メガソーラーの番人、先進的O&Mの現場

急増する太陽光パネル洗浄の需要、ケルヒャーの部材が障壁を解消

円盤状のブラシで誰でも簡単に

2018/10/24 07:32
加藤 伸一=日経BP総研 クリーンテックラボ

 太陽光発電所のO&M(運用・保守)で、最近、需要が増えているのが、太陽光パネルの洗浄である(図1)。土埃などが太陽光パネルに積もり続けると、発電量が減る。この発電損失を解消し、本来得られる発電量に近づける目的で実施される。

図1●洗浄前後の太陽光パネルの外観の差
図1●洗浄前後の太陽光パネルの外観の差
灰で全面が汚れていた屋根上の太陽光パネル。産業廃棄物工場の煙突の近くにある(出所:エネテク)
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 日本国内の地上設置型の太陽光発電所では、これまでパネルを洗わない場合が多かった。それは、日本ならではの環境や洗浄技術が影響していた。

 国内の発電所では、太陽光パネルは10度以上に傾けていることが多い。そして、だいたい週に一度は雨が降る。土埃などがパネルに溜まっても、雨が降った後には、ほとんど気にならない程度に汚れは流れ落ちる。

 例外的に太陽光パネルを洗浄してきたのは、農地や畜舎、特定の種類の工場などの近くにあり、土埃や塵灰などが過剰に、しかも頻繁に積もる発電所だった。放置しておくとパネル表面が見えにくくなり、汚れによって失う発電量が無視できないほど大きい。

 土埃や塵灰が多い場所以外でも、まれに、パネルを洗う発電所もあった。費用をかけてでも、雨水では落ちにくい汚れまですっきり落とし、発電損失となる要素を最小化したいと考える発電事業者だった。

 雨水でほとんど汚れは流れ落ちるといっても、厳密には、フレームの縁は、フレームとカバーガラス間の段差によって汚れが残りやすい(図2)。また、鳥のフンが固着して落ちにくいことがある。こうした汚れを落とすために洗浄する場合もある。

図2●フレームの縁付近に土埃が溜まった例
図2●フレームの縁付近に土埃が溜まった例
山梨県にあるメガソーラーの例。カバーガラスとの段差に溜まりやすい(出所:日経BP)
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 ただし、このようにパネルを洗浄する国内の発電事業者は少数だった。この理由には、費用対効果の利点が少ないほかに、設備の保全上の理由もあった。

 従来の太陽光パネルの洗浄は、主に三つの方法で実施されていた。一つ目は、水を流しながらスポンジなどでふく方法。二つ目は、ロボットの利用。三つ目は、高圧洗浄機の活用、というものだった。

 スポンジでこする方法は、多くの枚数に実施するには、手間と時間がかかりすぎる。そこで、目視点検中に見つけた鳥のフンの固着など、敷地内のごく一部のパネルを部分的に洗う目的で使われる。この方法ならパネルを傷つける恐れは少ない。

 ロボットには、パネル洗浄用に開発された複数の機種がある。ただし、費用対効果で利点を得られる場合が限られている。

 さらに、30kgなど重い機体がパネル上を動きまわる中で、フレームとカバーガラス間の段差を越える際に、音を立てるような機種も多い。この時のパネルへの荷重によって、セル(発電素子)に微細な割れが生じることを懸念し、採用を見送る発電事業者もいるなど、それほど普及している状況にはない。

 高圧洗浄は、高い圧力で押し出した水を当て、主にその圧力で汚れを押し流す。この方法も、ロボットを使う場合と同じように、費用対効果とセルの損傷の面で課題があり、限られた発電所のみで採用されてきた。

 高い圧力で水を飛ばして当てるためには、細い流路とノズルを通す必要がある。細いノズルで洗える面積は狭く、パネル1枚を洗うにも、高圧洗浄機のノズルを何度も上下に動かす必要があり、時間と手間がかかる。

 また、高い水圧をかけることから、やはりセルに微細な割れが生じる懸念も指摘されている。多くの太陽光パネルメーカーが、高圧洗浄した場合、保証の対象から外す方針を採っている。

 ここにきて、太陽光パネルの洗浄の需要が増えてきているのは、課題だった費用対効果とセルの損傷の恐れの両方を解消しやすい方法が登場したことによる。

 例えば、太陽光発電所向けのO&Mを手掛けるエネテク(愛知県小牧市)では、ここ1年ほどで、パネル洗浄の依頼が急激に増えた。受注に至る成約率も高いという。

 同社の場合、洗浄費用は、1MWあたり約100万円に設定している。エネテクによると、洗浄の引き合いが多いのは、やはり汚れやすい環境にある太陽光発電所で、洗浄コスト以上の売電収入の増加が見込める場合も多く、受注の増加につながっている。

 太陽光パネルの洗浄に使っているのは、高圧洗浄機メーカーであるドイツのケルヒャー製の機材である。パネル用に開発された部材を、高圧洗浄機に取り付けて洗う(動画)。

動画●エネテクによる太陽光パネル洗浄の様子
ケルヒャーの専用部材と高圧洗浄機を使用(提供:エネテク)

 水を送り出す方法として高圧洗浄機を使うものの、通常の高圧洗浄のように、水圧を汚れに当てて落とすという原理ではない。

 太陽光パネル表面に触れているのは、洗浄用に開発した円盤状のブラシである。この部材は、パネル表面にゆるやかに水を流しながら、ブラシを回転させて汚れを落とす。ブラシはナイロンでできており、パネル表面を傷つける恐れは小さい。

 流しているのは通常の水ではなく、パネル用の洗浄液で、これもケルヒャーが供給している。決められた割合に希釈して使っている。

 従来の洗浄方法と比べると、人手で水を流しながらスポンジでこする方法に近い。それを電動化した上、洗浄できる面積を広げて作業効率を高めたとも言える。

 エネテクでは、太陽光パネルの洗浄を受託した場合、設置されているパネルメーカーに問い合わせ、ケルヒャーの洗浄システムで洗っても、メーカーが保証を外さないことを確認してから作業に入る。

 洗浄方法として高圧洗浄には該当しないものの、パネルメーカーによっては、高圧洗浄機で洗った場合、保証の対象外とすることを考慮している。ケルヒャーが提供する希釈用の洗浄液についても、メーカーに渡して確認している。

 エネテクによると、千葉県にある倉庫の屋根上太陽光(約1MW)の例では(図3)、まず洗浄効果を調べるために、洗浄するストリング(太陽光パネルを直列に接続する単位)と洗浄しないストリングに分け、発電状況の違いを把握した。

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図3●千葉県の倉庫上の出力約1MWの発電所
図3●千葉県の倉庫上の出力約1MWの発電所
排ガス系の粒子がパネルに溜まるが、稼働から約4年間洗浄しなかった(出所:エネテク)
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 パネルは240W/枚で、これを直列で14枚接続して一つのストリングを構成している。

 洗浄した後に発電状況を確かめると、洗浄したストリングの発電量は1623.2Wとなり、洗浄していないストリングの1437.7Wに比べて、約200Wと大きな差がついた(図4)。約13%も発電量が増えたことになる。

図4●ストリングあたりの出力で約200Wの差がついた
図4●ストリングあたりの出力で約200Wの差がついた
洗浄の効果(出所:エネテク)
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 この発電所のこれまでの月間や年間の発電量から推定すると、洗浄の費用対効果が高く、発電事業者はエネテクに洗浄を依頼した。

 この倉庫の屋根上太陽光は、発電設備を設置してから約4年間が経っていた。屋根の上に4158枚のパネルが並んでいる。

 倉庫は物流センターで、トラックなどがひっきりなしに往来している。このため、屋根上のパネルには、排ガス系の粒子が付着していた。また、フレームの縁には、砂の付着による汚れも目立っていた。

 倉庫や工場、大型商業施設といった屋根上を活用した太陽光発電所は、屋根の傾斜に沿うようにパネルを固定していることが多い。このため、通常の地上設置型に比べて設置角が小さくなる。排ガス系の粒子が降り注ぐとともに、設置角が小さいために、雨が降っても流れ落ちにくいことが影響しているようだ。

 黄砂などの季節的なものではなく、日常的に降り注ぐ汚れのため、定期的に洗浄しない限り、発電量のロスが続くことになる。

 このほか、洗浄を受注した太陽光発電所の多くは、産業廃棄物工場や農地や畜産施設など、パネルの表面を汚す微小物質の排出源が近くにあることが多いという(図5)。屋根上などのようにパネルの設置角が小さいという二つの条件が重なると、千葉の倉庫上のように、汚れによる発電損失が大きくなりやすいという。

図5●洗浄の効果がひと目でわかる
図5●洗浄の効果がひと目でわかる
灰で全面が汚れていた屋根上のパネル。産業廃棄物工場の煙突の近くにある(出所:エネテク)
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 パネル洗浄の依頼が増えてきたのは、費用対効果の高さが認識されてきたからと見ている。定期的な洗浄の依頼も増え、直近では、九州南部の新燃岳の噴火の後、近隣の太陽光発電所から新たに受注した例もある。

円盤状のブラシで洗う

 ケルヒャーでは、この部材を「iSolar」と称し、高圧洗浄機を使ったパネル洗浄用の専用部材として販売している(図6)。

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図6●太陽光パネル洗浄用の部材の概要
図6●太陽光パネル洗浄用の部材の概要
ドイツで先行して普及していた(出所:ケルヒャー ジャパン)
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 本国のドイツは太陽光発電で先行し、農家や工場の屋根上などに設置されたパネル洗浄の需要の高まりを受けて開発、販売したとしている。

 ドイツで問題となったのは、通常の高圧洗浄でパネルを洗う場合の作業性だった。パネルは、一定の設置角で固定されている。

 斜めに傾いて固定されているパネルを通常の高圧洗浄で洗うと、細いノズルで噴射するために時間や手間がかかるほか、手前のパネルから奥にあるパネルまで、ガラス表面との角度を一定に保ちながらノズルの噴射口を移動させることが、技術的にも体力的にも難しいといった問題があった。

 パネル表面とノズルの位置や角度を一定に保つ必要があるのは、それが変わってしまうと、洗浄度合いが変わってしまうためである。

 そこで、円盤状のブラシを使うことで、この問題を解消した(図7)。パネルに密着して洗浄するため、パネルとの距離や角度は常に一定範囲に収まり、問題にならない。

図7●専用のブラシで洗う
図7●専用のブラシで洗う
高圧洗浄機で水を供給するものの、洗浄の方法は高圧洗浄ではない(出所:ケルヒャー ジャパン)
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 円盤状のブラシは、アレイ(太陽光パネルを架台に固定する単位)上部のパネルにも、下から適切に届かせる目的で、竿のような長い棒状の部材の先端に取り付けて使う。この棒状の部材を使ってパネル上をハンドリングする。

 長い棒状の部材の先に付いた円盤状のブラシを取り回すには、腕力が必要に見える。実際には、パネル上に円盤状のブラシを置いて、長い棒状の部材は支えて上方向に滑らせるようにするだけで、比較的、容易に操作できるという(図8)。慣れない人でも同じような品質で洗浄できる利点がある。

図8●長い棒状の部材でハンドリングする
図8●長い棒状の部材でハンドリングする
ドイツの農家における使用例。支えている程度で、それほど力は要らないという(出所:ケルヒャー ジャパン)
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 棒状の部材は、手元で伸縮させ、後ろには伸びない。長い棒が後ろに伸びた場合、後ろにある設備などにぶつかる恐れがあるために、このような設計を採用した。

 円盤状のブラシは、洗浄範囲が400mmと800mmの2種類がある(図9)。長い棒状の部材も、1.8~7.2m、2.4~10.2m、2.4~14mと3種類の長さを揃えている。

図9●洗浄範囲が400mmと800mmの2種類を用意
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図9●洗浄範囲が400mmと800mmの2種類を用意
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図9●洗浄範囲が400mmと800mmの2種類を用意
円盤型のブラシ(出所:ケルヒャー ジャパン)

 同社の日本法人であるケルヒャー ジャパン(横浜市港北区)によると、日本では販売開始当時、目標とした伸びで拡販できず、苦労したという。

 「太陽光パネルは洗わないもの」という風潮があったことのほかに、パネルメーカーの多くが洗浄に対して過敏な対応をしていたことも影響したとしている。採用しようとする顧客から、「パネルメーカーからの保証を維持してもらえるような証書を作成してほしい」と要求されることもたびたびあった。

 その後、費用対効果や操作性の高さが広まるとともに、自己責任でも洗浄する企業が増えたことで、販売が伸びたという。背景には、汚れによる発電量の低下が深刻になり、汚れがパネルの発熱にまで影響するトラブルが出てきたことがあるという。

 EPC(設計・調達・施工)やO&Mを手掛ける企業、倉庫や工場といった屋根上の大型案件などを中心に、広まっていったとしている。

 日本では、高圧洗浄機とセットで購入する顧客が多く、円盤状のブラシは800mm、長い棒状の部材は1.8~7.2mや2.4~10.2mを選び、合計で100万~120万円という例が多いとしている。

「水輪状の紋」を防ぐ洗浄液

 専用の洗浄液「RM 99」(図10)は、弱アルカリ性(pH:9)で、汚れの程度に応じて0.125%~0.25%に希釈して使うことを推奨している。

図10●洗浄液の効果
図10●洗浄液の効果
水輪状の紋や汚れの再付着を防ぐ(出所:ケルヒャー ジャパン)
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 水だけで洗った場合に付きがちな、水輪状の紋(ウォータースポット)ができることを防いだり、パネル表面に洗い流した汚れが再付着することを防ぐ役割を担っている。

 この洗浄液は、10リットル入りの容器で、定価が2万3000円で販売している(図11)。

図11●希釈用の洗浄液
図11●希釈用の洗浄液
10リットル入りで販売(出所:日経BP)
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 洗浄時には、どの程度の水が必要になるのだろうか。ケルヒャーでは、1時間あたり700リットル以上を目安に示している。洗浄時間は、円盤状のブラシの寸法や水を送る流量、水の調達状況によって変わってくるため、一概には示せないという。

 部品交換や寿命についても、パネル洗浄は使用環境が使用者によって大きく異なるため、定量的に示すのは難しいという。部品交換にはギアやノズル、高圧洗浄機のポンプなどがある。例えば、特定の物質を多く含む水を使うと、ギアが摩耗しやすいなど、流す水の質や量によって大きく変わってくる。

 ケルヒャーの洗浄方法には、苦手な設置環境もある。パネルの設置角が大きい場合、パネルの固定位置が高い場合などだ。いずれも豪雪地域で採用されている設置手法となる。

 同社では、適切に洗浄できるかどうかを確認するため、販売する前に、使用する太陽光発電所の現地を訪問することが多いとしている。