志摩市の国立公園内にメガソーラー、分離発注による自社EPC

干拓した水田を農地転用、盛土して浸水対策

2019/05/21 05:00
金子憲治=日経BP総研 クリーンテックラボ

英虞湾の干拓地に建設

 三重県志摩市は、リアス式海岸に大小の島々が点在し、全域が伊勢志摩国立公園に含まれる。ほかの国立公園と異なり大部分が民有地なのが特徴だ。

 阿児町(あごちょう)は、英虞(あご)湾に面し、2004年10月に周辺4町と合併して志摩市になり、現在は同市の地名として名を残している。豊かな自然から観光産業や漁業、真珠産業が盛んで、町名は「英虞湾」から来ているという。

 約2MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)「ソフトバンク三重志摩阿児ソーラーパーク」は、同町沿岸域にある。ソフトバンクグループで再生可能エネルギー事業を手掛けるSBエナジー(東京都港区)が建設した。今年3月19日に営業運転を開始した(図1)。

図1●「ソフトバンク三重志摩阿児ソーラーパーク」の全景
(出所:SBエナジー)
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 英虞湾の海岸沿いの主要道路を走っていても、道沿いには木々が繁り、太陽光パネルが配置されている様子はまったく見えない。木々の間の小道を入ると、視界が開け、整然と並べられたパネル群が目に入る。

 太陽光発電所の南側は小高い緑の丘、東西は池になっている。丘の向こうには、もう英虞湾は広がっている。実は、発電所のあるエリアは、英虞湾の入り江を干拓して開発した水田だった。しかし、現在、周囲でも稲作が営まれている様子はない(図2)。

図2●事業用地は元干拓地で、湿地帯が隣接している
(出所:日経BP)
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 海と山が接しているリアス式海岸の内陸には、平らな土地がほとんどない。志摩半島も例外ではなく、農業に向いた平地が少ない。そこで英虞湾の沿岸域では、江戸時代以降、食糧増産を背景に干潟などを干拓し、水田を増やしてきた。しかし、社会情勢の変化とともに、現在はその8割以上が休耕地となっているという。

農地転用で建設可能に

 「三重志摩阿児ソーラーパーク」も、こうした休耕地を活用したものだ。干拓地は、海を堰き止めて陸地にしているため、周辺の陸地よりも低地になる。大雨が降ると水没し、なかなか水は引かない。英虞湾沿岸の干拓地が、徐々に耕作放棄地になってしまったのは、こうした背景もある。同ソーラーパークの用地も数十年間、耕作されなかったという。

 同地でのメガソーラー建設を計画したSBエナジーは、1社・3人の地権者と連携しつつ、地域の農業委員会に農地転用を申請した。元々、水田で地目は農地だったものの、農振法(農業振興地域の整備に関する法律)上、農業振興地域(農用地区)ではなかったこともあり、最終的に太陽光発電所への転用が認められた。

 農地転用にあたっては、休耕地とはいえ、周囲に農地があることもあり、雨水の排水対策に十分に配慮することが求められたという(図3)。

図3●設置角10度とし杭基礎で架台を固定した
(出所:日経BP)
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 敷地は2つのエリアに分かれ、合計約2万8000m2(約2.8ha)。太陽光パネルの出力は約2.1MWで、パワーコンディショナー(PCS)の定格出力は1.75MWとなる。年間発電量は、一般家庭約693世帯分に相当する約249万7000kWhを見込んでいる。固定価格買取制度(FIT)に基づく買取価格は32円/kWh。

 太陽光パネルは中国ジンコソーラー製、PCSは東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製、架台は奥地建産製を採用した。

盛土して地盤改良

 SBエナジー・電力事業本部の阿部哲也・地域貢献推進部部長は、「三重志摩阿児ソーラーパークの設計にあたっては、もともと干拓地であることから、浸水リスクが大きいことへの対応が大きなポイントになった」と言う。

 盛土によって元の地盤を約1.2m高くし、その上に架台を設置した。土木造成が大掛かりになる上、大量の土砂が必要になる。メガソーラー建設で実績の多い大林道路に造成を委託し、同社を通じて地元建設会社などの尽力で、嵩上げ用の土砂を確保できたという。

 一方、盛土してかさ上げした場合、地盤の地耐力が相対的に弱くなる。そこで、杭基礎を打ち込む地盤部分に、セメントミルクを注入して地盤改良を行い、地耐力を補強した(図4)。これにより、不安定なかさ上げ盛土での杭基礎の施工を可能にした。また、盛土後の法面には、ヨモギの種をまき、緑化して表土を安定化させる方針という(図5)。

図4●杭基礎の周囲をセメントミルクで地盤改良した。基礎・架台は奥地建産製を採用
(出所:日経BP)
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図5●浸透管を埋め込んで暗渠排水とし側溝に雨水を流す。法面にはヨモギの種を播いた
(出所:日経BP)
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大規模造成でコスト上昇

 こうした大規模な土木造成は、当初の見込みよりも、建設コストが膨らむことになった。「盛土を造成する間は地盤が不安定なので、多少でも雨が降ると工事できないといった想定も含め、工期は通常の高圧太陽光発電所の造成工事と比べて長く見積もり、約1年の計画で進めた」と、阿部部長は言う(図6)。

図6●低地のため雨水が溜まりやすい。PCSは東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製を採用した
(出所:日経BP)
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 「こうした造成コストの上昇に対応し、建設コスト全体の費用を当初予定の範囲に抑えるため、今回のプロジェクトでは、EPC(設計・調達・施工)サービス企業を置かず、自社での分離発注に踏み切った」(阿部部長)。

 通常、大規模な建設工事では、EPCサービス会社を置き、事業主の意向を確認しつつ、設計から資材調達、施工管理を委託する。この場合、電力会社との連系協議や地元対応などもEPCが主体となって行うことが多い。完成後は、一般的には1年間の瑕疵担保責任の期間中、その間に顕在化した不具合(瑕疵)などをすべて改修・解決した後、事業主に引き渡すという流れになる。

 発電事業主にとっては、EPC事業者を置くことで、施工管理の手間がなくなり、完成後の安定的な稼働までのリスクを回避できる。半面、設備や資材の調達原価が見えにくくなるとともに、EPC事業者に瑕疵担保責任を負わせる分だけ、EPC契約金額に「保証料」が加わり、建設コスト全体を押し上げる要因になる。

「分離発注」でコスト削減

 そこで、今回は、分離発注によって、コスト削減を促した。具体的には、SBエナジーが施工管理を行い、土木造営を大林道路に、架台設置から太陽光発電設備の設置を東芝プラントシステムに別々に発注した。加えて、太陽光パネルについては、SBエナジーが中国ジンコソーラーから直接、調達し、東芝プラントに支給する形にした(図7)。

図7●中国ジンコソーラー製のパネルを採用した
(出所:日経BP)
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 EPC事業者を置かないため、電力会社との連系協議や地元対応なども、SBエナジーが主体となって実施したという。技術面に関しては、SBエナジー・電力事業本部の技術部が、地元対応に関しては地域貢献推進部も対応した。

 「三重志摩阿児ソーラーパーク」の営業運転開始により、同社の稼働済み再生可能エネルギー発電所は37件(太陽光36件、風力1件)、総出力は442.7MWになる。

 このうち今回のような「分離発注」は、志摩サイトで5件目、計画中のもので2件になるという。同社は、2012年にFITがスタートして以来、着実にメガソーラー建設を積み重ね、国内有数の実績となっている。こうした蓄積が、自社で施工管理を行う分離発注を可能にする背景になっている。

景観条例の基準を自主的に導入

 風光明媚な景色が重要な観光資源である志摩市では、景観条例を制定した上で、市域をゾーニングして景観計画を定めている。「三重志摩阿児ソーラーパーク」のある阿児町立神周辺は、重点地区である「里海・熊野灘沿岸ゾーン」に区分けされており、建築物を設置する場合には、あらかじめ届出をおこなうほか、景観形成基準を定めている。

 こうした景観計画の仕組みとして、太陽光と風力発電施設の設置に関する景観形成基準を策定し、今年4月から運用を始めた。太陽光に関しては、例えば、「植栽等で目隠しを行うなど、道路などの公共の場所から容易に目立たないようすること」「フェンスなどの附属設備の色彩は、周囲から見えないような措置等を行う場合を除き、ダークブラウンなど、周囲の景観と調和した色彩とすること」などの基準が示された。

 「三重志摩阿児ソーラーパーク」は、こうした「ガイドライン」の適用前に着工・完成しているため、対象外になる。ただ、SBエナジーでは、ガイドラインが公表された時点で、適合するか否かを確認して、発電設備を囲むフェンスを一般的なシルバーからこげ茶色に変更したという。

●設備の概要
発電所名ソフトバンク三重志摩阿児ソーラーパーク
住所三重県志摩市阿児町立神字新阿鎌3459他
発電事業者SBエナジー
土地所有者1社・2人
設置面積約2万8000m2(約2.8ha)
出力太陽光パネルの出力約2.1MW、パワーコンディショナー(PCS)の定格出力1.75MW
年間予想発電量約249万7000kWh
EPC(設計・調達・施工)サービスSBエナジーによる分離発注(電気設備施工・東芝プラントシステム、土木造成・大林道路)
太陽光パネル中国ジンコソーラー製
パワーコンディショナー(PCS)東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製(1000kW機・1台、750kW機・1台)
架台奥地建産製
売電開始日2019年3月19日
売電単価32円/kWh