新エネ・システム最前線

尼崎にアジア最大の物流施設、屋根上にメガソーラー

ESRが建設・運営、環境配慮とレジリエンスで先進性

2021/05/19 12:00
金子憲治=日経BP 総合研究所 クリーンテックラボ

東京ドーム8個分

 兵庫県尼崎市南部の臨海エリアは、かつて鉄鋼業や火力発電所などが立地し、阪神工業地帯の一翼を担ってきた。だが、産業構造の変化などにより工場が閉鎖され、兵庫県はその一部を「尼崎の森 中央緑地」として生物多様性に配慮した森林や公園を整備した。

 この緑地エリアから運河を隔てた向かいに2020年6月、アジアで最大級の物流施設が完成した。大型物流施設を展開するESR(東京都港区)が建設したマルチテナント型物流施設「ESR尼崎ディストリビューションセンター(尼崎DC)」だ。

 ワンフロアは6万m2を超え、延べ床面積は38万m2に達する。建物全体の広さは、東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場となる新国立競技場とほぼ同じサイズ。東京ドームだと8.3個分に相当する(図1)。

図1●アジア最大規模の物流施設「ESR尼崎ディストリビューションセンター(尼崎DC)」
図1●アジア最大規模の物流施設「ESR尼崎ディストリビューションセンター(尼崎DC)」
(出所:ESR)
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 最大40テナントへの分割が可能で、40カ所の事務所スペースもあり、六甲山と瀬戸内海を一望できる共用ラウンジや24時営業のショップなどを備える。一昔前の「物流倉庫」のイメージとはまったく異なり、「従業員への快適な空間の提供」を売りにしている(図2)。

図2●テナント従業員のための共用ラウンジ
図2●テナント従業員のための共用ラウンジ
(出所:ESR)
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 阪神淡路大震災の被災地で沿岸部に立地するだけに、耐震構造のほか防潮堤と防波堤の二重構造、地盤のかさ上げなど、水害対策にも十分に配慮したという。

屋根半分で2.5MW

 屋根上には、連系出力約2MW、太陽光パネルの出力約2.5MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)を設置し、2月から固定価格買取制度(FIT)による売電を開始した。ESRは尼崎DCを含めこれまでに国内で23 の物流施設を建設し、現在7 案件を開発中で、屋根上太陽光の設置を基本としている。

 現在、計画中のプロジェクトは自家消費型を軸に検討しているが、尼崎DCを計画した当時は、FIT売電の経済性が高かったという。将来的にFITによる売電期間終了後には、自家消費型への切り替えも計画している。

 尼崎DCは地上6階で、円形状のランプウエイで階上フロアまでトラックで直接、荷物を運べる。上り・下り専用のランプウエイは各フロアの中央車路で結ばれ、建物の屋根形状も中央車路の上にあたる東西ラインを境に南北に分かれている。メガソーラーはその北側だけに敷設したが、それでも2.5MWに達する(図3)。

図3●屋根上に設置したメガソーラー。太陽光パネルはカナディアン・ソーラー製、パワーコンディショナー(PCS)は東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製を採用
図3●屋根上に設置したメガソーラー。太陽光パネルはカナディアン・ソーラー製、パワーコンディショナー(PCS)は東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製を採用
(出所:ESR)
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 太陽光パネルはカナディアン・ソーラー製、パワーコンディショナー(PCS)は東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製を採用した。施工は福原工業(大阪市)が担当した。FITによる売電単価は18円/kWhとなる。

 屋根上太陽光は、一般的にかなり大きな建物でも、なかなか1MW分の太陽光パネルが載せられない。それを考えると「屋根半分で2.5MW」は、建物の巨大さを再認識させる。

石油火力からメガソーラーに

 尼崎DCのある事業用地は、2001年まで関西電力の石油火力発電所が稼働していたが、コスト高などで閉鎖され、跡地にパナソニックがプラズマディスプレイ工場を建設した。しかし、こちらも事業的に厳しくなり2014年に閉鎖された。その後、関西圏内でのアクセスの良さに着目したESRが、2017年に物流施設の計画を発表し、2018年1月に着工した。

 「火力発電所からメガソーラー」、「重工業から電子デバイス、そして地の利を生かした物流施設」という変遷は、経済社会構造の変化の一端を物語るようだ。そして、産業都市として公害や大震災を克服してきた尼崎市のありようの変化とも符合している。

 環境への配慮と災害時のレジリエンス(回復力)の重視は、ESRの考え方とも一致している。同社は、設計にあたって「HUMAN CENTRIC DESIGN.(⼈を中⼼に考えたデザイン)」を基本理念に掲げており、加えて、再生可能エネルギーの利用や省エネの徹底、BCP(事業継続計画)対策に力を入れている(図4)。

図4●保育室のスペース
図4●保育室のスペース
(出所:ESR)
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 ESRは、中国・韓国などで物流施設を開発してきたイーシャンと、アジア・日本などで物流施設を展開するレッドウッド・グループが2016年に経営統合し、米投資会社のウォーバーグ・ピンカスの参画により発足した。グループ本社は香港で、アジア大都市圏の物流不動産に特化した開発・所有・運営を手掛けている。日本では首都圏のほか、中京圏、関西圏を主体に建設を進めている。2019年11⽉に⾹港証券取引所に上場した。

 尼崎DCは、環境面では、メガソーラーのほか、省エネ型照明、ビオトープなどを導入している。全館LED照明、トイレ・共用部すべてに人感センサーを設置し不使用時に自動で消灯する。また、事務所には人検知センサーを設置し人の在・不在を検知しゾーン単位で明るさを自動制御してエネルギー消費を最小化する照明システムを導入した。これは大成建設と東光高岳が共同開発した「T-Zone Saver」を物流施設として初めて採用したものという(図5)。

図5●事務所用スペース。人検知センサーでゾーン単位ごとに明るさを自動制御
図5●事務所用スペース。人検知センサーでゾーン単位ごとに明るさを自動制御
(出所:日経BP)
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EVトラックの利用に備える

 BCP対策では、地震や津波などに配慮した安全設計のほか、非常用発電設備を備え、商用系統が停電しても、防災センターのほか、照明や人用のエレベーター、トイレが使えるほか、各オフィスにも非常用コンセントを備えている。最大24時間はこうした重要設備に給電できる。巨大施設だけに人用エレベーターだけで22台もあり、停電時にも、すべてが稼働するようにした(図6)。

図6●系統が停電しても、使える非常用コンセント。赤色が特徴
図6●系統が停電しても、使える非常用コンセント。赤色が特徴
(出所:日経BP)
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 敷地内を阪神高速湾岸線の高架道路が横切っており、尼崎駅方面から訪れると、まず高速道路の手前に従業員用の駐車場と駐輪場、その奥にビオトープエリアがある。高速道路の下を通って建物のあるエリアに入ると、トラックが待機する駐車場があり、場内には電気トラック、電気自動車(EV)用の急速充電器が2基設置されている。

 導入した急速充電器は、東光高岳製の200V・50kWタイプで、日本企業主体に規格化されたCHAdeMO方式に対応している。充電は、スマートフォンアプリにより、QRコードリーダーによる認証、利用、課金が可能で24時間無人で対応できる。

 ESRによると、国内外の複数トラックメーカーが電気トラックを商品化しており、航続距離200kmなどスペックも向上してきたという。ESR尼崎は、大都市近郊という立地から、今後電気トラックによる利用の増加も期待されるという(図7)。

図7●トラック駐車場には50kWの急速充電器を2基併設した
図7●トラック駐車場には50kWの急速充電器を2基併設した
(出所:ESR)
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「2回線受電」でも台風で停電

 トラック用駐車場の隅には、関西電力送配電の特別高圧送電線と連系する鉄塔が2本立っている。尼崎DCの契約電力は最大1万2000kWで7万Vの特高送電線の2系統から受電している。こうした「2回線受電」は、災害などで電力系統の一部が停止した場合、2回線のうち1回線でも送電していれば、受電を継続できる利点がある。

 国内では、特高受電施設のBCP対策として、「2回線受電」が推奨されてきた。逆に言えば、特高受電クラスの大規模施設では、小規模な非常用発電設備を設置しても需要を賄いきれないため、「2回線受電」で済ましてきたという側面もある。

 だが、東日本大震災での大規模停電や北海道でのブラックアウト(全域停電)発生によって、2回線受電によるBCP対策の限界も指摘され始めている。尼崎DCではこうしたレジリエンス対策の流れを先取りして、2回線受電に加え、1000kVAの大型非常用発電機2台を導入し、重油1940ℓをタンクに備蓄している(図8)。

図8●1000kVAの非常用発電設備2台を導入
図8●1000kVAの非常用発電設備2台を導入
(出所:日経BP)
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 ESRによると、建設中だった2018年9月に西日本を襲った台風21号の際は、受電していた2回線とも停電したという。この台風では、関西空港の連絡橋にタンカーが衝突し、空港内にいた利用客や従業員8000人が空港に取り残される事態となるなど、大きな被害となった。このクラスの災害では、やはり非常用発電設備がないと想定するBPCを達成するのは難しいことを痛感したという。

ライフライン機能を見える化

 非常用発電設備の制御には、大成建設と東光高岳が共同開発した災害用ビル管理システム「T-BC Controller」を採用した。同システムは、大規模な災害時に電気と水道が断絶したケースを想定し、施設内の自家発電設備と給水設備の状況を的確に把握し、状況に応じて最適制御することで、目標とするBCPレベルの実現をサポートする。

 具体的には、非常用発電設備の稼働状況を監視しつつ、発電燃料と受水槽の残量から、設備の稼働可能時間を自動で予測してグラフ化する。この予測時間が、目標とするBCPレベルよりも短い場合、BEMS(ビル・エネルギー管理システム)や設備の監視・制御システムと連動してあらかじめ設定した優先順位の低い部屋・設備を自動停止させ、優先順位の高い部屋・設備に限定して供給するなどの制御を自動化することで、施設の機能維持時間を延ばし、災害時におけるBCPを支援する(図9)(図10)。

図9●「T-BC Controller」の非常時での予想画面
図9●「T-BC Controller」の非常時での予想画面
(出所:大成建設)
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図10●「T-BC Controller」の構成図
図10●「T-BC Controller」の構成図
(出所:大成建設)
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 ただ、尼崎DCの場合、需要の多くがテナント設備になるなど、強制的なデマンドコントロール(需要制御)を実施しにくい面もあるため、予想された稼働可能時間が目標とするBCPレベルより短い場合、警報を表示する形にした。その警報を元に手動によって設備の稼働レベルを変更して需要を下げることで稼働可能時間を延ばすという(図11)。

図11●「T-BC Controller」の平常時の画面
図11●「T-BC Controller」の平常時の画面
(出所:日経BP)
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生態系ネットワークを担う

 敷地内に整備したビオトープは、このエリア単独での生態系保全ではなく、大阪湾奥部の水鳥の生息に配慮しつつ、運河を隔てて隣接する「尼崎の森 中央緑地」と合わせた生態系ネットワークを形成するという考え方で樹種などを選定した(図12)。

図12●植栽直後のビオトープの様子
図12●植栽直後のビオトープの様子
(出所:ESR)
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 これは「緑の回廊(コリドー)」と呼ばれる考え方で、都市部などにある公園など複数の緑地を一定の距離でつないで整備することで、鳥や昆虫類が広域で移動できるようになり、多様性が維持されやすくなる。国内でも多くの都市域で採用され始めている。

 尼崎DCのビオトープでは、県が整備していた「尼崎の森 中央緑地」の植生と潜在自然植生を参考にして緑地環境を整備した。全体は緩やかな斜面になっていて、最も高いエリアにはシイなどの常緑の高木、それに続いてエノキなど落葉の高木を植栽した。低地には、ススキやチガヤなどの高茎草地、最低地は在来の低茎草地とした。そして、低地の窪地には降雨時に雨水が貯まるウェットランド(雨庭)を設置して水辺をつくり、水生植物やトンボ類などの誘致を促すようにした(図13)。

図13●植栽後、約1年後のビオトープの様子
図13●植栽後、約1年後のビオトープの様子
(出所:日経BP)
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 ビオトープエリアは、整備から1年で苗木などは順調に根付いているものの、ウェットランドには常時、水が張らないため、安定的な水辺の創出には至っていないという。ビオトープは施工した後の適切な維持管理が重要で、自然の遷移を観察しながら時間をかけて想定した生態系を目指していくことになりそうだ(図14)。

図14●雨水が貯まるウェットランド
図14●雨水が貯まるウェットランド
(出所:日経BP)
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