PVロボット最前線

基礎近くや太陽光パネル下にも強い、果樹園向け乗用型草刈機に脚光

構造物への高い接近性が太陽光発電所の除草にも奏功

2019/05/22 05:00
加藤 伸一=日経BP総研 クリーンテックラボ

 太陽光発電所のO&M(運用・保守)において、一般的になってきた手法の一つが、乗用型草刈機を使った除草である。全国各地の多くの発電所で、乗用型が使われている。

 ここにきて、同じ乗用型でも、これまでとは違うタイプを太陽光発電所の除草に使う動きが出てきた。太陽光発電所で一般的に使われる乗用型は、ゴーカートのような形状で、運転席の真下、四輪を囲むように回転刃がある。今回、取り上げる新タイプの乗用型は、こうした設計ではなく、車体の前方に突き出すように回転刃を備えている(図1)。

図1●車体の前方に回転刃を備える
(出所:和同産業)
クリックすると拡大した画像が開きます

 従来タイプの乗用型は、基礎やフェンスなど構造物のすぐ近くや、太陽光パネルの低部側のアレイ(太陽光パネルを架台に固定する単位)の下などの除草は苦手で、そうした個所だけは刈払機を使うことも多かった。

 一方、今回、取り上げる乗用型草刈機は、こうした構造物のすぐ近くも刈りやすく、パネルと地面の隙間に滑り込ませて刈れるなどの利点がある。つまり、刈払機のような構造物への接近性と、乗用型の効率性を併せ持つともいえる。

 接近性が高まったのは、前方に突き出した回転刃の効果である。運転席からは前方に離れている上、果樹園で木を傷つけないための工夫として、回転刃のユニットが果樹に接触しても、傷つきにくい構造としていることで、安全に構造物に近接して作業できる。

 刈払機は、腰や肩にベルトをかけて支えながら、作業者の体よりも少し前方で回転刃を回すことで、構造物に近づいて除草できる利点がある。しかし、太陽光発電所における草刈りは、規模が大きいほど作業そのものの身体的な負担が大きい。相対的に面積あたりの作業効率が低い分だけ、時間もかかり刈払機だけで対応することは現実的ではない。

 ただ、乗用型を使っている太陽光発電所でも、使用範囲を限定しながら、刈払機も併用することが多い。それは、従来の乗用型では、構造物のギリギリ近くまでは刈ることが難しいためである。こうした場所で刈り残された雑草は、刈払機で対応している。

 この両者の利点を併せ持つタイプの乗用型を使うことで、刈払機を使う場所をさらに減らし、草刈り作業の効率性がより高まる可能性がある。

 例えば、北海道の太陽光発電所において、アレイの下でも容易に走り回るような使い方がなされている(動画1)。動画を見てわかるように、機械に不慣れなことが多い女性でも、回転刃の操作などは手元のレバーで容易に操作でき、使いやすいことも特徴という。

動画1●北海道の太陽光発電所における例
(出所:和同産業)

 この発電事業者は、和同産業(岩手県花巻市)の機種を使っている。同社は、除雪機や草刈機のメーカーで、発電事業者は元々、除雪機の顧客だった。太陽光発電所の運営をはじめたところ、雑草に悩まされ、効率的に草刈りできる手法として、和同産業の機種を知り、実演で効果を確かめ、購入した。

 こうしたタイプの乗用型草刈機は、以前は国内の3社が製造・販売していたが、現在は和同産業のみが製造・販売しているという。

 和同産業が製造・販売している乗用型は、このタイプのみで、他社が手がけている運転席の真下に回転刃を備える機種は手がけていない。

 また、米iRobotの室内用ロボット掃除機「ルンバ」のように、自律的に雑草を刈るロボット草刈機も開発している(関連コラム)。

木を痛めないようにしつつ、できるだけ接近する

 車体前方に回転刃ユニットのある乗用型草刈機は、おもに果樹園で使われてきた(動画2)。果樹園では、木や果実を痛めないようにしながらも、できるだけ木の近くまで雑草を刈りたいという、相反する要求の中で除草作業がなされてきた。

動画2●果樹園における条件に最適化した
(出所:和同産業)

 この要求に合うのが、車体前方に回転刃ユニットのある乗用型草刈機だった。それなのに、国内で事業化した3社のうち2社が製造・販売から撤退し、1社しか残っていないのは、和同産業によると、性能とコストを両立させるのが難しいからという。

 車体の前に、回転刃ユニットを備える構造は、当然ながら、車体の前に重いものを抱えるような状態になる。しかも、前方の回転刃は、斜め上に持ち上がるようにも動く。このような重くて動くものを、車体の前方に抱えられるだけの強度やバランスが車体全体に求められ、それに必要な構成を実現するのにコストがかかり、販売価格が高くなる。

 和同産業の機種の場合、希望小売価格は税込みで約130万円となっている。

 初代のモデルは1992年に発売し、現行の機種も合わせた累計で3000台以上を販売してきた。

 アレイ低部の下を通り抜けられるような車高の低さは、果樹園で求められる草刈りの条件を反映させた結果という。

 果樹園では、果樹を収穫しやすいように、木を一定以上の高さに伸びないような工夫を講じて育てる場合がある。例えばリンゴなどでよく講じられる手法で、「矮化(わいか)」と呼ばれている(図2)。

図2●背を低く育てた果樹の幹の近くを刈りやすい
(出所:和同産業)
クリックすると拡大した画像が開きます

 こうした果樹園では、運転席の下に回転刃を備える一般的な乗用型草刈機を使って、木の近くの雑草を刈ろうとすると、作業者が木の枝にぶつかりやすく、首を左右に大きく倒しながら運転することになる。それでも、木の近くを十分に刈ることは難しい。

 車体前方に回転刃ユニットのあるタイプの場合、回転刃と運転席が上下に並ぶことがないので、車高を低く設計できる。これによって、走行中、枝にぶつかりにくく、かつ、木の近くまで回転刃を近づけられる。回転刃をより木に近づけやすくするために、左右に約50cm回転刃を移動(オフセット)させながら走行する機能もある。

 また、回転刃を斜め上に持ち上げられる仕様は、斜面への対応力の高さだけでなく、メンテナンスにも利点がある。洗浄しやすく、回転刃を交換しやすい。

回転刃の配置とカバーの形状で接近しやすく

 刈幅は1200mmと広い。これは、二つの回転刃によって実現している。二つの回転刃は、平行でなく少し前後させて左右に並べている(図3)。

クリックすると拡大した画像が開きます
クリックすると拡大した画像が開きます
クリックすると拡大した画像が開きます
図3●回転刃のユニット
(出所:日経BP)

 こうした構造は、刈幅を広くするだけでなく、樹木近くの雑草を効率的に刈れることにもつながる。二つの回転刃が近接する場所では、車体のカバーがV字状に窪んでいる。ここに木の幹を挟むようなイメージで近づいていくと、二つの刃がそれぞれ幹の近くで回りつつも、幹には当たらず、幹を傷つけることなく周りの雑草を刈れる。

 回転刃は、反時計回りのみに回るので、表裏両面の刃のうち、回転方向の刃のみを使って刈っている。そこで、片方の面の刃の切れが悪くなってきた場合、刃の表裏を逆に付け替えることで、また新たしい状態の刃で作業できるという。

 刃は、両面ともに切れが悪くなってきたら、交換する。交換用の刃の価格は、約9000円となっている。

 農家の場合、研ぎ機(グラインダー)を所有していることが多いため、自分で研ぎなおして使い続け、交換用の刃の購入間隔を伸ばすことが多いようだ。

 このほか、四輪駆動で幅広・大径のラグタイヤを装着するなど、さまざまな環境に対応できる走行性も重視している。