太陽光発電事業者のための法律Q&A

太陽光発電事業者の「受光利益」を認めた判例はありますか?

<第47回>福岡地裁・平成30年11月15日判決の解説(下)

2019/01/21 05:00
弁護士法人 匠総合法律事務所 代表社員弁護士 秋野卓生

 隣地の新しい建物により太陽光発電システムの日照が阻害されたとしてトラブルが発生するケースは多いのですが、この論点について、明確に判示する裁判例がこれまで存在しませんでした。そうしたなか、福岡地裁・平成30年11月15日判決は、上記ケースについて詳細に判示した初の事案であり、太陽光発電業界において注目すべきといえます。

 前回のこのコラムでは、同判決の一部を引用して、その要旨を紹介しました(関連記事)。今回と次回では、この判決の意義とポイント、今後の影響などに関して解説します。

福岡地裁判決の意義とは?

 福岡地裁判決における争点は、本件建築行為が原告の権利又は法律上保護される利益を侵害するものであるか及び侵害するとしてその損害額です。

 上記争点について福岡地裁判決は、「太陽光発電を行っている者は、発電設備への太陽光の受光について密接な利害関係を有するものであり、法律上の保護が及んでいないと解することは相当でないから、その者らの有する太陽光発電のために太陽光を受光する利益(以下「受光利益」という)は、法律上保護に値する利益に当たると解するのが相当である」と判断しました。

 被告は裁判上、「太陽光を享受する利益は観念することができず法律上保護される利益と考える余地はなく、これを認めると新たな権利の創設になりかねない」と主張しましたが、福岡地裁判決は、「受光利益は、所有権に発する正当な土地の使用収益活動のための利益として相当の客観性を備えており、法律上保護される利益として観念することができる」とし、「これを認めることが新たな権利の創設となるものでもない」と判示しています。

太陽光パネルへの影は、発電量の低下に直結する
(写真はイメージで裁判事例とは関係ありません)(出所:日経BP)

隣地の建築が「不法行為」となる判断基準

 福岡地裁判決は、「太陽光発電は、再生可能エネルギー源(特措法2条4項)を用いた発電の一つとして、近年急速に普及し始めたものであって、建築基準関係規定でも住宅地における太陽光発電のための太陽光パネルの設置と近隣の他の建築物との関係を想定した規制を設けるには至っておらず、どの程度の受光が確保されれば権利ないし利益の侵害とならないかなどの明確な基準が存在しないことに加え、電力の安定的かつ適切な供給の確保及びそれに係る環境への負荷の低減を巡る今後の社会の情勢や政策手法の変更にも影響されるから、私法上の権利といい得るような明確な実体を有するものとは認められず、受光利益を超えて権利性を認めることはできない」

 「したがって、本件におけるように建物の建築行為が第三者に対する関係において太陽光の受光を妨げたからといって直ちに違法な利益侵害があるとして不法行為を構成するということはできず、受光利益を違法に侵害するものとして不法行為を構成するかどうかは、被侵害利益である受光利益の性質と内容のほか、受光を妨げる建物が建築された所在地の利用用途、周辺の地域性、侵害される受光利益の程度、侵害に至る経過等を総合的に考察して、侵害された受光利益と建物を建築する利益とを比較考量して判断すべきである」

 「もっとも、受光利益の性質と内容については、上記のとおり建築基準関係規定にも規制がなく、利益として保護され得る範囲について社会的に合意の得られる基準が設けられているものではないことや、太陽光発電の性質上、発電量及び余剰電力の販売益がどの程度に達するかは不安定であることを考慮せざるを得ないから、受光利益を侵害する行為が違法であるとされるのは、法令による規制に違反する建築物によるとか、発電量を著しく減少させるなど、その侵害の程度が強度といえるような場合に限られると解すべきである」と判断基準を示しました。

 裏返せば、(1)法令による規制に違反する建築物によるとか、(2)発電量を著しく減少させるなど、その侵害の程度が強度といえるような場合には、不法行為が認められる可能性があります。

6つの事情を総合的に考慮

 では、「発電量を著しく減少させるなど、その侵害の程度が強度といえるような場合」とは、どのようなケースでしょうか?

 福岡地裁判決は、(1)所与の目的は果たせているか、(2)発電量の減少は、被告の帰責事由に基づくものか、という2つの見地より不法行為該当性を検討しています。

 本来、法律の規制の範囲内では所有権の範囲内で土地や建物を自由に建築できるのが原則であるため(憲法29条1項、2項)、建物を建築する行為は適法であるのが原則であり、当該建物の隣地に設置されていた太陽光発電システムに太陽光が当たらなくなり、発電量が著しく減少したとしても、直ちに違法となるものではありません。

 人が社会を形成して生活を営んでいる以上、互いに何らかの迷惑を掛けあって生きているものであり、一定の範囲内で、互いに受ける迷惑・被害を受忍しあう必要があります。

 もっとも、その程度が著しいときに限っては、これを違法とし、相互の利益を調整することになるのであり、この所有権の行使の結果が、他人の権利を侵害していると評価できるかどうかについては、「受忍限度」という考え方により適法性が判断することとなります。

 既存の日照権保護で考慮される要素にも鑑み、概ね以下の事情を総合考慮することにより、違法性の有無を判断することができるのではないかというのが、当事務所が採用していた考え方でした。

匠総合法律事務所が採用している判断の項目
(出所:匠総合法律事務所)
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 福岡地裁判決は、上記ウ・太陽光発電システムの設置位置(被害回避可能性)及びエ・加害建物の建築の合理性(加害回避可能性)につき、被告の帰責事由に基づくものかについて検討をしているものであり、比較考量の思考過程が参考になります。

 さて、福岡地裁判決の内容を見てみましょう。

発電量の減少は限定的

 まず、発電量の減少度合いについては、「発電量は減少しているが、所与の目的を共用設備の維持コストはまかなえている」というのが福岡地裁判決の趣旨です。

 判決では、「本件建築行為により侵害される原告の受光利益は、原告の主張を前提としても、本件建築行為の前後では年間の総発電量で45.5%、売電代金で45.3%減少したというのであり、とりわけ冬から初春にかけての12月から3月にかけての発電量の減少が大きいことからすれば(甲3)、気候や天候の年間ベースでの変動等の要素による誤差があるとしても、被告建物による本件太陽光パネルの受光量の減少が顕著に表れているといえる」

 「もっとも、九州電力から支払いを受けた売電料金額と九州電力に対して支払った使用分の電気料金額を比較すると、年度単位(4月から翌年3月まで)では管理事務所や共用部分(街灯、ポンプ)に必要な電力は本件設備により発電した電力でまかなわれているのであって(甲3)、受光利益が制約されることで本件設備による原告住宅地における共用設備の維持等のコスト削減に対する影響は大きいとはいえない」と判示しています。

 被告建物が本件設備の発電量の減少に与える影響は限定的であることを確認しています。

発電量の減少は被告の責任か?

 また、発電量の減少が被告の帰責事由に基づくものか、については、以下のように述べています。

 (1)本件駐車場の屋根部分に本件太陽光パネルを設置することを選択したのは原告自身である。

 (2)本件壁部分に設置された本件太陽光パネルは地上から2.5m以下の高さにあり、被告住宅地に建物が建築されれば、受光が妨げられる可能性が十分に想定される位置である。

 (3)被告住宅地に住宅が建築される可能性は原告においても十分に想定し得るものである上、被告住宅地の利用方法について原告がBから聞き取った内容を前提としても、Bとの間で本件太陽光パネルの受光を阻害するような建物を建築しない旨を合意したとはいえないし仮に何らかの合意といえるものがあったとしても、被告が改めて同意しない限り、そのような合意は被告を拘束しない。

 (4)原告においても、Bの説明を受けて本件太陽光パネルの受光のために一定の空間について被告住宅地上の建築を抑制したかったのであれば、Bとの間で被告住宅地を要役地とする地役権を設定するなどの方法も考えられなくはないが、仮に地役権を設定するなどの方法を採るに当たって対価を考慮したというのであれば、本件太陽光パネルの受光が妨げられる場合の不利益と地役権の対価の支払を原告において考慮し、原告のリスクにおいて前者を選択したというにほかならないということになる。

 (5)そもそも被告において被告住宅地内にどのように建築物を配置するかは、建築基準法等の関係法令の規制に反しなければ被告の任意に委ねられており、本件太陽光パネルのために被告において原告の協議の申入れに応諾すべき義務があるとはいえない。

 (6)仮に被告住宅地における建物の配置を変更するとしても、本件太陽光パネルの受光を一定程度妨げないようにするには、被告建物の建築位置を南側に変更する必要があるが、その場合でも、被告建物や同開発地内の他の建物の関係で法令上必要な道路の幅員や接道を十分に確保し、被告住宅地内の建物間の日影規制等にも問題を生じないように被告住宅地全体の計画を練り直さなければならなくなる可能性があるし、被告に不利益を及ぼさずに配置が可能であることを認めるに足りる証拠もない。

 以上の理由により、発電量減少は、「必ずしも被告の責めに帰すべきとはいえないから、原告の受光利益の侵害の程度が強度といえるような場合ではない」と判断しています。

実務への影響は?

<ポイント1> まず、法令に違反する建築工事は、不法行為となりうる旨、福岡地裁判決は明確に判示しています。

 従って、隣家の太陽光パネルに影を落としてしまうような建物の設計をする際は、高さ制限違反などのなきよう、気をつけていただきたいと思います。

<ポイント2> 一般の日照権トラブルにおいては、建築基準法56条の2に定める日影規制適合性が重要な参照要素とされる傾向にあります。しかし、太陽光発電システムに対する日照阻害についての法的責任を検討するにあたって、福岡地裁判決は、日影規制適合性を考慮対象とはしていません。

 日影規制は、開口部への日照を保護するための基準であるため、用途地域等に応じて、基準地盤面+1.5m、4m、6.5mといった、1階、2階、3階の開口部の高さ相当の面での日照時間を基準として定められた規制ですが、太陽光発電システムは、屋上等に設置されることが見込まれるため、基準となる高さに違いがあるなど保護すべき法的利益の内容が異なっているからであろうと思われます。

<ポイント3> 建築基準法に適合した建物でも、隣家の太陽光パネルの発電量を著しく減少させるなど、その侵害の程度が強度といえるような場合には違法と判断される可能性があると言うことです。

新築建物に起因する日射減少によるトラブルは多い
(写真はイメージで裁判事例とは関係ありません)(出所:日経BP)
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