福島で世界最大級の水電解システム稼働、太陽光の変動出力に対応

2023年ごろの商用化を目指す旭化成の開発戦略

2020/07/29 23:19
山口 健=⽇経BP 総合研究所 クリーンテックラボ

 旭化成は、東芝エネルギーシステムズから1ユニット・サイズとして世界最大となる大型アルカリ水電解システム(最大水電解電力10MW、最大水素製造量2000Nm3/h)を「福島水素エネルギー研究フィールド」(福島県双葉郡浪江町)向けに受注、この2020年3月に稼働させている。

 同社は、世界有数のシェアを持つ食塩電解技術をベースに、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援を受け、大型アルカリ水電解システムの開発を進めてきた。そのNEDOが浪江町に建設した技術開発事業「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」の委託先である東芝エネルギーシステムズに対して、この水電解システムを納入した。

 太陽光パネルで発電した電力で水素を製造し、消費地に運ぶ。国内の再生可能エネルギーを使ったP2G(Power to Gas)事業として先駆的なプロジェクトであり、製造した水素は東京オリンピック・パラリンピックに関連して運用される燃料電池自動車(FCV)や燃料電池バス、定置型燃料電池システム向けに供給する。

 なお、海外のP2G事業の動向に関しては、⽇経BP 総合研究所が7⽉31⽇に発⾏する、「世界⽔素ビジネス-全体動向編-」の中で詳しく解説している。本書は技術解説のほか、中国・韓国・欧⽶豪の戦略を分析、2050年までの⽔素普及シナリオを描いている(「世界⽔素ビジネス-全体動向編-」の案内サイト)。

NEDOの支援でスケールアップ

 旭化成は、アルカリ水電解装置の開発メーカーであり、国内外の実証プロジェクトを通じて実用化技術の検証と市場ニーズの把握を通じて、2023年ごろの商用化を目指している。同社は、大手素材メーカーだが、中期経営計画の中でCO2削減など持続可能な社会に向けた技術開発の推進を重要テーマに掲げており、中でもクリーンエネルギーの創出に貢献するアルカリ水電解装置の研究開発に取り組むとしている。

 同社は世界26カ国、126カ所の生産拠点で使用されている食塩電解システムを供給してきており、同技術をベースとして、NEDOの支援を受け、変動電源である再エネからの水素製造に適したアルカリ水電解システムを開発してきた。

 同社が初めて大型水電解装置を開発したのが、2014~2017年にかけての横浜におけるNEDOの委託事業であり、150kWのアルカリ水電解装置を設計、設置し、1万時間を超える安定運転を実現した(図1)。同社はこれを機に技術開発と各種プロジェクトへの参加を活発化させた。2018年には太陽光の余剰電力を有効活用する実証事業施設「そうまIHIグリーンエネルギーセンター」(福島県相馬市)に、150kWのアルカリ水電解装置を設置して、実証を進めている。

図1●福島県相馬市に設置したアルカリ水電解装置
水電解装置の規模は150kW、水素製造能力は25Nm3/h。同市のスマートコミュニティ事業の実証施設「そうまIHIグリーンエネルギーセンター」内に設置。そうまIHIグリーンエネルギーセンターは、太陽光発電電力の地産地消と地域振興・発展への寄与を目的とした施設で、相馬市とIHIが4月に開所した。水電解装置のほか、出力1.6MWの太陽光発電設備、容量2500kWhのLiイオン蓄電池、エネルギー管理システムなどが設置されている(撮影:日経BP総研 クリーンテックラボ)
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高稼働率と低電気代が商用化の鍵

 水電解システムを使って経済合理性がある水素を生産するためには、稼働率を高く維持することと、安い電力を手に入れることが必須の条件となる。旭化成によれば、「10%の稼働率では経済性は成立しない。実際は60%以上ないといくら電気代が安くても事業は成立しない可能性が高い」という。

 電気代に関しては、現在、ドイツでは産業向けが17~18円/kWhで、大口需要家向けには8~9円/kWhのオファーがあり、北欧の水力発電には2円/kWhの実力があるという。2~3円/kWhが見えてくると、天然ガス改質による水素製造コストの20円/Nm3と同等レベルが実現できるようになり、設備の減価償却後にはコストはさらに低くなり、事業性が高まっていくと見る。

 こうした背景から、旭化成は同社の水電解装置を中心とするP2Gビジネスがまず欧州で立ち上がると見て、実証プロジェクトへの参画を活発化させている。同社が参加している代表的なプロジェクトが、「h2 Herten」と「ALIGN CCUS」である。

 このうち「h2 Herten」は、ドイツ・ヘルテン市が炭鉱跡を再開発するプロジェクトの一環として、水素の研究施設を建設したものである(図2)。同市は、この研究施設を水素の研究ハブとする構想を持っている。建設費用の大部分は、ヘルテン市がある、NRW(ノルトライン=ヴェストファーレン州)の補助金によって賄われている。

図2●「h2 Herten」の研究施設の全景
ヘルテン市が炭鉱跡を再開発するプロジェクトの一環として、水素の研究施設を建設。建設費用の大部分をNRW州政府が負担(Photo:RDN/Markus Mucha)
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 旭化成は、同研究施設の一角を借りて、200kW程度の実証用小型アルカリ水電解装置を設置し(図3)、実証実験を実施している。この実証そのものは同社単独の実証プロジェクトであり、政府からの補助金は受けていない。同社の目的の一つは、顧客向けのショーケースとして活用することである。

図3●「h2 Herten」に設置されたアルカリ水電解装置
200kW程度の実証用小型アルカリ水電解装置を設置。風力発電からの実データを基にシミュレーターを使った変動運転を評価。製造した水素は、現在は大気へ放出しているが、将来的には研究施設内にある水素貯蔵タンクに貯蔵または研究施設に併設される別プロジェクトで使用している水素ステーションに供給したりすることも検討(出所:旭化成)
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 現在、水電解装置の運転には、系統からの電力を使用しているが、研究施設の近くに風力発電所があり、ここからの実データを元に、シミュレーターを使って出力が不安定な電力を想定した変動運転の評価を計画している。製造した水素は実験装置であるため現在は大気へ放出しているが、将来的には研究施設内にある水素貯蔵タンクに貯蔵したり、研究施設に併設される別プロジェクトで使用している水素ステーションに供給したりすることも視野に入れている。

 旭化成としてはこうした実証プロジェクトを通じて、ドイツ地方政府や顧客のニーズを把握して、将来的な受注、商用化を目指したプロジェクトへの参加を働き掛けていく考えだ。同社の設備は最大出力10MW(定格出力6MW)が基本単位になり、最近欧州で計画が出始めている最大出力100MWの設備を建設する場合は、10MWの水電解装置を10基並列に繋ぐことになる。

水素製造コストの7~8割が電気代

 旭化成は40年以上の歴史を持つイオン交換膜法食塩電解事業で培った技術を基に、低コストで水素を製造するアルカリ水電解システムの開発を進めている。

 同社によれば、現状の水素製造コストの7~8割は電気代によるものであり、このため電解効率を向上する開発、すなわち1Nm3当たりの水素製造に必要な電気消費量を少なくする技術開発に取り組んでいる。装置自体の低価格化に加え、トータルの水素製造コストに関して競争力を持てる装置開発を目指しているという(図4)。

図4●旭化成におけるアルカリ型水電解装置の開発の方向
横軸は運転電流密度(A/㎝2)、左縦軸はエネルギー変換効率(%)、右縦軸は1Nm3の水素を生産するのに必要なエネルギー消費量(kWh/Nm3)。従来の水電解装置は左上の範囲にあり、狭い運転電流密度範囲で効電解効率が低かった。新開発した電極を搭載した装置では、広い運転電流密度にわたって高い効率を維持する。今後はさらに高い電流密度範囲でも高い変換効率とエネルギー消費量が少なくて済むような装置開発を進める(出所:旭化成)
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 電解効率を向上させる大きな要素となるのが、電極や膜といった材料開発となる。同時に、如何にメンテナンス・コストなどを削減できるかという観点も重要になる。旭化成では、「電極」に関しては水島(岡山県倉敷市)にプラントを建てた頃から長年培ってきた石油化学向けの触媒技術が応用されており、「膜」に関しては世界トップのポジションを持つLiイオン蓄電池のセパレーター(絶縁膜)向けの技術を活用している。