「福島産水素」で聖火が灯る
新型コロナウイルスの感染拡大対策から無観客で実施された東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会。開催には根強い反対もあり、招致した際に掲げた東日本大震災からの復興という位置づけはどこにいったのか、との批判も目立った。だが、大会期間中の運営に使われたエネルギーの調達では「復興五輪」の理念が生かされていた。
7月23日、国立競技場で東京五輪の開会式が開催された。終盤には、最終聖火ランナーとなった大坂なおみ選手が、聖火台の階段を上り、「太陽から得られるエネルギーや生命力」を表現したという球体が開いた形の聖火台に聖火を灯した。今回の東京2020大会では、聖火台の燃料として、オリンピック・パラリンピック大会史上、初めて水素が使われた(図1)。
ギリシャから到着した聖火は、3月25日に福島県楢葉町を出発し、以降、日本全国47都道府県を回って、東京の国立競技場までつなげられた。実は、開会式で灯った聖火の燃料である水素も福島県内で製造され、トレーラーで都内に運ばれたものだ。
水素を製造した施設は、福島県浪江町にある「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」。出力20MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)を併設し、その太陽光由来の電力を使って、水を電気分解して水素を取り出した。
FH2Rは、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)、東芝エネルギーシステムズ、東北電力、東北電力ネットワーク、岩谷産業、旭化成により、2018年から建設が進められてきたもので、2020年2月末に完成して、稼働を開始した(図2)。
来るべきカーボンニュートラル社会に備え、出力の変動する太陽光発電の電気を使い水の電気分解で安定的に水素を製造するシステムを実証するのが役割。実証の過程で製造された水素はFH2R周辺の燃料電池車(FCV)向け水素ステーションや、道の駅などに設置された燃料電池コージェネレーション(熱電併給)システムに供給している。
東京オリンピック・パラリンピック期間中には、都内まで運搬して開会式・閉会式に灯す聖火の燃料に使われたほか、大会で運用されるFCVや燃料電池バス、選手村の定置型燃料電池システム向けに燃料として供給された(図3)。