「系統蓄電池」解禁へ、10MW以上は「発電所」に

「太陽光・風力比率」・20%を想定し、エネルギー貯蔵推進へ

2022/01/30 17:59
金子憲治=日経BP総合研究所 クリーンテックラボ

 経済産業省は、電力系統に単独で蓄電池システムを接続する「系統用蓄電池」「系統直付け蓄電池」について、電気事業法での位置づけを明確化し、新しいビジネスモデルとして企業の新規参入を促す。電気事業法を改正し、早ければ2022年度中をめどに事業環境を整える。

 変動性再生可能エネルギー(VRE)である太陽光・風力発電の増加に伴い、系統の安定運用に有効なエネルギー貯蔵設備の普及が期待されている。すでに英国などでは系統に大型蓄電池を接続して、系統運用者に対して需給調整サービスを提供する事業が伸びている。

 経産省が「系統用蓄電池」の解禁に踏み切るのは、第6次エネルギー基本計画で掲げた2030年度の電源構成では、再エネ比率を36~38%とし、そのうち太陽光と風力の合計であるVRE比率だけで19~21%を想定していることが背景にある(図1)。

図1●政府は、2030年度に「VRE比率・19~21%」を想定
図1●政府は、2030年度に「VRE比率・19~21%」を想定
(出所:経産省)
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 IEA(国際エネルギー機関)では、電源構成のVRE比率が20%を超えると系統運用が不安定になり、大規模なエネルギー貯蔵設備が必要になると分析している。英国のVRE比率はすでにこの水準に達している。日本のVRE比率は現時点で9%程度と見られるが、このまま需給対策を打たずに太陽光・風力が増加した場合、出力抑制率の上昇で太陽光・風力の投資収益性が下がり、普及の阻害要因になることは明らかで、大規模な蓄電池を系統に接続し活用することが必須になる。

 一方国内では、現状、電気事業法上での蓄電池の扱いが不明確で、英国のような系統用蓄電池によるサービス事業ができない。国内に設置されている大型蓄電池は、メガソーラー(大規模太陽光発電所)・大型風力発電所に併設されたり、変電所内に設置されたりしており、再エネや変電所の設備の一部として、運用されている。

一般送配電事業者に「接続義務」

 2021年12月に有識者会議(電力・ガス基本政策小委員会)で公表された「今後の電力システムの新たな課題について中間取りまとめ」では、出力1万kW(10MW)以上の大型蓄電池を系統に接続する場合は、その放電する機能から「発電事業」に分類し、適切な事業規制を課す、との方向性が盛り込まれた。「10MW以上」としたのは、機能的に類似している揚水発電所を参考に、この規模の大型設備になると、万が一のトラブル時に電力系統への影響が大きくなることが想定されるからという(図2)。

図2●大型の「系統用蓄電池」のイメージ
図2●大型の「系統用蓄電池」のイメージ
(出所:経産省)
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 電気事業法を改正し、需給逼迫時の供給命令などを行えるよう、大型の系統用蓄電池から放電する事業を「発電事業」に位置づけ、参入・退出時の届出義務や、需給逼迫時の供給命令など、現行の発電事業者に対する規制を課すとした。

 これに伴い、一般送配電事業者に対しては、太陽光や風力など従来の発電設備と同様、系統用蓄電池の設置事業者から接続の申請があった場合、系統連系の義務を負わせる。連系協議を経て、連系容量や工事費負担金を算定するなど、従来の系統連系に求められるプロセスを経たうえで接続されることになる。

 また、10MWに満たず「発電事業」とされない系統用蓄電池に関しても、普及を促す観点から、系統接続・系統利用に向けた環境整備を進める。10MW未満のうち、一定規模を超える系統用蓄電池に関しては、需給逼迫時に供給力を活用する趣旨から、特定自家用電気工作物設置者に含めて、経産大臣への届出を求めるとした。

 系統用蓄電池が連系した場合、充電時には需要設備、放電時には発電所としての性格を持つことになる。経産省の有識者会議では、蓄電池への送電(充電)には託送料がかからない一方、蓄電池からの送電(放電)には託送料金がかかり、加えて、充放電に伴うロス分に対しては、需要と見なして託送料が発生すると整理された(図3)。

図3●系統用蓄電池に関する「託送料金」の取り扱い
図3●系統用蓄電池に関する「託送料金」の取り扱い
(出所:経産省)
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国内でも50MW超える蓄電池が稼働

 国内では、固定価格買取制度(FIT)により太陽光発電所が急増したことを受け、国の全額補助により、北海道の南早来変電所、宮城県の西仙台変電所、福島県の南相馬変電所、福岡県の豊前発電所内に10MWを超える大型蓄電設備が実証事業として配備された。これらは、一般送配電事業者の設備として、系統運用の安定化に活用されている。

 また、系統規模が相対的に小さい北海道や離島では、メガソーラーや大型風力発電所を連系する際に大型蓄電池の設置が条件になっている。北海道八雲町に建設された約100MWのメガソーラーに併設された蓄電池は52MWに達し、国内で稼働済みの蓄電池システムでは最大となっている。こうした再エネ併設蓄電池は、太陽光・風力発電設備の一部として、再エネ発電事業者が所有し、太陽光・風力の出力変動を緩和するように充放電を行い、系統への出力変動負荷を抑制する役割を担っている(図4)(関連記事:八雲町に姿を現した国内最大の「蓄電池併設メガソーラー」)。

図4●約100MWのメガソーラーに併設された52.5MWの蓄電池システム
図4●約100MWのメガソーラーに併設された52.5MWの蓄電池システム
北海道八雲町で稼働しており、東芝三菱電機産業システム(TMEIC)が構築した(出所:日経BP)
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 このほかにも北海道では、募集プロセスにより複数の風力併設蓄電池をまとめる形で南早来変電所内に蓄電池を建設している。また、道北の風力発電所の発電電力を送電する北海道北部風力送電(稚内市)も大型蓄電池を建設中で、これらは送配電事業者が運用を行う。

 一方、英国などで普及し始めている系統用蓄電池は、一般送配電事業者(系統運用者)や再エネ発電事業者の所有ではなく、それら以外の事業者が設置して単独の蓄電池設備として系統連系して運用する。卸電力市場での裁定取引のほか、系統安定化を目的とした需給調整市場やアンシラリー市場など各種市場で収益を上げる。

 日本工営と東芝三菱電機産業システム(TMEIC)など日系企業5社は、英国で合計約100MWの蓄電池を設置してこうした事業に乗り出す(図5)(関連記事:「太陽光・風力の急増で、系統蓄電池によるサービス事業が拡大へ」、日本工営の秋吉副社長に聞く)(関連記事:「系統蓄電池に求められる高速制御、0.5秒の応答性を実現」、TMEICの澤田執行役員に聞く)。

図5●日本工営とTMEICなど日系企業5社が英国で取り組む、系統用蓄電池によるサービス事業のイメージ
図5●日本工営とTMEICなど日系企業5社が英国で取り組む、系統用蓄電池によるサービス事業のイメージ
(出所:日本工営)
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 日本国内でもVRE比率の急上昇が確実なことから、こうした一般送配電事業者向けの系統安定化サービスの必要性が高まる。経産省は今後、民間資金を活用しつつ、市場を介することでコスト効率の高い系統用蓄電池の普及を促す方針で、系統安定化に向けた各種市場の整備を進めるとともに、VRE比率が低く系統用蓄電池の事業性が不十分な間は、設置補助金などの推進策が打たれる可能性が高い。こうした「系統用蓄電池」普及の環境整備が順調に進んだ場合、北海道に建設するメガソーラーや大型風力に課されている蓄電池併設要件を解除することも検討されている。