太陽光で水素製造、「光電極」の電荷分離機構を解明
北九州市立大学と金沢大学らの研究グループは、電気化学イメージングに特化したプローブ顕微鏡を用いて、微細構造を持つ半導体光電極の電荷分離機構を明らかにした。太陽光水分解による水素製造のための半導体光電極の開発を促進する成果という。1月6日に発表した。
半導体光電極を使った水分解反応は、太陽光を利用したCO2フリーの水素製造法として注目される。円筒形状のナノ構造TiO2が配列したナノチューブアレイは、表面積が大きく電子伝導性が高いため、水分解に有効な半導体光電極となる。しかし、局所的な分析技術に課題があり、その電荷分離機構や触媒反応部位については十分に理解されていなかった。
研究グループは今回、走査型電気化学セル顕微鏡(SECOM)を利用し、Ti繊維上に成長したTiO2ナノチューブアレイの局所的な電気化学特性を調べた。SECOMは、ナノピペットを利用して微小な液滴状の電気化学セルを試料表面に形成することで、微細領域の光電流のみを局所的に分析できる。さらに、プローブをホッピングさせながら操作することで、数μmの凹凸構造も計測できるように改良した。
SECOM観察の結果、局所的な光電流が高い領域と低い領域が存在する一方、TiO2ナノチューブ上部と側面の光電流値には大きな差がないことが分かった。これは、TiO2ナノチューブ光電極における電荷分離機構が直交型であることを実験的に初めて示したものになる。この電荷分離モデルは、ナノチューブの長軸方向に沿って光励起電子が長距離輸送され、それに直交する形で光生成正孔は表面に拡散するため、再結合による損失が低減されて高い光電流応答が発現する。
この電荷分離モデルは、PbO2粒子の電気化学的な析出反応によっても確認された。PbO2粒子の析出位置は正孔による水の酸化反応部位を可視化しており、チューブ内壁と外壁の両方に析出していることから、短軸方向に正孔が拡散していることが分かる。これらの成果から、SECOMとPbO2析出反応を組み合わせた手法は、半導体光電力の反応部位を特定する非常に強力なツールになることを実証した。
半導体光電極の性能向上に必要とされる助触媒や光増感剤による表面修飾の効果を最適化するうえで、局所的な反応場の理解が役立つ。今回、さまざまなナノ構造半導体光電極の光電流特性を微細領域で理解できる手法を開発したことにより、材料設計の最適化が加速し、光電気化学的な水分解反応の高性能化につながると期待される。
同研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業さきがけ領域内の共同研究として実施された。