再エネ蓄電池プロジェクト最前線

国内初! 太陽光と蓄電池による「自営線マイクログリッド」

東松島市の挑戦する災害でも生き残る街づくり

2016/08/05 00:00
金子 憲治

 宮城県のほぼ中央に位置する東松島市は、風光明媚な海岸線に恵まれ、海水浴や遊覧船など、かつては年間100万人以上の観光客が訪れていた。東日本大震災による津波は市街地の65%を襲い、全世帯の約73%に当たる1万1073棟が全半壊した。死者・行方不明者は1134人、避難者は最大で1万5185人に及んだ。

停電しても太陽光とディーゼルで電力供給

 東松島市復興政策課の担当者は、「震災前から津波に備えた防災計画を立てていたが、ここまで広範囲に浸水するとは想定していなかった」と、悔やむ。震災前に4万3142人だった人口は、4万138人(2015年4月現在)まで減少。観光客も年間約20万人に留まる。

 市では、不十分だった防災対策への反省から、災害に強い街づくりを優先した復興を進めてきた。その取り組みの1つが、「東松島市スマート防災エコタウン」だ(図1)。被災後、5カ月半に及んだ停電で、暖が取れずに低体温症で亡くなった人も多かった教訓から、分散型で電力系統から自立できる地域主体のエネルギーシステムの構築を目指した。

図1●「東松島市スマート防災エコタウン」の全景(出所:積水ハウス)
図1●「東松島市スマート防災エコタウン」の全景(出所:積水ハウス)
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 同市柳の目北地区に、市営の災害公営住宅85戸を建設。タウン内に太陽光発電設備(470kW)と定置型鉛蓄電池(480kWh)、そして非常用バイオディーゼル発電機(500kVA)を併設した(図2図3)。東北電力の系統が停電しても、数日間は通常レベルの電力を供給できる。

図2●エコタウン内に設置した太陽光発電所(出所:日経BP)
図2●エコタウン内に設置した太陽光発電所(出所:日経BP)
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図3●筐体に収納した鉛蓄電池(出所:日経BP)
図3●筐体に収納した鉛蓄電池(出所:日経BP)
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約5kmの配電網を独自に敷設

 今年6月12日の「みやぎ県民防災の日」。公営住宅とそれに併設した発電・送電設備の完成披露式典を開催した。「防災・減災に強い街づくりを進め、東松島を国内外に発信していきたい」。東松島市の阿部秀保市長は、式典でこうあいさつした。

 「東松島市スマート防災エコタウン」は、需要家設備と太陽光発電、蓄電池、ディーゼル発電機などをCEMS(地域エネルギー管理システム)で統合的に管理する(図4)。エネルギー需給情報をICT(情報通信技術)で把握し、最適に制御する。こうしたCEMSの構築は、国内各地で始まっているスマートコミュニティ実証の1つのパターンともいえる。

図4●CEMSの機能イメージ(出所:積水ハウス)
図4●CEMSの機能イメージ(出所:積水ハウス)
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 だが、東松島市の防災エコタウンは、他にはない画期的な特徴がある。タウン内の道に沿って電柱を立て、高圧・低圧配電線を独自に敷設したことだ。自営の送電ケーブルの総延長は高圧・低圧それぞれ約2.7km、電柱は54本にもなる(図5)。

図5●自営線で電力供給を受ける公営住宅(出所:日経BP)
図5●自営線で電力供給を受ける公営住宅(出所:日経BP)
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 エコタウン全体の設計はスマートシティ企画(東京都中央区)、公営住宅の設計・施工は積水ハウス、自営線の敷設はきんでんが担った。太陽光パネルはシャープ製、非常用バイオディーゼル発電機はヤンマー製、定置型鉛蓄電池は日立化成製、蓄電池用のパワーコンディショナー(PCS)は明電舎製、調整池の太陽光向けのPCSは日新電機製、屋根上太陽光用PCSはシャープ製を採用した。

4つの病院にも自営線で電力供給

 自営線のマイクログリッドには、自前の太陽光発電とディーゼル発電機がつながっているほか、東北電力の電力系統とも接続している。太陽光の電力と外部系統から一括受電した電気は、自営線を通じてエコタウン内の各住宅などに配電している。CEMSは需給管理や料金請求などに活用する。

 こうした自営線を使った電力小売事業の形態を「自営線PPS(特定供給事業者)」という。震災の後、被災地を中心に複数のスマートコミュニティ実証が計画され、稼働し始めているが、「自営線PPS」モデルを採用したのは東松島市だけだ。

 自営線マイクログリッド(配電ネットワーク)には、災害公営住宅「市営柳の目東住宅」の85戸のほか、周辺に位置する4つの病院、そして運転免許センター(以後、公共施設)がつながっている(図6)。このうち2つの大規模病院と公共施設が高圧需要家、それ以外は低圧需要家となる。これまでのところ昼間のピーク需要は350~370kWで推移しているという。

図6●自営線は公営住宅のほか、病院、公共施設につながる(出所:積水ハウス)
図6●自営線は公営住宅のほか、病院、公共施設につながる(出所:積水ハウス)
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 「日中正午に晴天であれば、470kWの太陽光発電で、タウン内の全需要を賄える。太陽光の余剰分が出た場合は、蓄電池に充電し、夜間に放電している。需要全体の半分前後を太陽光由来の電気でまかなっているイメージ」(東松島市復興政策課)という。

地域新電力事業と連携

 東松島市は、2012年10月に地域活性化にかかわる新事業の担い手として、一般社団法人・東松島みらいとし機構(HOPE)を設立した。震災復興と低炭素型の街づくりを目指し、東松島市のほか東松島市商工会、東松島市社会福祉協議会も出資した。

 HOPEは、地域新電力として地域の発電所から電気を調達し、高圧需要家向けに電力を販売している。契約電力量は、現在、約7MW。東松島市は、防災エコタウンの自営線PPSの運営も、HOPEに委託した。HOPEは、すでに供給している高圧需要家に加え、自営線PPSの需要家、そして太陽光発電をまとめて需給管理(30分同時同量)している。

 自営線マイクログリッド内で電気をやり取りする場合、HOPEは、東北電力に託送料金を支払う必要がない。また、非常時に東北電力の系統が停電した場合でも、自営線マイクログリッドを東北電力の系統から遮断することで、マイクログリッド内の顧客には太陽光と非常用ディーゼル発電機から電力を供給できる(図7)。

図7●災害に稼働する非常用ディーゼル発電機(出所:日経BP)
図7●災害に稼働する非常用ディーゼル発電機(出所:日経BP)
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 非常時の電力供給時には、CEMSが需要と供給を監視しつつ、発電機と蓄電池の充放電を制御することで、マイクログリッド内の需給バランスを維持する。実際に系統と遮断した状態で、非常用発電機を稼働して自立運転し、電力供給できることを確認している。

災害時には3段階で電力供給

 災害時の運用では、CEMSにより、3パターンの給電を想定している。

 まず、系統が停電したら、約1分後に非常用ディーゼル発電機が自動的に動き出すとともに、太陽光と蓄電池を使って普段通りのレベルで電力供給を再開する。晴天が続いて太陽光が高稼働し、ディーゼル燃料の使用が少なければ1週間程度、雨天続きでも最低3日間は、この水準で自立運転できる見込みだ。

 次に停電が3日を超えて長引きそうな場合、まず85戸への電力供給を停止する。それによってディーゼル燃料の消費を節約し、緊急性と重要性の高い集会所と病院、公共施設に限定してより長期間、電力を供給する。

 さらに停電が長期化した場合、ディーゼル燃料を使い切り、補給できない事態も想定される。その際には、太陽光と蓄電池だけで、病院と集会所に最低限の電力供給を継続する。病院に備えている自家発電設備は、この段階で初めて使う(図8)。

図8●災害時の電力供給の考え方(出所:積水ハウス)
図8●災害時の電力供給の考え方(出所:積水ハウス)
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調整池の上に400kWの太陽光パネル

 「東松島市スマート防災エコタウン」のある約4haのエリアはもともと田んぼが広がっていた。そのため住宅地のある区画に隣接して、0.9haの調整池を設置して治水対策とした。400kWの太陽光パネルは、この調整池の上に設置した。池の底からパネルまで約1.5mの高さを空け、数度ほど傾けて設置した(図9)。取材で訪れた時には、前日に雨が降ったため、わずかに底に水が貯まっていたが、1日程度で蒸発してしまうという。

図9●太陽光は調整池の上に400kW分を設置した(出所:日経BP)
図9●太陽光は調整池の上に400kW分を設置した(出所:日経BP)
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図10●自営線の起点となる「イート1」電柱(出所:日経BP)
図10●自営線の起点となる「イート1」電柱(出所:日経BP)
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 太陽光パネルは、このほか、公営住宅のうち、3棟の集合住宅(5戸)の屋根に各20kWで合計60kW、集会所建屋の屋根に10kW設置しており、タウン内で合計470kWとなる。

 調整池に隣接したタウンの南側には、容量480kWhの大型鉛蓄電池、非常用ディーゼル発電機、そして、受変電設備、太陽光発電のPCSが設置してある。こうした電気設備を据えた区画の端に「イート1」との番号札の付いた真新しい電柱が立っている(図10)。これが、自営線の起点で、東北電力の系統との受電点になる。

東北電力の電線と自営線が“並走”

 自営線は、公営住宅エリア内のほか、4つの病院と公共施設まで敷かれている。公営住宅エリアの外は、東北電力が電力を供給しているため、病院や公共施設に向かう自営線は、東北電力の配電線と道を隔てて並走する形になっている(図11)。また、仙石病院につながる自営線は、電柱の設置スペースが十分に確保できなかったこともあり、道路下に埋設した地中配管を通じて送電している(図12)。

図11●自営線(左)と東北電力の電柱(右)が向かい合う(出所:日経BP)
図11●自営線(左)と東北電力の電柱(右)が向かい合う(出所:日経BP)
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図12●仙石病院に向かう自営線は地中ケーブルを採用(出所:日経BP)
図12●仙石病院に向かう自営線は地中ケーブルを採用(出所:日経BP)
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 こうした自営線を使った電力供給事業は、災害時のレジリエンス性向上という点では、優位性があるものの、敷設コストを考慮すると、事業性の確保が難しいと言われる。減価償却の進んだ配電網を持つ一般電気事業者に比べると、配電網を新設して電力を供給する自営線PPSは、短期的には供給コストが割高になってしまう。

 災害時の自立性の高さから自営線PPSに魅力を感じる自治体や事業者が多いものの、導入例がほとんどないのは、事業性確保の壁が高いからだ。

 「東松島市スマート防災エコタウン」の総事業費は約5億円。環境省の「自立・分散型低炭素エネルギー社会構築推進事業」に採択され、そのうち4分の3を補助金で賄った。「高い補助率で国から支援を受けたこ とで初めて、電力小売事業として競争力を確保できた」(東松島市復興政策課)というのが実態だ。

蓄電池の放電で夜の需要ピークをカット

 HOPEは平常時に、自営線PPS以外の顧客も含めた地域新電力事業全体で需給を管理している。地域新電力として、収益の確保を前提としているが、「防災エコタウン」事業に関しては、自営線PPSの範囲内でエネルギーの地産地消を実現するコンセプトのため、太陽光は固定価格買取制度(FIT)を使って売電せず、余剰分は蓄電池に貯めて、防災エコタウン内で自家消費するパターンで運用している。

 自営線PPSが供給する顧客のピーク需要は350~370kWのため、日中、晴れていれば、自社の太陽光発電に余剰が出る。その分は蓄電池に充電し、夜間点灯などで需要が伸びる夕方5時~9時ごろに蓄電池を放電して需要ピークをカットし、外部電源からの調達量を抑え、防災エコタウン内でのエネルギー地産地消の割合を上げている(図13)。

図13●自営線PPS内の電力供給の基本パターン(出所:積水ハウス)
図13●自営線PPS内の電力供給の基本パターン(出所:積水ハウス)
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 「詳しい集計はこれからだが、予想よりも太陽光の発電量が多く、自営線PPS内の需要のうち、半分程度を太陽光の電力で賄っている」(東松島市復興政策課)という。

 CEMSは、平常時には、以上のような運用パターンを実現するように、蓄電池を充放電制御している。ただし、日中、雨で太陽光からの出力が期待できない場合など、事前に天気予報から判断し、卸電力市場などを通じて調達しておくなどの対応が必要になる。

需給バランスを独自に管理

 HOPEは、これまで自社の再エネ電源を持たず、比較的、需給バランスの容易な高圧需要家を対象に外部から電力を調達し、供給してきた。防災エコタウンの運営も担ったことで、需給予測の難しい、太陽光と低圧需要家が加わったことになる(図14)。

図14●集合住宅(5戸)と屋根上太陽光(20kW)(出所:日経BP)
図14●集合住宅(5戸)と屋根上太陽光(20kW)(出所:日経BP)
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 需給管理がうまくいかなかった場合、最終的には東北電力との常時バックアップ契約に基づき、需給バランスが維持されるが、調達コストが上昇することになる。

 東松島市は、地域新電力の運営に関し、既存の電力小売事業者の主宰するバランシンググループに属さず、需給バランスの維持・管理を独自に行う方針だ。そのためHOPEに需給バランスを担う3人の人材を養成している。「電力小売事業のカギとなるバランシングのノウハウを他社に依存してしまうと、地域にノウハウが残らず、今後のエネルギー事業の展開が望めない」(東松島市復興政策課)との考え方が背景にある。

 太陽光と蓄電池を活用し、CEMSを活用した需給管理は、始まったばかり。「今後、年間を通じた需給パターンなどが蓄積されていくなかで、運用方法を改善していきたい」(東松島市復興政策課)という。

 需給実績が蓄積されていくと、予測精度がいっそう上がることが期待できる。加えて、電力小売事業の収益を最大化する視点に立った場合、平常時における大型蓄電池の運用パターンに関しても、検討課題になる。