1時間にFCV560台分の水素を製造
FH2Rの敷地面積は18万m2で、20MWものメガソーラーのほか、最大消費電力10MWの水素製造装置と水素貯蔵・供給設備、そして、管理棟からなる。再エネによる水素製造施設として現時点で世界最大規模になる。
メガソーラーとしても規模が大きく、約6万8000枚もの太陽光パネルを並べた。敷地全体は東京ドーム約5個分の広さになるが、その8割、東京ドーム4個分がメガソーラーサイトになる。水素製造プラントが、整然と並べられた太陽光パネルに囲まれている(図4)。
太陽光パネルは、東芝製とアンフィニ(大阪市)製、パワーコンディショナー(PCS)は東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製のモデルを東芝エネルギーシステムズが設置した。アンフィニは、福島県楢葉町に太陽光パネル工場を稼働しており、今回、楢葉町の工場から浪江町サイトに合計で2万4420枚を出荷した(図5)(図6)。
メガソーラーは稼働以来、「全量自家消費」で運用し、発電電力はすべて水素製造に活用している。ただ、水素の需要と実証内容によっては、水素貯槽設備が満タンになることがあり、その場合、太陽光の出力を抑制するケースが出てきた。このため、余剰電力を電力系統に逆潮して送電できるようにするため、受変電設備の改造工事に取り掛かっている。
実証装置の核となる水素製造装置は旭化成製のアルカリ水電解方式で、入力電力は最大10MW、定格6MWになる。最大で毎時約2000Nm3(ノルマル立米:0℃・1気圧の状態時に換算した1m3のガス量)、定格運転時で毎時約1200Nm3の製造能力があり、これはFCV560台を充填できる水素量に相当する。(図7)
水素製造装置の最大入力は10MWだが、補器類なども含めたFH2R施設の最大需要は約20MW。快晴でメガソーラーがフル稼働すれば、太陽光の電力だけで運用できる計算になる。ただ、実際には、メガソーラーからの出力は天候に左右される。またFH2Rには、太陽光の電力を貯めておく大型蓄電池はないため、太陽光の出力が必要な水素製造量に足りない場合、東北電力ネットワークの商用系統から買電する。
つまり、太陽光の自家消費電力と系統電力を組み合わせつつ水素を製造する。こうしたシステムの特性を生かし、実証運用では、系統運用者(東北電力ネットワーク)の要請に従って受電量を変動させるデマンドレスポンス(DR:需要応答)を行うことで、電力系統に対する調整力の提供サービスの可能性も探る。
製造した水素は19.6Mpaの圧力でトレーラー12台とカードル15台に貯めておく。トレーラーとは細長いチューブ型容器の集合体で1台に2642Nm3貯蔵できる。またカードルとは水素ボンベの集合体で1台に265.8Nm3貯蔵できる。いずれも可搬式になる。これらに充填しきれない場合に備え、固定式の水素ホルダー8本を設置しており、合計で5400Nm3を貯められるようになっている。
トレーラーとカードルに貯めた水素は、運搬車両で需要先まで運び、水素ステーションの充填設備や、道の駅などの燃料電池システムなどに接続して水素を供給する(図8)(図9)。