新エネ・システム最前線

隠岐に見る「系統用蓄電池」の実際と成果、再エネ・出力抑制を回避

短・長周期変動を緩和、最小需要を上回る再エネを受け入れへ

2022/05/17 05:00
金子憲治=日経BP 総合研究所 クリーンテックラボ

NASとリチウム電池を併用

 太陽光・風力発電という変動性の再生可能エネルギーの大量導入が始まり、その調整力として、大型蓄電池への期待が高まっている。経済産業省は、電気事業法を改正して、系統用蓄電池の位置づけを明確にし、発電事業の1形態として、普及を促す方針を示している。

 こうした背景には、大型蓄電池を系統に直接、送電線に接続することで、系統運用の安定化に貢献できることが、技術的に確立できたことがある。

 そうしたケースの1つが、島根県の隠岐諸島で稼働している「ハイブリッド蓄電池システム」だ。出力6.2MW、容量25.9MWhもの大型蓄電池を島内の変電所内に設置し、電力系統に直接、連系して運用する系統用蓄電池だ(図1)。

図1●隠岐諸島に導入した日本ガイシ製のNAS電池
図1●隠岐諸島に導入した日本ガイシ製のNAS電池
(出所:日経BP・2016年に撮影)
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 「ハイブリッド蓄電池システム」は、中国電力が2015年9月から2019年3月31日まで実証として運営し、それ以降、同社から分離した中国電力ネットワークが引き続き、運用している。実証事業は、環境省の補助事業「CO2排出抑制対策事業費等補助金(離島の再エネ導入促進のための蓄電池実証事業)」の採択を受けて実施された(図2)。

図2●隠岐諸島に導入したGSユアサ製リウムイオン電池
図2●隠岐諸島に導入したGSユアサ製リウムイオン電池
(出所:日経BP・2016年に撮影)
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 中国電力ネットワークは、実証終了後にその運用の成果を公表した。そして、こうした蓄電池の機能を生かすことで、島の昼間最低需要である約10MWを超える11MWもの再エネ設備を、受け入れられるめどが立ったと発表した。

 同システムは、出力4.2MW、容量25.2MWhのNAS(ナトリウム硫黄)電池と、出力2MW、容量700kWhのリチウムイオン電池を併設したことが大きな特徴で、NAS電池は日本ガイシ製、リウムイオン電池はGSユアサ製、これらを充放電制御する双方向型パワーコンディショナー(PCS)は東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製を採用した(図3)。

図3●リウムイオン電池を充放電制御する東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製パワーコンディショナー(PCS)
図3●リウムイオン電池を充放電制御する東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製パワーコンディショナー(PCS)
(出所:日経BP・2016年に撮影)
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 加えて、特徴的なのが、系統の安定運用の上で課題となる、再エネの「長周期変動」と「短周期変動」の両方に対応していることだ。長周期変動とは、数時間レベルの出力変化で、需給ギャップが大きくなると、系統維持が困難になることもある。短周期変動とは秒単位の出力変動で、周波数の変動につながる。「ハイブリッド蓄電池システム」は、長周期変動をNAS電池で、短周期変動をリチウムイオン電池で緩和するシステム構成を採用した。両電池の特性に応じて使い分けることで、費用対効果を高めたとしている。

 国内の離島では、系統運用の安定化のためにMWクラスの蓄電池を導入しているケースは多いが、そのほとんどが短周期変動に対応したもので、隠岐諸島のように長周期変動にも対応して、再エネの導入量を増やすことにつなげた例は珍しい。

FITで再エネが2倍以上に

 隠岐諸島は、本土から約50kmの日本海に浮かぶ離島で、4つの大きな島からなる。最も大きな島を島後(どうご)、西南の3島を島前(どうぜん)と呼ぶ。これらを合わせた総面積は350km2で、約1万9600人が暮らしている(2020年3月現在)。

 島の産業は農水産のほか、「ユネスコ世界ジオパーク」に認定されている貴重な地質資源や2人の天皇が流れ着いた歴史など、観光資源も豊富で訪れる人も多い。

 本土の送電網とはつながっていない独立系統で、島後に出力約25.3MW、島前に約7.3MWの2カ所の火力発電所(ディーゼルエンジン発電機)がある。電力需要のピークは、かつて約28MWだったが、人口減少などにより、ここ数年は約24MWになっている。年間の最小需要も10MW程度まで減っている(図4)。

図4●島前の西ノ島にある黒木発電所ではディーゼル発電設備が稼働する
図4●島前の西ノ島にある黒木発電所ではディーゼル発電設備が稼働する
(出所:日経BP・2016年に撮影)
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 一方、再生可能エネルギーは、固定価格買取制度(FIT)スタート前から風力(1.8MW)と水力(0.3MW)、住宅用太陽光(0.8MW)を合わせ約3MWが稼働しており、FITによって2つのメガソーラー(合計3MW)と風力発電(2MW)が稼働したことで、約8MWに達している。だが、2022年5月時点で、出力制御(出力抑制)は一度も実施していない。

 実は、さらにメガソーラーと住宅用太陽光が連系申し込み済みで、合計2.5MWの再エネが新規に増加する。これらを加えると隠岐諸島の再エネは約11MWまで拡大する見込みで、中国電力ネットワークはこれを受け入れる方針だ。最小需要を超える再エネ設備の接続を可能にしているのが、実証事業で導入した大型蓄電池の存在だ。

隠岐では「出力制御」回避

 そもそも現在の再エネ導入量である8MWの水準でも、大型蓄電池がなければ、すでに出力制御が必要になっているとみられる。

 というのは、系統運用では、再エネの出力増に合わせて、火力発電の出力を落としていくが、出力低下の度合いには限界がある。運用上、ディーゼルエンジン発電機の定格出力に対して部分負荷運転は50%が限界とされている。それ以上に下げると、仮に再エネ出力が急低下した場合にスムーズな出力アップが難しくなったり、機械的に不具合が起きやすくなったりするなどの問題が出てくる。

 隠岐諸島の系統では、火力発電の昼間での最低出力は運用上、5~6MWなので、昼間最小需要である約10MWとなった場合、再エネは残りの4~5MWしか活用できない。すでに約8MWの太陽光・風力が稼働中なので、晴天で風が吹けば、容易に5MWを超えてしまう。その場合、出力制御指令を出して、再エネ事業者に出力抑制を依頼することになる。

 そうなっていないのは、出力4.2MW、容量25.2MWhのNAS電池で、こうした需給ギャップをカバーしているからだ。大型蓄電池で長周期変動に対応している効果だ。

 実は、隠岐諸島と同様、本土と独立した系統を運用する長崎県の壱岐島では、すでに出力制御が頻繁に実施されている。壱岐島の昼間最小需要は約13MW(2011年度)で、FITによって約8MWの太陽光が連系した2016年から九州電力が出力制御を実施している。壱岐島には、2012年度に出力4MW、容量1.6MWhの系統用蓄電池が導入されたが、これは短周期変動対策が目的で容量が少ないため、時間単位の需要の平準化には利用できない。

 再エネに対する出力抑制に関し、隠岐諸島と壱岐島の明暗を分けているのは、蓄電池を活用した長周期対策の有無といえる(図5)(図6)。

図5●長周期変動対策で使われる日本ガイシ製のNAS電池
図5●長周期変動対策で使われる日本ガイシ製のNAS電池
(出所:日経BP・2016年に撮影)
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図6●NAS電池を充放電制御するTMEIC製PCS
図6●NAS電池を充放電制御するTMEIC製PCS
(出所:日経BP・2016年に撮影)
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火力と蓄電池を協調制御

 隠岐諸島のハイブリッド蓄電池システムが、長周期変動と短周期変動に見事に対応している様子は、中国電力ネットワークが実証の効果として公表した2018年4月22日の蓄電池と火力発電(内燃力)の協調制御例を見るとよくわかる。

 この日は、空調需要がない春季の昼間最小負荷期にあたり、昼の総需要は約11MW、それに対して、供給側は、10時から12時頃まで太陽光を主体にした再エネ出力が6MW程度まで伸びた。再エネの出力上昇に応じて火力発電の出力を7MW程度まで落としつつ、余剰電力である約2MWをNAS電池に充電することで、需給をバランスさせた。

 NAS電池に充電した電気は、夕方の需要ピーク時間帯に放電することで、火力の出力を抑えつつ、翌日の余剰電力に備えて空き容量を確保するような運用になっている。

 一方、短周期変動に対応するリチウムイオン電池の運用は、周波数変動を打ち消すように、充放電を繰り返しつつ、周波数の変動幅を、60Hzを基準に一定の偏差に収めることに成功している(図7)。

図7●2018年4月22日における蓄電池と火力発電の協調制御例
図7●2018年4月22日における蓄電池と火力発電の協調制御例
(出所:中国電力ネットワーク)
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 また、2018年10月29日の協調制御例を見ると、午前中に晴れから曇り、午後には雨と天気が急変した場合でも、長周期と短周期の変動に機敏に対応して充放電を行い、需給バランスを維持しつつ、周波数を既定の範囲内に維持していることが分かる。

 この日、日中の需要は11~12MW程度、供給側は、午前中に太陽が雲間を見え隠れするような状況で、太陽光発電の出力が激しく変動した。この間、火力は7MW程度まで出力を落とし、NAS電池は充電制御、短周期変動に対応するリチウムイオン電池は、小刻みに大きく充電と放電を繰り返しつつ、周波数変動を抑制している。

 午後には雨となり太陽光発電の出力が急低下したため、火力発電が10MW程度まで出力アップ、同時にNAS電池も放電側に転換している。太陽光発電の割合が大きくなった場合、天候の急変にいかにスムーズに対応するかが大きな課題だが、火力発電と蓄電池の協調制御でうまく乗り切っている(図8)。

図8●2018年10月29日における蓄電池と火力発電の協調制御例
図8●2018年10月29日における蓄電池と火力発電の協調制御例
(出所:中国電力ネットワーク)
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火力の焚き減らしでCO2削減

 中国電力ネットワークは、実証期間中の周波数の変動状況を公表している。それによると、60.0Hz近傍に制御された割合は、蓄電池導入前には20%程度だったのに対し、蓄電池導入後には、再エネが2倍以上、連系したにもかかわらず60%近くまで増えている。周波数の安定度合いが格段に高まっている(図9)。

図9●周波数の滞在時間分布
図9●周波数の滞在時間分布
(出所:中国電力ネットワーク)
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 また、2018年度における蓄電池導入によるCO2削減効果は、年間で約6100tと試算している。これは、NAS電池による長周期変動の緩和に伴い、太陽光と風力の余剰電力を貯めておき、需要ピーク時に放電して火力発電の燃料を節約した効果になる。

 今後、島内の再エネ設備量が、11MWまで増えた場合、こうしたCO2削減効果は、年間で8800tまで増加すると試算している(図10)。

図10●CO2排出量の削減効果
図10●CO2排出量の削減効果
(出所:中国電力ネットワーク)
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 NAS電池とリチウムイオン電池を併用した効果に関しては、導入時と運用時の両方に利点があるという。導入費用を比較すると、出力(kW)当たりの単価の安さではリチウムイオン電池に、容量(kWh)単価の安さではNAS電池に優位性があったため、すべてNAS電池にするケースに比べ、導入コストを約25%節約できたという。

 また、運用面では、NAS電池の場合、つねに300度程度にヒーターで加温する必要があるため、所内電力を多く消費してしまう。リチウムイオン電池の併用でNAS電池の容量を減らせたことで、所内電力の消費を約30%削減できたという。

EMSで一元的に自律制御

 中国電力ネットワークでは、ハイブリッド蓄電システムの導入に合わせて、島内系統全体の需給運用を一元的に管理するEMS(エネルギー管理システム)を構築した(図11)。

図11●EMSによる蓄電池と火力の協調制御イメージ(出所:中国電力ネットワーク)
図11●EMSによる蓄電池と火力の協調制御イメージ(出所:中国電力ネットワーク)
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 中国電力ネットワークは、従来から隠岐諸島の火力発電所にAPC(プラント自動制御装置)を導入しており、無人での稼働を実現していた。ディーゼル発電機はAFC(自動周波数制御)運転を基本に運用しており、系統の周波数を監視しながら、60Hzを基準に一定の偏差に収まるように自律的に出力制御している。

 今回導入したEMSは、隠岐諸島全体の電力需要と再エネの発電量を予測しつつ、火力発電のAPCと連係し、周波数変動の抑制と需給バランスの改善に必要な出力調整量を、ディーゼル発電機と蓄電池に最適に配分して、指令を出すことになる。

 具体的には、メガソーラーと風力の発電出力のデータをリアルタイムで収集し、それらの合計出力の短周期変動分を相殺するようにリチウムイオン電池のPCSに充放電制御の指令を出す。一方、NAS電池のPCSに対しては、島全体の電力需要と再エネの発電量を予測し、太陽光の発電量分を充電し、夜間に放電するパターンを基本に充放電指令を出す。

 FITでは、かつて「30日等出力制御枠」を設定し、その枠内での再エネ設備の系統連系であれば年間最大30日の出力制御となり、同枠を超えての連系では無制限無補償での出力制御になるという仕組みだった。2021年4月にこの仕組みは撤廃され、同月以降の接続申込の場合、すべて無制限無補償の出力制御となった。

 中国電力ネットワークでは、新制度に移行する以前、隠岐諸島の「30日等出力制御枠」を太陽光6.7MW、風力6.18MWに設定していた。つまり、この設定していた値までの接続量であれば、30日以内の出力制御が前提となっていた。今後、再エネへの出力制御が実施される状況になった場合、EMSの制御改善などで、どこまで出力制御を減らせるのか、さらにその先、さらに再エネを受け入れてCO2削減効果を最大化できるのか、注目される。