480MWの「宇久島プロジェクト」、8月にようやく着工!

主体が九電工に代わり、土地や許認可の準備を急ぐ

2019/08/01 07:10
加藤 伸一=日経BP総研 クリーンテックラボ

 長崎県佐世保市・五島列島の最北端に位置する宇久島(図1)。同島で計画されている国内有数の巨大な太陽光発電プロジェクトが着工に向け、大詰めを迎えている。8月中の着工を目指している。

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図1●五島列島の北端に位置する宇久島
(出所:上は京セラ、下は日経BP)
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 出力は約480MWに達し、国内のメガソーラー(大規模太陽光発電所)で最大規模になる。国内外の大手企業が参画しながら、土地の取りまとめや許認可などにも苦労し、なかなか着工に至らなかった。

 経済産業省は、固定価格買取制度(FIT)の開始初期に認定を取得し、未稼働になっている案件については、一定の条件をクリアしない場合、買取価格を大幅に下げたり、運転開始期限を設定したりする制度変更を実施した。これによって事業性が低下したプロジェクトのなかには、計画を断念するケースも出てくると見られる。

 こうしたなか、規模の大きな未稼働案件の象徴的な存在である「宇久島プロジェクト」の成り行きに関心が集まっていた。

 プロジェクトを牽引するのは、国内のメガソーラー開発をリードしてきた九電工と京セラ。両社ともに、公式には、「事業化を検討している最中で、事業化を決定してはいない」としているものの、8月末までの着工を目指し、着々と準備を進めている。

 8月中に着工する必要があるのは、経産省が2018年秋に打ち出した「未稼働案件への措置」である、FITの当初3年間の認定分を、その買取価格のままで売電する権利を確定できる期限だからである(関連ニュース:経産省、太陽光・未稼働案件への措置を修正、着工済み「特高」に配慮)。

 9月以降に着工がずれ込むと、2012年度認定分の40円/kWh(税抜き:以下同)、2013年度の36円/kWh、2014年度の32円/kWh は、21円/kWhに買取価格が引き下げられる。さらに、翌年に着工がずれ込めば、18円/kWhに買取価格が引き下げられる。

 買取単価が約半分に引き下げられれば、事業性に大きく影響する。

 経産省がこの措置を新たに加えたことで、8月は40円~32円/kWh案件の最後の着工ラッシュを迎えることが予想されている。太陽光パネルメーカー各社も、この需要を受けて、9月以降の約2年間、国内向けの出荷量が急増することを明らかにしている。

 宇久島のプロジェクトも、この期限ギリギリで着工する案件となりそうである。実現できれば、40円/kWhの売電単価を維持しつつ事業化できる。ただし、工事期間は4~5年間を見込んでいるため、経産省が設定した運転開始の期限によって、売電期間が20年よりも3~4年間短くなる。

 宇久島の案件は、調整に時間を要するプロジェクトであることから、当初から経産省に定期的に進捗を報告しながら進めていた。経産省が求める諸条件に関わる関係者とも、適切に調整できているとしている。

 とはいえ、経産省が打ち出した措置の当初の案では、事業化の断念に追い込まれることを覚悟する局面もあったという。その後、大規模案件には一定の救済措置がとられることが決まり、これによって事業化できる可能性が広がったようだ。

佐世保の拠点は「事前調整担当」から「工事担当」に

 8月中の着工を目指して、6月初旬には、プロジェクトの発電事業者となる「宇久島みらいエネルギー合同会社」の事務所が、長崎県佐世保市に開設された。

 これまでは、プロジェクトを主導している九電工が、佐世保市に「宇久島事業開発支社」を置き、その名の通り、事業開発のための準備や調整を進めてきた。

 事業開発のための準備のうち、土地の取りまとめや土地関連の許認可では、日本の多くのメガソーラーと同じように、多くの困難があったようだ。

 例えば、用地の所有者の数が多く、土地の権利を取りまとめるのに難航した。公的な建物が建っている土地が、調べてみると私有地で、登記せずに建設し、そのままとなっていたなど、登記や取引、相続などを調べて正した上で借りる必要があるものの、それぞれの当事者が不慣れなど、遅々として進まないような状況もある。

 6月に発電事業者の事務所を開設したことは、佐世保での準備の中心が、事前の手続きから、現地での工事に移ったことを意味する。

 事務所の開設を境に、佐世保に駐在している担当者の顔ぶれは、事前手続きを担ってきた担当者から、実際の工事の計画策定や実行を担う担当者に代わりつつある。

 同じ土地関連の手続きであっても、賃貸借や林地開発、農業振興地域からの除外、農地転用などの許認可、海底ケーブルによる送電に関する漁業組合など関連団体との調整、といった段階から、これらを踏まえて、どの土地にどのように太陽光発電設備を設置するのか、具体的に落とし込んでいく作業に、主軸が変わっている。この作業を、佐世保に入った工事関係の担当者が進めている。

 林地開発や農振除外、農地転用などの許認可の手続きも、終わったわけではない。他に例を見ない大規模案件だけに、林地や農地に関連する官庁や地方自治体が、手続きの進め方に慎重になっている面があるようだ。先方の要請通りに申請した後に、これまでにない内容の指摘があり、修正して、再申請するといったプロセスが続いているという。

 こうした準備を経て、8月中に事業化が決定され、電力会社からの連系承諾、活用する土地の所有や賃借関連、林地開発や農地転用といった許認可関連などを揃えて経産省に届け出た後、いよいよ着工となる。

 7月中旬に宇久島を訪問したところ、現地では、このプロジェクトの施工に関連した地盤調査(ボーリング調査)も実施されていた(図2)。

図2●宇久島の南西端でボーリング調査を実施中
(出所:日経BP)
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主体がフォトボルトから九電工に

 宇久島の太陽光発電プロジェクトは、宇久島出身で現在は山口県に拠点を置く不動産会社の役員が旗振り役となり、始動した。この役員は、発電事業者の主体が変わる中でも、土地のとりまとめに関わり、島の地権者と発電事業者を結び付けている。

 五島列島というと、キリスト教関連の施設や遺跡、美しい海や料理などに代表される観光地というイメージが強い。

 しかし、宇久島には、キリスト教関連の史跡は少ないとされ、他の観光資源にもそれほど恵まれていない。旅館は島内に3軒ほどで、飲食店も限られる。見かける店舗はほぼ、食材や生活資材、燃料などを扱うものに限られる。このように、観光で潤う島ではなく、島民は他の地域に流出しがちで、過疎化が進んでいる(図3)。

 逆にいうと、古くからの日本の島の風景や、手つかずの自然環境が多く残る場所となっている。

 

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図3●島の中心部、宇久平港の周辺の様子
風力発電の開発会社の事務所もある(出所:日経BP)

 宇久島にとって、巨大な太陽光発電プロジェクトが立地する利点は、雇用機会や交流人口の増加によって、こうした課題を少しでも改善できることである。

 出力480MWという規模の太陽光発電所の維持や管理には、日常的に人手を要する。これによる雇用が生まれ、これまでならば島を離れていた若者が、島に留まって従事する、あるいは、他の地域から島に移住して従事するといった理想的な展開も期待できる。

 また、島に滞在する関係者が多くなることから、宿泊や飲食をはじめ、さまざまな島内経済への波及効果も見込める(図4)。島内の関係者たちは、こうした島内経済の活性化、島の再生につながると考え、プロジェクトを後押ししてきた。

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図4●新たに開店したコインランドリー店
地元の関係者によると、メガソーラー関連の需要を狙った開店のようだという(出所:日経BP)
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 当初、宇久島のプロジェクトを事業主体となって進めてきたのは、ドイツの太陽光発電開発会社であるフォトボルト・デベロップメント・パートナーズ(PVDP)だった。同社は2013年4月から手掛けてきた。

 2014年6月には、フォトボルトのほか、九電工と京セラ、みずほ銀行、オリックスの5社が協力し、この営農型プロジェクトの検討を進めていくことで基本合意したと発表していた(関連ニュース:基本合意、 同ニュース:連系承諾)。

 その後、大きな転換を迎える。フォトボルトやオリックスが抜け、九電工が主体となる枠組みに代わった。2018年1月に、この新たな体制による再スタートが発表された(図5新たな枠組みでの再スタートの関連ニュース)。

図5●2018年1月に発表された新たな枠組み
(出所:京セラ)
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 九電工は、フォトボルトが主体だった時期から、実務上では主導している状況に近かった。宇久島では元々、同じ担当者が長年常駐し、駐在所を置いていない九州電力の実務も代行している。住民とも深いネットワークを築き、今回の太陽光発電プロジェクトでも、島の関係者との交渉や調整でも大きな力を発揮してきた。

 最終的に九電工が主体となり、京セラが最大の出資者となった。プロジェクトファイナンスによる融資を取りまとめるみずほ銀行も、従来から意向を変えずにかかわり続ける。長崎市に本拠を置く十八銀行も、融資の取りまとめに加わった。

 枠組みの変更によって、新たな特定目的会社(SPC)「宇久島みらいエネルギーホールディングス合同会社」が、フォトボルトから権利を取得し、新たな計画として再始動した。現在の発電事業者である、宇久島みらいエネルギー合同会社は、このSPCの子会社となる。

 新たなSPCには、フォトボルトとオリックスが離脱した一方で、九電工と京セラのほか、タイの太陽光発電事業者であるSPCG社、東京センチュリー、古河電気工業、坪井工業の4社も、新たに出資した。SPCの資本金や出資比率などは、非公開としている。

 SPCG社と東京センチュリーは、京セラと太陽光発電所の開発・運営で関係が深い。東京センチュリーと京セラは、合弁で多くのメガソーラーを開発している。

 SPCG社は、タイ国内で多くの太陽光発電所を開発・運営し、その多くに、京セラが太陽光パネルを供給している。さらに、日本でも、京セラと東京センチュリーが共同で開発している、鳥取県米子市の出力約30MWのプロジェクトに参画している。

 EPC(設計・調達・施工)とO&M(運用・保守)サービスは、九電工が担当する。従来のフォトボルトの計画では、九電工と京セラが共同で担う構想で、これが九電工の単独に変わった。

 新たな枠組みでの宇久島のプロジェクトの総投資額の予想は、2000億円程度としている。フォトボルトの計画時に発表していた約1500億円から、500億円程度上回る。

 一方、年間発電量は、約51.5万MWhを見込んでいる。一般家庭約17万3000世帯の消費電力に相当する。

基礎は掘らずに形成

 宇久島は、人口が約2000人、面積が約2493万m2あり、太陽光発電プロジェクトが事業用地として借りる予定の土地は約630万m2と、実に島の4分の1を占める。

 しかし、この事業用地のすべてに太陽光発電設備を設置するわけではない。林地開発などで定められた比率の残地森林や、その他の条件で発電設備を設置しない区域の面積が定められ、こうした発電設備を設置しないことを前提としている場所も借りる。

 太陽光発電設備は、宇久島の島内と、宇久島のすぐ南西に浮かぶ「寺島」に設置される(図6)。発電設備の設置区域は、大きく四つの区画に分かれる。太陽光パネルを並べるのは、比較的平坦な土地が多い場所になる。

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図6●宇久島と、南西にみえる寺島
下は太陽光パネル設置区域の候補とみられる場所の一つ(出所:上は京セラ、下は日経BP)
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 平坦な場所が多い地域でも、活用できない場所もある。例えば、宇久島の東側に突き出るように広がる平野は、島内で最も太陽光パネルを広い場所に、効率的に並べやすいと思われる地域である(図7)。島の関係者によると、この地域の土地を借りることができず、活用を断念したという。

図7●太陽光パネルを並べるのに向く平野だが、借りることができなかった
(出所:日経BP)
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 この地域の東端にある長崎鼻と呼ばれる場所の近隣から、九州本土に向けて送電する海底ケーブルを敷設する意向もあった。この場所からの敷設も断念した。

 施工費は、太陽光パネルを並べる場所のうち、地上設置型をどこまで増やせるかで大きく左右される。

 このプロジェクトは、「営農型の480MW」と紹介されることが多いが、実際には地上設置型と営農型の併用となる。

 営農型を採用するのは、地主の意向や、農地転用に関わる農業委員会や県、国などの意向によって、恒久的な農地転用を実現しにくい場所となる。

 営農型は、農地の一部に支柱を立てて、農地の上に隙間を空けながら太陽光パネルを並べ、農作物と太陽光発電で日光を分け合い、農業と太陽光発電を両立する手法である。宇久島のプロジェクトでは、支柱を設置する範囲だけを一時的に転用し、営農の実態を評価しながら3年ごとに更新する仕組みを活用する。

 基礎の設置にも、制約がある。地中に岩石が多いことと、石が少ない場所でも、遺跡が埋まっている可能性もあることから、地表の現状を変えず、地中を掘り込まないことで基礎を築く手法を採用する。

 九州には、このような場所が多く、九電工も多く経験している。コンクリートの置き基礎を基本に、いかに効率的に施工していくかがポイントとなるという。九州各地の同じような条件の土地で、太陽光発電所のEPCサービスを担当してきた経験が生きるとしている。

 太陽光パネルの設置では、強風への対策にも注目される。強い風雨を伴う台風が宇久島の周辺を通過する際には、沖縄周辺と同等かそれ以上の強風が吹き続けるという。

 太陽光パネルの設置場所の候補とみられる平坦な地域の中には、高い木は少なく、本州であれば標高2500m以上でしか見られないような、まるでハイマツ(這松)が覆っているかのような高山に似たような植生となっている場所もあり、風の強さを物語る(図8)。

図8●まるで高山の這松のように、地表付近にしか木の幹が伸びていない
(出所:日経BP)
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 太陽光パネルの設置角は小さく、設置高さは低めのアレイ(太陽光パネルの架台への固定単位)の構成となることが予想される。

 着工後、まず本格的な施工の準備のための工事を進める。先行隊となる作業員向けの宿舎を建て、そこに作業員が住めるようになってから、ようやく本格的な作業員用の宿舎を建てる。こうして宇久島内に宿泊しながら作業できる従事者の数を増やしながら、土木や伐採などに着手する。

 宇久島のプロジェクトでは、発電設備の設置区域も緑化する条件が課されている。このため、伐採や整地などを施す場所でも、緑化を終えてから基礎を築き、架台を据え付ける。

 太陽光パネルは、京セラ製の多結晶シリコン型を採用する。約165万枚を設置する予定としている。

 京セラによると、「もし宇久島プロジェクトの事業化が正式に決定し、8月中に着工した場合、宇久島向けの太陽光パネルの出荷は、2020年初ころに始まるだろう」(京セラ ソーラーエネルギー事業本部の小谷野俊秀・副本部長)との見通しを示す。

 パネル設置区域には、整地すらほぼ不要な場所もある。こうした場所では、早くから基礎や架台の設置が進むため、年明けにもパネルの納入が始まるようだ。

 九州本土との間には、約64kmの海底ケーブルを敷設し、九州電力に売電する。新たな枠組みに加わった古河電工が、海底ケーブルの敷設を主に担う。

 海底ケーブルは、宇久島から九州本土を結ぶだけでなく、宇久島の南西にある寺島からの発電電力の送電にも使われる。

 海底ケーブルでは、高電圧の直流で送電する。HVDC(高圧直流送電)などと呼ばれ、欧州の洋上風力などで広く採用され、長距離を効率的に送電する手法として知られる。日本国内では、こうした需要が少なかったものの、60km以上を送電する宇久島のプロジェクトには適しており、採用に至ったようだ。

 宇久島の中央付近の南端部に、HVDC関連を含む海底ケーブル設備が設置されるようだ(図9)。

図9●島の中央の沿岸部から、海底ケーブルが敷設される
(出所:日経BP)
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牧草を育成し、仔牛の飼料に

 枠組み変更時に公表された事業スキームでは、発電事業者が売電と営農を担う。実際の農作業は地元の畜産農家が担当するようである。

 用地は、土地管理を担う会社が、宇久島内の農地や耕作放棄地などを土地の所有者から借り、発電事業者に転貸する。この土地管理会社が農業法人を兼ねる可能性もある。

 発電事業者は、土地管理会社に営農の支援金も支払う。土地管理会社は、これを元手に、地元の畜産農家に農作を委託する。

 太陽光発電システムの下で栽培する農作物は、牧草を予定している。畜産農家は牧草を育成し、畜産する肉食用の牛の飼料とする。肉食用の仔牛の畜産は、宇久島における主要産業である(図10)。

図10●仔牛の畜産が島の主要産業、最近では画像のように成牛の畜産も増えてきたという
(出所:日経BP)
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 発電事業者は、牧草を安価で畜産農家に販売する。

 こうした事業スキームによって、農業と発電事業の両面で宇久島の地域振興に寄与することを目指す。