「HIT太陽電池」に幕、三洋を買収したパナソニックの「誤算」

GSソーラーとの破談後、新たな提携先が見つからず

2021/02/01 20:16
金子憲治=日経BP総合研究所 クリーンテックラボ
太陽光パネルのマザー工場だった「二色の浜工場」
(出所:日経BP、2014年撮影)
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かつては太陽電池の「高級ブランド」

 パナソニックは2月1日、マレーシア工場と島根工場における太陽電池の生産を終了し、2021年度中に太陽電池の生産から撤退すると発表した。なお、外部への生産委託により、国内外における太陽電池の販売は継続する。

 マレーシア工場は、2021年度中に太陽電池ウエハ、セル(発電素子)、パネル(モジュール)の生産を終了する。建物、土地などの資産は譲渡を検討するとともに、マレーシア工場の現地法人であるパナソニック ソーラー エナジー マレーシアを清算する。従業員については、割増退職金支払や再就職支援など、誠意ある対応を行うという。

 また、島根工場は2021年度中に太陽電池セルの生産を終え、生産に関わる従業員は、同工場内を基本として、成長の見込める分野への異動により、雇用を維持するという。

 パナソニックは、「HIT」ブランドで知られる独自の「ヘテロ結合型」太陽光パネルを生産してきた。同社が子会社化した三洋電機が開発、量産化に成功した事業を引き継いだものだ。これは、アモルファス(非晶質)と単結晶のシリコン型太陽電池材料を組み合わせた構造で、製造コストが高くなる半面、相対的に高い変換効率、温度上昇による性能低下の少ない高温特性、両面発電などの特徴を持っている。

 2009年12月、パナソニックが三洋電機を買収した際、記者会見に臨んだ当時の大坪文雄パナソニック社長は、三洋電機の持つ「価値」として、蓄電池とともに高性能な太陽電池事業を真っ先に挙げていた。パナソニックは、家電大手として太陽光パネル事業も持たなかっただけに「HIT」への期待が大きかったことは間違いない。それから約10年、国を挙げて再生可能エネルギーの主力電源化を目指すことになった矢先、事実上の撤退に追い込まれたことになる。

 パナソニックによる三洋電機買収の成否に関しては、様々な見方があるものの、太陽電池事業の急速な競争力低下は、当初の期待を裏切る「誤算」の1つだったはずだ。

 「HIT太陽電池」は、住宅太陽光が主体だった時代には、限られたスペースで多くの発電量を得られることから太陽電池の「高級ブランド」として根強いファンがおり、一定のシェアを得ていた。だが、世界的に野立て型太陽光発電所の急増で設置スペースの制約が減ると、高効率の強みが生きず、一方で、一般的な結晶シリコン系太陽電池の効率が上がってきたため、差別化しにくくなっていた。

 2012年以降、国内で固定価格買取制度(FIT)の開始によって各地でメガソーラー(大規模太陽光発電所)が建設され始めた中、買取価格が40円/kWhや36円/kWhなど高値だったFIT初期でさえ、パナソニックは「HIT太陽電池」をメガソーラー向けに積極的に営業展開せず、導入例もほとんどなかった。

「HIT」はすでに賞味期限切れ!?

 その後、2014~15年になると、中国太陽電池メーカーの低価格攻勢が世界的に一層、強まり、先進国の太陽電池メーカーのほとんどはコストで太刀打ちできなくなった。もともと製造コストの高いHITへの逆風はさらに強かった。

 こうしたなか同社は、同じヘテロ接合型太陽光パネルの開発・生産を行っている中国GSソーラーに太陽電池事業の海外子会社を譲渡したうえで、太陽電池の研究開発機能を分離して新会社を設立し、共同で出資・運営するというスキームでの技術の継承や事業存続を目指した。しかし、昨年7月、中国GSソーラーとの協業契約を解消すると発表していた。

 GSソーラーが契約で定めた期限を超え、さらに新型コロナウイルスによる影響を考慮した期間を過ぎても、協業開始に必要な要件を満たさなかったため、と説明している。パナソニックは、新たな業務提携先などを模索するとしていたが、今回、「生産終了」を発表するとともに、二色の浜工場における太陽電池の研究開発機能を縮小し、人的リソースについては、成長領域へシフトする。

 「HIT」は、かつて世界をリードしてきた日本の太陽電池技術を代表するブランドだっただけに、その生産終了は、国内太陽電池産業の衰退を象徴する。太陽光の大量導入時代に入り、圧倒的なコスト力を持つ中国メーカーを前に、効率や耐久性における多少の優位性で対抗できないことは、米国のサン・パワーやドイツのソーラー・ワールドなど、HITと同様に付加価値の高い太陽光パネルで一世を風靡したメーカーの苦戦からも明らかだ。

 パナソニックがGSソーラーに代わる「HIT」事業の譲渡先を見つけられなかったのも、もはや「ヘテロ」技術の賞味期限が過ぎていることを物語る。

 10年後、FITで設置された結晶シリコン型太陽光パネルの張り替えが世界中で一斉に始まる。それまでに中国勢のコスト力に対抗できるような、革新的な次世代太陽電池を量産できるのか、太陽電池先進国ニッポンの復活に向け、残された時間は少ない。