現地レポート アメリカ太陽光発電の最前線

誰にでも太陽光の恩恵を! 米加州が貧困層向けに300MWを設置支援

低所得者向け集合住宅を対象に大規模な再エネ普及策

2016/02/24 00:00
Junko Movellan=ジャーナリスト

 ここ数年、太陽光発電システムの価格が大幅に低下したが、米国ではいまだに太陽光発電は「お金に余裕のある家庭用のもの」とされている。そんなイメージがカリフォルニア州で変わろうとしている。

 昨年10月、カリフォルニア州のJerry Brown知事は低所得世帯に太陽光発電(PV)導入を促進する米国最大規模の法律案(低所得者向け賃貸集合住宅用にソーラープログラム)に署名し、同法を成立させた。このプログラムの年間予算は1億米ドルで、10年間の実施が予定されている。

 カリフォルニア州太陽光発電産業協会(CALSEIA)でエグゼクティブディレクターを務めるBernadette Del Chiaro氏は、「この法律はカリフォルニア州にとっても重要な新しいプログラムです。なぜなら、賃貸を含めた全ての電力消費者が、汚染を出さない太陽光発電の恩恵を、住んでいる場所、または働いている場所で得られるようになります」と、語った。

 このプログラムを通し、同州は、少なくとも300MWの太陽光発電システムを低所得者向け賃貸集合住宅に導入する目標を掲げている。「最低300MWです。我々はどちらかというと500MWを目指しています」と、米Everyday Energy社でCEO(最高経営責任者)を務めるScott Sarem氏は語った。同社は、カリフォルニア州サンディエゴ市に本社を置き、同州において、低所得者向け賃貸集合住宅用への太陽光発電システムの設置量でナンバーワンであり、さらにこの法律の提案書作りにも大きく貢献した。

 「このプログラムは『必要性』から生まれました」と、Sarem氏は続けた。カリフォルニア州の太陽光発電設置導入量は米国で最も多く、低所得者向けアパート用太陽光発電の補助金制度に関しても、実は前から取り入れていた。しかし、幅広く利用されず、成功を収めたとは言えなかった(図1)。

図1●カリフォルニア州サンディエゴ市の低所得賃貸住宅(全92世帯)に設置された太陽光発電システム。合計出力202kW。(出所:Everyday Energy社)
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環境面と経済面の両方にメリット

 カリフォルニア州公益事業委員会(California Public Utilities Commission:CPUC)は2008年に「Multifamily Affordable Solar Housing (MASH)」と呼ばれる、低所得者向け賃貸集合住宅に太陽光発電システムの設置を促す補助金プログラムを開始した。当時MASHは約1億800万米ドルの予算を割り当てられた。全ての予算はすぐに申し込みで一杯になり、2013年に新しい法案が可決され、MASH用に新たに5400万米ドルの予算が割り当てられた。

 MASH開始から今までに26MW、365件のプロジェクトが完了した。これは、6700件の低所得者向け賃貸集合住宅に太陽光発電システムが設置されたことを意味する。米国NPO(非営利組織)法人Center for American Progressの分析によると、この数はカリフォルニア州内における年収4万米ドル以下の低所得層のたった4.2%に過ぎないそうだ。

 低所得世帯にとって、収入に占める電気料金支払い額の割合は、高所得世帯に比べると高い。太陽光発電システムの設置により月々の電気料金を削減できると、食費、医療費など、もっと重要な支出にお金を回すことができる。つまり、このプログラムは低所得世帯に環境的利点のみならず、多くの経済的利点ももたらすとされている。

排出量取引制度による収益が原資に

 MASHプログラムの原資は、日本の固定価格買取制度(FIT)のように全ての電力消費者から電気料金の一部として徴収される。しかし、新しいプログラムは、同州のキャップ&トレード方式の排出量取引制度からの収益が割り当てられる。つまり、「納税者など、誰にも余分な支払いが発生しません」と、Sarem氏は語った。

 排出量取引制度は、カリフォルニア州の掲げた「2020年までに温室効果ガスの排出量を1990年レベルに削減する目標」を達成するため制度である。大規模な燃料燃焼施設や電力の一次供給者など、CO2排出量の多い企業が規制の対象となり、一定量のCO2を排出する「枠」が割り当てられる。

 この排出枠とは、一定の排出量を排出してもよいパーミッション(permission)であり、毎年、州全体の排出枠総量が定められる。州は目標に向かって徐々に排出枠総量を減らし、各企業への枠の割り当ても少なくする。企業は、排出量を枠内に収めるため、最も費用対効果がよく、効率的な手法を見つけ出すことを求められる。余った「排出枠」は取引可能であり、企業は排出量取引市場に売却できる。

 電力事業者にも排出枠が割り当てられるが、排出量が枠を下回り、売却して得た収益は、電力消費者のために利用することが義務付けられている。つまり、この収益が、低所得者向け賃貸集合住宅用太陽光発電システムを普及させるために使われるのである。

低所得者だけでなく全需要家に利点

 実は、このプログラムは太陽光発電システム設置に補助金が出る賃貸集合住宅に住む低所得層のみならず、すべての経済的階級に所属する電力消費者にメリットがある。

 カリフォルニア州は、電力会社に対し、低所得層向け電気料金割引プログラムを提供することを義務つけている。このプログラムは「California Alternate Rates for Energy(CARE)と呼ばれ、連邦貧困所得基準の200%未満の世帯が、冷暖房、照明、調理など最小限の電力需要を満たせるように設けられた支援制度である。

 CPUCのデータによると、現在450万の世帯が「CAREプログラム」に参加しており、これは同州で同プログラムに参加できる世帯の84%を占めている。同プログラムに参加した世帯は、30~35%の電気料金の割引が受けられる。ちなみに、2014年にこの支援プログラムに要した費用は12億米ドル。この金額は、全電力消費者から集められたものである。

 Sarem氏によると、太陽光発電システムの設置により、低所得世帯は電力会社からの電気購入量を減らすことができる。それにより、CAREプログラム予算を計算するベースが小さくなり、他の電力消費量の負担額も自動的に下げることができる(図2)。

図2●カリフォルニア州CAREプログラム参加年間収入基準(出所:加州の資料を基にJunko Movellan氏作成)
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米国全土に広がる「歴史的なプログラム」

 低所得世帯向け太陽光発電支援制度がカルフォルニア州以外の州にも広がろうとしている。昨年7月にオバマ大統領は、連邦政府主導の「気候変動対策案」の1つとして、連邦政府支援の低所得世帯に太陽光発電システム300MWを2020年までに導入、そして、それらの世帯がシステム購入をより簡単にできるファイナンスシステムを提供することを宣言した。

 「カリフォルニア州のこの新しいプログラムは、低所得世帯向け太陽光発電システムの普及を促すための最も大きい投資を意味します。もし、このプログラムが効果的に導入されれば、他の州へのモデルとなり、さらに、全ての人々が太陽光発電にアクセスできる、歴史的なプログラムになるでしょう」と、Del Chiaro氏は期待をこめて語った(図3)。

図3●カリフォルニア州サンディエゴ市の低所得賃貸住宅(全268世帯)に設置された太陽光発電システム。合計出力464kW。(出所:Everyday Energy社)
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