新エネ・システム最前線

伊万里の山間メガソーラー、オンライン制御に転換して抑制量を低減

九電の再エネ管理システムに対応して出力制御を自動化

2021/06/30 05:00
金子憲治=日経BP総合研究所 クリーンテックラボ

30カ所・300MWまで開発

 佐賀県伊万里市は、芸術性の高い伊万里焼で知られるが、黒毛和牛の高級ブランド・伊万里牛のほか、ナシやブドウの産地でもある。同市北東部の南波多町は、牧場のほか果樹園が点在し、豊かな食文化を担っている。

 「伊万里市南波多MS発電所」は、同町の山あいで稼働する出力1.2MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)だ。大きく2つのエリアに太陽光パネルを敷きつめ、それぞれが階段状に整地され、ほぼ平坦な地面に設備を設置した(図1)。

図1●「伊万里市南波多MS発電所」の南側エリア。カナディアンソーラー製の太陽光パネルと東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製のPCSを採用
図1●「伊万里市南波多MS発電所」の南側エリア。カナディアンソーラー製の太陽光パネルと東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製のPCSを採用
(出所:日経BP)
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 同発電所は、メガソーラー開発とインフラ関連のファンドを運営するインテグリティ・パートナーズ(東京都千代田区)が運営している。同社は、2007年5月に設立し、2011年の固定価格買取制度(FIT)スタート以降、太陽光発電に特化し、メガソーラープロジェクトの開発・運営を手掛け、それらを投資資産としたファンドを管理・運営を担っている。

 これまでに全国25カ所、合計240MWの太陽光発電所(稼働・着工済)を運営しており、今後数年で合計30カ所・300MWまで増やしていく目標を掲げている。

 「伊万里市南波多MS発電所」は、FIT開始初年度の2012年度に認定を受けて稼働し、2013年12月にインテグリティ・パートナーズが取得した。茨城県内の2カ所の高圧連系する案件とともに、入札を通じてまとめて取得したという(図2)。

図2●「伊万里市南波多MS発電所」の北側エリア
図2●「伊万里市南波多MS発電所」の北側エリア
(出所:日経BP)
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接続箱に赤錆が…

 約3万1724m2の用地に、カナディアンソーラー製の太陽光パネル(245W/枚)を設置角12度で設置し、パワーコンディショナー(PCS)は東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製の500kW機・2台を導入した。連系出力は1MW、太陽光パネルの設置容量は1.2MWで、年間132万kWhの発電量を見込んでいる。

 EPC(設計・調達・施工)サービスはウエストエネルギーソリューション(広島市)、稼働後のO&M(運営・保守)サービスは、ウエストO&M(広島市)が担っている。

 稼働後、7年半を経過したが、運用は順調で、大きなトラブルはないという。ただ、接続箱の一部に赤錆が発生していることや、架台下の地表に部分的に雨水による浸食があり、杭基礎が若干、沈下している箇所が見られるなど、設備に経年劣化の兆候が出てきている(図3)。

図3●接続箱に生じた赤錆
図3●接続箱に生じた赤錆
(出所:日経BP)
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 ウエストO&Mでは、こうした設備の劣化に関しては、注意深く経過を観察しながらインテグリティ・パートナーズに相談して適切に対応していきたいという。赤錆については、全面に塗装し直すとコストがかさむため、赤錆を黒錆に変える転換剤で処理することも費用対効果の点で選択の1つになるとしている(図4)。

図4●地表面の一部に雨水による浸食が見られる
図4●地表面の一部に雨水による浸食が見られる
(出所:日経BP)
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年間25日も出力抑制

 インテグリティ・パートナーズの秋葉正範社長は、「九州のメガソーラーにとって最大の問題は、九州電力による出力制御(出力抑制)が急増していること。FIT開始初期の認定案件の旧ルールを適用されるサイトに対しては、指定ルール適用のサイトに比べて際立って出力抑制が多くなっている」と不満を漏らす。

 同社によると、「伊万里市南波多MS発電所」では、2020年度の1年間で合計25日の出力制御指令が出され、その都度、午前8時から午後4時まで稼働を停止した。これによる売電ロスは、単純に日数で計算すると6.8%に達する。

 この25日という出力制御の日数は、九州電力が公表している1サイト当たりの制御回数と一致している。

 九州本⼟では、2018年度10月から出力抑制が始まった。九電によると、2018年度には延べ26回、1事業者当たり5~6回。2019年度には延べ74回で1事業者当たり旧ルール事業者23~24回、指定ルール事業者15~16回。2020年度の予測値は延べ70~80回で1事業者当たり旧ルール事業者20~25回、指定ルール事業者10~15回という値を公表している(図5)。

図5●九州本土における太陽光への出力制御件数の実績と見通し
図5●九州本土における太陽光への出力制御件数の実績と見通し
(出所:九州電力)
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 「旧ルール」事業者とはFIT開始初期に認定された発電所に適用され、年間の最大出力制御日数が30日を上限としそれを超えた場合は補償される。出力制御の作業は1日8時間を手動(オフライン)により発電事業者が操作する。一方、「指定ルール」事業者は、30日を超えて無制限・無補償の出力制御が課され、九電がオンラインにより時間単位で制御する。

今年度から「30日」到達

 九電による出力制御は、当初、両ルール事業者が同じ日数になるように運用してきた。ただ、指定ルール事業者はオンライン制御のため、機動的に制御指令を解除できることから、2019年10月以降、出力制御の全体量を低減するため、旧ルール事業者を優先して割り当てる運用方法に変更した。その結果、旧ルール事業者の制御日数が多くなった。

 秋葉社長が、「指定ルール適用のサイトに比べて際立って出力抑制が多くなっている」と不満を漏らすのは、こうした出力制御の運用変更が背景にある。実際に九電の試算では、2020年度の出力制御率は、指定ルール事業者の1.4%に対して、旧ルール事業者では9.8%にも上っている(図6)。

図6●九州本土における太陽光への出力制御量の実績と見通し
図6●九州本土における太陽光への出力制御量の実績と見通し
(出所:九州電力)
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 今年度も、両ルール事業者間の制御日数は、かなり差が開く可能性がある。というのは、2021年度に、「旧ルール」事業者は、従来方式で制御した場合、最大とされた30日を超えてしまう見込みとなったからだ。

 こうした事態が予想される場合、「指定ルール事業者の制御日数が⼤きく増加しないよう、旧ルール事業者の年間制御日数である30日を最⼤限に活⽤しながら、指定ルール事業者は⼀律制御に移⾏する」と決まっており、九電では、2021年度からは、この考え方に従って、出力制御を運用するとしている。

 このため今後、しばらくの間は、旧ルール事業者は指定ルール事業者に比べて制御日数が多くなる可能性が高い。ただ、さらに九州本土の太陽光導入量が増していくと、指定ルール事業者への制御指令は30日を超え、最終的に旧ルール事業者の方が抑制量が少なくなる見込みだ。

遠隔からPCSを停止・稼働

 旧ルール事業者である「伊万里市南波多MS発電所」は、手動(オフライン)による出力制御になる。制御日の前日に九電から出力制御指令が出され、発電事業者の担当者が翌朝、サイトに行って午前8時に手動でパワーコンディショナー(PCS)を操作して稼働を停止させ、午後4時にまたサイトを訪れて再稼働するという操作が必要になる。

 ただ、こうした作業は、O&M担当者がその都度、サイトを往復するなど負担が大きくなるため、同発電所では、九州電気保安協会による太陽光発電遠隔操作Webサービスを採用している(図7)。

図7●太陽光発電遠隔操作Webサービスの通信ユニット
図7●太陽光発電遠隔操作Webサービスの通信ユニット
(出所:日経BP)
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 これは、PCSの運用をパソコンやスマートフォンから操作できるシステムで、九電からの出力制御指令を受け、O&M担当者がサイトに行かずにリモートでPCSの運転を停止できる。加えて、日常的には発電電力量の監視やPCSの警報監視もできる(図8)。

図8●太陽光発電遠隔操作Webサービスのイメージ
図8●太陽光発電遠隔操作Webサービスのイメージ
(出所:九州電気保安協会)
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 「伊万里市南波多MS発電所」では、O&Mサービスを担うウエストO&Mの担当者が、このリモート監視・制御システムを活用することで、オフィスのある広島市にいながら、伊万里サイトの稼働停止と再稼働を行ってきた。

 加えて、今年3月25日、同発電所では、九電によるオンライン制御に移行するためのPCSの工事を実施した。オンライン制御に移行しても、旧ルール事業者であることには変わらないため、当面の間、指定ルール事業者に比べて制御日数は多くなる。ただ、九電によるオンライン制御に移行すると時間単位の制御になるため、1回の抑制時間が8時間よりも短い時間で済むことが多く、制御量自体は大幅に減る可能性が高い。

 九電の試算では、2021年度ではオフラインの旧ルール事業者の制御率は12.1%なのに対し、オンライン化した旧ルール事業者は5.4%に半減するという。九電では、「仮に売電単価40円/kWh・1MWのオフライン・旧ルール事業者が、オンライン制御に切り替えた場合、年間で300万円程度の売電収入の増加が見込め、一般的なオンライン化費用である約500万円は2年で元が取れる」としている。

 インテグリティ・パートナーズが、伊万里市のサイトでオンライン制御を導入したのは、こうした九電の予測値を参考に、経済性の観点からPCSの工事に踏み切った(図9)。

図9●オンライン制御に移行するためのPCS工事の様子
図9●オンライン制御に移行するためのPCS工事の様子
(出所:インテグリティ・パートナーズ)
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高圧サイトは「カレンダー取得・書換方式」

 オンライン制御による出力制御の手法には、「電力会社が専用線を使って再エネのPCSに直接、制御指令を送る方式」と、「再エネ事業者がインターネット回線を使って電力会社のサーバーにある出力制御スケジュールから制御情報を取得する」という大きく2つの方式がある(図10)。

図10●出力制御に大きく2つの方式がある
図10●出力制御に大きく2つの方式がある
(出所:経産省)
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 九電では、これら2方式を併用しており、専用線利用するタイプを「出力制御情報配信方式」、インターネット回線を利用するタイプを「出力制御カレンダー取得・書換方式」と呼び、前者は、連系出力2MW以上の特別高圧送電線に接続する大規模なサイト、後者は2MW以下の高圧サイトと、50kW以下の事業用低圧サイトに適用している。

 「出力制御情報配信方式」では、九電が直接、制御情報を配信するため、リアルタイムでの制御も可能になる。一方、「出力制御カレンダー取得・書換方式」では、各サイトのPCSが定期的に九電のサーバーに出力制御のスケジュール(カレンダー)にアクセスして制御情報を取得する。このため後者の場合は、2時間前に制御指令を出す形になるという。

 「伊万里市南波多MS発電所」は高圧配電線に連系するため、出力制御カレンダー取得・書換方式が適用され、PCSが定期的に九電のサーバーにアクセスして出力制御スケジュールを取得し、それに基づいて稼働停止・再稼働を自動的に行う仕組みになる。オンライン制御への移行に際し、PCSの工事が必要になるのは、こうした九電のサーバーと情報をやり取りするため、事前に取り決めた独自の通信手順などが必要になるからだ。

 九電は再エネに対する出力制御を効率的に実施するため、「再エネ管理システム」を構築している。同システムは、九電管内の需給管理を統括する中央給電指令所の「中給再エネ管理システム」と配電網に接続した再エネを管理する「配電再エネ管理システム」から構成される。出力制御指令はすべて中給再エネ管理システムから発信され、その後、配電再エネ管理システム、配電メール配信システムを経由して事業者に配信する。

 また、実績管理については、特高サイト分を中給再エネ管理システムで、高圧と低圧サイト分については配電再エネ管理システムで集約し、その結果を中給再エネ管理システムに集約するという流れになっているという。

3区分への配分を自動化

 出力制御の実際の運用では、まず必要制御量を算定し、それを3区分(旧ルール事業者・オンライン、旧ルール事業者・オフライン、指定ルール事業者)に分けて配分し、各分類の事業者内では公平に割り当てるという複雑な計算が必要になる。

 九電では、再エネ管理システムによって、必要制御量の算定や配分についてすべて自動化しているという。配分については、公平性の観点から制御回数に差が生じないよう、自動配分する際、制御日数の少ない事業者から選定される仕組みになっているという。また、オンライン対応のPCSが不具合などで制御不能になった場合には、こうした事業者を除外できるように手動での解除機能も備えているという。

 九電の出力制御の運用については、国の有識者会議に報告し討議しながら、年ごとに変更・改善してきた。今年度から採用した「旧ルール事業者の30日を最大限活用し、必要制御量の残りを指定ルール事業者に配分する」という考え方もその1つだ。また、今年度からは、1つのサイトの一部を制御する「部分制御」も導入するという。

 「伊万里市南波多MS発電所」のように、オンライン制御に移行した旧ルール事業者は、大幅に出力制御率が下がることなるが、それでも当面の間、指定ルール事業者に比べると制御率は高くなる。そうした運用を採用したのは、FITで売電する20年間を通して旧ルール事業者と指定ルール事業者間の公平性を少しでも確保するという考え方に立っている(図11)。

図11●「伊万里市南波多MS発電所」のTMEIC製PCS
図11●「伊万里市南波多MS発電所」のTMEIC製PCS
(出所:日経BP)
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