新エネ・システム最前線

IHI、相馬市で「再エネ水素」からアンモニア製造

メガソーラー電力を自営線供給、余剰分を水素と熱に

2020/06/09 05:00
金子憲治=日経BP 総合研究所 クリーンテックラボ

メガソーラーの余剰電力で水素製造

 今年3月31日、福島県相馬市にある「そうまIHIグリーンエネルギーセンター」内に水素研究棟「そうまラボ」が完成した。研究棟では、再生可能エネルギー由来の電気で製造した水素を使い、メタンやアンモニアを合成する技術などの検証に取り組む(図1)。

図1●完成した水素研究棟「そうまラボ」
図1●完成した水素研究棟「そうまラボ」
(出所:日経BP)
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 「そうまIHIグリーンエネルギーセンター」は、IHIと相馬市が連携したスマートコミュニティ事業で、再エネの地産地消や防災機能の強化、地域活性化を目的にしている。技術実証の1つに「水素エネルギー」の活用を掲げ、2018年4月に開所していた。

 同センターには、出力1.6MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)があり、その発電電力は、すでに自営線を使って近くにある「相馬市下水処理場」に送電している(図2)。

図2●「そうまIHIグリーンエネルギーセンター」内のメガソーラー
図2●「そうまIHIグリーンエネルギーセンター」内のメガソーラー
(出所:日経BP)
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 ただ、供給先の下水処理場の最大負荷は約200kWなので、快晴だとかなりの余剰電力が発生する。そこで、余剰分の使い道として、電気ボイラーによる下水汚泥乾燥設備と、水電解装置による水素製造設備、蓄電池システムを併設した。ボイラーで作った蒸気はアキュムレーターに、水電解で作った水素はタンクに蓄えておく。

 これまで、水素製造設備は、需給バランスに活用した場合の水電解装置の応答性や水素製造の効率性などを検証してきたが、今春に完成した「そうまラボ」によって、余剰電力で製造した水素を有効に活用できるようになる(図3)。

図3●センター内に設置された水素タンク
図3●センター内に設置された水素タンク
(出所:日経BP)
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「水素」は脱炭素の重要なパーツ

 IHIでは、水素を「エネルギーの脱炭素化を実現するための重要なパーツ」(IHI)と位置づけている。変動する再エネの電気を使いこなすための「エネルギー貯蔵媒体」としての役割のほか、「再エネの大量普及で今後、安価になる電気を、電気以外の様々な形で利用するPower to Xの重要な中間体にもなりえる」(IHI)と見ている。

 「Power to X」とは、再エネ電気による水分解で製造した水素を使い、ガス燃料や液体燃料のほか、樹脂材料などを製造していくコンセプト。IHIでは、化石資源を燃やした際に排出されるCO2を回収して再エネ水素と反応させることで、メタンなどの炭化水素や、樹脂材料の基礎になるオレフィン(不飽和炭化水素化合物)を作ることも有望と見ている(図4)(図5)。

図4●旭化成製のアルカリ型水電解装置
図4●旭化成製のアルカリ型水電解装置
(出所:日経BP)
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図5●日立造船製のPEM型水電解装置
図5●日立造船製のPEM型水電解装置
(出所:日経BP)
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 水素を「エネルギー貯蔵媒体」と位置付けた場合、それを需要地まで運ぶ必要がある。水素の運搬手法としては、-253度に冷やして液化水素にするほか、水素分子を多く含む物質(水素キャリア)に変換する方法がある。その物質として、アンモニアやメチルシクロヘキサンなどが提案されている。

 IHIでは、水素キャリアのなかでアンモニアに着目している。将来的にアンモニアの形で海外から日本に輸入し、国内のエネルギー機器で利用することも検討している。すでにアンモニアを燃料にした燃料電池の開発を進めているほか、事業用火力発電所の燃料にアンモニアを混ぜた場合のフィージビリティスタディ(事業性調査)にも取り組む(図6)。

図6●アンモニアを水素キャリアとしたグローバルな水素チェーンのイメージ
図6●アンモニアを水素キャリアとしたグローバルな水素チェーンのイメージ
(出所:IHI)
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 新設した「そうまラボ」は、こうしたIHIの水素戦略の一翼を担うことになる。現在,ユーティリティ設備を建設中で、その後、実証設備を設置する。今年7月には開所し、実証を開始する予定になっている。

蓄電池の容量を2.5MWhに抑える

 「そうまIHIグリーンエネルギーセンター」の目的の1つであった「再エネの地産地消」については、概ね順調に推移している。

 同センターの再エネ設備の大きな特徴は、メガソーラーを商用系統に連系せず、自営線を通じて外部に供給していることだ。国道をまたいで下水処理場まで、30本もの電柱を立てて、約1.2kmの架空電線を敷設した。このように「自営線」を通じて発電所から電気を供給・販売するサービス形態を「登録特定送配電事業者」という(図7)。

図7●国道をまたいだ自営線を使ってメガソーラーから電力を供給
図7●国道をまたいだ自営線を使ってメガソーラーから電力を供給
(出所:日経BP)
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 1.6MWのメガソーラーの発電量を考えれば、最大約200kWの負荷である下水処理場と完全自立型のマイクログリッドを形成し、下水処理場を太陽光100%で運営することもできそうだ。しかし、そのために夜間や雨天に備え、大容量の蓄電池が必要になり、設備コストが膨らんでしまう。そこで、今回のプロジェクトでは、下水処理場については、東北電力の商用系統との連系は維持し、メガソーラー電力の不足分は買電できるようにした。これにより蓄電池の規模を、出力500kW、容量2.5MWhに抑え、投資負担を減らした。

 ただ、東北電力との協議で、受電点から系統側に送電(逆潮)することは認められていないため、蓄電池への充電や水電解装置、電気ボイラーを含めても、メガソーラーの出力が需要を上回ってしまう場合は、太陽光発電の出力を抑制することになる。

 水電解装置と電気ボイラーの負荷(最大消費電力)は、いずれも約400kWのため、蓄電池への充電を合わせれば、快晴でメガソーラーがフル出力でも、センター内の負荷を総動員できれば、それほど出力を抑制しなくても済むことになる。

 ちなみに水電解装置は、アルカリ型(25Nm3/h・旭化成製)と、固体高分子(PEM)型(30Nm3/h・日立造船製)を採用し、両タイプの特性を検証する。また蓄電池システムはリチウムイオン型で、双方型パワーコンディショナー(500kW・東芝三菱電機産業システム=TMEIC製)を介して、充放電する(図8)。

図8●東芝三菱電機産業システム(TMEIC)の蓄電池用パワーコンディショナー(手前)とリチウムイオン蓄電池を収納したコンテナ(奥)
図8●東芝三菱電機産業システム(TMEIC)の蓄電池用パワーコンディショナー(手前)とリチウムイオン蓄電池を収納したコンテナ(奥)
(出所:日経BP)
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「電力自給率」は計画を下回る

 平常時の日々の運用としては、メガソーラーからの供給電力が急増した場合、東北電力の系統への逆潮を防止しつつ、メガソーラーへの出力抑制を最小化すること。逆にメガソーラーの発電電力が急減した場合、負荷を減らして東北電力からの受電量(購入電力)を最小化することが、事業性を高めるポイントになる。

 まず、「逆潮防止」を確実にするため、東北電力から常に一定量を受電するようにしておき、メガソーラーからの供給が増加して受電量が規定値を下回った場合、蓄電池への充電量増加と、メガソーラーの出力抑制をリアルタイムで制御するようにした。

 基本的に短周期変動と夜間の負荷は蓄電池の充放電で対応し、日中の長周期変動に対しては、電気ボイラーと水素製造の負荷変動で需給バランスを合わせていくイメージになる(図9)。

図9●電気ボイラーとアキュムレーター
図9●電気ボイラーとアキュムレーター
(出所:日経BP)
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 受電量を指標にしたリアルタイム制御に加え、地域エネルギー管理システム(CEMS)からの日照量データを使って太陽光の発電量を予測し、電気ボイラーと水電解装置の負荷制御、蓄電池の充放電制御を行うことで、メガソーラーへの出力抑制と購入電力を最小化するようにしているという(図10)。

図10●CEMSによる監視画面の一例
図10●CEMSによる監視画面の一例
(出所:日経BP)
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こうした制御がうまくいけば、メガソーラー電力による同センターの電力自給率は約70%になると計画していた。だが、稼働1年目の実績値は、約50%にとどまったという。

 IHIによると、電力自給率が計画をかなり下回った理由は、複数の要因が重なったからという。蓄電池のシーケンス制御(事前に決めた順序に従って行う制御)が最適なものになっていなかったことのほか、リチウムイオン蓄電池がフル稼働できなかったこと。そして、一部機器の稼働率が低く、メガソーラー自体の発電量が計画値を下回ったことも影響したという。同センターでは、「逆潮防止」のため、常に一定量を買電する制御にしているため、発電量が減ると、自家消費率は下がっていくことになる。

 蓄電池をフル稼働できなかったのは、同型の蓄電池に事故(火災)例が報告され、メーカーが安全を確認するまで、稼働中のほかの導入サイトでも、充放電量の制限を求めるという経緯があったという。

 IHIでは、これらの要因に対して、すでに手を打っている。蓄電池のシーケンス制御は、より最適化したものに変更した。また、「逆潮防止」のための最低買電量を、常に一定にせず、メガソーラー発電量に多寡に合わせて最適化する制御にしたという。

産廃処理費は半減、ペレット製造も

 今回のプロジェクトでは、余剰電力を使って蓄えた蒸気は、新規に導入した下水汚泥乾燥設備の熱源に使っている。従来、相馬市下水処理場では、処理に伴って排出される汚泥を産業廃棄物として県外の民間事業者に処理を委託してきた。汚泥乾燥設備によって、汚泥の水分を減らして5分の1に減量する(図11)。

図11●メガソーラーの余剰電力を活用した汚泥乾燥装置
図11●メガソーラーの余剰電力を活用した汚泥乾燥装置
(出所:日経BP)
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 産廃処理料金は、容量で決まるため、5分の1に減量することで、処理費用が低減される。実際、メガソーラーの余剰電力を活用した汚泥乾燥によって、稼働1年目から、産廃処理事業者に支払う料金は、半分に減っているという。汚泥乾燥は、順調に成果を上げているため、乾燥工程を自動化することで、作業も効率化した。

 さらに乾燥させた汚泥を造粒成形機でペレット化する取り組みも進めてきた。当初、汚泥の性状によって、ペレットの製造品質にムラがあったものの、実証を重ねた結果、安定したペレットが製造できているという。他の地域の下水汚泥を使った乾燥実験も進めており、地域による汚泥の性状の差もわかってきたという(図12)(図13)。

図12●乾燥汚泥によるペレット製造装置
図12●乾燥汚泥によるペレット製造装置
(出所:日経BP)
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図13●製造したペレットは肥料として利用できる
図13●製造したペレットは肥料として利用できる
(出所:日経BP)
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 すでに、製造したペレットを福島県富岡町で肥料として利用する実証試験も実施している。2019年秋に「ペレット肥料」を使ったトウモロコシを収穫し、化学肥料と同等の結果を得ているという。将来的にペレットを肥料として販売できれば、これまで処理を委託していた汚泥が、収益源に変わる可能性もある。

 「そうまIHIグリーンエネルギーセンター」を舞台にしたスマートコミュニティ事業は、再エネ水素によるメタンやアンモニア製造という水素チェーン戦略に加え、再エネ余剰電力によるペレット製造など、グローバルと地域の両方の視点で成果が期待される(図14)(関連記事)。

図14●スマートコミュニティ事業のイメージ(出所:IHI)
図14●スマートコミュニティ事業のイメージ(出所:IHI)
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