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「塗布型」有機太陽電池、独自ポリマーで高効率化

2020/01/16 01:07
工藤宗介=技術ライター
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化学構造のイメージ
(a)PNTz4Tの化学構造とフッ素導入位置。(b)量子化学計算によって解析したPNTz4Tの分子軌道の分布。最もエネルギーが高い最高被占分子軌道(HOMO)はAの位置に存在し、最もエネルギーが低い最低空分子軌道(LUMO)はBの位置に存在する。これまでAの位置へのフッ素導入はできており、今回Bの位置へのフッ素導入に成功した
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半導体ポリマーとフラーレン誘導体における分子軌道が持つエネルギー準位の関係
Aの位置にフッ素を導入するとHOMOの準位のみ低下し準位差(ΔEHL)が大きくなるため、電圧は向上するが電流は低下する。AとBの両方にフッ素を導入するとHOMOとLUMOが低下し、ΔEHLが大きくなる一方で電流に相当するエネルギー(Eg)は維持される(ただし分子配向状態の変化により電流が低下した)(出所:広島大学、大阪大学、京都大学、千葉大学、高輝度光科学研究センターらの共同研究チーム)
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 広島大学と大阪大学、京都大学、千葉大学、高輝度光科学研究センターらの共同研究チームは1月10日、フッ素原子を持つ独自の半導体ポリマーを開発し、塗布型有機薄膜太陽電池(OPV)の高効率化に成功したと発表した。また、フッ素原子の導入位置が半導体ポリマーの性質やOPVの特性に及ぼす影響を解明した。

 OPVは、半導体材料のインクを塗布することで作製できるため、コストや環境負荷を抑え、容易に大面積化できる。また、軽量で柔軟、透明にすることが可能で、室内光下での変換効率が高く、IoTセンサーやモバイル・ウエアラブル電源、窓やビニールハウス向け電源など、現在普及する無機太陽電池では実現が難しい分野への応用が期待されている。

 一方、OPVの実用化にはエネルギー変換効率の向上が最重要課題であり、新しい半導体ポリマーの開発が不可欠だった。OPVに適した半導体ポリマーの開発には、ポリマーの分子軌道や結晶性、分子配向を制御することが重要であり、これらの性質を制御する上でフッ素原子の導入が有効であることが知られていたが、その方法は限られていた。

 今回、広島大学のグループが開発した、当時世界最高レベルの変換効率を示した半導体ポリマー「PNTz4T」に対して、大阪大学のグループが別の化合物を用いて開発したフッ素を導入する最新技術を組み合わせた結果、量子化学計算からより有効であると予想される位置へのフッ素の導入に成功した。

 新しく開発した半導体ポリマー「F2-F2」を用いてOPVを作製したところ、分子軌道エネルギーがより適切な順位に移動したことで、PNTz4Tを用いたOPVと比べて電圧が向上し、変換効率が1割向上することが分かった。その一方で、電流に相当するエネルギー(小さい方が電流が高い)が小さいにも関わらず電流が低下するという予想外の結果が得られた。

 その原因を京都大学のグループがOPVの光・電気的測定により解析した結果、特定位置へのフッ素の導入により電荷が電極に回収され電流が発生する前に電荷再結合する確率が増大していることが判明した。さらに、大型放射光施設「SPring-8」を用いたX線構造解析によって、ある位置へのフッ素導入で電荷を流しやすい分子配向状態になる一方で、別の特定位置にもフッ素があると電荷輸送しにくい分子配向状態になることが分かった。この分子配向状態の変化が再結合を増大したと考えられる。

 今回の成果によって,フッ素導入により半導体ポリマーの分子軌道エネルギーをより理想的な準位に制御できる一方で、導入位置によっては分子配向への影響が異なることが明らかとなり、これらを複合的に理解することがOPVの高効率化において極めて重要であることが分かった。

 今後は、さらに異なる位置へのフッ素導入や、分子軌道エネルギーの準位を低下しても分子配向などに影響を与えないような原子や官能基の導入技術の開発により、F2ーF2で問題となった再結合を抑制することを目指す。また、今回のフッ素導入技術を他の半導体ポリマーへの応用も可能で、OPVの飛躍的な効率化が期待される。

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