新エネ・システム最前線

松前町「マイクログリッド」構築へ、風力と蓄電池で全町自立

非常時に北電の配電線を使って町全域に再エネ電気を「託送」

2020/09/24 05:00
金子憲治=日経BP総合研究所 クリーンテックラボ

城下町にマイクログリッド

 北海道の最南端に位置する松前町は、道内で唯一の城下町、そして、サクラの名所として知られる。津軽海峡から日本海を望む松前城を中心に、国道228号線沿いに市街地が広がり、漁業・水産業を中心に約7000人が暮らしている(図1)。

図1●国道から見た松前城天守閣と、周辺に広がる松前町の街並み
図1●国道から見た松前城天守閣と、周辺に広がる松前町の街並み
(出所:日経BP)
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 道内でも温暖で長い歴史を持つものの、全国の多くの市町村がそうであるように、この町でも過疎化が進んでおり、町民はピークの約2万人から減少が続いている。

 今年7月、 松前町と東急不動産は、「マイクログリッド」構築に向けたマスタープラン作成事業に着手する、と発表した。マイクログリッドとは、一般送配電事業者の電力系統から独立し、自立した分散電源から電気を供給するシステムだ。

 松前町のマイクログリッド計画では、災害時など北海道電力ネットワーク(北電から2020年4月に分離した一般送配電会社)の系統が停電に陥った際、東急不動産が同町に保有する出力約41MWの風力発電所と、定格出力18MW・容量約130MWhの大型蓄電池を電源に、町内全域に電気を供給することを想定している。

 災害時に自立して電力を供給できるマイクログリッドとしては、宮城県東松島市や千葉県睦沢町などで先行事例があるが、いずれも限られた街区に限定されたもので、主力電源はエンジン発電機を使っている。町全体、数千人規模を対象に、しかも全量再生可能エネルギーで賄うマイクログリッドは例を見ない。世界的に見ても画期的な試みになる。

 実は、これに先立つ2019年12月、両者は、松前町における風力発電事業の推進と地域活性化、防災基盤の整備に向けて連携していくことに関し、協定書を締結していた(図2)。

図2●松前町と東急不動産は、地域活性化で協定を締結した
図2●松前町と東急不動産は、地域活性化で協定を締結した
(出所:日経BP)
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 協定で挙げられた提携事項は、(1)災害時に風力発電所の電気を使用できる仕組みづくり、(2)松前町の定着人口と観光客を増加させるための観光資源や産業の育成、(3)地域資源を生かした活性化と松前町の魅力を発信、(4)地方創生と地方再生に資する社会基盤の協力――などとなっている。

 今年7月に公表した「マイクログリッド構想」はこの提携の一環で、町に恵まれた「風」を資源に、大規模な風力発電、それを電源にマイクログリッドを構築することで、クリーンで安全、安心な街作りにより、既存産業の活性化や地域振興の推進を目指している。

北電の要請で蓄電池を併設

 松前町に国内有数の規模となるウィンドファーム「リエネ松前風力発電所」が稼働したのは2019年4月。定格出力3.4MWの風車12基が海風を受けて悠然と回り始めた。東急不動産と日本風力開発(東京都港区)の出資による松前ウィンドファーム合同会社が事業主体で、年間発電量は一般家庭約3万世帯分に相当する1億590万kWhを見込んでいる。

 風力設備はスペインSiemens Gamesa Renewable Energy製で、タワーの高さは94m、ブレード(羽根)の長さは54mで回転直径は108m。ブレードが上方になった際の最高点は148mに達する。これは札幌市の大通公園にあるテレビ塔とほぼ同じ高さになる(図3)。

図3●「リエネ松前風力発電所」の出力3.4MWの大型風車
図3●「リエネ松前風力発電所」の出力3.4MWの大型風車
(出所:東急不動産)
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 蓄電池は日本ガイシ製ナトリウム硫黄(NAS)電池、蓄電池用パワーコンディショナー(PCS)は東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製を採用している。出力18MW、容量約130MWhという規模は、全国でも最大級の蓄電池システムになる(図4)。

図4●日本ガイシ製ナトリウム硫黄(NAS)電池、東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製蓄電池用パワーコンディショナー(PCS)
図4●日本ガイシ製ナトリウム硫黄(NAS)電池、東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製蓄電池用パワーコンディショナー(PCS)
(出所:日経BP)
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 「リエネ松前風力発電所」が大型蓄電池を併設したのは、北電が2016年4月に出した「風力発電設備の出力変動緩和対策に関する技術要件」に対応したものだ。相対的に系統規模の小さい北電管内では、自然変動電源である太陽光と風力によって、系統周波数への影響が大きくなる。技術要件は、そうしたなかで太陽光・風力を系統に接続していくために、蓄電池を併設し、出力の急峻な変動を緩和する基準を規定している。

 北電ネットワークは、風力に対する技術要件で、短周期と長周期の両面での出力変動の緩和を求めている。短周期変動では、風車と蓄電池の合成出力の変化速度を「発電所定格出力の毎分1%以下」に緩和することを求める。これは、道内に設置する新規のメガソーラーに対して求めている短周期変動の緩和と同じ技術要件となっている。

 加えて、長周期の出力変動の緩和対策では、以下4つの指定時間帯において、合成出力の変動方向を制御することを求める。具体的には、「7~10時に(合成出力を)減少させない」「11時30分~13時30分に増減させない」「16~19時に減少させない」「20~23時に増加させない」というものだ。これらは北電の火力発電所での出力調整が厳しい時間帯に需要変動を拡大させない方向への制御を要請している。

 松前町のウィンドファームに、出力18MW、容量約130MWhもの大容量蓄電池を併設することになった理由は、短周期に加え、長周期の出力変動にも対応する必要からだ。

 実際の運用では、風車からの交流と蓄電池からPCSを介した交流を合わせた合成出力を北海道電力の系統に送電する「ACリンク」という方式を採用した。変動する風力発電の出力を蓄電池への入出力で補うことで、秒単位の短周期変動を平滑化しつつ、時間単位の長周期変動をある程度、平準化することで、北電の系統運用に対する負荷を軽減している。

ブラックアウトでの苦い経験

 「大型風力発電に加え、せっかく大容量の蓄電池を併設したのだから、災害で地域が停電した時に、町内に電気を供給できないか」――。東急不動産に対し、「リエネ松前風力発電所」建設当初から、町からは、こうした要望が出ていた。

 この背景には、2018年9月6日に起きた北海道胆振東部地震の苦い経験がある。地震直後、道内全域が停電する国内初のブラックアウト(系統全域停電)に見舞われ、全面復旧までに約2日も要した。松前町でも、日常生活や企業活動に大きな影響が出た。

 「間近に大規模な再生可能エネルギーがあるのに停電するとまったく使えない。おまけに停電からの復旧は札幌など大都市が優先されてしまう。どうにかならないのか」――。こうした声は、道内で風力や太陽光が多く立地した地域で共通した思いになっていた。

 そこで、東急不動産でも計画の早い段階から、「リエネ松前風力発電所」を災害時に自立運転して松前町に給電する「マイクログリッド」として運用できないか、検討してきた。

 そもそも、出力約41MWの風力発電設備の予想年間発電量・1億590万kWhは、一般家庭約3万世帯分に相当し、人口約7000人の松前町全域の電力需要を賄うには十分だった。これに定格出力18MW、容量約130MWhの大容量蓄電池があれば、需給面からは、ほぼ安定的に電気を供給できると思われた。

 問題は、いかに市街地まで電力を送るか、という点だ。その手法としては、災害時に北電ネットワークの配電線を借りて送電する方法(これを「託送供給」という)、もう1つは、「リエネ松前風力発電所」から市街地まで新たに自営線を敷設して、町役場や警察、学校など重要な施設に送電する方法だ。

 これら2つの方式を比べると、コスト面で「託送」方式が圧倒的に有利なことは明らか。また、北電ネットワークの配電線を使えば、全町民に送電することも容易だが、自営線を敷設する場合、新たに町民の各住宅にまで電線を引き込むというのは現実的に難しい。

 風車は、国道に沿って山側に並んでおり、約15kmにわたって、1号機から12号機まで点々と配置されている。最も南の国道沿いに蓄電池システムを併設した連系変電所があり、隣接する北電ネットワークの松前変電所に連系している。連系変電所から町役場までは約4kmの道のりになるので、市街地の複数施設に自営線を敷く場合、そのコストは億円単位になる(図5)。

図5●国道沿いにある「リエネ松前風力発電所」連系変電所
図5●国道沿いにある「リエネ松前風力発電所」連系変電所
(出所:日経BP)
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 一方、北電ネットワークの配電網を使う場合、追加的なコストはほとんど必要ない可能性もある。というのは、「リエネ松前風力発電所」が連系する松前変電所は、松前町全域に送電しているため、同変電所につながる送配電設備の開閉器を適切に操作すれば、風力発電設備と蓄電池そして松前町の配電網が、北電系統から閉鎖されたからマイクログリッドとして機能する。そうなれば、風車と蓄電池の電気を松前町に送電できる(図6)。

図6●北電の松前変電所と松前町に向かう高圧配電線
図6●北電の松前変電所と松前町に向かう高圧配電線
(出所:日経BP)
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 こうした背景から、東急不動産では、早くから北電に対して、非常時に松前変電所から松前町への配電線を活用して託送できないか、打診してきた。しかし、当初、北電からは、前向きな回答を得られなかった。系統停電時での「託送」は、制度上想定しておらず、そうした運用をした場合、新たな運用管理などの負担が生じることなどが、その理由だった。

「託送」による配電が可能に

 しかし、今年に入り、系統停電時の「託送」に関する北電の姿勢が、積極的に協力したいとの方向に変わってきたという。これを受け、東急不動産は、託送供給を前提にしたマイクログリッド構築に向け、本格的に動き出した。

 6月30日には、経済産業省の「令和2年度 地域の系統線を活用したエネルギー面的利用事業費補助金(地域マイクログリッド構築支援事業のうち、マスタープラン作成事業)」に採択されたことを受け、7月17日にマイクログリッド構想について発表した。

 2020年度中にマスタープランを作成し、2021年度以降にマイクログリッドの構築を実現する計画だ。松前町の総合計画にある「災害に強いまちづくり」を支援するとともに将来的に、松前町で消費される電力が「100%再エネ由来」とすることを目指すと表明した(図7)。

図7●城下町の情緒を再現した松前町の街並み
図7●城下町の情緒を再現した松前町の街並み
(出所:日経BP)
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 非常時におけるマイクログリッド運用下の需給バランスなどに関しては、現在、詳細なシミュレーションに取り掛かった段階という。蓄電池から送電する場合、需要に応じてPCSを通じて出力されるため、需給管理は比較的、容易になるものの、需要の大きい特定の設備(負荷)の扱いや、長期間、安定的に送電することを前提にした場合、配電区域をどのように設定するのが適当かなど、運用面で検討すべき課題も多いという。

 また、技術的には、北電系統が停電時にいかに「松前町マイクログリッド」を立ち上げるのか、という課題もある。というのは、TMEIC製の蓄電池用PCSは連系する系統が停電していても自立運転できるが、風力発電のPCSには自立運転機能がない。

 そうなると、蓄電池からは送電できるが、風力発電設備は稼働できないため、蓄電池の充電量が尽きてしまえば、それ以上、送電できなくなる。

 そこで、まず、蓄電池だけでマイクログリッド運用を開始し、それを系統電力と見立てて風力発電設備のPCSを立ち上げて送電する、という手順で、非常時にも風力発電を稼働できるよう、技術的な検討を進めているという。

メガソーラーの新設も視野

 定格出力18MW、容量約130MWhの大容量蓄電池に加え、41MWの風力発電が活用できれば、風力発電の出力変動を蓄電池で補いつつ、余剰分を充電することで、さらに長期間のマイクログリッド運用が可能になる。こうしたリアルタイム制御は、平常時の風力と蓄電池の連系制御に近いものになりそうだ(図8)。

図8●「リエネ松前風力発電所」連系変電所に並ぶ蓄電池
図8●「リエネ松前風力発電所」連系変電所に並ぶ蓄電池
(出所:日経BP)
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 また、東急不動産では、将来的に松前町を「再可能エネルギー100%の町」としてさらに安定的に運用していくため、洋上も含めてさらに風力発電を増やしたり、メガソーラー(大規模太陽光発電所)の新設も検討している。

 風力発電はベース電力の確保に役立つ一方、需給バランスの維持を考えれば、マイクログリッド内に太陽光発電所があれば昼間の需要増に対応しやすくなるとみている。

 経済産業省は、今年6月の電気事業法改正の中で、「配電ライセンス制」を導入した。これは、既存の配電網の一部を一般送配電事業者から譲り受け、新規事業者が配電事業を行える仕組みだ。将来的にこうした制度を活用すれば、新規参入した配電事業者が平常時から風力や太陽光の電力を松前町に供給することも可能になる。

 そうなれば、「松前町マイクログリッド」は、日常的に再エネ100%の配電サービスが提供されるエリアとして、再エネによる事業運営を目指す「RE100」企業などにとって、魅力的な立地になるかもしれない。

 一方で、こうした大型火力発電所から遠方にある過疎地域のマイクログリッド形成は、長い送電線の維持管理を考えると、社会経済的にコスト効率が高まる可能性もあり、人口減少時代における送配電網の再構築と地域活性化を両立できる可能性も秘めている。