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人工光合成の効率を高める固体材料、東工大など開発

2022/01/31 23:02
工藤宗介=技術ライター
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(a)半導体を例にした場合の光エネルギーの利用効率の制限。分子系材料の場合も概念は同様になる。(b)UCの概念
(a)半導体を例にした場合の光エネルギーの利用効率の制限。分子系材料の場合も概念は同様になる。(b)UCの概念
(出所:東京工業大学)
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(a)二成分系の代表的な相図の模式図。α相が今回の研究で追求した固溶相。(b)今回の研究で使用した増感分子と青色発光分子
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(出所:東京工業大学)
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(a)今回生成したUC固体材料の外観。(b)波長542nmの緑色光を照射したときの試料の発光スペクトル。青色域に発光が得られている。(c)波長542nmの励起光強度とUC量子効果との関係。(d)閾値強度の10倍の20mW/cm2の強度で波長542nmの入射光を連続して当て続けた際の発光強度の時間推移
(a)今回生成したUC固体材料の外観。(b)波長542nmの緑色光を照射したときの試料の発光スペクトル。青色域に発光が得られている。(c)波長542nmの励起光強度とUC量子効果との関係。(d)閾値強度の10倍の20mW/cm2の強度で波長542nmの入射光を連続して当て続けた際の発光強度の時間推移
(出所:東京工業大学)
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 東京工業大学は1月11日、日産自動車および出光興産と共同で、世界最高性能を持つフォトン・アップコンバージョン(UC)の固体材料を開発したと発表した。UCは、人工光合成用光触媒などで未利用の長波長光を利用可能な短波長の光に変換することで効率を高めることができる。

 光は、波長が短いほど光子1粒あたりのエネルギーが大きくなる。光触媒や太陽電池などでは、入射した光子のエネルギーが各材料に固有な「ある最低限度必要なエネルギー」より高ければ材料を励起できる。つまり、各材料に固有の「ある波長」より短波長側の光のみが利用され、それより長波長側の光は利用されず損失となっている。

 UCは、低エネルギーの光子群(長波長の光)を、より高エネルギーの光子群(より短波長の光)に変換する技術。現在、太陽光に適用できるUC方式は、有機分子間の励起エネルギー移動を用いるTTA方式のみになる。従来は分子を有機溶剤などに溶かした液体系の研究が多かったが、溶媒の蒸発・着火・沸騰などのリスクが伴うことから、近年では固体材料の研究が進められている。

 TTA方式は、長波長の光子をキャッチする「増感分子」と、その励起状態を受け取って短波長シフトした光子を出す「発光分子」を組み合わせて行われる。増感分子数と発光分子数の比は通常1対数百~数千になるため、発光分子の固体中に増感分子を分散させる必要がある。多くの場合、同種類の分子同士が集まった方が全体的に安定であるため、増感分子同士が凝集してしまい、効率よく増感分子から発光分子に励起エネルギーの受け渡しが行えず、UCの高効率化への障害となっていた。

 この現象を回避するには、従来の材料研究では「増感分子同士が凝集し始める前に、急速な溶媒の蒸発や溶液中での析出によって、速やかに固体を生成する」方法がとられることが多かった。しかし、このような高速法で使られた固体は、一般に欠陥を多く含む微結晶粉であり、励起エネルギーが材料中をよく伝搬しないため低効率で、光照射強度の閾値も比較的高かった。

 研究チームは今回、「二成分があるときは、わずかでも互いに混ざり合うほうが安定」という法則(エントロピーの自発的な増大則)を利用することを着想した。二成分を混ぜたときの安定状態を整理して、縦軸を温度、横軸を増感分子の比率として各状態の領域を相図として示し、微量な増感分子が発光分子の結晶中に溶液のように溶け込んだ固溶体相の選択的生成を追求した。

 増感分子には緑色光を吸収して励起三重項状態を高効率で生成する分子を選び、青色発光分子として炭化水素分子(ANNP)を用いることで、この着想を実現できることを見出した。生成条件の最適化の結果、透明で薄ピンク色の1mm程度の結晶が得られた。ピンク色は増感分子の色であり、無色透明なANNPの結晶中に増感分子がわずかに固着していることを示す。

 この結晶に波長542nmの緑色光を照射した結果、波長434nmにピークを持つUC発光が得られた。結晶試料について入射光強度とUC量子効率(理論上限は50%)を測定した結果、最高で約16%(理論上限の32%)と非常に高いこと、また光入射の閾値強度が太陽光強度の約5分の1と超低強度であることを見出した。

 その一方で上限値とはまだ隔たりがあり、その主な理由にANNPの蛍光量子効果(励起状態から光子が放たれる効率)が比較的低いことが挙げられる。今後、さらに好適な発光分子を探索し、より高いUC量子効率の達成と商用を目指すとしている。

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