新エネ・システム最前線

「太陽光・風力の急増で、系統蓄電池によるサービス事業が拡大へ」、日本工営の秋吉副社長に聞く

日系企業5社、英国で合計100MWのプロジェクトを開始

2022/01/27 19:00
金子憲治=日経BP総研 クリーンテックラボ

日本工営、TMEICなど日系企業5社は、英国で大規模な蓄電池を使った系統安定化サービスに乗り出す。英国の2カ所で合計約100MWの蓄電池を電力系統に接続し、再生可能エネルギーの増大により不安定になる需給バランスを安定化させるサービスなどを行う。同プロジェクトを主導する日本工営の秋吉博之・代表取締役副社長に、今後の大容量蓄電池によるビジネスモデルの方向性、そのなかでの日本工営の戦略などについて聞いた(関連記事:「系統蓄電池に求められる高速制御、0.5秒の応答性を実現」、TMEICの澤田執行役員に聞く)。

蓄電池がサービスを提供

日本工営の秋吉博之・代表取締役副社長
日本工営の秋吉博之・代表取締役副社長
(撮影:清水盟貴)
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――日本では、メガクラスの大容量蓄電池というと、固定価格買取制度(FIT)で北海道に設置されたメガソーラー(大規模蓄電池)や大型風力発電所に併設したケースのほか、国の実証事業で電力会社が変電所内に設置するなど、補助金が前提の設備です。英国の事業では、100MWもの蓄電池システムが民間資金だけで事業性を確保できるのですか。

秋吉 北海道の大規模な再生可能エネルギーに併設された大型蓄電池は、太陽光や風力を系統に接続する条件として一般送配電事業者から求められたものです。また、北海道や福岡県、福島県の変電所内に設置された大型蓄電池は、一般送配電事業者が自社の需給調整のために使っています。いずれも蓄電池だけで事業を行うものではありません。

 それに対し、今回公表した英国での蓄電池プロジェクトは、電力系統に単独で接続する「系統蓄電池」で、収益源は、卸電力市場を使った取引や、需給調整機能などを系統運用者に提供して対価を得るものです。

 卸電力市場を使った取引では、安く買って高く売る「裁定取引」を行い、差益を得ます。一方、充放電による調整力の提供先は系統運用者になりますが、こちらも制度上、市場を介した入札になります。周波数安定化など短周期変動に対応したアンシラリー市場や、将来の供給力を確保する容量市場などが創設されており、これらの市場を活用します。

 こうした裁定取引やアンシラリーサービス、需給調整市場は、出力の変動する太陽光と風力発電の比率が高まるほど必要性や活用頻度が高まり、こうした仕組みを機動的に利用できる系統蓄電池の事業性が向上します(図1)。

図1●英国でのプロジェクトイメージ。アグリゲーターを通して、さまざまな市場にサービスを提供する
図1●英国でのプロジェクトイメージ。アグリゲーターを通して、さまざまな市場にサービスを提供する
(出所:日本工営)
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英国では1.25GWが系統に連系

――日本でも太陽光が急増している中、なぜ、英国で系統蓄電池に投資するのですか。

秋吉 英国では、太陽光と風力を合計した変動性再生可能エネルギー(Variable Renewable Energy:VRE)の電源構成に占める割合が、すでに26%程度に達しています。これに対し、日本のVRE比率は、増えたといってもまだ9%程度です。

 IEA(国際エネルギー機関)は、VREの比率による電力系統へのインパクトを分析しており、20%を超えると、系統運用の安定性が問題になり、エネルギー貯蔵技術の必要性が高まると予測しています。英国では系統蓄電池の導入量がすでに1.25GWに達し、この分野で世界をリードしていますが、その背景には、VRE比率の高さがあります。

 英国では、系統の安定運用をサポートする各種電力市場が創設されており、系統蓄電池の事業性が高まっています。こうした制度面の進んでいる地域で、系統蓄電池の制御ノウハウなどの経験を積むことが大きな狙いです。

日本工営の秋吉博之・代表取締役副社長
日本工営の秋吉博之・代表取締役副社長
(撮影:清水盟貴)
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――日本工営は、「系統蓄電池」にどんな形で取り組んできたのですか。

秋吉 もちろん、いきなり100MWの事業を始めるわけではありません。英国では、まず2017年10月と2018年2月に系統蓄電池によるサービス事業に出資しました。6MWと4MWの蓄電池システムです。2018年に投資したプロジェクトでは、日本工営の開発したエネルギー管理システム(EMS)を蓄電池システムに納入しました。

 2018年6月には、ベルギーのアグリゲーターであるYUSOと提携して蓄電池事業の開発を目指し始め、同年12月には、同社に出資しました。2019年には9MWの蓄電池システム2件のEPC(設計・調達・施工)サービスを手がけました。

 こうした実績を背景に2018年12月、オランダ・ロッテルダムにNippon Koei Energy Europe(NKEE)を設立し、ここを拠点に、アンシラリーサービス事業など系統蓄電池による事業開発や建設、投資案件の発掘に乗り出しました。

 今回、発表した約50MWの蓄電池システム2件、合計約100MWの系統蓄電池によるサービス事業は、もともと英企業が開発し始めたプロジェクトを引き継ぎ、こうした事業に必要な技術やノウハウを持った日系企業に声をかけました。東芝三菱電機産業システム(TMEIC)、芙蓉総合リース、テスホールディングス、東京センチュリーと共同出資で進めています。2021年12月に着工し、2023年初頃の商用運転を目指します。

 NKEEがプロジェクト開発からEPCサービス、運営を担当し、設備面では、TMEICが蓄電池と蓄電池用パワーコンディショナー(PCS)などの蓄電池システムを構築し、日本工営が制御システムを供給します。実際の運用では、卸電力市場やアンシラリー市場など各種市場とのやり取りは、出資しているアグリゲーターのYUSOが担当します。

 50MWの蓄電池システムを2カ所というのは大きなプロジェクトですが、米加州では1サイトで300MW、オーストラリアでも1サイトで150MWの系統蓄電池が稼働中など、世界ではさらに大容量化が進んでいます。TMEICは、日本国内では最大となる約50MWの蓄電池システムを北海道で構築するなど実績があります(図2)(関連記事:八雲町に姿を現した国内最大の「蓄電池併設メガソーラー」)。

図2●共同出資する東芝三菱電機産業システム(TMEIC)が構築した出力52.5MWの蓄電池システム。北海道八雲町にある約100MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)に併設したもので、定置型蓄電池としては国内最大
図2●共同出資する東芝三菱電機産業システム(TMEIC)が構築した出力52.5MWの蓄電池システム。北海道八雲町にある約100MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)に併設したもので、定置型蓄電池としては国内最大
(出所:日経BP)
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英国では「蓄電ファンド」も登場

――新しい事業だけにファイナンスには苦労しませんでしたか。

秋吉 まさに系統蓄電池によるサービス事業では、ファイナンスが大きな壁になっています。再エネのFITのように長期間、固定単価で収入を得られる事業と違い、系統蓄電池は各種市場が相手になります。市場から得る収入のことを「マーチャント収入」と呼び、これは、日々の市場の動きに影響され、リスク・リターンが高いという特徴があります。

 こうした「マーチャント収入」でプロジェクトファイナンスを組成するためには、将来価格を予想できるほど成熟した自由化市場が前提になります。しかし、英国でさえ、こうした市場は始まったばかりです。今回の100MWのプロジェクトでは、エクイティ(資本金)の比率を高くし、出資者でもある芙蓉総合リースが融資を引き受けてくれました。

 実は、NKEEは、英国での100MWプロジェクトと並行して、ベルギーで25MWの系統蓄電池プロジェクトを進めています。こちらは、再エネを中心に投資を行う独アキラ・キャピタル(Aquila Capital)との共同出資で、融資を受けず、全額出資金で賄います。

――英国の系統蓄電池によるサービス事業は、実際のところ、ビジネスとして安定収益を得られているのでしょうか。

秋吉 すでに述べたように英国では1.25GWの系統蓄電池が送電網に接続され、各種市場から得られる「マーチャント収入」で収益を上げています。それが結果的に系統の安定運用に寄与しています。実は日本工営が2018年に出資した蓄電池は、その後、系統蓄電池によるサービス事業に投資する「蓄電ファンド(Gore Street Energy Storage Fund)」に組み入れられました。この蓄電ファンドはロンドン証券取引所に上場しており、投資家に安定的に配当し、投資先として人気を得ています。

日本工営の秋吉博之・代表取締役副社長
日本工営の秋吉博之・代表取締役副社長
(撮影:清水盟貴)
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火力の「慣性力」も蓄電池が提供

秋吉 英国の系統蓄電池がサービスを提供できる市場には、充放電のタイミングが長い順に、容量市場、卸取引市場、需給調整市場、アンシラリー市場があり、短時間のサービスになるほど、収益性が高くなっています。英国では、2020年10月から、従来のアンシラリー市場に加え、DC(Dynamic Containment=動的封じ込め)市場がスタートし、これは火力発電所の持つ慣性力(周波数を維持する機能)を補う役割を持ち、瞬時に応答する機能を提供します。最近では、英国の系統蓄電池事業にとって、このDC市場が最大の収益源になっています。充放電が短くなるほど、価値が高いのは、それだけ高度な技術が必要になるからです。

 アグリゲーターは、これらの市場の動きを読みつつ、その時々で最も収益性の高い市場を選んで、蓄電池を運用することになります。こうしたノウハウは、資本提携しているYUSOとともに実際に運用する中で学んでいきたいと思います。

 英国では2016年に系統蓄電池によるサービスが始まり、2017年には200MWを超える蓄電池が参入し、順調に収益を上げました。これを見て2018年にはサービスを提供する蓄電池が450MWを超え、過当競争から収益が下がりました。しかし、2019年以降、サービス提供できる市場が増えるとともに、太陽光・風力の増加で各市場の規模が大きくなったため、系統蓄電池は1GWを越えましたが、安定的に収益を出しています。

 こうした英国の系統蓄電池を巡る市場環境の変遷を見ると、一時的に過当競争になりつつも、太陽光・風力の急増と、それに対応して系統安定化のための各種市場が立ち上がっていくことで、系統蓄電池によるサービス市場は着実に伸びていくことが分かります。これと並行して蓄電池の技術革新でコストが低下していくことが予想されます。

 日本では、現時点で卸取引市場による売買だけでは系統蓄電池の事業性はありませんが、2021年度からの調整力市場の運用開始に加え、2024年度からは容量市場の運用が始まります。このあたりから、系統蓄電池の市場性が出てくると見ています。

「ゼロエミ火力」より低コスト

――日本工営としては、系統蓄電池でどんなビジネスモデルを想定していますか。

秋吉 日本工営は、蓄電池システム自体は手掛けていませんが、全体を制御するシステムを開発し、サービス事業の開発から、EPCサービス、そして運営まで一気通貫で担えます。英国のプロジェクトでは、出資者としてサービス事業を行いますが、今後は、投資家としての立ち位置よりも、周辺ビジネスを担うことで、コンサルティングやエンジニアリングなど、本業の1つとして拡大していくイメージを持っています。

 「系統蓄電池」といっても、日本ではまだほとんど知られていませんが、ブルームバーグの予測では、2030年には全世界で出力358GW、容量1028GWhもの設備が導入される見込みです。市場としては、米国と中国で半分以上を占め、インド、オーストラリア、英国、ドイツ、そして日本が有望市場とされています。

 先行する英米では、すでに1GWを超えており、両市場では今後わずか4年で10倍の導入量になると予想されています。エネルギー業界では、2020年代を「エネルギー貯蔵の10年」になるとの見方もあります。

――日本では、太陽光・風力の急増に伴う系統安定化対策として、水素やアンモニアを燃料に使った火力発電で需給バランスを維持する手法が期待されています。こうした「ゼロエミッション火力」は、系統蓄電池の役割を抑制する可能性もあります。

秋吉 カーボンニュートラルと水素・アンモニア利用を両立するには、再生可能エネルギーで製造した水素を起点とするか、化石資源由来の水素の場合、CCS(CO2の分離・回収・固定)が前提になります。いずれにしても海外でこうしたCO2フリー水素・アンモニアを製造して日本に運んできた場合、コストはかなり高くなるはずです。

 電力会社がこうした燃料を増やした場合、火力の発電コストが上がりますし、アンシラリー市場や需給調整市場にゼロエミション火力が参加した場合、今後、継続的に導入コストの下がっていく系統蓄電池に入札で勝てないでしょう。

 世界的に太陽光・風力の出力変動を系統蓄電池で補完していく電力システムが主流になっていくなか、太陽光・風力発電、そして蓄電池システムは、巨大な量産効果でさらにコストが下がっていくことは確実です。日本だけが「ゼロエミション火力」を推進しても、そのコスト削減には限界があると思います(関連記事:「系統蓄電池に求められる高速制御、0.5秒の応答性を実現」、TMEICの澤田執行役員に聞く)。

日本工営の秋吉博之・代表取締役副社長
日本工営の秋吉博之・代表取締役副社長
(撮影:清水盟貴)