新エネ・システム最前線

国内初の洋上ウインドファーム着工、港湾に33の基礎

秋田港・能代港でSEP船が稼働、2022年に風車組み立て開始

2021/12/22 09:46
宇野麻由子=日経BP 総合研究所 クリーンテックラボ

港の公園から見える洋上風力

 秋田県の男鹿半島を挟み、北側に位置する能代港(能代市)と南側に位置する秋田港(秋田市)。この2つの港の港湾区域で、日本国内で初となる商業ベースでの大型洋上風力発電事業が進んでいる。

 合計出力約140MW(一般家庭約13万世帯相当)の着床式洋上風力発電所と陸上送変電設備を建設・運転・保守し、完工後、20年間にわたって発電電力の全量を東北電力に固定価格買取制度(FIT)を利用して36円/kWhで売電する計画だ。

 丸紅など13社が出資する特別目的会社(SPC)が事業主体となる。2021年内に風車の基礎部分の工事が完了し、2022年の年明けから、いよいよ風車の組み立てに入る。2022年末までに商業運転の開始を予定する。

 同事業は、定格出力4.2MWの風車33基で構成する洋上風力発電所と、陸上送変電設備からなるウインドファーム(集合型風力発電所)だ。秋田港飯島ふ頭を基地港として、能代港に20基、秋田港湾に13基の風車を建設している。

 洋上風力発電所の施工は鹿島・住友電気工業特定建設共同企業体(鹿島・住友電工JV)が担当しており、具体的には海底ケーブルの製造・工事を住友電工が、基礎部分の工事を鹿島建設が受け持つ形になっている。陸上送変電設備についてはきんでんが担当する(図1)。

図1●秋田港にある公園、飯島サンセットパークから見た秋田港湾。黄色く見えるのが、風力発電設備の基礎部分(トランジションピース)。比較的、防波堤に近い場所にあるのが分かる
図1●秋田港にある公園、飯島サンセットパークから見た秋田港湾。黄色く見えるのが、風力発電設備の基礎部分(トランジションピース)。比較的、防波堤に近い場所にあるのが分かる
(出所:日経BP)
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 この洋上プロジェクトは、港湾法に基づく長期占有許可で建設されるもので、再生可能エネルギー海域利用法によって沖合の一般海域に建設する洋上風力とは違い、風車を防波堤周辺の港湾内に配置する形となっている。水深は10~30mと比較的浅く、風車は着床式で、1本の杭を海底に打ち込んでその上に風車を設置する「モノパイル」形式を採用する(図2)。

図2●秋田港湾の風力発電所の完成予想ジオラマ。13基の風車が設置される予定。同ジオラマは、商業施設である「秋田ベイパラダイス」(秋田市)内に設置された秋田洋上風力発電(AOW)の展示場「AOW風みらい館」で公開されている
図2●秋田港湾の風力発電所の完成予想ジオラマ。13基の風車が設置される予定。同ジオラマは、商業施設である「秋田ベイパラダイス」(秋田市)内に設置された秋田洋上風力発電(AOW)の展示場「AOW風みらい館」で公開されている
(出所:日経BP)
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SEP船による工事を開始

 同事業は、2015年2月、秋田県が実施する「秋田港及び能代港における洋上風力発電事業者の公募」で丸紅が事業者として選定され、2016年4月に事業主体であるSPC「秋田洋上風力発電」を設立した。現在、同SPCについては丸紅に加えて大林組、東北電力、コスモエコパワー、関西電力、中部電力、秋田銀行、大森建設、沢木組、協和石油、加藤建設、寒風、三共の13社が出資している。

 株主からの出資金とメガバンクを中心に10以上の金融機関が参加するプロジェクトファイナンスによる借入金の合計で約1000億円を調達した。国内洋上風力発電事業向けのプロジェクトファイナンスとしても国内初の取り組みだ。

 同事業では2020年2月に陸上送変電設備の工事を開始。2021年1月から4月にかけては基礎部分を構成する「モノパイル」と「トランジションピース」をオランダ・ロッテルダムから5隻の船で輸送した。モノパイルとは30~40mほど海底面に根入れする鋼管杭で、オランダの鋼管メーカーでモノパイル大手のSif社製のものを採用した。トランジションピースとは、風車のタワー(支柱)とモノパイルを接続する部分で、ベルギーの鋼構造物メーカーであるSmulders社製を採用した。

 2021年5月に、「SEP船」を使った基礎工事を開始した。SEP船とは自己昇降式台船(Self Elevating Platform=SEP)のことで、4本の脚を海底に固定させて船体を持ち上げることで、波の影響を受けずにクレーン作業などが行える船を指す。

 今回は、英国の洋上風力据え付け大手Seajacks International(シージャックス)のクレーン能力800t吊級SEP船「Zaratan号」を用いた。シージャックスは2012年に丸紅が出資しており、同年に竣工したZaratan号は約10年間、欧州の洋上風力発電所建設現場で活躍、船員などを含めた欧州での経験を生かすべく本プロジェクトに投入された。自国の内航海運は自国船に限るというカボタージュ制度に対応するべく、同船は日本船籍を取得して今回の作業に当たっており、日本船籍取得などには商船三井が協力している(図3)。

図3●2021年5月にSEP船による洋上基礎工事に本格着工し、同年9月に完了した
図3●2021年5月にSEP船による洋上基礎工事に本格着工し、同年9月に完了した
(出所:秋田洋上風力発電)
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基礎の打設は日中に限定

 各風車の基礎となるモノパイルは、地盤調査の結果に基づき設置場所ごとに長さや重さがそれぞれ異なる“オーダー品”だ。水深が深い地点ではモノパイルの重量が大きいため、起重機船を併用してモノパイルを運び作業したという。

 SEP船でのモノパイルの打ち込み(打設)作業には、油圧ハンマーを用いる。欧州では24時間、昼夜問わず打設作業するのが一般的とされる。とにかく天候状況が良いときにできるだけ作業を進めるのが常識というわけだ。

 ところが秋田では、打設時に生じる金属音に対して地元住民から意見があった。今回は日本で初めての洋上ウインドファーム建設であり、場所も陸地に近い。地元住民への配慮は重要であり、風評が生じれば今後の洋上風力事業にも影響する。コストとしては数千万円~数億円のインパクトになるものの、苦渋の決断により、打設作業は日中だけに限定して実施した。

 陸上と比べると、海上での工事はちょっとした修正作業でも難易度が上がり、対応に時間がかかる。現場に生じる問題を克服しながら、モノパイルとトランジションピースを重ね、すき間にグラウト材を流し込んで固定する作業を終え、海底部の洗堀防止工事も実施した。洗堀防止とは、構造物周辺の地盤が潮流などによって流されてしまうことを防止するもので、地元石材を活用している。こうした基礎工事は2021年9月に完了した。

 2021年12月には、タワー、ナセル(発電機などを格納したタワー上の筐体)、ブレード(羽根)といった風車部材の搬入を開始した。いよいよ2022年からは、建設工事の最終段階とも言える風車の組み立てが始まる。今回、風力発電設備にはデンマークのヴェスタス(Vestas Wind Systems)製の出力4.2MWモデルを採用する(図4)。

図4●2021年12月に風車部材であるタワー11本を積載した第1船が中国・太倉港から秋田港に到着した
図4●2021年12月に風車部材であるタワー11本を積載した第1船が中国・太倉港から秋田港に到着した
(出所:秋田洋上風力発電)
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 まずは陸上で2パーツに分割されているタワー部分を組み立て、海上に運んで基礎にタワーを取り付ける。そこに、増速機やブレーキ装置、発電機などを収納するナセルを取り付け、さらにブレードを1枚ずつ取り付けていく計画だ。こうした風車の施工(据え付け)は2022年4~9月に予定している。据え付け後は順次、法定審査を受け、2022年12月には操業開始を予定する。

O&M事務所は能代、アクセス船を新造

 操業開始後の運用管理・保守点検(オペレーション・メンテナンス=O&M)に向けた事務所は、風車基数の多い能代港に配置する。O&Mは主に2つの分野に分けられる。1つは風車などの風力発電設備、もう1つは基礎などのそのほかの部分だ(図5)。

図5●AOW風みらい館に展示された能代港湾の風力発電所の完成予想ジオラマ。20基の風車を設置する
図5●AOW風みらい館に展示された能代港湾の風力発電所の完成予想ジオラマ。20基の風車を設置する
(出所:日経BP)
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 特に対応が必要となるのは風力発電設備で、当初はメーカー長期保証としてヴェスタスが担当する。一般的な風力発電設備と同様、同事業では秋田洋上風力発電がヴェスタスに対して稼働率保証としてメンテナンス保証料を支払うことで、ヴェスタスが発電可能な風況の際での稼働率を保証し、それを下回ると秋田洋上風力発電には損害金が支払われる仕組みを採用する。保証稼働率を維持できるよう、ヴェスタスは遠隔および現場モニタリングに20人ほどスタッフを確保し、能代港のO&M事務所などに配置する予定だ。

 従来、メーカー長期保証は5年が標準だったが、最近はメンテナンス保証料を抑えるなどの目的で少ない場合は2年になっているという。逆に状況の予測が難しい場合など、長いケースでは10年ほどになるとする。今回の事業でのメーカー長期保証の期間について、秋田洋上風力発電は明らかにしていないが、一定の長期保証期間後は自社で部品在庫を持ちつつ、メンテナンスについてはヴェスタスとスポット契約で対応する選択肢も持っているという。

 そのほかの部分については、基本的には20年間、定期的なメンテナンスで使用できるとしており、モニタリング作業が中心となる。こちらについては、関係する事業者に包括委託する予定だ。また、作業員を輸送するためのアクセス船(Crew Transfer Vessel=CVT)については、秋田港湾と能代港湾に対してそれぞれ1隻ずつを新造する。20年間という長期にわたり船員も確保する必要があり、地元の人材をフル活用する予定とする。

国内調達比率は約20%に留まる

 新規産業として注目を集める洋上風力発電では、国内サプライチェーン形成を目的として、ライフタイム全体での国内調達比率を2040年までに60%にするとの業界目標が掲げられている。これに対して、今回の事業の国内調達比率は20%程度と見積られている。陸上の送変電設備と海底ケーブルがほぼ日本製だが、いわゆる洋上発電に関する部分はほぼすべて海外製で、工事についてもSEP船は海外企業を利用しているからだ。

 国内調達比率60%を達成するには、まだしばらく時間がかかりそうだ。例えば風車については、2021年5月にGEリニューアブルエナジーと東芝エネルギーシステムズが戦略的提携契約の締結を発表しているものの、実際にナセルの組み立てが日本で行われるようになるには少し先になるとみられる。ただし、こうした風車の組み立てに加えて、基礎部分とモノパイル、SEP船などを日本製にできれば、国内調達5割以上は達成できるのではないかと期待され、目標に向けた見通しは立ちそうだ。

 欧州では洋上風力の買取価格が約10年前の30円/kWhから10円/kWhを切るなど、急激に低下している。日本の場合も、国内調達率を上げることで設備に関する輸送コストが下がり、洋上風力の価格低減へとつなげられる可能性がある(図6)。

図6●飯島サンセットパークから見られる陸上風力発電施設。秋田港周辺は秋田潟上ウインドファームなど、陸上風力発電施設が集中している地域で、風力関連産業の集積も期待される
図6●飯島サンセットパークから見られる陸上風力発電施設。秋田港周辺は秋田潟上ウインドファームなど、陸上風力発電施設が集中している地域で、風力関連産業の集積も期待される
(出所:日経BP)
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今後の風車大型化に課題

 今回採用した風力発電設備はヴェスタス製の4.2MWモデルで、地上からブレード最高点までの高さは150mとなり、秋田港にある「ポートタワーセリオン」(高さ143m)よりも巨大な建造物となる(図7)。

図7●秋田港のポートタワーセリオン。奥には近隣の陸上風力発電設備が見える。秋田港湾の洋上風力発電設備はこれらよりもさらに大きい
図7●秋田港のポートタワーセリオン。奥には近隣の陸上風力発電設備が見える。秋田港湾の洋上風力発電設備はこれらよりもさらに大きい
(出所:日経BP)
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 秋田港周辺は陸上風力発電所が立ち並ぶ区域で、高さ80~100mの2~3.2MWの風車が林立しており、今回の洋上風力発電設備はそれらよりも大きいことになる。ただし、近年大型化が進む洋上風力発電設備としては一般的なもので、計画時点でも最大級ではなかった。

 最大級のモデルを選ばなかった理由として、秋田洋上風力発電 代表取締役社長の岡垣啓司氏は「系統接続できる容量が決まっている中、風車の分散による故障などのリスク低減のほか、高さや周囲の陸上風車への影響も勘案し、総合的に判断した」とする。港湾など陸上での取り回しを考えても、現状の秋田港では4.2MWモデルが最適だったようだ。

 今後の風車のさらなる大型化に向けては課題がありそうだ。秋田県沖の一般海域には洋上風力発電に適した主な海域が4つあるとされている。すでに「由利本荘市沖」と「能代市、三種町及び男鹿市沖」は事業者選定中のほか、今年9月に「八峰町及び能代市沖」が促進区域になり12月10日から公募が開始された。また、「男鹿市、潟上市及び秋田市沖」が有望区域に選定されている。

 こうした洋上風力発電所の建設においても、秋田港が建設のための拠点港になる可能性がある。すでに風車メーカーは1基で10MWのモデルも製品化しており、国内の洋上プロジェクトでも、発電コスト削減のためこうした大型機を採用する動きもある。

 10MW級の大型発電設備を採用する場合は、基地港湾の地耐力を補強する必要が生じる可能性もある。加えて、現在国内に1300t吊級クレーンなどのインフラが数台しかないなど、重機の制限についても考慮する必要があるとみられる。