「水素タイル」を張り合わせ、地域社会を脱炭素化

経産省 関東経済産業局長 濱野幸一氏に聞く

2021/07/19 15:00
山口 健=日経BP総合研究所 クリーンテックラボ

地方発の水素社会実現に向け、経済産業省の地方局である関東経済産業局(以下、関東経産局)が動き出した。国のグリーン成長戦略では、導入量拡大を通じて水素供給コストを化石燃料に対抗できる競争力を持たせるため、同省資源エネルギー庁本庁(以下、本庁)は大規模な水素発電やFC(燃料電池)大型トラック導入、水素還元製鉄など各分野における大量導入の検討や、海外産の安価な水素輸入と国内水素製造基盤の両立による大量供給の検討を進めている。これに対して、関東経産局は地域発の水素社会の実現を目指す。具体的には「水素タイル」というモデルを提唱、水素需要のポテンシャルが特に高いエリアを選定して、地方自治体が旗振り役となって地域の供給・需要の企業を取りまとめ、一定規模のサプライチェーンを立ち上げる。この地域単位の水素需給の採算性成立モデルの最小単位を「水素タイル」と定義、これを張り合わせるように全国に展開したいという。こうした新プロジェクトの推進役である経済産業省・関東経済産業局長の濱野幸一氏に、その詳細を聞いた。

経済産業省・関東経済産業局長の濱野幸一氏
(撮影:清水盟貴)
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「地域エネルギー推進課」新設

2020年10月の菅首相のカーボンニュートラル宣言を受けて、関東経産局のグリーン社会実現に向けた取り組みはどうなっていますか。

濱野 2020年10月の「2050年カーボンニュートラル」宣言を踏まえ、エネ庁本庁では、「経済と環境の好循環」を作り出す産業政策として、「グリーン成長戦略」を策定しました。カーボンニュートラルを目指す上で取り組みが不可欠な自動車や洋上風力など、14の重点分野を特定し、高い目標を設定しながら、予算、税、規制改革などあらゆる政策を総動員して、民間企業の前向きな挑戦を全力で応援していくこととしています。

 関東経産局は、本庁が国の政策の企画・立案を担当するのに対し、こうした国の政策を広域行政・地域政策に広めていくための企画・立案・実施を担当しています。様々な政策の「実施」機能を持つところが特徴です。関東経産局は、広域関東圏 ( 1都10県=茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、新潟、山梨、長野、静岡)をカバーしています。

 関東経産局では、「地域エネルギー振興」として、エネルギーを活用した持続可能な地域づくりに取り組む自治体や企業などをきめ細かく支援しています。さらに、地域でのエネルギー活用をはじめ、電化や水素化などグリーン化に向けた支援体制を一層充実・強化するため、2021年4月に新たに「地域エネルギー推進課」を設置しました。これからも、地域におけるグリーン化の実現に向けて積極的に取り組んでいきます(図1)。

図1●関東経済産業局における地域エネルギー振興
(出所:関東経済産業局)
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水素需要創出のためアイディア検討会

「地域エネルギー振興」の中で、カーボンニュートラル宣言を踏まえた水素の位置付けや取り組み内容はどうなっていますか。

濱野 水素については、グリーン成長戦略においても、カーボンニュートラルにおけるキーテクノロジーとされており、発電や輸送、産業など幅広い分野における活用が期待されています。今後は、乗用車だけではなく、水素利用の多様化が重要です。そのため、地域においても、地域特性を生かした新たな水素需要の掘り起こし、利用用途を多様化することが必要と考えています。

 一方、地域の現状としては、水素ステーションが各地で設置され始めたところです(図2)。しかし、肝心の水素需要が創出されず水素ステーションの運営に困っていることや、自治体として水素需要の創出に向けた取り組みに悩んでいるなどの課題があります。

図2●FCV・水素ステーション事業の現状と課題
(出所:関東経済産業局)
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 これらを踏まえて、地域における水素需要創出のため、水素に関心の高い自治体を対象に「地域における水素アイディア検討会」を開催しました。検討会では、「絵に描いた餅」にならないよう、大学や大手企業などの外部有識者に参画してもらうことで、実現可能性の高いアイデアを検討できるように工夫しました(図3)。

図3●地域における水素アイディア検討会の概要
(出所:関東経済産業局)
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十分な水素需要で採算性を確保

「地域における水素アイディア検討会」を通じて、どのような知見が得られましたか。

濱野 検討会は、参加自治体に対して、地域の特性や課題を踏まえて、今後、地域において可能性が高い分野の水素利用のアイデアを検討しました。そのアイデアに対して大学や大手メーカーなどの外部有識者から助言をもらい、具体的な地域における水素の利用方法を検討しました。

 一番の成果は、自治体が、地域における水素利用を積極的に推進する意識が大きく高まったことです。実際、一部の自治体においては検討会の終了後に、関東経産局とともにアイデアの実現に向けて検討しているところです。

 具体的には、栃木県や宇都宮市とともに、宇都宮における水素ステーションの整備に向けて、都市交通や物流分野などの水素利用を検討し始めています。今後、近隣の鹿沼市、日光市にも声を掛けて、広域の水素需要の創出を目指します(図4)。

図4●栃木県における水素需要創出に向けた取り組みについて
(出所:関東経済産業局)
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 また、外部有識者より、水素ステーションなどの供給施設を建設するためには、事業採算性が担保されるだけの水素需要量を確保することが重要との意見がありました。そのため、地域における水素社会を実現するためには、水素の需給バランスを適切に取り、サプライチェーン全体を一気に立ち上げることが必要と認識しました。

 一方、外部有識者と自治体の双方から、現状は採算性が確保できる規模のサプライチェーンを単一の企業・自治体のみで立ち上げることは困難という意見も多く出ました。

 これらの議論を踏まえて、地域における水素利用を促進するためには、官民が連携して取り組むことが重要と理解しました。そのため、まずは自治体が旗振り役となって、水素を供給する企業と活用する企業を集結させ、一定規模の水素サプライチェーンを構築することが効果的と考えています。

 関東経産局では、こうした地域における水素の需要と供給のバランスを成り立たせた採算性成立モデルの最小単位を「水素タイル」と定義しました。今後、自治体との連携を強化していくことで、「水素タイル」を次々と組み合わせていき、より広域でのサプライチェーン構築を展開していければと考えています(図5)。

図5●「水素タイル」について
(出所:関東経済産業局)
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 なお、地域における水素需要については、各地域の特性や課題に応じて、公共交通、物流、農林水産業、建設業などの需要を計画的に作り出し、需給を成り立たせる必要があります。

本庁との相乗効果で地域を脱炭素化

エネ庁本庁と関東経産局の関係と役割分担は、どうなっていますか。

経済産業省・関東経済産業局長の濱野幸一氏
(撮影:清水盟貴)

濱野 グリーン成長戦略では、水素産業の目指すところとして、水素導入量の拡大を通じて、供給コストを化石燃料に十分な競争力を持つ水準にするとしています。

 そのため、本庁としては、今後、供給面では海外産の安価な水素の活用と国内水素製造基盤を両立する取り組みを、需要面では大規模な水素発電やFC(燃料電池)大型トラックなどの輸送分野、水素還元製鉄などの産業分野などの実現に取り組んでいきます。

 一方、関東経産局としては、地域における水素社会の実現が役割になります。それには、地域における水素需給を成立させることが重要で、特に、地域特性に合わせた水素需要を創出する必要があります。

 そのため、これまでの乗用車用途のみならず、水素利用の多様化を検討していきます。例えば、地域の基幹産業になっている農林業や漁業などの一次産業や観光分野の活用、都市交通や地域内物流での活用などが考えられます。

 具体的には、ピーマンなどの農業、サバなどの漁業が盛んな茨城県神栖市において、一次産業における水素の活用や高速バス・路線バスなど都市交通への燃料電池導入などを茨城県や神栖市とともに検討していきます(図6)。

図6●神栖市における水素需要創出に向けた取組について
(出所:関東経済産業局)
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 つまり、本庁は、水素の大量導入・大量供給による水素供給コストの低減を推進し、関東経産局は、地域における水素需給のバランスを確保すべく、多分野での水素需要の創出を推進していきます。

 今後は、地域における水素利用を一気に進められるように本庁の取り組みとの相乗効果を出しつつ、地域における脱炭素を加速させたいと考えています。

地域企業の稼ぐ力を高める

最後に、改めて関経局長としてグリーン社会実現に向けた決意をお聞かせ下さい。

濱野 これまで多くの地域では、エネルギーは国やエネルギー会社の仕事として捉え、自分事として考えていなかった面もありますが、カーボンニュートラルに向けた変化は地域にとっては大きなチャンスになり得ます(図7図8)。

図7●地域エネルギー振興における問題認識/地方局の役割
(出所:関東経済産業局)
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図8●基礎自治体におけるエネルギー部局の設置状況(現状)
(出所:関東経済産業局)
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 このチャンスを生かし、持続可能な地域づくりを進めるとともに、地域企業の稼ぐ力を高めることが重要です。

 そのため、地域における再エネや水素などの活用によるグリーン化に対して、我々の持つネットワークや支援リソースを提供して、伴走型で支援していきます。

 このような取り組みにあたっては、地域課題や地域企業を熟知している自治体と密接に連携していくつもりです。

経済産業省・関東経済産業局長の濱野幸一氏
(撮影:清水盟貴)

 こうした水素利用の動向に関しては、日経BP 総合研究所が昨年発行した「世界水素ビジネス-全体動向編-」の中で、「作る」「運ぶ/貯める」「使う」ための各種技術の解説のほか、中国・韓国・欧⽶豪の戦略を分析、2050年までの水素普及シナリオを紹介している(世界水素ビジネスー全体動向編ー」の案内サイト)。