新エネ・システム最前線

太陽光によるシェアサイクル、楢葉町でスタート

アンフィニ福島工場の蓄電池併設太陽光で充電

2021/02/17 05:00
金子憲治=日経BP総研 クリーンテックラボ

シェアサイクルで町を活性化

 東日本大震災から、もうすぐ10年目。遅れていた福島の復興もようやく本格化し始めた。昨年3月、JR常磐線が震災から9年ぶりに仙台まで開通した。最後まで不通区間となっていた富岡駅から浪江駅の間で運転が再開した。

 全線での運転再開に先駆け、福島県楢葉町にある竜田駅までの区間は、2015年6月に運転が再開し、2015年9月には同町に出されていた避難指示が解除された。2021年には町に戻った住民の比率は、60%近くまで高まり、徐々に賑わいが戻ってきた。

 町内には、JR常磐線の駅が3つある。北から竜田駅、木戸駅、Jヴィレッジ駅だ。全線が開通し、復興に向けて交流人口が増えてきたものの、駅発着の路線バスやレンタカー事務所もないことから、駅からの足は、タクシーを利用するしかなかった。

 こうしたなか、昨年11月30日から3駅前を含む町内5カ所を拠点にシェアサイクルが始まった。5カ所のサイクルポートに合計20台の自転車を設置した。5カ所のポートなら、どこでも返却できる「乗り捨て可能」が特徴だ(図1)(図2)(図3)(図4)。

図1●竜田駅のサイクルポート。一般の駐輪エリアの右端を利用
(出所:日経BP)
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図2●木戸駅のサイクルポート。一般の駐輪エリアの右端を利用
(出所:日経BP)
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図3●Jヴィレッジ駅のサイクルポート
(出所:日経BP)
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図4●「みんなの交流館 ならはキャンバス」のサイクルポート。楢葉町の中心部にある復興拠点「笑ふるタウンならは」内にある
(出所:日経BP)
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 スマートフォン・アプリを通じて、無人でロック解除から決済、返却まで行え、ヤマハ製の電動アシスト自転車を採用しているため、多少の坂でも容易に登り切れる。15分毎50円の「ちょこっとお散歩プラン」のほか、6時間1000円の「散策観光プラン」、12時間1500円の「ぴったり観光プラン」、24時間2400円の「ゆっくり観光プラン」から選択でき、観光やビジネスにレンタカー代わりに利用できる。

 楢葉町では、天神岬スポーツ公園やJヴィレッジなど、町内の観光スポットを巡るコースをアピールするとともに、ビジネスに関連した交流人口の拡大や町民の新たな足としての利用を見込んでいる。

太陽光が自転車駆動をアシスト

 このシェアサイクル事業は、楢葉町が太陽光パネルメーカーのアンフィニ(大阪市)と連携して導入した。スマホアプリを介した無人によるレンタルシステムは、コギコギ(福岡市)が開発、提供した。アンフィニは、シェアポートを定期的に巡回し、自転車が偏った場合の再配置や電動アシスト自転車の着脱式蓄電池(バッテリー)の交換・充電など、楢葉町内5カ所のサイクルポートの運営・管理を担っている(図5)。

図5●電動アシスト自転車のバッテリー(写真右下の黒いユニット)
(出所:日経BP)
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 こうした自治体によるシェアサイクルの導入は、全国でも複数のケースがある。コギコギでは、東京、京都、福岡などの大都市エリアでの直営によるサービス展開のほか、島根県津和野町、北海道旭川市・東川町・東神楽町、岩手県釜石市、奈良県桜井市、山口県宇部市、福岡県田川市、福島県須賀川市で自治体主導による実証プロジェクトの実績がある。

 こうした自治体主導によるシェアサイクルは、地域の二次交通を担うことで観光産業を活性化する目的が多いという。シェアシステムをコギコギが提供し、地元企業がシェアポートを管理することで、低コストでの運営が可能で黒字化が容易という。

 楢葉町のシェアサイクル事業も同じ方向性を持つものの、同町だけの特徴がある。電動アシスト自転車の駆動エネルギーに太陽光発電による電力を使っていることだ。「ならはsolar e-bike」とのサービス名を付けたのはそのためだ。といっても、自転車やシェアポートに太陽光パネルが装着されているわけではない。町内にあるアンフィニの「福島工場」の屋根上に設置したメガソーラー(大規模太陽光発電所)の発電電力を使って、自転車のバッテリーに充電している(図6)。

図6●太陽光で充電するシェアサイクル「ならはsolar e-bike」
(出所:日経BP)
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工場屋根に自家消費メガソーラー

 アンフィニは、「Japan Solar」ブランドで太陽光パネルの製造・販売を手掛ける中堅パネルメーカー。パネル製造を主体にバイオマス発電やメガソーラー(大規模太陽光発電所)事業、電力小売りも展開している。

 同社が、楢葉町に新たな生産拠点「福島工場」を建設し、運営を始めたのは2017年7月。最大で年産300MWを見据えており、国内の結晶シリコン系太陽光パネル工場としては、最大規模という。加えて、同工場の屋根上には出力約1.5MWの太陽光パネルを設置し、容量約1.2MWh(出力1MW)の蓄電池システムを併設し、全量を自家消費している(図7)(図8)。

図7●福島工場の外観
(出所:日経BP)
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図8●福島工場の屋根に設置した1.5MWのメガソーラー
(出所:日経BP)
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 同工場では、商用の電力系統からも受電しているが、当面、同工場の生産規模では、日中の電力需要は、屋根上の太陽光発電からの供給で賄える。このため、シェアポートに配置した自転車からバッテリーを取り外し、日中の時間帯に福島工場内のコンセントに繋げば太陽光由来の電気で充電できることになる(図9)。

図9●工場内で充電中のシェアサイクルのバッテリー
(出所:日経BP)
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災害時には町民300人を受け入れ

 アンフィニの福島工場は、日常的には太陽光の余剰電力を蓄電池に充電して、雨天や夜間に放電することで、すでに使用電力の8割以上を太陽光で賄っている。また、非常時に系統電力が停電した時には、太陽光と蓄電池のパワーコンディショナー(PCS)を自立運転することで、電力を自給することもできる。

 同社は2019年10月に楢葉町と「災害対策及び地域活性化に関する包括連携協定」を締結した。包括連携の内容は、(1)災害時における指定避難所の提供、(2)指定避難所における衣食住及び災害情報の提供、(3)地域の活性化――の3項目で、具体的には、平常時には町内に立地するアンフィニ・福島工場の収入から毎年、一定割合を町に寄付するとともに、非常時には工場の施設を避難場所として提供する、などを決めた(図10)。

図10●楢葉町の包括連携協定を締結
(出所:日経BP)
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 今年に入っても2月13日夜にも福島県と宮城県を中心に震度6強の地震があった。幸い楢葉町に大きな被害はなかったものの、東日本大震災の余震は当分、続くことが予想される。加えて、東北地方でも台風など強い風雨による災害が珍しくなくなっている。

 福島工場が災害時の避難場所として有効なのは、自家消費型メガソーラーと大型蓄電池によって、商用系統から独立して構内系統を運用できるからだ。同工場の施設は、交代制で24時間操業できることを前提に設計したことから、食堂や休憩室のほか、シャワー設備などもある。このため、災害時には最大300人の町民を受け入れつつ、太陽光と蓄電池の自立運転で、数日間、構内に電気を供給できるという。

 加えて、今回、日中の太陽光由来電気によるシェアサイクル「ならはsolar e-bike」によって、日常的に地域活性化にも貢献することになった。

TMEICが蓄電池システム構築

 福島工場の太陽光パネルはアンフィニ製を5688枚設置し、蓄電池システムは東芝三菱電機産業システム(TMEIC)がインテグレートした。太陽光パネル用と蓄電池システム用のパワーコンディショナー(PCS)はTMEIC製の500kW機を設置した。蓄電池は、韓国のサムスンSDI製とLG化学製のLiイオン蓄電池を採用した(図11)。

図11●TMEIC製の蓄電池システムを導入
(出所:日経BP)
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 太陽光発電と蓄電池システムはそれぞれ専用のPCSで6.6kVの交流に変換し、工場内の構内系統と連系している。サムスンSDI製とLG化学製の蓄電池は、別々のPCSで制御する構成にした。複数の蓄電池用PCSの統合制御では、TMEIC製「TMBCS(TMEIC蓄電池コントロールシステム)」を採用した。

 「TMBCS」は、太陽光と蓄電池を統合的に制御する。蓄電池とメガソーラーのPCSを連係制御し、メガソーラーの発電量をリアルタイムに監視しながら、蓄電池を最適に充放電制御する。晴天時にメガソーラーの余剰電力が多くなって蓄電池に充電しきれない場合、電力系統に逆潮しないように太陽光の出力を抑制する。

 福島工場では、こうした需給バランス制御のほか、今後、工場がフル操業した場合などには、最大需要時にピークカットして電気代を削減する制御も可能になる。

 また、系統電力の停電時には自立運転して「アイランド運用」を行うことを想定している。「アイランド運用」とは、電力会社の系統が停電して復旧の目途が立たない場合、電力系統から切り離して工場内の特定負荷に蓄電池から自立給電する。

 「アイランド運用」時は、1つの蓄電池用PCSが自立運転を行い、周波数と電圧を制御する。自立運転中の蓄電池充電状態を考慮して出力抑制しながらメガソーラーを出力する。他方の蓄電池は、構内系統と連系して放電したり、メガソーラーの出力を充電することも可能になる(図12)。

図12●停電時の「アイランド制御」イメージ
(出所:日経BP)
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分散する太陽光と蓄電池をCEMSで制御

 アンフィニでは、福島工場での太陽光と蓄電池活用のほか、楢葉町内の街区全体を舞台にした太陽光と蓄電池のエネルギー管理システム(EMS)の構築にも取り組んでいる。

 同町の復興拠点である「笑(えみ)ふるタウンならは」に建設してきたスマートコミュニティ事業がそれだ。同事業は、復興拠点にある公営住宅や商業施設などの屋根に合計出力約1MWの太陽光発電設備と、容量654kWhの蓄電池システムを集中的に設置し、CEMS(地域エネルギー管理システム)で制御する。

 「笑ふるタウンならは」には、災害公営住宅140戸のほか、スーパーやホームセンター、飲食店など10店舗が入居する複合商業施設や交流施設、診療所などが集積している(図13)。

図13●「笑ふるタウンならは」の街並み
(出所:日経BP)
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 災害公営住宅には各戸に出力4kWの太陽光と容量4kWhの蓄電池を導入し、合計で太陽光560kW、蓄電池560kWhになる。また、商業施設には94kWの太陽光と89kWhの蓄電池、交流館には5kWの太陽光と5kWhの蓄電池を設置した。これら施設には、それぞれに住宅にはHEMS(住宅エネルギー管理システム)、ビルにはBEMS(ビルエネルギー管理システム)が導入されている(図14)。

図14●各戸に出力4kWの太陽光と容量4kWhの蓄電池を導入
(出所:日経BP)
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 このほかエリア内にある3つの防災調整池のうち、2つの池に水上設置型太陽光発電を設置した。東側の池に136kW、西側の池に199kWとなる(図15)。

図15●「笑ふるタウンならは」に隣接した調整池に設置した水上太陽光
(出所:日経BP)
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 これらの復興拠点内のすべての太陽光と蓄電池を合計すると、太陽光は994kW、蓄電池は654kWの規模に達する。

 これらの設備は2020年5月に完成し、稼働している。今後の運用では、HEMSとBEMSを統合制御するCEMSを通じて蓄電池を充放電制御することで、エリア全体の負荷を平準化したり、需要ピークをシフトさせたりするVPP(仮想発電所)機能を実証する。

 加えて、CEMSの通信機能を生かして、再エネ設備を監視しつつ、災害公営住宅の入居者の見守り支援、電力使用量の見える化(可視化)による節電意識の向上、防災情報や節電要請などのメッセージ機能の活用にも取り組むとしている。