海外で生産した水素の大規模輸送を、既存のタンカーやタンクを使って可能とする有機ケミカルハイドライド法。その実用化を強力に推進する千代田化工建設が5月28日、中国・四川省経済合作局などが主催した「2021 INTERNATIONAL CONFERENCE ON COOPERATION IN THE HYDROGEN ENERGY INDUSTRY」でオンライン講演した。四川省は、揚子江の最上流地域として水力発電向けのリソースが豊富であり、今後は大規模なグリーン水素の生産拠点になる可能性がある。登壇した同社フロンティアビジネス本部の副本部長で水素事業部の部長を兼務する森本孝和氏に、MCH技術の実用化に向けた今後の戦略を聞いた。
既存設備を生かして、海外から大量の水素を輸送してくる技術に取り組んでいます。実証事業の進捗状況を教えて下さい。
森本 水素を、トルエンと反応させるとメチルシクロヘキサン(MCH)になり、ほぼガソリンのような物性なのでこのまま既存の設備(タンカー、タンク)を使って輸送できます。海外の水素生産地でMCHを生産し、輸送してきた国内の需要地(港湾や火力発電所)でMCHから水素を取り出します。残ったトルエンはまた、水素生産地へ戻します。
ブルネイからMCHを輸送するNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の実証事業に参加し、2030年の発電用の水素価格の目標である30円/Nm3(湾岸部で脱水素後の、発電事業者への引き渡し価格)を実現するための基本技術を確立しました(図1)。後は需要の規模が、例えば原発1基分の水素発電に必要な水素を海外から持ってくるための規模に拡大し、現在検討中の技術を最適化した設備を導入すれば、上記価格になるという段階に来ています(図2)。現在、海外からの問い合わせが増えています。
その先、2050年までに天然ガス発電と同等のコストを実現するために必要な水素の目標価格である20円/Nm3に対して有効な技術の1つは、既に実験室レベルで技術実証が完了しています。
従来の「再エネ電力→水の電気分解による水素製造→水素とトルエンを反応させてMCHを合成」ではなく、「再エネ電力+トルエン+水→MCH合成」というダイレクト・プロセスです。この技術はENEOSが開発した技術であり、現在、2030年に商用プラントとして1GW級の水素発電設備(原発1基分相当の発電量で、年間30万tの水素を消費する)を運転することを想定した開発が進められています。このプロジェクトに千代田化工建設も協力しています。