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「企業への再エネ直接売電では、トラッキングがカギ」、CDPの高瀬氏に聞く

メガソーラービジネス・インタビュー

2019/06/12 05:00
金子憲治=日経BP総研 クリーンテックラボ

固定価格買取制度(FIT)による売電単価が下がり、今後、企業による再エネの調達が太陽光発電推進のけん引力として期待されている。すでに企業と直接、太陽光電力の長期販売契約を結ぶ「コーポレートPPA」のスキームを目指す動きが水面下で始まっている。ただ、再エネ調達の環境価値が国際的な組織から認められるには、いくつかのハードルがある。こうした動きに詳しいCDP Worldwide-Japanの高瀬香絵シニアマネージャーに聞いた。

ESGの「E」を客観評価

世界的に多くの有力企業が、再生可能エネルギー由来の電気を本格的に調達し始めています。その背景には何があるのですか。

高瀬 ESG(環境・社会・ガバナンス)に配慮した投資が世界的に当たり前になってきたことがあります。2006年に出された国連責任投資原則(PRI)では、ESGの評価を投資分析や意思決定に組み込んでいます。2018年現在、PRIに署名した機関投資家は世界で約2300まで増え、資産総額は約80兆ドルに達しています。

 日本でも2015年に、厚生年金と国民年金を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が署名するなど、100近い資金運用機関が署名しています。

 そうなると、環境に配慮していない企業には投資資金が集まらなくなります。温室効果ガス削減への取り組みが、企業価値や成長に影響することになります。

金融機関が、こうした投融資先の気候変動対策の取り組みに神経質になってきたのは、2015年12月に締結された国連パリ協定への対応ですか?

高瀬 もちろんパリ協定は大きな影響を与えましたが、社会全体の雰囲気が後押しています。日本にいると、あまり実感がないのですが、米国やアフリカなどでは干ばつなど、気候変動の影響と思われる異常気象が多発し、保険金の支払いが急増するなど、気候問題に対する危機感が日本国内より高まっています。石炭火力へのダイベストメント(投融資引上げ)などがそうした表れです。

 そうなると将来的に石炭関連の資産は、いわゆる「座礁資産」(資産価値ゼロ)になる可能性があります。つまり、金融機関にとって、投融資先の気候変動対策を把握することは、経営のリスク管理そのものという認識が一般的になってきたのです。

とはいえ、企業の気候変動対策のレベルを客観的に評価することには限界もあります。環境報告書やCSR報告書では、各社が独自の原単位基準を設定し、その改善幅をアピールすることが多く、他社との比較は容易ではありません。

高瀬 まさにそうした問題意識から発足したのがCDPです。2003年から投資家の署名を受けて毎年、企業に質問書を送付し、そのデータ・分析を投資家に提供しています。当初は35社の署名のもと、245社に質問票を送っていましたが、2018年には650以上の投資家(運用総額85兆ドル)・115社以上の顧客企業の要請で7000社以上が回答しています。

 G20の財務大臣・中央銀行総裁からの要請を受け、金融安定理事会(FSB)の下、民間主導で2018年6月に公表された「TCFD」(気候関連財務情報の開示に関するタスクフォース)はCDPを参考にしており、CDPはTCFDの内容をほぼ網羅しています。

CDP Worldwide-Japanの高瀬香絵シニアマネージャー
(撮影:日経BP)

再エネ比率99%以上で「満点」

 CDPの評価は階段状に行っています。まず、「開示がしっかりできているか」で評価し、それが80%以上になったら、「認識できているか」で評価、それが80%以上なら、次は「管理できているか」を評価し、それが80%以上となった企業は「リーダーとしてふさわしいか」で評価し、それが80%の閾値などになって初めて「A」が付きます。

 2018年の評価では、世界で136社が「Aリスト」に入りました。そのうち日本企業は、20社が名を連ねました。

CDPへの回答は、どんな形で利用されているのですか?

高瀬 CDPの環境に関するデータは、金融市場のほか、「RE100」や「SBT(Science Based Target=科学的目標)」「Climate Action 100+」など、気候変動問題に取り組む国際イニシアチブといったさまざま主体が活用しています。

 金融機関の例としては、三井住友銀行が今年5月からCDPの評価データをもとに気候変動問題に積極的な企業に運用対象を絞った投資信託の取り扱いを開始しました。

再エネ利用に関しては、CDPのスコアリングは、どのような基準になっていますか?

高瀬 電気や熱、蒸気のエネルギー消費の合計に対して、再エネの比率が10%以上で「管理ポイント」2分の1、25%以上で同ポイント2分の2になります。「リーダーシップポイント」を得るには再エネ比率が半分を超えることが前提で、50%以上でようやく同ポイント2分の1、75%以上で2分の1.5、99%以上で初めて2分の2になります。

 つまり、再エネに関して「満点」を取るには、再エネ比率をほぼ100%まで高めることが必要になります。いかに高い水準を求めているか、分かると思います。

CDP Worldwide-Japanの高瀬香絵シニアマネージャー
(撮影:日経BP)

発電源証明を義務化

そうした意味では、2050年に再エネ100%を目指す「RE100」や、世界の平均気温の上昇を「2度未満」に抑えるため科学的な知見と整合した削減目標を求める「SBT」と、同等の再エネ導入を想定しているわけですね。

高瀬 2018年10月に出されたIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change=国連気候変動に関する政府間パネル)の特別報告書では、産業革命以降の気温上昇を2度未満、できれば1.5度に抑える目標を掲げており、それを達成するには、今後30~50年の間に温室効果ガス「ネット・ゼロ」経済に移行する必要があるとされました。

 SBTでは、これを受けて2019年4月に基準を改定し、従来の「2度以内」から、「2度より十分低い、または1.5度」を前提とした削減目標しか認定しないことを公表しました。

 こうした科学的知見に基づいた流れの中、温室効果ガスを「ゼロ」に抑えていくには、省エネに加え、再エネの大量導入が必須になってくるのは明らかなことで、CDPやSBTでも、RE100と同様、再エネ主体の事業運営を志向することになります。

国内でも、RE100を宣言したり、SBTに基づく削減目標を設定したりする動きが活発化していますが、「国内では欧米と違い再エネを調達しにくい」との声をよく聞きます。FITによる再エネの環境価値は国民全体に帰属するとされて企業が利用できない一方、非FITの再エネ電源は絶対量が少ないのが現実です。

高瀬 経済産業省は、こうした声にも答える形で、FIT電源の環境価値を入札する非化石価値取引市場を2018年度に創設しました。ただ、この仕組みでは、「再エネ」という大きな括りになっており、個別の再エネ電源を特定できません。

 一方、欧州などでは、「再エネ利用」と認定されるには、トラッキングシステムによって個別の再エネ電源と紐づけし、それを証明できることが前提です。

 トラッキングシステムを必須とする理由の1つは、再エネ電源をダブルカウントしてしまう恐れを防ぐこと。そして、需要家が個別の再エネを選んで購入することで初めて、再エネの普及を応援できる、という考え方があります。

 かつて、欧米でも、電気は発電して送電線に流した後は、他の電源からの電気と混ざってしまうとの認識から、需要家は電源を選択できませんでした。しかし、これでは需要家が主導して特定の電源を応援し、増やすことができません。そこで、トラッキングシステムによって発電電源を証明しようとの動きが出てきました。

 2009年にはEU再エネ指令で、「EU加盟国は生産者からの要求に応じて、再エネの発電源証明の発行を保証しなくてはならない」とし、発電源証明の発行を義務化しました。

CDP Worldwide-Japanの高瀬香絵シニアマネージャー
(撮影:日経BP)

「非化石証書」で再エネ増えず

国内でも2019年から、経産省が「トラッキング付非化石証書」の実証事業を開始し、今後も継続的に運用していく方向です。

高瀬 日本の非化石価値証書に関しては、CDPとSBTでは、再エネと認めることになりましたが、RE100では、認定されませんでした。こうしたなかで、経産省が機敏に「トラッキング付非化石証書」の仕組みを立ち上げたことは大変に評価できます。

 RE100では、今回、政府の構築したトラッキングシステムによって属性情報が付与されている非化石価値証書に限定して、利用可能としています。

 CDPがトラッキングなしの非化石価値証書を認めたのは、それでもダブルカウントは防げると判断したからです。一方、RE100は、個別の再エネ開発を支援するという側面を重視するため、トラッキングによる発電電源の証明を必須としたのでしょう。

それでも、いまのところ国内の非化石価値取引市場は、盛り上がりを欠いています。

高瀬 非化石価値取引市場が低調なのは、まず、経産省が設定した最低価格1.3円/kWhが高すぎること。そして、RE100企業にとっては、仕組み上、新たな再エネの普及に貢献していないことが、購買意欲を削いでいます。

 日本の非化石価値証書は、それまで埋没していたFIT再エネの環境価値を顕在化させ、その売却益で賦課金の国民負担を軽減する、という発想で導入されました。それはそれで意味がありますが、RE100は、企業の再エネ調達によって直接的に再エネを増やしていくことが理念のため、「賦課金の軽減」とはマッチしないのです。

 例えば、RE100企業の米アップルは、再エネ調達の手法に関して、優先順位を設けています。まず、自社でプロジェクトを開発して直接保有する(図1)。それが難しい場合、長期再エネ購入契約で、同社のエネルギー調達基準に合う地域のプロジェクトを支援する。それも無理な場合、最近作られた再エネ設備からの証書を購入する、としています。

図1●米アップルの新オフィスビルに設置された太陽光発電システム
(出所:Apple)
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トラッキング機関は1地域に1つ

日本でもFITの買取単価が低下し、今後は、信用力のある企業との再エネの長期購入契約(コーポレートPPA)を締結する動きが顕在化してくる見込みです。その際、国際的に認められるトラッキングシステムが重要になるわけですね。

高瀬 再エネのトラッキングシステムは、需要家が主導して再エネ主体の電源構成に移行していくうえで、必須の社会インフラになります。EU再エネ指令では、「加盟国または指定された管理組織は、原産地証明の発行、移転、償却が電子的かつ正確に、信頼性高く、詐称なく保証できるような枠組みを整備する必要がある」とし、1つの地域に1つの管理機関がシステム運用することを求めています。

 「1つの地域に1つの管理機関」を前提にしているのは、1地域に複数のトラッキングシステムが併存した場合、ダブルカウントの恐れがあるためです。

 世界的にもこうした考え方が主流で、中南米や中国、インド、アフリカ諸国では、民間組織が構築したトラッキングシステム「I-REC」を政府が公認するような形で、1つのシステムに集約しています。

日本では、経産省による非化石価値証書の運用が始まったほか、新電力が独自のトラッキングシステムを売りにしたり、ブロックチェーン技術を持つベンチャーのデジタルグリッド社に多くの再エネ関連企業が出資し、プラットフォーム化していく動きもあります。

高瀬 日本は過渡期ということもあり、複数のトラッキングシステムが競う形になりつつありますが、ダブルカウントを防止するなど、国際的に認知されるには、複数システムが併存することは好ましくありません。経産省の主導した非化石価値証書のトラッキングシステムに、今後「非FIT再エネ」も含めて集約していく方向が自然ですが、官主導のシステムは非効率で高コストになりがちなこともあり、その点が気がかりです。

 多くの民間企業が参加しつつ、知恵を出し合って改善を進めて効率化し、デファクトスタンダードになったトラッキングシステムを政府が追認する流れが理想にも感じます。

 いずれにせよ、電源のトラッキングシステムは、脱炭素社会におけるインフラの1つに過ぎません。エネルギー企業が差別化を競うのは、再エネ自体の中身であって、地域環境や社会と共存したり、地域活性化に貢献したりするなど、需要家から評価される再エネを開発し、調達することで、結果的に好ましい電源が拡大していくという姿が理想です。

CDP Worldwide-Japanの高瀬香絵シニアマネージャー
(撮影:日経BP)