人工光合成技術の実用化に向け大きく前進

約100%の量子収率で水を分解する粉末光触媒を開発

2020/06/09 17:25
山口 健=日経BP 総合研究所 クリーンテックラボ
印刷用ページ

 太陽光を光触媒が吸収し、水を直接、水素と酸素に分解する「人工光合成」技術の実用化が、現実的になってきた。低コストが容易な粉末状の光触媒を使って、太陽光の水素への変換効率(Solar to Hydrogen Energy Conversion Efficiency:STH)を実用レベルとされる10%とする技術の実現可能性が示されたからだ。太陽光発電によって得た電力で水を電気分解する方法に比べて、大幅なコストダウンが期待される。

 NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)は、信州大学、山口大学、東京大学、産業技術総合研究所と共同で、紫外光領域ながら世界で初めて100%に近い量子収率(光子の利用効率)で水を水素と酸素に分解する粉末状の半導体光触媒を開発したと発表した。これまでに開発された光触媒では量子収率が50%に達するものはほとんど報告されておらず、画期的な成果といえる。

 NEDOとARPChemは、2021年までにSTHとして10%を目指すプロジェクト「二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発(人工光合成プロジェクト)」に取り組んでおり、これに向けた大きな前進となる。STHで10%を実現できれば、サハラ砂漠の3%程度の面積に光触媒シートを敷き詰めることで発生する水素により全世界の消費エネルギーを賄えることになる。脱炭素社会に向けた切り札となる可能性を秘めている。

粉末状の光触媒でSTH向上の設計指針

 太陽光で水から生成した水素(ソーラー水素)の実用化には、製造コストを大幅に下げる必要がある。そのためにはSTHを向上させる必要がある。STH向上には、(1)光触媒による水分解時に応答する光の波長範囲を長波長側に広げること、(2)各波長における量子収率を高めること、の2つのアプローチがある。(1)は使う光触媒材料のバンドギャップで決まり、(2)はその製造法や助触媒との組み合わせで決まる。今回は(2)に焦点を絞り、理論上最大となる100%に近い量子収率で水が分解できることを示している(図1)

図1●開発したSrTiO3:Al光触媒における外部量子収率の波長依存性(左図)と既存の高活性光触媒との比較(右図)
代表的な酸化物光触媒であるSrTiO3(Alドープ)にRh/Cr2O3からなる水素生成助触媒とCoOOHからなる酸素生成助触媒を光電着法により担持すると、従来の含浸法に比べて水分解活性が向上した。350~360nmの波長範囲で外部量子収率(照射した光子数に対する反応に利用された光子数)は96%に達した。(出所:NEDOニュースリリース、2020年5月29日)
クリックすると拡大した画像が開きます

 太陽光によって励起された電子は水素を、正孔は酸素の生成に寄与する。粒子の特定の結晶表面に水素を生成する助触媒と酸素生成助触媒を選択的に形成した(図2)。結晶面をサッカーボールに例えると、白と黒の6角形の助触媒の組み合わせで設計し、白いところから水素、黒いところから酸素が発生するイメージである。この構造では光によって励起された電子と正孔がそれぞれの助触媒に選択的に移動するため、従来の光触媒で量子収率低下の原因となっていた電子と正孔の再結合などをほぼ完全に抑えられ、吸収した光のほぼ全てを水分解反応に利用できた。

図2●空間的電荷分離機能による高効率水分解光触媒の反応モデルと構造
今回の半導体光触媒はフラックス法で合成した結晶癖のある微粒子で異なる特定の結晶面が露出している。このような半導体微粒子においては、光によって励起された電子と正孔がそれぞれ選択的に移動する異方的電荷移動という現象が起こり、これを効果的に利用した。光電着法では光により励起された電子が到達する結晶表面に水素生成助触媒が還元的に、正孔が到達する別の結晶表面に酸素生成助触媒が酸化的に、それぞれ析出-担持される。これは、半導体微粒子内で電位勾配があり、その整流作用により励起された電子と正孔を異なる方向に移動させ、空間的に電荷分離できていることを意味する。電子と正孔が、助触媒によって水素および酸素生成反応で速やかに消費されることによって再結合がほぼ完全に抑えられ、100%に近い量子収率での水分解反応が達成できた。(出所:NEDOニュースリリース、2020年5月29日)
クリックすると拡大した画像が開きます

 今回は代表的な酸化物光触媒であるSrTiO3(Alドープ)を用い、フラックス法によって粒子形状を制御し、この表面に光電着法で助触媒を担持している。このように、再結合をほぼ抑え込める光触媒の設計指針が得られた点が今回の成果だ。

  • 記事ランキング