産業技術総合研究所は3月9日、日本精化と共同で、ペロブスカイト太陽電池に使われる有機ホール輸送材料について、添加剤(ドーパント)を使用せずに高い光電変換効率が得られる新規材料を開発したと発表した。
ペロブスカイト太陽電池に使われる有機ホール輸送材料は、リチウムイオンなどのドーパントを混合しホール移動度を約10倍向上させて高い光電変換効果を得ている。一方、リチウム塩などのドーパントは一般的に吸湿性があるため、水分を引き込んでペロブスカイト層を劣化させ耐久性を低下させる。そこで、ドーパントを添加せず高い光電変換効果を得られるホール輸送材料の開発が期待されていた。
産総研と日本精化は、2017年からホール輸送材料の共同開発を進めている。研究チームは今回、有機ホール輸送材料であるSpiro-OMeTADの分子先端にある酸素とメチル基から構成されるメトキシ基を、窒素とメチル基から構成されるジメチルアミノ基に置き換えることで、電子を送り込む機能(電子供与性)を高めた新規ホール輸送材料を合成した。
ホール材料にドーパントを添加しない条件において、従来材料と新規材料をそれぞれペロブスカイト太陽電池(MAPbI3)に導入したところ、光電変換効率が従来材料の12.9%から新規材料では16.3%と約3割向上した。この新規材料をより高い変換効率が期待できるペロブスカイト[Cs 0.05(FA0.85MA0.15)0.95Pb(I0.89Br0.11)3]と組み合わせると18.7%に達した。
また、この新規材料は、一般的なホール輸送材料(厚さ100~200nm)と比べて薄膜化(30~50nm)できることも分かった。さらに、未封止の太陽電池に対して85℃における耐熱試験を実施した結果、電池の初期性能を1000時間ほぼ維持する高い耐熱性が得られた。
今後、さまざまな分子構造を持つ新規ホール輸送材料を合成・比較し、太陽電池性能のさらなる向上を目指す。耐久性については、さらなる耐熱性の向上に加えて、耐湿性、耐光性試験によって実用に資する長期安定性を実証する。さらに、ペロブスカイト組成の最適化、劣化抑制技術、封止技術の導入などにより、寿命20年以上の高効率ペロブスカイト太陽電池の開発を目指す。