「低コストの蓄電池・水素製造の開発を支援」、菅首相が会見

日本と米国の参戦で、脱炭素インフラ開発の世界競争に

2020/12/06 14:09
金子憲治=日経BP総合研究所 クリーンテックラボ

 菅義偉総理大臣は12月4日、記者会見を行い、所信表明演説で掲げた「2050年カーボンニュートラル」目標を達成するための具体的な政策について公表した。

 菅総理大臣は、まず「カーボンニュートラル」への社会変革を「経済成長の制約ではなく、将来に向けた投資を促し、生産性を向上させ、大きな成長を生み出すもの」と捉え、米国や欧州で打ち出された「グリーンニューディール」(環境投資による成長)と同様、経済政策の一環との位置づけを明確にした。

 そのうえで、「過去に例のない2兆円の基金を創設し、野心的なイノベーションに挑戦する企業を今後10年間、継続して支援する」とし、民間の投資に先駆け、政府が率先して技術革新に資金を投入することで、「240兆円の現預金の活用を促し、ひいては3000兆円とも言われる世界中の環境関連の投資資金を我が国に呼び込み、雇用と成長を生み出す」との狙いを示した。

 その具体例として、水素システムを新たなエネルギーインフラに位置付け、「大規模で低コストな水素製造装置」「水素飛行機」「水素の運搬船」を開発課題に挙げた。加えて、「電気自動車や再生可能エネルギーの普及に必要な低コストの蓄電池」「排出したCO2を使って、プラスチックや燃料として再利用する」といった革新技術を示した。

記者会見中の菅総理大臣
記者会見中の菅総理大臣
(出所:首相官邸のホームページ)
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 これは、米バイデン次期大統領が、今年7月に発表した「クリーンエネルギー/持続可能インフラ計画」を意識していると思われる。同計画では、4年間で総額2兆米ドル(約215兆円)を投入し、エネルギーに加えて道路・鉄道などの近代化、クリーンカー政府調達、充電スポット50万カ所、蓄電池の研究開発、ゼロ・エミッション・スクールバス50万台、住宅150万戸の建設、200万戸の耐候化などに取り組む。また、別途7000億ドルの研究開発・産業支援で500万人の雇用を創出するとしている。

 このほか、米次期大統領は、気候に焦点を当てた省庁横断的な新しい先進研究プロジェクト機関「ARPA-C(Advanced Research Projects Agency focused on Climate)」の新設を提言。グリッドスケール蓄電、ネット・ゼロ・エネルギービル、再エネ利用の水素製造、カーボンニュートラルな建材、食料・農業分野の脱炭素化など、100%クリーンエネルギー目標の達成を支援する画期的な技術開発を目指している。

日米欧が「脱炭素」技術で大競争へ

 バイデン次期大統領のこうした公約は、再エネによる電気で水素やメタンガスなどを製造する「パワー・ツー・ガス(P2G)」の実証研究で先行するドイツなどEU(欧州連合)の動きを意識している。「2050年カーボンニュートラル」宣言を機に、日本もこうした再エネを軸としたエネルギーシステムを巡る世界的な開発競争に本格的に取り組むことになる。

米副大統領時代のバイデン氏
米副大統領時代のバイデン氏
(出所:ウエブサイト=the WHITEHOUSE PRESIDENT BARACK OBAMA)
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 日米欧が、変動性再エネを吸収する蓄電池や水素システム、水素を産業素材として活用する変換技術、化石燃料のCCSU(CO2分離・回収・利用)などに大規模な財政支出を行うことから、こうした脱炭素エネルギーシステムの官製市場が形成される可能性もある。

 今回、発表した「2兆円の基金」は、自由民主党の政務調査会が11月30日に取りまとめた「新たな経済対策に向けた提言」に沿ったもの。同提言では、「経営者自らが覚悟とコミットを示すことを条件にリスクが高い挑戦に取り組む企業によるグリーン投資を海外と遜色ない規模で10年単位の長期間に渡って支援する基金」としていた。

 ただ、この提言に盛り込まれた「国を挙げてカーボンニュートラルを推進する基本法などの省庁横断的な法的枠組みの制定」に関して、菅総理は触れなかった。

 また、来年度中に決める次期「エネルギー基本計画」に盛り込む「2030年のエネルギーミックス(あるべき電源構成)」では、現在22~24%となっている再エネ比率の上乗せが焦点になるが、この点に関しても、直接的な言及はなかった。

 菅総理は、「カーボンニュートラル」に向けた国民理解に関する記者からの質問に対し、「様々な世代や分野の方が参画して意見を交換する会議や、国と自治体の間で議論する会議を早期に開催し、先進的な取組を広げていきたい」と述べていることから、次期エネルギー基本計画の策定を前に幅広い声を聞く場を設ける可能性もありそうだ。