「パネルの海」が壮観! 久米南町の美しいメガソーラー

遠隔監視とデータ分析システムを導入

2016/05/24 00:00
金子 憲治=日経BPクリーンテック研究所

 「40年来、町の抱えてきた懸案がようやく解決した。本当にありがたいこと」。4月15日、岡山県久米南町で、「パシフィコ・エナジー久米南メガソーラー発電所」の竣工式が開催された(図1)。久米南町の河島建一町長は、式典の祝辞で、感慨深げにこう挨拶した。同発電所は民有地に建設したものだが、同町は開発当初から積極的に支援してきた。

図1●「パシフィコ・エナジー久米南メガソーラー発電所」竣工式でのテープカット
(出所:日経BP)
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 同発電所は、太陽光パネルの設置容量約32.2MW、連系容量約26.4MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)で、事業主はSPC(特定目的会社)のパシフィコ・エナジー久米南合同会社。約118haに10万7520枚の太陽光パネルを並べた。出力約32MWは、現時点では岡山県内で最大規模の太陽光発電所になる(図2)。

図2●完成した「パシフィコ・エナジー久米南メガソーラー発電所」
(出所:パシフィコ・エナジー)
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景気の波に飲まれたゴルフ場計画

 実は、久米南町は1973年4月、この地にゴルフ場を開発する民間事業者と協定を結んだ。「町内に100人規模の雇用を生む」と、期待が膨らんだ。だが、その年の10月に石油ショックが起きた。景気が低迷し、計画の進行は停滞し、ようやく92年に着工した。

 だが、今度はバブル経済の崩壊などの影響を受け、94年ごろに工事は中断。7割程度まで造成工事が進んだ状態で、20年以上、放置された。一度、木を切ったまま誰も管理しないと山は荒れる。「イノシシなどの獣害のほか、ごみの不法投棄なども懸念された。開発を後押しした町にも道義的な責任がある。他に使い道がないか模索し続けてきた」(河島町長)。

 「ゴルフ場開発跡地にメガソーラーを建設したい」。パシフィコ・エナジー(東京都港区)の金當一臣社長が、河島町長に相談したのは2012年9月。再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)が施行して2カ月後だった。

 パシフィコ・エナジーは、かつて風力発電の開発を手掛けてきたメンバーなどによって創設した。米ジェマソン・グループから出資を受け、その一員として国内の再エネ開発に取り組んでいる。ジェマンソン・グループは、発電事業から燃料販売、石油・ガス開発、商業プロジェクト開発など、エネルギー・不動産関連の複合企業だ。

 FITがスタートし、未利用の工業用地など、平坦でメガソーラーを建設しやすい事業用地を大手企業などが押えていくなか、パシフィコ・エナジーは、いち早くゴルフ場跡地や開発跡地に目を付けた。その最初の案件が久米南町のサイトだった。ゴルフ場の開発跡地の活用に行き詰まっていた久米南町にとっても、メガソーラープロジェクトは渡りに船。2013年6月に事業実施のために協定書を締結し、2014年6月に着工した(図3)。

図3●ゴルフ場開発跡地を造成してパネルを設置した
(出所:日経BP)
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難易度の高い「プロファイ」組成

 今回の発電事業では、SPCに対し、パシフィコ・エナジーの親会社である米ジェマソン・グループのほか、米GE(ゼネラル・エレクトリック)グループが出資した。三菱東京UFJ銀行と中国銀行によるプロジェクトファイナンスを組成し、110億円の融資を受けた。

 「パシフィコ・エナジー久米南メガソーラー発電所」は、FITスタート当初、国内のメガソーラー開発にとって、いくつもの壁に直面しつつも、果敢に乗り越えてきた点で画期的なプロジェクトといえる(関連記事)。

 ファイナンス面では、海外資本100%のSPCが事業主体になるメガソーラー事業に対し、国内の銀行がプロジェクトファイナンスを引き受けたこと。

 起伏が大きく開発リスクの大きいゴルフ場開発跡地を活用し、かつ海外製パネルを採用したことも、EPC(設計・調達・施工)サービス事業者の選定と、それを踏まえたプロジェクトファイナンス組成のハードルを高くした。

 また、技術的には、起伏のあるゴルフ場開発跡地を効果的に造成し、多くの太陽光パネルを設置したことだ。15%までの勾配(約8.5度)なら設置可能な架台と基礎工法を導入し、ホール内の勾配を15%以内に抑える造成工事を行った(図4)。

図4●勾配を15%以内に抑える造成工事を行った
(出所:日経BP)
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“パネルの海”に感嘆の声

 竣工式を開催した4月15日には、サイト見学会も開かれた。同発電所は、小高い丘陵に造成された18ホール分を活用した。傾斜の緩やかなフェアウェイ部分に発電設備を設置したため、残置森林の合間に太陽光パネルの設置エリアが分散することになる。見学会では、パネルエリア間を結ぶ迷路のような管理道路をバスで移動しながら、サイト内を巡った(図5)。

図5●竣工式の後に見学会を実施した
(出所:日経BP)
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 「これは壮観だ」――。見学会も終盤になり、サイト内の最高点から下って、パネルエリアを見上げる地点でバスから降りると、思わず感嘆の声が聞かれた。緩やかな山肌一面が、濃紺のパネルに覆われ、山の稜線までも形成している(図6)。

図6●“パシフィコ・オーシャン”の前に立つ河島建一久米南町長
(出所:日経BP)
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 「ここは発電所中でも最大のパネル設置エリアで、工事関係者の間で、『パシフィコ・オーシャン』と呼んでいます」。「パシフィコ・オーシャン」には、全部で2万7780枚のパネルが並べられ、合計出力は、このエリアだけで8.334MWに達する。これだけの広大な斜面を造成しパネルを敷き詰められたのも、効果的な土木工事の成果だ(図7)。

図7●“パシフィコ・オーシャン”だけで約8MWに達する
(出所:パシフィコ・エナジー)
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 パネルが海のように見えるのは、横5列・縦4段でパネルを設置した大面積アレイ(パネルの設置単位)を設置角15度、アレイ間の間隔を約1.5mで並べたからだ。設置角を小さくして影の長さを短くしたうえで、さらに冬季にはアレイの下段は影になることを前提に、アレイの間隔を詰め、設置枚数を増やした。

 設置角とアレイ間隔の組み合わせにより、パネルにかかる影の影響、つまり逸失利益がシミュレーションできる。一方で、パネルの枚数を増やせることによる増収効果も計算できる。基本的にはアレイ間隔を狭めると影による逸失利益が増える分、パネル増加による増収効果は大きくなる。「最大の増収効果と最少の逸失利益となるポイントをシミュレーションで割り出すことで、今回の設置角、アレイ間隔、設置枚数を決定した」(パシフィコ・エナジーの成田修久 建設部門長)という。

キャストイン工法で基礎を固定

 EPC(設計・調達・施工)サービスは、東洋エンジニアリングが担当し、その下で、土木工事は青木あすなろ建設、電気工事は旭電業(岡山市)、送電工事はフジクラが担当した。美しい「パネルの海」を実現した背景には、土木設計の工夫に加え、現場の土木工事を担当した青木あすなろ建設による精度の高い施工技術が貢献している。

 太陽光パネルは中国・インリーグリーンエナジー社製の出力300W/枚の製品、パワーコンディショナー(PCS)は東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製の630kW機・42台を設置した。昇圧器など連系設備の設置もTMEICが担当した(図8)。

図8●パネルは中国・インリーグリーンエナジー社製、パワーコンディショナー(PCS)は東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製を採用
(出所:日経BP)
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 接続箱は、スイス・ABB社製を採用した。PCSに入力する前の直流回路では、IEC(国際電気標準会議)規格による1000V仕様を採用した。従来、国内のメガソーラーでは直流回路600V仕様が一般的だった。高圧化することで、送電ロスが減るほか、ケーブルを細くできる利点もある。

 架台はリヒテンシュタインのヒルティ社製を使い「キャストイン工法」で固定した。あらかじめ直径50cm、深さ60cm程度の穴を掘っておき、治具で杭を固定したうえでコンクリートを流し込んで固めた。杭は鋼製で、そこにアルミ製の架台と設置金具で固定した(図9)。

図9●基礎・架台はリヒテンシュタインのヒルティ社製を採用
(出所:日経BP)
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 異種金属が接触すると、電位差による腐食の懸念がある。そこで、電位を抑えるために架台には接地(アース)をしたうえで、ボルトの電食を軽減するために耐電食性の高いコーティングを施すなど、総合的な対策で腐食を防いでいるという。

TMEICの遠隔監視システム採用

 稼働後のアセットマネジメント(資産管理)は、パシフィコ・エナジーが担う。O&M(運営・保守)は、電気工事を行った旭電業が担当する。発電量の遠隔監視システムは、PCSを納入したTMEICがオプション製品として提供しているモニタリングシステム「ソーラー・ウェア・ビュー(Solar Ware View)」を導入した(図10図11図12)。

図10●TMEICのモニタリングシステム「ソーラー・ウェア・ビュー(Solar Ware View)」を導入
(出所:日経BP)
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図11●PCSごとの稼働状況を一覧できる
(出所:日経BP)
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図12●PCSの遠隔起動画面
(出所:日経BP)
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 同モニタリングシステムには、複数のPCSの発電状況・故障状況を一括監視したり、故障を発報したりする基本機能のほか、発電量データを蓄積・分析する解析機能などがある。

 「重故障」と「システム異常」については、関係者にメールで異常があったことを連絡し、関係者が現場で原因を確認したうえで、復旧措置を取っている。重故障とはシステムの停止する不具合、また、システム異常とは監視が十分に行えない不具合を指す。

 また、データの解析機能では、日々蓄積された発電量や軽故障を分析し、影の影響や不具合の原因などを特定するという。こうした解析機能は、予防保全などにもつながる。今後、パシフィコ・エナジーが担っているアセットマネジメントにどんな形で生かせるか、「データ分析については、様々な活用法を検討している」(成田建設部門長)という。

町民の電力需要の5倍を発電

 岡山県中央部に位置する久米南町は、稲作が盛んで美しい棚田が広がる。法然上人の生誕地のため、浄土宗の聖地として知られ、生家に建立された誕生寺は、多くの参拝客で賑わう。とはいえ、全国の農山村の例に漏れず、人口の減少が止まらない。2015年の国勢調査では住民は5000人を切った。人口規模では岡山県の町で最小になる。

 「法然上人だけでなく、これからは、『太陽光発電の町』でもアピールしていきたい」と河島町長は言う。民有地での開発支援のほか、公共施設の屋根や土地の賃貸しにより、太陽光発電も推進し、8サイトで約850kWが稼働している。

 「パシフィコ・エナジー久米南メガソーラー発電所」は、年間に約1万1000世帯分の電力を生み出す。久米南町は、約2200世帯数足らずなので、町内の世帯向け需要の5倍もの電力を供給し、町外に“輸出”することになる。

●施設の概要
発電所名「パシフィコ・エナジー久米南メガソーラー発電所」
所在地岡山県久米郡久米南町上弓削
面積約118ha
発電出力太陽光パネル容量(直流)32.256MW、連系容量(交流)26.46MW
開発企業パシフィコ・エナジー
事業主体パシフィコ・エナジー久米南合同会社(米ジェマソン・グループ、米ゼネラル・エレクトリックグループによる出資)
EPC
(設計・調達・施工)
東洋エンジニアリング
土木工事青木あすなろ建設
電気工事旭電業
送電工事フジクラ
太陽光パネルインリーグリーンエナジー製(300W/枚)・10万7520枚
パワーコンディショナー(PCS)

東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製(630kW機)・42台

受変電設備TMEIC
架台 ヒルティ製
接続箱 ABB製
O&M(運営・保守) 旭電業
着工 2014年6月
商業運転開始 2016年3月