MCHが水素の長距離輸送に一番乗り、サプライチェーンを実証

有機ケミカルハイドライド法で運んだ水素をガス火力に混焼

2020/07/01 22:27
宇野麻由子=日経BP 総合研究所 クリーンテックラボ
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 次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合(AHEAD)は、2020年6月25日、東亜石油の京浜製油所(川崎市)内に建設した脱水素プラントを報道陣に公開した。同プラントは、ブルネイ・ダルサラームで天然ガスプラントの副生ガスを改質して得た水素と、キャリア(運搬媒体)となるトルエンからメチルシクロヘキサン(MCH)を合成し、川崎港まで海上輸送するという、国際間水素サプライチェーン実証運用の一部分に当たる。脱水素プラントでは水素とトルエンに分離(脱水素)し、水素を同製油所内のガス火力発電所用燃料として発電時のCO2排出抑制に活用する。トルエンはブルネイへ運び再び水素キャリアとして利用する(図1)。

図1●東亜石油 京浜製油所内に建設された脱水素プラント
MCHを水素とトルエンに分離する脱水素工程を行う。分離した水素は隣接するガス火力発電所で燃料として使われる(撮影:日経BP)
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 ブルネイからの初荷となるMCHは2019年12月に川崎港に到着し、脱水素プラントの試運転を経て、本格的に稼動した。同5月に発電所への水素供給を開始、同6月にブルネイに戻したトルエンを使ってMCHの合成が始まったことで、一連のサプライチェーンが完成したとする。実証運転は2020年11月まで行う予定である(図2)。

図2●ブルネイの水素化プラント
トルエンと水素からMCHを合成する。ブルネイの水素化プラントからのMCHは2019年11月に初出荷された(出所:次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合)
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 AHEADを構成する4社、千代田化工建設、日本郵船、三井物産、三菱商事の中で、MCHを使った水素の輸送・貯蔵方法「有機ケミカルハイドライド法」に取り組むのが千代田化工だ。MCHは常温・常圧で液体であり、ガソリンや軽油と同様に扱えるため、石油関連の既存設備を活用でき安全性も比較的高いなど使いやすい状態であることに着目した。同社では「SPERA(スペラ)水素」として商標登録し、商用化を目指している(図3)。

図3●有機ケミカルハイドライド法
水素供給地にてトルエンに水素を化学的に結合させてMCHを生成し、常温常圧の状態で輸送、需要地にてMCHより水素を取り出して供給する。脱水素により得られるトルエンは再び水素供給地へと輸送する。MCHもトルエンも現在流通しているケミカルタンカーやタンクを利用できる(出所:次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合)
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 水素の大量輸送手段としては、有機ケミカルハイドライド法の他に、水素を-253℃に冷却して液体水素として輸送する方法や、いわば窒素をキャリアとするアンモニアとして輸送する方法などが検討されている。海外からの水素を日本国内で発電や燃料電池車(FCV)に利用するケースのように、水素として利用する目的で海上を輸送する場合は、MCHか液体水素が主な選択肢となる。液体水素は気体に比べて体積が800分の1になり重量の100%が水素であるのに対して、MCHでは気体の水素に比べて体積が約500分の1、全体重量の約6%強しか水素を運べないという短所がある。ただし液体水素の輸送用容器には二重構造などの断熱性が必要で重くなりがちであること、球形容器は船での容積効率が低下することなどから、千代田化工では実質的な船での輸送効率はMCHも液体水素も大差はないとみる。

 AHEAD 理事長で千代田化工建設 フロンティアビジネス本部 副本部長である森本 孝和氏は「どの輸送方法も実証段階であり、各国で検討されている。SPERA水素は安全性が高く実用に近いとして既に評価されている。ただ、水素の輸送方法は一つに収れんされるのではなく、時期や用途に応じて複数の方法が商用化されるのではないか」と話す。いずれにしても、日本はもちろん世界的にも水素の輸送ニーズは顕在化するとみる。水素の供給地を目指す地域が多い一方、水素の大量消費につながる動きがあるからだ。例えば、CO2排出量を削減しようと天然ガスから水素への置き換えを検討する欧州の場合、「すべてを水素にする場合、欧州内の再生可能エネルギー由来の水素だけでは足りない。アフリカや中東などから水素を輸送する必要がある」(森本氏)とする。

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