困難地域にメガソーラー稼働

 福島県浪江町は、海と山の豊かな自然に恵まれ、請戸川沿いに集落や田畑が広がる。福島第一原子力発電所から最も近いところで4km余り。2011年3月、東日本大震災後の原発事故により、全域に避難指示が出され、町民全員が避難生活を余儀なくされた。

 2018年3月末、沿岸から東部でようやく避難指示が解除され、道路や電気・ガスなどのインフラはほぼ正常化し、少しずつ商店や事業所が再開し始めている。とはいえ、いまだに町域の約8割は帰還困難区域になっており、復興の歩みは緒に就いたばかりだ。

 同町には、県内でも有数の規模になる3つのメガソーラー(大規模太陽光発電所)プロジェクトがある。今秋までにはすべて完成し、復興のけん引役になりつつある。

 今年2月、内陸に位置する酒井地区に太陽光パネルの出力約60MW(連系出力36MW)のメガソーラー「浪江酒井第一・第二太陽光発電所」が稼働した。これは帰還困難区域に稼働した初めての案件になる。事業主体は、芙蓉総合リースの連結子会社である浪江酒井ソーラーになる(図1)。

図1●「浪江酒井第一・第二太陽光発電所」
(出所:芙蓉総合リース)
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 同地区に隣接した谷津田地区の旧居住制限区域にも、太陽光パネルの出力約60MW(連系出力40MW)のメガソーラー「浪江谷津田復興ソーラー発電所」の建設が進んでおり、今年10月には完成する予定だ。事業主体は、福島県などが出資した福島発電(福島市)のほか、三菱UFJリース、三菱総合研究所の出資する浪江谷津田復興ソーラーになる(図2)。

図2●「浪江谷津田復興ソーラー発電所(完成予想図)」
(出所:三菱総合研究所)
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 2つのメガソーラーは、遊休農地を大規模に転用し、発電設備を建設した。FITによる売電単価は24円/kWhで、東京電力パワーグリッド(東電PG)に全量売電する。福島発電などの出資した福島送電(福島市)が建設・運営する高圧送電線を通じて、福島第一原発まで電気を送り、そこからは東電PGの系統で、東電管内に電気を供給する。

20MWを全量「自家消費型」

 両メガソーラーのほか、海沿いの旧避難指示解除準備区域にある棚塩産業団地内に太陽光パネル出力20MWのメガソーラーが今年2月末に完成した。こちらは「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」の一部で、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)、東芝エネルギーシステムズ、東北電力、岩谷産業の4者で運営される(図3)。

図3●海岸に近い「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」のメガソーラー
(出所:東芝)
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 これら3つのメガソーラーは、いずれも復興事業として建設されたが、そのシステムは大きく異なる。内陸の2サイトが、FITで全量売電する一般的なメガソーラー事業なのに対し、FH2Rの太陽光発電設備は、FITを利用せず、発電した電力の全量を併設した水素製造装置の実証プロジェクトで使う。つまり、商用系統に連系しない完全自家消費型になる。

 全量自家消費型の再生可能エネルギーとしては国内最大、世界的に見ても、最大級のメガソーラーになると見られる。

 FH2Rの敷地面積は18万m2で、20MWのメガソーラーのほか、最大消費電力10MWの水素製造装置と水素貯蔵・供給設備、そして、管理棟からなる。太陽光発電の電力で、水素を製造し、トレーラーに貯めて水素需要地に運搬する(図4)。

図4●水素製造施設とメガソーラー
(出所:東芝)
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 将来的には、福島県内に水素を供給する構想もあるが、まずは、東京オリンピックに関連して運用される燃料電池自動車(FCV)や燃料電池バス、選手村に導入する定置型燃料電池システムなど向けに水素を供給する。

 福島県の沿岸には火力発電所が林立し、東北地方のほか首都圏に向けた電力の供給地にもなっている。3つのメガソーラーもこうした役割を担い、首都圏に電気、そして「水素」という形で再生可能エネルギーを供給することになる。

地下ケーブルで水素製造施設に送電

 今年3月7日、FH2Rの開所式が行われた。式典には、事業主体となる4社のトップのほか、安倍総理大臣、梶山経済産業大臣、田中復興大臣の閣僚3人、内堀福島県知事、吉田浪江町長が出席し、テープカットを行った。

 安倍首相は、祝辞の中で、「昨年1月にスイスで開かれたダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)で、日本として水素の製造コストを10分の1以下まで下げる目標を表明した。今回、浪江町に完成した研究施設は、水素に関する世界最大のイノベーション拠点になり、こうした目標の達成にも貢献できる」と、期待感を示した(図5)。

図5●FH2Rの開所式では安倍首相が祝辞を述べた
(出所:日経BP)
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 FH2Rは、再エネによる水素製造施設として現時点で世界最大規模になる。そのため水素製造施設に注目が集まるが、メガソーラーとしても規模が大きく、特にこれだけ海の近くに約6万8000枚もの太陽光パネルを並べたケースは珍しい。

 実際、FH2Rの敷地全体は東京ドーム約5個分の広さになるが、その8割、東京ドーム4個分がメガソーラーサイトになる。水素製造プラントが、整然と並べられた太陽光パネルに囲まれているイメージだ。

 自家消費のため、通常のメガソーラーで見られるような商用系統に接続する連系設備はなく、中間変電所から水素製造施設に電気を送る高圧ケーブルはすべて地下埋設で施工された。太陽光発電所周辺に高架線は見当たらず、すっきりした景観になっている(図6)。

図6●メガソーラーの発電電力は地下ケーブルで水素製造施設に送る。写真は工事中の様子
(出所:NEDO)
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 太陽光パネルは、東芝製とアンフィニ(大阪市)製、パワーコンディショナー(PCS)は東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製造のモデルを東芝エネルギーシステムズが設置した。アンフィニは、福島県楢葉町に太陽光パネル工場を稼働しており、今回、楢葉町の工場から浪江町サイトに合計で2万4420枚を出荷した(図7)(図8)。

図7●東芝製とアンフィニ製のパネルを採用
(出所:日経BP)
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図8●パワーコンディショナー(PCS)は東芝三菱電機産業システム(TMEIC)が製造した
(出所:NEDO)
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2種類の防草シートを施工

 FH2Rのメガソーラーを眺めると、通常タイプの銀色フレームの東芝製パネルと、黒色のフレームを採用したアンフィニ製パネルの2種類が設置されているのが分かる。加えて、アレイ(パネルの設置単位)下とアレイとアレイの間の地表には、異なったタイプの防草シートが施工されているのに気づく。

 防草シートには、ポリエステル製の高密度不織布を導入したが、アレイ間には2層構造、パネル下には単層構造の製品を採用した。日射の多いアレイの間は紫外線も強く雑草が繁茂しやすいため、耐久性に優れたタイプにした。一方、日陰で雑草が育ちにくく紫外線の影響も抑えられるアレイ下には経済性に配慮したシートを採用し、費用対効果の最大化を目指したという(図9)。

図9●2タイプの防草シートを採用した
(出所:日経BP)
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 アレイ間に施工した2層構造シートでは、下層の不織布は通気性・透水性に優れ、雑草の種が飛来しても、着根しにくく地中からの芽の貫通を防ぐ効果も大きいという。一方、上層の不織布は、下層の不織布を紫外線から守る役割を担っており、二重構造にすることでより耐久性が高まるという。実際に10年以上の耐用年数の実績があるという。

 また、海が近いことから、架台や電気設備は、防食対策を徹底した。杭基礎には溶融亜鉛めっきのスチール製、架台にはアルミニウム製、接続箱は樹脂製となっている。

 また、変電設備機器は、重耐塩仕様を採用した。同仕様では通常の塗装に比べ塗装膜厚が約2倍、耐塩仕様に比べ塗装膜厚が約1.2倍となっているほか、表面にポリウレタン樹脂エナメル塗装を保護層として施し、防食性能を向上させているという。

DRで系統安定化に活用

 FH2Rは、2月末までに各設備が完成し、現在、それぞれの設備を連系した運用に取り組んでいる。今年7月から本格的な実証運用に移行する予定という。実証事業の総額は約200億円で実証期間は2016~2020年度。

 実証装置の核となる水素製造装置は旭化成製のアルカリ水電解方式で、入力電力は最大10MW、定格6MWになる。最大で毎時約2000Nm3(ノルマル立米:0℃・1気圧の状態時に換算した1m3のガス量)、定格運転時で毎時約1200Nm3の製造能力があり、これはFCV560台を充填できる水素量に相当する(図10)。

図10●水素製造装置は旭化成製のアルカリ水電解方式
(出所:旭化成)
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 水素製造装置の最大入力は10MWだが、補器類なども含めたFH2R施設の最大需要は約20MWになる。快晴でメガソーラーがフル稼働すれば、太陽光の電力だけで運用できる計算になる。ただ、実際には、メガソーラーからの出力は天候に左右される。またFH2Rには、太陽光の電力を貯めておく大型蓄電池はないため、電力が必要な水素製造量に足りない場合、東北電力の商用系統から供給を受ける。

 つまり、太陽光の自家消費電力と系統電力を組み合わせつつ水素を製造する。こうしたシステムの特性を生かし、実証運用では、系統運用者(東北電力)の要請に従って受電量を変動させるデマンドレスポンス(DR:需要応答)を行うことで、電力系統に対する調整力の提供サービスの可能性も探る。

 製造した水素は200気圧でトレーラー12台(2642Nm3/台)とカードル15台(265.8Nm3/台)に貯めておき、輸送する。トレーラー、カードルに充填しきれない場合に備え、水素ホルダー8本を併設しており、合計で5400Nm3を貯められるようになっている(図11)。

図11●水素ホルダー8本を装備
(出所:日経BP)
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オリンピック会場で活用

 貯めた水素は、トレーラーで需要先に運搬する。オリンピック期間中は、イベントで運用するFCVや燃料電池バス、選手村の定置型燃料電池システムなどに提供する。その後は、浪江町を中心に福島県内にも供給し、町や県の低炭素社会の構築に貢献する計画だ。具体的な用途については、現在、地域自治体と協議中という(図12)。

図12●貯めた水素はトレーラーで都内に運ぶ
(出所:日経BP)
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 また、調整力の提供では、水素製造装置の最大入力10MWに対して、中央値の5MWで運用しておき、需要を増やす「上げDR」要請時には最大5MWまで稼働アップ、需要を減らす「下げDR」要請時は最大5MWまでの稼働減により、需要を変動させるイメージという。東北電力との連系は66kVの特別高圧線になる。

 水素製造と調整力の提供という2つの事業目的を同時に満たすため、水素需要の予測システムにより、市場での水素需要を推定して必要な生産量を確保しつつ、電力系統から需要調整ニーズに合わせて受電量を変化させながら、水素製造装置を稼働することになる。

 実証では、こうした2つの事業目的のバランスを取りながら、メガソーラーの発電電力を無駄にせず、最大限の水素を製造することが運用面でのポイントとなる(図13)。

図13●システム概略を示した画面
(出所:日経BP)
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 具体的には、2週間先までの水素需要と系統からのDR要請を予想しつつ、天気予報を加味して水素製造装置の稼働率と受電量の計画を立てていく。この際、水素需要とDR要請の予測精度が重要になる。FH2Rの運営に岩谷産業と東北電力が参加しているのはそのためで、岩谷が水素需要、東北電力がDR要請の予想を受け持つことになる。

 また、技術面での課題は、メガソーラーの出力を直接、水素製造装置に入力することから、日射変化による急峻な出力変動にどこまで水電解装置が追従できるのか、加えて、需給調整力を提供する際、水電解装置の消費電力を短時間で落とし、低負荷で運用した場合の装置に与えるダメージなどの検証も必要になるという。

事業化にはスケールアップも

 東芝エネルギーシステムズは、「FH2Rはあくまでも実証プロジェクトで、現時点の事業環境のなかで、製造した水素の販売によって事業性を確保することは難しい」という。

 将来を見通しても、「水電解による水素製造のコストは、電力コストに依存するので、国内の再エネ発電のコストで競争力のある水素を製造するのは簡単ではない」(東芝エネルギーシステムズ)。水素製造とともに需給調整サービスを試みるのはこうした側面もある。

 今後、国内にさらに大量の太陽光や風力など変動性再エネが導入されていけば、系統運用者に対する需給調整サービスの価値が高まる可能性がある。そうなれば、水素販売と需給調整サービスの2つの収入が期待できる。

 また、製造した水素の用途に関しても、燃料電池システムで電気に変えて利用するだけでなく、将来的には、ガスのまま工業原料に使うなど、より付加価値の高い用途に展開していくことも想定している(図14)。

図14●FH2R事業の全体像
(出所:NEDO)
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 欧州では、こうした構想を「Power to Gas(P2G)」と呼んで、再エネ電気の活用システムの1つの方向性として注目している。すでに、ドイツなどでは、40~100MWの水素製造装置を再エネで運用するプロジェクトが計画されている。

 これら欧州の構想でも、水素製造とともに、系統に対する需給調整サービスを提供することを計画している。調整力を提供する場合、100MW程度の需要を持たないと大きな価値を生まないとされ、欧州のプロジェクト規模はそうした見方を前提にしている。

 今後、国内外で再エネによる水素製造を事業化するには、まず浪江町のプロジェクトでノウハウを蓄積し、将来的にスケールアップすることが必要になる。「再エネによる水素製造は、太陽光や風力の大量導入で先行する海外でまず事業性を持つ可能性が高い。浪江町で蓄積したノウハウは、海外での水素プロジェクトにも生かしていきたい」(東芝エネルギーシステムズ)としている。