都内に水素ステーションが着々、五輪で燃料電池車への供給に備え

脱化石に向け「グリーン水素」狙うENEOS、低コスト化に奮闘

2020/08/03 00:35
宇野麻由子=日経BP 総合研究所 クリーンテックラボ
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 予定通り2020年夏に東京オリンピック・パラリンピックが開催されていれば、今頃その裏方として一般に注目を集めたであろう技術の1つが、大会用車両として利用される「水素モビリティー」だ。

 日本は燃料電池車(FCV)などに水素を充填する「水素ステーション」の設置で世界に先行しており、建設予定を含めると157カ所を数える。ENEOS(旧JXTGエネルギー、2020年6月に社名変更)はそのうち47カ所(うち3カ所は2020年内に、3カ所は2021年3月までに新設)を運営する。全7カ所で五輪大会用FCVに水素を供給するとしていた。2020年中に「東京大井水素ステーション」「東京晴海水素ステーション」「東京高輪ゲートウェイ水素ステーション」の3カ所を開所する見込みで、このうち「東京大井」と「東京高輪ゲートウェイ」は8月に開所予定とする(図1)。

図1●開所を前に準備が進む東京高輪ゲートウェイ水素ステーション
JR山手線の新駅「高輪ゲートウェイ駅」前、イベント特設会場となっている「Takanawa Gateway Fest」の隣に位置する(撮影:日経BP、2020年7月7日に撮影)
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 ENEOSは、新日本石油、ジャパンエナジー、東燃ゼネラル石油などが合併した国内石油元売り大手である。国内燃料油販売シェア50%で第1位、系列給油所約1万3000カ所を抱える国内最大手でもある。製油所を持ち、原油処理能力は国内第1位で、ガソリン・灯油・潤滑油といった石油製品、パラキシレンやプロピレンといった石油化学製品を生産・製造している。

 同社ではトヨタ自動車の量産型燃料電池車(FCV)「MIRAI」の発売に合わせて、2014年12月に水素ステーションの営業を開始した。もともと石油製品の製造工程に向けて水素製造設備を持っていたこともあり、水素の製造から供給、販売などを手掛ける。

 これまで、首都圏向けには2016年3月に本牧事業所(横浜市)に「水素製造出荷センター」を開所し、LPG(液化石油ガス)から水素を製造してきた。製造した水素を水素トレーラーで運搬して首都圏の水素製造装置を敷地内に持たない「オフサイト式水素ステーション」に供給するほか、水素充填機器を搭載する専用トラックを利用した「移動式水素ステーション」にも供給する形だ。

 今回新設する東京大井水素ステーションは、JERAが運営する大井火力発電所敷地内に設置するもので、都市ガス改質型の水素製造装置を備える「オンサイト式水素ステーション」に当たる。燃料電池車約10台分に相当する600Nm3/時の供給能力を確保する、大型ステーションだ。一般のFCVのほか、東京都が導入を進める燃料電池バス(FCバス)、販売拠点に向けた移動式ステーションや水素トレーラーへの充填・出荷機能を備え、首都圏の水素供給における重要拠点となる。

 こうした水素利用の動向に関しては、日経BP 総合研究所が7月31日に発行する「世界水素ビジネス-全体動向編-」の中で、「作る」「運ぶ/貯める」「使う」ための各種技術の解説のほか、中国・韓国・欧⽶豪の戦略を分析、2050年までの水素普及シナリオを紹介している(「世界⽔素ビジネス-全体動向編-」の案内サイト)。

過剰性能を見直し低コスト化へ

 FCVを普及させるには水素ステーションの普及が欠かせないが、コストが障壁となっている。といっても、FCVユーザーにとって燃料としての水素は特別高額というわけではない。ENEOSは現在、一般のFCVに向けて水素を1000円/kg(税別)で販売しており、MIRAIであれば約5kgで満タンとなることから約5500円(税込)で約650km走行できる計算だ。同社ではハイブリッド車(HEV)と同等になることを想定した“普及価格帯”としている。

 つまり、水素ステーションの運営としては“赤字”であり、コスト削減が必須となっている。例えば、水素ステーションの建設費は2〜3億円はかかるとされている。また、現状としては商品である水素自体の原価が下がっていない上に補助はない。現時点では整備費や運営費に向けた補助金はあるものの、低コスト化を進めなければ実事業としては成り立たないというわけだ。そこでENEOSは、水素供給利用技術協議会(HySUT)などの業界団体や関係各社と取り組みを進めている。

 コスト削減のポイントとして注目されているのは主に3つ。1つは、実運用によって見えてきた過剰設備の適正化だ。従来は圧縮機の処理能力ベースで水素ステーションの規模を規定しており、FCVによる水素需要量や来店パターンなどの実態に合わず、設備能力が過剰な状態になりがちだったという。例えば横浜市市営バスのFCバスは1日の走行距離が100km程度であり、毎日水素を供給する必要はないことが明らかになった。充填能力をベースにカテゴリーを制定し直すことで、適正な規模・設備により建設費の削減を目指す。

 2つめは、設備・機器設計や制御・電気設計の標準化である。圧縮機や蓄圧機、冷凍機、充填機などの機器間をつなぐ配管や配線、制御信号は仕様が統一されておらず、水素ステーションごとに設計することが建設コスト高につながっていたという。モジュールごとに仕様を標準化することでコスト低減や建設期間の短縮に加え、設備の組み合わせの自由度向上や新規設備の導入促進にもつながるとみる。国際標準化により国内関連企業の海外展開を狙う意図もある。

 もう1つが、水素供給のプロトコルの見直しだ。水素ガスを車載タンクに急速に充填する際、断熱圧縮により上昇する水素温度を抑える目的で充填前に水素を冷却しておく「プレクール」工程がある。温度が低いほど充填時間を短縮できる一方、電気代がかさむ上に急激なヒートサイクルや圧力サイクルによりホースなど充填システムの耐久性が低くなるという課題がある。そこで実運用に合わせて現行では−40℃とされるプレクール温度を緩和しようと研究が進む。ほかに水素の純度99.97%や充填圧力70MPaといった充填プロトコルについても、各国の状況を注視しつつ低コスト化に向けて見直しが進む可能性がある。

 加えて運営費における人件費を抑えようと、無人化の取り組みも進む。水素の充填をユーザー本人に行ってもらう「セルフ式」に加えて、管理運営に携わる人員も配備せず遠隔監視などで行うことで、運営効率を上げるというものだ。日本エア・リキードは管轄する経済産業省に対して特例措置制度を利用し水素ステーションの無人営業を申請しており、2020年夏には全事業者を対象に規制を緩和する方針とされる。ENEOSでは2018年10月にENEOS横浜綱島水素ステーションにセルフ方式を採用した。

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