金沢大学、東北大学、米Johns Hopkins大学らの共同研究グループは12月2日、世界最高レベルの空間分解能を持つ走査型電気化学セル顕微鏡(SECCM)を開発し、水素発生反応(HER)の触媒として期待される遷移金属カルコゲナイドナノシートの触媒活性サイトを電気化学的にイメージングすることに成功したと発表した。
水素ガスの効率的な生成技術は、再生可能エネルギーや燃料電池自動車などの分野で注目されている。二流化モリブデン(MoS2)などの遷移金属カルコゲナイドナノシートは安価で大量に作製できることから、白金(Pt)に代わる水素発生反応の触媒として期待される。
MoS2ナノシートは、Ptと比べて触媒能が低く、HER活性の更なる向上には活性サイトの可視化や劣化メカニズムの解明が不可欠だった。共同研究グループは今回、HER活性サイトを直接可視化できる分析技術であるSECCMを開発した。
SECCMは、走査型プローブ顕微鏡の一種であり、ナノスケールの電気化学セルをナノピペットにより局所的に形成し、そのピペットを用いて試料表面を走査することで電気イメージを取得する。SECCMの解像度はナノピペットの開口に依存することからナノピペットの微細化と装置の改良を行った。
HER活性サイトを直接可視化した結果、MoS2ナノシートの縁部分(エッジ)でHER活性が高いことを明らかにした。また、MoS2ナノシートのHER活性と密接な関係のある硫黄(S)の欠陥を、SECCMにより電気化学的に形成することで、その部分のHER活性が亢進されることを確認した。
さらに、大気中で試料を保管した際、エッジ部分から優先的に劣化が進み、HER活性が平坦部分(テラス)より減少することが分かった。これまでナノシートの層数と電気化学活性には密接な関わりがあるとされてきたが、実際には層数に依存しないことを明らかにした。
今回の研究成果は、効率的な水素発生触媒の開発に活用されることが期待される。また、HERに限らず酸素発生サイトやプロトン伝導サイトなどさまざまな電気化学プロセスの可視化にも応用でき、触媒開発の設計指針の提示や劣化し難い触媒開発につながるとしている。