PVロボット最前線

空撮画像の分析も自動化、「誰でもできるドローン点検」目指す

2MWのメガソーラーでは「分析時間3分」に

2018/07/20 05:00
加藤 伸一=日経BP総研 クリーンテックラボ

 メガソーラー(大規模太陽光発電所)のO&M(運用・保守)において、太陽光パネルの不具合の発見や点検は、効率化が最も求められる作業の一つとなっている。中でも、赤外線カメラを使ってパネルの熱分布画像を撮影し、それを元に不具合の疑われる箇所を特定する作業は、手間のかかる分、効率化の効果が大きくなる。

 この作業は、点検担当者が手持ち型の赤外線カメラを持ち、敷地内をくまなく歩き回りながら、パネルを1枚1枚、撮影していることが多い。

 太陽光パネルの設置枚数がある程度少なく、敷地の狭い発電所の場合、この手法が効率的といえる。赤外線カメラで撮影したその場で、不具合の有無やその可能性のあるパネルがわかる利点もある。

 しかし、設置枚数が膨大で、面積の広い発電所になるほど、この手法の限界も見えてくる。点検作業者の歩く距離が長くなり、多くの所要時間を要する。これにより身体的な負担が大きい点も問題になってくる。

 そこで、ドローン(無人小型飛行体)の採用が進んでいる。赤外線カメラで熱分布画像を撮影する作業は、地上での歩行から、ドローンの操作による空撮に変わる(図1)。

図1●ドローンを使った太陽光パネルの点検の例
エナジー・ソリューションズによる点検(出所:日経BP)
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 通常の可視画像や動画の空撮を除くと、ドローンの産業分野への応用として、最も早く事業化が進んでいる分野となっている。O&Mサービス事業者やドローン関連企業、データ処理に長けたIT(情報技術)関連企業などが参入し、メガソーラーの点検に使われる例が増えている。

 現在、ドローンを使った熱分布画像の取得に要する時間は、国内に多い出力約2MWの高圧連系の発電所の場合、15~20分間程度と公表する企業が多い。従来の地上を歩き回る方法の場合、1~2日間を要する。特別高圧案件など規模が大きくなるほど作業時間の差はさらに開き、より効率的になってくる。

 こうしたドローンの活用は、まだ初期段階といえる。関連企業の多くは、まだ手探りの状態といえ、環境の整備に合わせながら、徐々に製品・サービスを洗練させている。ドローンそのものの小型・高性能・低価格化も著しい。

 理想的なのは、ドローンに不慣れな点検担当者でも、簡単で安全・安心にドローンを飛行させ、正確、かつ短時間で熱分布画像を取得できることである。

 さらに、熱分布画像の分析まで自動化されることが望ましい。例えば、データをクラウドコンピューティング上に送ると、発電所内の太陽光パネル配置図上に、不具合箇所や疑いのある箇所が特定されるなど、大まかに分析できているとより効率的になる。

 ドローンを飛ばして、赤外線カメラで太陽光パネルの熱分布の画像を空撮するまでの前工程と、取得した画像を分析して報告する後工程にわけると、すでに効率化が進んでいるのは、空撮するまでの前工程といえる。

 ここでは、そもそも歩行による撮影から空撮に変わっただけでも効率化できている上、ドローンの操作と空撮を自動化する動きが先行している。

 一方、取得した画像を分析して報告する後工程は、効率化の余地が大きく残っている。現在のドローンを使ったパネル点検サービスのほとんどは、この後工程をほぼ手作業に頼っている。

 上空から一定範囲の太陽光パネルを写した熱分布画像は、どの場所でも同じように見えることがほとんどだ。それぞれの画像が、パネル配置図のどこに該当するのか、人手で当てはめていく作業は、まさに人海戦術的なものとなる。

 出力約2MWの発電所の場合、多くのサービス事業者が、この作業だけで1週間程度を要しているという。

 そこまでできれば、熱分布画像で異常を示している太陽光パネルを配置図中で特定し、異常内容の分析と合わせて報告書を作成できる。出力約2MWの発電所で、ドローンによる空撮後、報告書の提出まで1~2週間を要するサービス事業者が多いのは、こうした後工程の効率化が進んでいないためである。

 この後工程の効率化を模索し、実際のサービスに導入し始めた企業も出てきた。エナジー・ソリューションズ(東京都千代田区)がその1社である。

 同社は、2010年2月に設立されたベンチャー企業で、IT関連のシステム開発やサービスを得意とする。再生可能エネルギー関連向けにサービスを提供しており、太陽光発電に加えて、風力発電向けにも事業を展開している。

 太陽光発電向けでは、ドローンによるパネル点検サービスのほか、遠隔監視システムやこれを応用したO&M支援サービス、事業用低圧案件向けのパッケージ型メンテナンスサービス、自家消費型や蓄電池併設型を対象とするエネルギー管理システム(EMS)などを手がけている。

 遠隔監視では、国内の約4500カ所の太陽光発電所にサービスを提供しているという。現在、契約している顧客は、低圧から特別高圧まで幅広いとしている。

 低圧向けのパッケージ型サービスは、約400カ所の発電所に提供している。このサービスでは、提携先企業の全国436カ所の拠点からの点検や駆けつけ、損保ジャパン日本興亜との提携による1日最大1万円の売電補償などの保険サービスも提供している。

 低圧向けではまた、エナジー・ソリューションズの遠隔監視システムを、ソーラーフロンティアが自社のサービスに活用している(関連ニュース)。

AIで後工程も自動化、実用化も間近

 同社のドローンによる太陽光パネル点検サービスでは(図2)、まず現地でドローンを自動飛行させ、太陽光パネルの熱分布画像を空撮する。

図2●空撮データをクラウド上に送って処理・管理
サービスの概要(出所:エナジー・ソリューションズ)
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 自動飛行による空撮は、多くの関連企業が実現している。同社の場合、Google Mapという汎用サービスを活用しながら、作業を効率化している。Google Mapは適宜更新されている。太陽光発電所が位置している土地を見ると、パネルがはっきりわかる場合もある。もし、Google Mapに発電所が反映されていない場合、自動飛行用のソフトウェアの表示上で代用する。

 そこに、顧客が提供した発電所内の太陽光パネルの配置図を重ね合わせる。このデータを、自動飛行の航路設定のほか、空撮したパネルの熱分布画像の配置、不具合の疑われるパネルの特定に使う。

 空撮した画像データは、クラウドコンピューティング上に送信する。その後、クラウド上で、空撮したパネルの熱分布画像と、Google Map上に重ねたパネル配置図を照合しながら、不具合の疑われるパネルの位置に、4種類に分類した「不具合状況」を入力していく(図3)。

図3●不具合の状況を4種類に分類
ホットスポット、クラスタ故障、パネル異常、ストリング異常にわける(出所:エナジー・ソリューションズ)
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 この作業も、自動化することが理想だが、現在は過渡的な状況にあり、点検担当者が画像を見ながら手動で入力している。

 同社は熱分布画像を、静止画ではなく動画で撮影している。動画を飛行順に見ながら、飛行経路も示されている配置図上に入力するため、他社で大きな問題となっている位置の特定に要する時間はほぼなく、出力約2MWの場合は約15分間の動画再生と入力作業がほぼ同時に完了できるという。

 他社のサービスの1週間などという期間に比べると、大幅に効率化できているといえる。自動化まで実現できれば、効率化の効果はさらに大きい。

 同社の森上寿生社長によると、この作業の自動化を、人工知能(AI)を活用して開発している。

 現在は、正式なサービス開始直前の試用バージョンを指すベータ版が完成し、実際の点検時にも試している。課題だった精度が目標レベルまで向上し、実用化が直前に迫っているという。約2MWの場合、現状の約15分間に対して、約3分で処理できるとしている。

 この作業は、ドローンによる太陽光パネル点検で最も手間と時間を要する部分で、サービスの開始時に、自身で作業していた森上社長は、この作業が最も大変なことがすぐにわかり、いち早く開発に着手したとしている。

うまく割り切ったソフトウェア開発

 太陽光パネルの配置図に入力する「不具合状況」は、4つに分けている(図4)。「ホットスポット」、「クラスタ故障」、「パネル異常」、「ストリング異常」である。

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図4●報告書の例
配置図上の位置と状況などを表記(出所:エナジー・ソリューションズ)

 「ホットスポット」は、部分的な過熱を示している場所を指す。主に太陽電池セル(発電素子)内の部分的な不具合で生じた過熱のほか、鳥のフンなどによるパネル表面の部分的な汚れ、雑草などによる影、ジャンクションボックスの不具合による過熱などが原因となる。

 「クラスタ故障」は、太陽電池セルを直列で接続したクラスタ単位の不具合を指す。内部配線(インターコネクタ)の不具合のほか、バイパスダイオードの短絡などが原因という。

 「パネル異常」は、太陽光パネル1枚の全体が過熱している状況を指す。ガラスの割れや、樹脂のバックシートの異常などが原因となる。

 「ストリング異常」は、太陽光パネルを直列で接続したストリング全体が過熱している状況を指す。太陽光パネル間を接続するコネクタの不具合や、電線の損傷、入力先の接続箱にあるスイッチの入れ忘れなどが原因という。

 温度分布の異常は、自動で検出している。温度分布に異常がある場所では、設定した基準温度との差を自動で検出し、表示する仕組みとしている。

 こうした情報が、クラウドコンピューティング上で処理、管理され、顧客にも閲覧できるようになっている。出力約2MWの発電所の場合、現状でも空撮から3営業日以内に顧客に報告できているという。後工程の効率化によって、所要時間とコストを削減できているようだ。

 後工程の効率化や自動化は、少なくない関連サービス企業でも取り組みはじめている。どのような理由で先行できたのだろうか。

 空撮したデータの量は、大規模な太陽光発電所になるほど大きくなる。それを力づくで綿密に分析するようなソフトやITシステムも実現できなくはない。しかし、それでは、システムや分析のコストが高くなってしまう。

 そこで、必要不可欠な情報だけを重視し、そのほかは適度に省くなど、割り切った考え方を採用したようだ。その結果、適切な精度や速度を維持しながら、軽くて使いやすく、低コストのシステムや分析が可能になり、後工程の効率化や自動化をいち早く実現しつつある。

 似たような発想を持っていたとしても、ソフトウェアに通じた人だけでは実現できず、太陽光発電に通じた担当者とうまく連携することで、はじめて実現できるとしている。

パートナー企業が点検する体制に

 後工程の自動化が進んでいくと、ドローンによる空撮とその後の分析が、ほぼ自動化されることになる。太陽光パネルの点検において、誰でもドローンを飛ばし、分析できるような状況に近づいていく。

 森上社長は、「こうした環境整備によって、ドローンやITの専門家でない人でも、手軽にドローンで太陽光パネルを点検できるようになって欲しい」と言う。

 現在、同社では、トローンによる点検を受託すると、自社の担当者が現地に出向いて空撮し、分析、報告している。このようにして、これまで約100カ所、合計出力約250MWの太陽光発電所で実績を重ねてきた。大規模な案件では、出力40MW以上のメガソーラーの太陽光パネル点検を担当した。

 今後、さらにドローンによる太陽光パネルの点検の需要が増し、年間で合計出力数百MW、1GW以上といったレベルまで依頼が増える可能性もあると見ている。

 こうした状況を見越して、同社ではドローン点検のパートナー制度を開始した。

 パートナー企業に対して、エナジー・ソリューションズがドローンや関連システムを提供し、同社の開発した技術を使って、パートナー企業が太陽光パネルの点検を実施するという仕組みである。すでに太陽光発電のO&Mやドローン点検関連企業なども、このパートナー制度を活用しているという。

 パートナー企業が自ら受託した発電所だけでなく、エナジー・ソリューションズが依頼を受けた発電所の点検も紹介する。

 パートナー企業は、初期費用としてドローンの購入と研修に要する費用を支払う。

 そのほか、年ごとの更新時にドローンのメンテナンスや保険の費用が必要となる。また、クラウド上のソフトウェアなどの利用料で構成されている。検査報告書の作成については、出力約2MWの発電所であれば、ソフト利用料は1カ所あたり4万円となる。

 エナジー・ソリューションズは、ドローンによる点検を容易にするITなどのシステム開発や提供に関心があり、点検事業そのものの規模を一定以上に拡大するつもりはないという。

 ドローンの機体は、エンルート(埼玉県朝霞市)製と、米3D Robotics製を使い分けている。パートナー制度の場合、エンルート製の初期費用が約419万円、3D Robotics製は約238万円と大きな差がある。

 ドローンの機体は、日進月歩で進歩しており、当初は特注の機体でなければ実現できなかった太陽光パネルの点検が、汎用でより小型・軽量、低コストの製品で実現できるようになってきている。

 今後も、こうした傾向が進むとみられ、ドローン点検に要する費用はさらに低下し、買取価格の低い発電所などでも導入できるようになると見ている。