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松前町「マイクログリッド」構築へ、風力と蓄電池で全町自立(page 3)

非常時に北電の配電線を使って町全域に再エネ電気を「託送」

2020/09/24 05:00
金子憲治=日経BP総合研究所 クリーンテックラボ
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ブラックアウトでの苦い経験

 「大型風力発電に加え、せっかく大容量の蓄電池を併設したのだから、災害で地域が停電した時に、町内に電気を供給できないか」――。東急不動産に対し、「リエネ松前風力発電所」建設当初から、町からは、こうした要望が出ていた。

 この背景には、2018年9月6日に起きた北海道胆振東部地震の苦い経験がある。地震直後、道内全域が停電する国内初のブラックアウト(系統全域停電)に見舞われ、全面復旧までに約2日も要した。松前町でも、日常生活や企業活動に大きな影響が出た。

 「間近に大規模な再生可能エネルギーがあるのに停電するとまったく使えない。おまけに停電からの復旧は札幌など大都市が優先されてしまう。どうにかならないのか」――。こうした声は、道内で風力や太陽光が多く立地した地域で共通した思いになっていた。

 そこで、東急不動産でも計画の早い段階から、「リエネ松前風力発電所」を災害時に自立運転して松前町に給電する「マイクログリッド」として運用できないか、検討してきた。

 そもそも、出力約41MWの風力発電設備の予想年間発電量・1億590万kWhは、一般家庭約3万世帯分に相当し、人口約7000人の松前町全域の電力需要を賄うには十分だった。これに定格出力18MW、容量約130MWhの大容量蓄電池があれば、需給面からは、ほぼ安定的に電気を供給できると思われた。

 問題は、いかに市街地まで電力を送るか、という点だ。その手法としては、災害時に北電ネットワークの配電線を借りて送電する方法(これを「託送供給」という)、もう1つは、「リエネ松前風力発電所」から市街地まで新たに自営線を敷設して、町役場や警察、学校など重要な施設に送電する方法だ。

 これら2つの方式を比べると、コスト面で「託送」方式が圧倒的に有利なことは明らか。また、北電ネットワークの配電線を使えば、全町民に送電することも容易だが、自営線を敷設する場合、新たに町民の各住宅にまで電線を引き込むというのは現実的に難しい。

 風車は、国道に沿って山側に並んでおり、約15kmにわたって、1号機から12号機まで点々と配置されている。最も南の国道沿いに蓄電池システムを併設した連系変電所があり、隣接する北電ネットワークの松前変電所に連系している。連系変電所から町役場までは約4kmの道のりになるので、市街地の複数施設に自営線を敷く場合、そのコストは億円単位になる(図5)。

図5●国道沿いにある「リエネ松前風力発電所」連系変電所
図5●国道沿いにある「リエネ松前風力発電所」連系変電所
(出所:日経BP)
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 一方、北電ネットワークの配電網を使う場合、追加的なコストはほとんど必要ない可能性もある。というのは、「リエネ松前風力発電所」が連系する松前変電所は、松前町全域に送電しているため、同変電所につながる送配電設備の開閉器を適切に操作すれば、風力発電設備と蓄電池そして松前町の配電網が、北電系統から閉鎖されたからマイクログリッドとして機能する。そうなれば、風車と蓄電池の電気を松前町に送電できる(図6)。

図6●北電の松前変電所と松前町に向かう高圧配電線
図6●北電の松前変電所と松前町に向かう高圧配電線
(出所:日経BP)
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 こうした背景から、東急不動産では、早くから北電に対して、非常時に松前変電所から松前町への配電線を活用して託送できないか、打診してきた。しかし、当初、北電からは、前向きな回答を得られなかった。系統停電時での「託送」は、制度上想定しておらず、そうした運用をした場合、新たな運用管理などの負担が生じることなどが、その理由だった。

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