売電だけじゃない! 新・メガソーラー活用術

ソバと太陽光を分け合う沼田のメガソーラー

「藤棚式」架台に100Wパネルを1万枚設置

2016/03/10 00:00
金子 憲治=日経BPクリーンテック研究所

 群馬県北部に位置する沼田市利根町は、平成の大合併により沼田市に編入された旧利根村だった地域。赤城山や皇海山(すかいさん)など著名な名山に囲まれ、80%以上を山林が占める。高冷地野菜を主体とした農業と、林業が盛んだが、近年は人口減少が急速に進んでいる。

 利根町の中でも追貝集落に属する砥山地区は、戦後に開拓され、かつては10軒の農家が酪農を営み、その後、野菜、リンゴ栽培が盛んになった。だが、後継者不足と高齢化により、現在は6軒まで減少し、耕作放棄地が増加している。それに従い、野生鳥獣による農業への被害も増えるなど、悪循環に陥っているという。

 こうしたなか、沼田市利根町に本社を持つ椎坂建設は、同地区で借地した4haもの耕作放棄地で、ソバ栽培と太陽光発電の「ソーラーシェアリング」に取り組んでいる。ソーラーシェアリングが軌道に乗って農家の所得を増やせれば、農地の再生と後継者の育成に貢献できる。同社は法面と土木工事で優れた技術を持っており、太陽光発電の建設に生かしつつ、農業分野に参入することで、経営を多角化できる利点もある。

 2015年7月31日、出力約1.1MWの「沼田市利根町太陽光発電所」が発電を始め、ほぼ同時期に太陽光パネルの下にソバの種を播いた(図1)。

図1●2015年7月末に太陽光パネルの下にソバの種を播いた(出所:椎坂建設)
図1●2015年7月末に太陽光パネルの下にソバの種を播いた(出所:椎坂建設)
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「藤棚式のメガソーラー」で発電とソバ栽培

 2013年3月に農林水産省が「ソーラーシェアリング導入に関する指針」を発表したことを受け、各地で営農型の太陽光発電所に取り組む動きが活発化しているものの、出力1MWを超える大規模なソーラーシェアリングは珍しい。

 ソーラーシェアリングは、通常よりも高めに設置した太陽光パネルの下で、作物を栽培する。パネル架台を取り付けた支柱を地面に固定する基礎部分の農地を一時転用する。ただし、発電設備の影による作物の収量減が20%以内であることなどが条件になる。逆に言えば、農業収入の20%の減収分を超える売電収入を得られれば、その土地から得られる収入が増加することになる。

 現在、国内で建設されているソーラーシェアリングには、大きく2つのタイプがある。農地の上に等間隔で支柱を立て、藤棚のように小型の太陽光パネルを一定の間隔で固定する方式。もう1つが、アレイ(複数パネルの設置単位)を可動式架台に固定し、太陽の動きを追いつつ設置角を変える追尾式架台システムだ(関連記事)。「沼田市利根町太陽光発電所」は、前者の「藤棚式」を採用した。両方式とも、1本の支柱が、複数枚のパネルを支え、地面から十分な高さがあるため、作物を栽培できるスペースを確保できる。

 「沼田市利根町太陽光発電所」は、日本アジアグループ傘下のJAG国際エナジー(東京都千代田区)がコンストラクションマネジメント(CM)業務を担当した。EPC(設計・調達・施工)サービスは佐田建設(前橋市)が担い、架台と電気設備の設計・施工はイー・トップ(東京都千代田区)が担当した。太陽光パネルは日能興産製、パワーコンディショナー(PCS)は田淵電機製を採用した(図2)。

図2●JAG国際エナジーがコンストラクションマネジメント、佐田建設がEPCを担当した(出所:日経BP)
図2●JAG国際エナジーがコンストラクションマネジメント、佐田建設がEPCを担当した(出所:日経BP)
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100Wの小型パネルを1万枚設置

 太陽光パネルの出力は100W/枚で、1枚の大きさは横・132cm、縦・51cmの長方形で重さ8kg/枚になる。これを地上約3mの高さに1万1040枚、藤棚のように隙間を空けて並べた(図3)。249枚を1アレイとして1列に並べ、49アレイで構成する。設置角は、架台に固定後にも20~60度の範囲で変えられるシステムにしているのが特徴だ。

図3●1枚100Wのパネル(132cm×51cm、8kg)を地上約3mに藤棚のように隙間を空けて並べた(出所:日経BP)
図3●1枚100Wのパネル(132cm×51cm、8kg)を地上約3mに藤棚のように隙間を空けて並べた(出所:日経BP)
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 架台は、単管パイプを組み合わせて建設した。基礎はスクリュー杭(径76.3㎜)を地下1.6mの深さにねじ込んだ。杭基礎からパネル架台までの支柱(径60.5㎜)は高さ3.6mで、これを横3.5m、縦3.75mの設置間隔で垂直に立てた。パネルを取り付ける横方向(梁)の単管パイプ(径48.6㎜)には、回転棒が付いており、これを動かすことでアレイごとパネルの設置角を変えられるようになっている。

 パネルとパネルとの隙間は、横方向は43cm、縦方向は設置角によって変わるが、20度の場合は70cm程度になる。この結果、年間を通じた遮光率は概ね3割になるという。

 こうした太陽光発電設備の下で、ソバの栽培に取り組んだ。ソバを選んだ理由として、椎坂建設の諸田正喜 技術顧問は、以下の5点を挙げる。(1)農業の初心者でも栽培が容易で、ある程度の収穫量が見込めること。(2)ソバ栽培の指導者が地域にいたこと。(3)播種から収穫まで機械化が進んでいること。(4)生産からそば粉まで自社で一貫生産でき、将来的に粉の販売まで可能なこと。これにより、農業生産者が加工から販売まで手掛ける「農業の6次産業化」が容易となる。(5)花がきれいなため、将来的に老神温泉の観光と連携できること。

ソバの収穫量は目標に届かず

図4●2015年9月初旬にソバの花が咲いた(出所:椎坂建設)
図4●2015年9月初旬にソバの花が咲いた(出所:椎坂建設)
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図5●2016年度はソバの花からハチミツを採取する計画を立てている(出所:椎坂建設)
図5●2016年度はソバの花からハチミツを採取する計画を立てている(出所:椎坂建設)
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図6●2015年11月までにコンバインで収穫した(出所:椎坂建設)
図6●2015年11月までにコンバインで収穫した(出所:椎坂建設)
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 昨年7月31日の発電開始とともに、種を播き、9月初旬には花が咲いた(図4、図5)。11月までには収穫した(図6)。初心者でも栽培しやすいとはいえ、ソバの耕作は初めてゆえ、試行錯誤の連続だった。それでもソバ栽培の専門家の指導を受けつつ、収穫までたどり着いた。自社で粉に引いて袋詰めした。1年目は実証的な意味合いが大きいこともあり、関係者に試供品として配布した。

 収穫に成功したとはいえ、収量は目標にした「10a当たり1俵(45kg)」の半分程度となる同28kgに留まった。

 収量が少なくなったのは、複数の要因があった。目に見えるものとしては、茎の倒伏やシカとイノシシと思われる鳥獣による踏み荒らし被害があった。また、そもそも種を播く時期や量についても、適切でなかった可能性が高かった。

 そこで、2016年度には、以下のような改善計画を検討している。(1)種を播く時期を7月末から8月上旬に変え、播く量を2割程度増やして、100a当たり120kgにする。(2)茎の倒伏を招いた原因となった窒素過多を防ぐため、一部の畑に投入した堆肥を取りやめる。(3)鳥獣による被害を防ぐため、電撲柵を設置する。これには2016年度の国庫補助事業で実施することになっている。(4)種を播いた後に実施したトラクターによる覆土を止める。昨年、トラクターによる覆土の結果、タイヤの跡に発芽障害が発生していた。専門家などの意見を聞いた結果、土を被せず、直播のままでも発芽・生育に問題ないと判断した。

発電量は計画値を4.5%超える

 一方、太陽光発電事業は、順調だった。2015年8月に発電を開始し、10月までの発電実績は33万1520kWhとなり、計画値(31万7327kWh)を4.5%上回った。

 日常の運営管理は、ラプラス・システム(京都市)の太陽光発電計測表示・遠隔監視システム(Solar Link ARCH APSサービスを契約)を活用し、社内のパソコンで毎日、監視している。また、イー・トップとO&M業務委託を契約する方向で進めている。

 現地の状況については、椎坂建設の幹部社員が毎朝、目視による確認を行っている。実は、建設した農地は、同社幹部社員の所有で、会社に賃貸した。そのため近隣に住んでおり、同社員が通勤前に立ち寄って、サイトの状況をチェックしている。

 設置角については、竣工当初、すべて20度にしていたが、可変である特徴を生かし、エリアによって20度、25度、30度の3タイプに変えた。エリアごとにこれらの角度を基本とし、太陽の南中高度の変化に従って毎月、角度を変えていく方針だ。角度による発電量の増減を1年間かけて検証し、2年目からは、月ごとの最適な角度にする予定だ。パネルの角度は一人が半日の作業で、全パネルを変更できるという(図7)。

図7●設置角度をアレイごと変えるためのハンドル用パイプ(出所:日経BP)
図7●設置角度をアレイごと変えるためのハンドル用パイプ(出所:日経BP)
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藤棚式架台で建設コストは3割増しに

図8●ソバの収穫後はシロツメクサの種を播いた(出所:日経BP)
図8●ソバの収穫後はシロツメクサの種を播いた(出所:日経BP)
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 ソバを収穫した9月中旬以降は、シロツメクサ(クローバー)や菜の花、レンゲの種を播いている(図8)。菜の花は油を採取できるほか、レンゲは、根に共生する根粒菌が空気中の窒素を固定するので、畑にとって緑肥になる。

 こうした花を楽しめる植物を植えるのは、ハチミツの採取を計画しているからだ。2016年度からは、ミツバチの飼育する計画で、ソバの花とその後に植えた草花からハチミツを集めることを目指している。「ソバの花から採取した『ソバハチミツ』は栄養価が高く、健康増進に優れていると話題になっており、ソバと合わせて商品化を検討したい」と、諸田さんは言う。

図9●「太陽と光 皇海山麓そば」との名称で、そば粉の商品パッケージをデザインした(出所:日経BP)
図9●「太陽と光 皇海山麓そば」との名称で、そば粉の商品パッケージをデザインした(出所:日経BP)
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 ソバ栽培の収穫量については、「2年目以降、栽培方法を改善していけば、減収率20%以内という一時転用の基準を満たすことは十分に可能」と諸田さんは見ている。同社では、すでに「太陽と光 皇海山麓そば」との名称で、そば粉の商品パッケージのデザインを進めている(図9)。無農薬栽培に加え、ソーラーシェアリングをウリにしている。

 太陽光発電とソバ栽培に手ごたえを感じているものの、今後、ソーラーシェアリングを事業展開する上では、「太陽光パネルの設置コストの削減が課題になる」と諸田さんは言う。今回の総事業費は約4億1000万円。一般的なメガソーラーの建設コストは、1MW当たり3億円前後とされるので、3割以上割高になった。

 その原因は、架台のコストにある。一般的な太陽光パネルでは、2枚を1本の架台で支えることも可能だが、パネルの小さい藤棚式のソーラーシェアリングでは、1本の架台で1枚を支えることになる。単管パイプ製架台の場合、パイプの本数は一般的な野立ての太陽光発電所に比べ、大幅に増え、それに比例して工数も膨らむ。今回の架台には、中国製の単管パイプを採用したが、それでも使用量が多くコストアップは避けられなかった。

 架台設計の工夫で、こうしたコスト増をいかに抑えられるか、シェアリングによる増収分、そして、椎坂建設が取り組む「農業の6次産業化」によって、いかに付加価値を高められるかが、今後さらに展開していくためのカギになりそうだ。