久喜市最大級のメガソーラーが屋根上に稼働

物流施設の付帯設備で地域と地球環境にも貢献

2019/04/02 05:00
金子憲治=日経BP総研 クリーンテックラボ

理科大の跡地にメガソーラー

 JR東北線・東武伊勢崎線の久喜駅から県道151号線を北西に約2.5km。県道を左に折れると、「理科大通り」と呼ばれる道がある。だが、いまそこに東京理科大学はない。

 埼玉県久喜市に東京理科大学・経営学部の久喜キャンパスが開校したのは1993年4月。同市は、当時、周辺道路を整備するなど、大学の誘致に取り組み実現した。しかし、その後、18歳人口が減少するなか、思うように学生が集まらず、2016年3月末、同大経営学部は、東京都新宿区の神楽坂に移転し、久喜キャンパスは閉鎖された。

 大学撤退から2年半後の2018年9月30日、キャンパス跡地に地上4階建て、延べ床面積15万1501m2もの巨大な建物が竣工。翌日の10月1日には、同じ敷地内に、久喜市内で最大級となる2.39MWものメガソーラー(大規模太陽光発電所)が稼働を始めた。

 といっても、地上からは、太陽光パネルは1枚も見えない。

 竣工した建物は、物流施設の「ESR久喜ディストリビューションセンター(DC)」で、メガソーラーは、その屋根上に設置されている(図1)。

図1●「ESR久喜ディストリビューションセンター」屋根上のメガソーラー
(出所:ESR)
クリックすると拡大した画像が開きます

 この物流施設の開発・所有・運営を手掛けるのはESR(イーエスアール)(東京都港区)。同社グループは、中国・韓国などで物流施設を開発してきたイーシャンと、アジア・日本などで物流施設を展開するレッドウッド・グループが2016年に経営統合し、米投資会社のウォーバーグ・ピンカスの参画により発足した。グループ本社は香港で、アジア大都市圏の物流不動産に特化した開発・所有・運営を行っている。

 中国、韓国、日本、シンガポール、インド、オーストラリアの6カ国で、約150棟、延べ床面積の合計で1100万m2以上の物流施設を建設・運営している。

 日本では、久喜市のほか首都圏に9施設、名古屋圏で2施設、大阪圏で3施設が竣工しているほか、複数サイトで建設を進めている。

「人を中心にしたデザイン」

 「ESR久喜DC」は、理科大・久喜キャンパスの跡地13万6500m2のうち約6割を購入して建設された。1~3階にトラックバース各54台を備え、荷物用エレベーター、垂直搬送機のほか、アメニティ施設としてラウンジやショップ、託児所を設置した(図2)。

図2●「ESR久喜ディストリビューションセンター」の外観
(出所:ESR)
クリックすると拡大した画像が開きます

 東北自動車道・久喜ICから2.5km、圏央道・白岡菖蒲ICから5kmと貨物トラックの物流拠点として地の利があるほか、もともと大学のあった立地でもあり、JR久喜駅から約3kmで駅発バス路線のバス停から2分など、公共交通による通勤にも便利なことが特徴だ。

 かつて、高速道路のIC近くの物流施設というと、トラックの荷物を一時的に保管する「コンクリートの箱」というイメージだったが、いまやその形態は一新している。物流設備として高性能化するとともに、「人の働くオフィス」として、労働環境やアメニティを充実させ、さらに地域社会や地球環境との調和にも取り組んでいる。

 ESRも、「HUMAN CENTRIC DESIGN.(⼈を中⼼に考えたデザイン)」を基本理念にこうした物流施設の新しい方向性を主導してきた。完成間もない「久喜DC」の玄関を入ると、デザイン性の高いラウンジやコンビニ入居予定のショップエリア、託児所向けの部屋があり、壁には絵が描かれている。ショッピングモールのような趣だ(図3)(図4)。

図3●テナント会社で働く人のためのラウンジスペース
(出所:日経BP)
クリックすると拡大した画像が開きます
図4●託児所のための部屋
(出所:日経BP)
クリックすると拡大した画像が開きます

17施設で26MWの太陽光

 ESRでは、こうした物流施設の屋根上には、太陽光パネルを設置し、発電事業を行うことを基本としている。日本で開発中も含めた21施設のすべてに屋根上太陽光を設置しており、出力は最小で250kW、最大で6.5MW。稼働済みと設置容量の決まっている建設中案件(合計17施設)の太陽光設備を合計するとPCS出力で約26MWに達する(図5)。

図5●ESRの物流施設と太陽光設備の規模
(注:DCはディストリビューションセンターの略)(出所:ESRの資料を基に日経BP作成)
クリックすると拡大した画像が開きます

 最大規模の屋根上太陽光を導入したのは、大阪市住之江区の「レッドウッド南港ディストリビューションセンター」で、延べ床面積12万m2と15万m2の2棟からなる。両棟に設置する太陽光パネルは合計で2万8160枚、7.462MW、連系出力は6.5MWに達する。太陽光パネルは、トリナ・ソーラー製の両面ガラスタイプを採用した。1サイトにおける屋根上太陽光の出力規模としては、国内最大級とみられる(図6)。

図6●「レッドウッド南港ディストリビューションセンター」の屋根上太陽光
(出所:日経BP)
クリックすると拡大した画像が開きます

 ESRで再生可能エネルギープログラムのディレクターを務めるブライアン・グールド氏は、「物流施設の屋根上は太陽光発電に大変に適しており、太陽光パネルを設置して発電事業を行う意義は大きい。太陽光発電設備のない物流施設は恥ずかしいこと」と話す。

 同社グループでは、物流施設の運営と屋根上太陽光の運営は別のSPC(特別目的会社)を設立して事業化し、両事業に固有の収益変動リスクが互いに影響しない形にしている。物流施設運営のSPCにとっては、屋根上を太陽光運営のSPCに賃貸しする形になり、安定した収益源の1つになる。

 屋根上太陽光事業に関しては、固定価格買取制度(FIT)による売電事業を採用してきた。ただ、2019年度の買取価格が500kW以上では入札制に移行するなど、14円/kWh以下になる可能性が高いことから、今後の新規案件では、自家消費型も検討しているとう。

パネルは韓国LG、PCSはTMEIC製

 「ESR久喜DC」では、屋根上に設置した太陽光パネルの出力は2.39MW、PCSの定格出力1.89MWとなり、年間発電量は270万kWhを見込んでいる。FITを活用し、21円/kWhで全量を売電している。

 太陽光パネルは韓国LGエレクトロニクス製(315W/枚)、パワーコンディショナー(PCS)は東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製(出力1MW機)を採用した(図7)(図8)。

図7●韓国LGエレクトロニクス製のパネルを採用した
(出所:ESR)
クリックすると拡大した画像が開きます
図8●PCSは東芝三菱電機産業システム(TMEIC)の1MW機を採用し、地上に置いた
(出所:日経BP)
クリックすると拡大した画像が開きます

 EPC(設計・調達・施工)サービスはきんでんが担当し、O&M(運営・保守)サービスはアドバンテック(東京都千代田区)グループのクールアース(東京都千代田区)が担当している。

 物流施設の屋根上に太陽光パネルを設置することは、積載荷重の点では問題ないという。設計上で配慮したのは、「配線ルートや付帯設備などが、テナントのスペースに入らないことと、建物本体の工期中に太陽光設備の工事も完了させ、同時に稼働できることを目指した」と、ESRの武田諭シニアディレクター・コンストラクションヘッドは言う。

 実際にこうした設計当初の目標は、順調に達成されたという(図9)。

図9●建設中の「ESR久喜ディストリビューションセンター」
(出所:ESR)
クリックすると拡大した画像が開きます

発電量は1割以上の上振れ

 太陽光パネルは、折板屋根に金具で取り付け、PCSと連系設備は、建物と駐車場の間の地上スペースに設置した。屋根上から地上までの配線は、外側の壁と非常階段との隙間にケーブルラックを取り付け、そのなかに敷設した(図10)。

図10●外側の壁と非常階段との間にケーブルラックを取り付けた
(出所:日経BP)
クリックすると拡大した画像が開きます

 メガソーラーのシステム設計では、小容量PCSを分散設置する構成もあるが、「ケーブルの敷設コストや稼働後の運営コストを考慮すると、トータルでは大型PCSによる構成の方が低コストになると判断した」と、グールド・ディレクターは言う。

 稼働後、約半年間の発電状況は順調で、予想より1割以上の上振れとなっているという。

 倉庫や工場での屋根上太陽光は、太陽光パネルによる遮熱効果があり、空調負荷が低減する利点を指摘する人もいる。この点について、武田シニアディレクターは、「ESRの物流設備では、屋根材に遮熱性の高い二重折板を採用している。そのため、太陽光パネルによるさらなる遮熱効果の改善は、ほとんど感じられない」と言う。

託児所を地域に開放も

 「ESR久喜DC」では、施設内で運用するフォークリフトは電動式に限定し、作業環境に配慮している。ただ、その分、電動フォークリフトへの充電で電力需要は大きくなる。そこで、特別高圧を受電するなど、将来の電力需要に備えている。

 今回導入した太陽光発電はFITによる売電事業に限定しているため、停電時に施設内には電力供給できない。そこで、非常用のエンジン発電機を導入し、BCP(事業継続計画)にも対応している。

 また、地域との共生や貢献活動にも取り組んでいる。昨年9月、同社は所有していた東京理科大学跡地の一部を市に寄付した。物流施設に近い約2259m2の土地で、久喜市では、地域住民のための公園・緑地として活用していく予定という。

 オフィス機能を高めた最新の物流施設の場合、雇用の創出効果も大きいという。特に「久喜DC」は、通勤に便利な立地でもあり、将来的にテナントが入居してフル稼働になった場合、1000人以上が働くことになる見込みという。

 施設内で運営を予定している託児所については、こうしたテナント企業で働く人たちの労働環境を高めるとともに、希望があれば、周辺の地域住民にも利用できるようにしていきたいという。

●設備の概要
発電所名RW久喜太陽光発電所
住所埼玉県久喜市上清久字蔵前919-1「ESR久喜ディストリビューションセンター(DC)」屋根上
発電事業者RW RENEWABLES8 合同会社
土地・建物所有者ESR(東京都港区)
敷地面積「ESR久喜DC」の敷地面積・8万1159m2
出力太陽光パネル・出力2.39MW、パワーコンディショナー(PCS)・定格出力1.89MW
年間予想発電量約270万kWh
EPC(設計・調達・施工)サービスきんでん
O&M(運用・保守)クールアース(東京都千代田区)
太陽光パネル韓国LGエレクトロニクス製(315W/枚)
パワーコンディショナー(PCS)東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製(1MW機・2台)
売電開始日2018年10月1日